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独占禁止法における「ハブアンドスポーク」

2024/03/12

(執筆者:弁護士 福田泰親)

1 はじめに
「ハブアンドスポーク」という用語を聞かれたことはあるでしょうか。あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、思わぬところで独占禁止法の問題が生じることがあります。
今回は、ハブアンドスポークのポイントを解説します。

2 定義
ハブアンドスポークの語源は、自転車のタイヤと言われています(諸説あり)。タイヤの中心部(ハブ)と、そこから放射状に伸びて外側の輪をつなぐ輻(スポーク)のイメージです。ただし、独占禁止法においては、「ハブアンドスポーク」という用語を定義した規定はありません。また裁判例や学説でも確立した定義がないのが現状ですが、次のような定義づけが試みられています。

「事業者が直接競争者にコンタクトするのではなく、何らかの仲介者(ハブ)を介して価格情報等をやり取りすることによってカルテルを行うこと」(池田毅・NBL1039号37頁)

「ハブ・アンド・スポーク型共謀とは、垂直的関係にある共通の需要者又は供給者(ハブ)を介し、競争者間で連絡を取り合うのではなく、共通の需要者又は供給者(ハブ)と各競争者間の一連の垂直的な合意(スポーク)に基づき水平的な合意(リム)を形成すること」(渕川和彦・公正取引799号78頁)

自転車のタイヤになぞらえると、ある事業者がハブとなり、外輪となる競争者どうしをつなぐことで、全体としてカルテルを形成するような場面がこれに当たります。その特徴は、競争者間では直接のコンタクトがなく、ハブを介して意思形成が行われるという点にあります。

3 ハブアンドスポーク型カルテル
ハブアンドスポークが問題となる典型は、カルテル・談合の事例です。具体的な事例をご紹介しながら説明します。

東日本地区活性炭談合事件(公取委命令令和元年11月22日令和元年(措)第9号)
活性炭の販売事業者らが、東日本地区又は近畿地区の地方公共団体が発注する浄水場向けの特定活性炭について入札談合を行ったとして、合計4億円を超える課徴金納付命令がなされた事例です。この事例では、販売事業者(A社)がハブとなり、他の販売事業者と個別に面談し、自社で管理していた入札情報を配布したり、受注希望などを聞き取って、入札物件を全体で割り振るなどしていたと認定されました。A社以外の販売事業者は、互いに直接コンタクトをとっておらず、A社がハブとなって全体の談合を形成したという点にハブアンドスポークの特色を見出すことができます。

車両用タイヤチューブ談合事件(公取委勧告審決平成17年1月31日審決集51巻554頁)
タイヤメーカーは、防衛庁が発注する航空機用タイヤの一般競争入札において、自らの販売事業者に入札代行をさせていました。メーカー間では直接のコミュニケーションはありませんでしたが、販売事業者間で受注調整を行っており、各メーカーは自らの販売事業者からその報告を受け、これを認識・認容したうえで入札代行者に委ねることを了解していたことから、メーカー間に意思の連絡の成立が認められました。
本件では、ハブは1社ではなく、複数の販売事業者ですが、これらの販売事業者を一つのまとまりと見ると、販売事業者をハブとするメーカー間の談合とみることができます。

4 その他の類型のハブアンドスポーク
カルテル・談合以外の類型でも、ハブアンドスポークの形を見出すことができます。
(1)支配型私的独占とされた事例(財務局発注医療用ベッド私的独占事件(公取委勧告審決平成10年3月31日審決集44巻362頁))
東京都が発注する医療用ベッドについて、メーカー1社(B社)が、自社製品の販売事業者の中で落札予定者を決定し、落札価格を指示するなどした行為が、販売事業者の事業活動を支配したとされた事例です。この事例では、メーカーであるB社がハブとなり、その販売事業者である複数のスポークに対し、落札予定者や価格などを指示して動かせていたという点にハブアンドスポークの特色を見出すことができます。
なお、この事案を支配型私的独占ではなく、販売業者間の不当な取引制限と評価できるかという点は検討の余地があります。競争者間で協調的な行動をとる場合、どのように抜け駆けを防止するかについて腐心することになります。仮に、B社の販売事業者に対する影響力が非常に強い場合、B社が各販売事業者に対し、抜け駆け防止の目を光らせていますので、あえて販売事業者間で水平的な合意をするまでもないでしょう。では、B社の影響力が弱かったとしたらどうでしょうか。抜け駆けを防止するためには、何らかの制裁を含めた合意を販売事業者間で形成しておく必要があると思います。このような合意を意思連絡と評価すれば、不当な取引制限と認定できる場合があると思います。

(2)再販売価格拘束とされた事例(キャンプ用品再販売価格拘束事件(公取委命令平成28年6月15日審決集63巻133頁))
キャンプ用品メーカー(C社)の商品は、一般消費者から人気があるため、小売業者としても商品棚にこのメーカーの商品を取りそろえることが不可欠でした。C社は、自社製品の販売ルールとして、C社が定める下限価格以上の価格で販売することなどを定め、このルールに従って小売業者に商品を販売させていたことから、このような行為は再販売価格拘束であると認定されました。
この事例も再販売価格拘束と評価されていますが、C社をハブとし、小売業者をスポークとして、価格カルテルを行ったと見ることもできます。そうすると、ハブの影響力次第では、類似の類型の事案において、小売業者間のカルテルと評価される場合があるかもしれません。

5 予防策
一般に、カルテルや談合を未然に防止する取組みとして、経営トップによるコンプライアンスの呼びかけ、社内マニュアルの整備、研修の実施などが挙げられます。もっとも、ハブアンドスポークの類型では、必ずしも自社が主体的にカルテル等に関与していない場合があり、これを捕捉することは容易ではありません。ハブアンドスポークのような違反類型もあることを念頭に置いていただくことで、また違った観点からの気づきにつながるのではと思います。

弊所は、独禁法に関する幅広いご相談に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

越田晃基弁護士が執筆した『集中連載 金融機関のデータガバナンス体制のポイント③近時の個情委による実名公表ケースの傾向』が銀行法務21 No.909/2024年3月号に掲載されました。

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https://www.khk.co.jp/book/mag_detail.php?pid=53376

渡邉雅之弁護士が執筆した『マネロン対策で欠かせない!営業店で取り組む継続的顧客管理 顧客への質問票の内容』が近代セールス2024年3月1日号に掲載されました。

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越田晃基弁護士が執筆した『集中連載 金融機関のデータガバナンス体制のポイント②有事対応~漏えい等事案の発生を念頭に』が銀行法務21 No.908/2024年2月号に掲載されました。

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https://www.khk.co.jp/book/mag_detail.php?pid=53369

渡邉雅之弁護士、越田晃基弁護士、岩田憲二郎弁護士が執筆した『生成AIを巡る法的規制動向』が銀行実務2024年2月号に掲載されました。

渡邉雅之弁護士、越田晃基弁護士、岩田憲二郎弁護士が執筆した『生成AIを巡る法的規制動向』が銀行実務2024年2月号に掲載されました。

2/16無料ウェビナーのご案内 「生成AIを巡る法的論点の整理と実務対応」

下記のとおり、オンラインセミナーを開催いたします。
ご参加いただけます場合、お申込みは下記URLよりお願いします。


生成AIを巡る法的論点の整理と実務対応

本ウェビナーでは、生成AIサービス(質問・作業指示(プロンプト)の入力に応えて生成するAIを利用したサービス)をめぐる錯綜(さくそう)した法的論点について分かり易く整理します。また、流動的で不透明な現状規制の中でのベストプラクティスの実務対応について提案いたします。
ウェビナーの中では、生成AIの分類についても分かり易く解説いたします。法的論点に関しては、個人情報保護法と著作権法について特に掘り下げて検討いたします。
ウェビナーの後半では、講師がパネラーとなり、生成AIの法的論点のツボについて議論していきます。

◆ 日時 2024年2月16日(金) 13:00~16:00 (ZoomによるWEBセミナー)
◆ 主催 弁護士法人三宅法律事務所
◆ 共催 宝印刷株式会社
◆ 参加費 無料
◆ 講師
  弁護士渡邉雅之(弁護士法人三宅法律事務所パートナー)
  弁護士越田晃基(弁護士法人三宅法律事務所アソシエイト)
  弁護士岩田憲二郎(弁護士法人三宅法律事務所アソシエイト)
  弁護士出沼成真(弁護士法人三宅法律事務所アソシエイト)
◆ プログラム
1.生成AIの種類・活用事例
2.個人情報保護法
(1)利用目的規制
(2)第三者提供規制・・・クラウド例外・委託との関係
(3)外国第三者提供
3.秘密保持義務・守秘義務
4.知的財産権
主に著作権を想定、生成AI(画像等含む)の知的財産との関係での問題点
5.人格権
6.生成AIの代表例と規約
7.パネルディスカッション

◆お申込み
こちらのURLよりお申込みください。
https://miyakemail-jp.prm-ssl.jp/ai-seminar.html
2月13日(火)までにお申し込みください。

【お申込みの流れ】
(1) お申し込み後、セミナー前日までに登録メールが届きますので、ご登録をお願いします。
(2) 登録後、セミナー受講URLが届きます。
(3) セミナー当日、(2)の受講URLよりセミナー受講画面にお進みください。
※登録メールはmiyakenews@miyakemail.jpより、受講URLはno-reply@zoom.usからお送りしますので、受信できるよう事前にご準備お願いいたします。
こちらのアドレスは配信専用です。
※セミナーのURLがメールで届きますので、ご視聴予定のデバイスで閲覧可能なメールアドレスでご登録することをお勧めします。
※直前のリマインドメールはございませんので、当日まで保存をお願いいたします。

ウェビナーご案内『生成AIを巡る法的論点の整理と実務対応』.pdf

[miyakenews] 個人情報保護法ニュースNo.6(個人情報保護法関連の規則・ガイドラインの改正)

2024/01/24

三宅ニュースレター 個人情報保護法ニュースNo.6(個人情報保護法関連の規則・ガイドラインの改正)を配信いたしました。

今回は個人情報保護法ニュース「個人情報保護法関連の規則・ガイドラインの改正」をご案内させていただきます。
*本ニュースレターに関するご質問・ご相談がありましたら、下記にご連絡ください。

   弁護士法人三宅法律事務所
   弁護士渡邉雅之、弁護士越田晃基、弁護士岩田憲二郎、弁護士出沼成真(執筆者)
   TEL 03-5288-1021 FAX 03-5288-1025
   Email: m-watanabe@miyake.gr.jp
      k-koshida@miyake.gr.jp
      k-iwata@miyake.gr.jp
      n-idenuma@miyake.gr.jp

個人情報保護法ニュースNo.6(個人情報保護法関連の規則・ガイドラインの改正).pdf 詳細 282 KB

渡邉雅之弁護士が執筆した『「九州・長崎特定複合観光施設区域整備計画」の審査結果の分析(2)』が商事法務ポータルに掲載されました。

渡邉雅之弁護士が執筆した『「九州・長崎特定複合観光施設区域整備計画」の審査結果の分析(2)』が商事法務ポータルに掲載されました。

http://bc.shojihomu.jp/c/bZrpacsBuXumsmbG

渡邉雅之弁護士が執筆した『マネロン対策で欠かせない!営業店で取り組む継続的顧客管理 アンケートに応じない顧客への対応』が近代セールス2024年2月1日号に掲載されました。

渡邉雅之弁護士が執筆した『マネロン対策で欠かせない!営業店で取り組む継続的顧客管理 アンケートに応じない顧客への対応』が近代セールス2024年2月1日号に掲載されました。

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