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トピックス・法律情報

『課徴金のおそれもある独占禁止法の改正』

2009/08/17

(執筆者:弁護士 豊田孝二)
【Q.】独占禁止法改正で何が変わるの?
ニュースでもよく耳にする「独占禁止法」ですが、最近、それが改正され、課徴金制度等の見直しがされたと聞きました。何が変わったのか、その概要を教えてください。
【A.】
◆はじめに
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(いわゆる「独占禁止法」)の一部を改正する法律」が、平成21年6月3日に成立し、同月10日に公布されました。なお、課徴金制度等の見直しに関する施行日は未定ですが、公布の日から起算して1年以内に施行されることとされています。
今回の改正では、課徴金制度等の見直しがなされていますが、これは大きく、
1.課徴金の対象となる行為類型の拡大
2.課徴金を課す仕組みの見直し
の2つに分けられます。
1.課徴金の対象となる行為類型の拡大
課徴金の対象となる行為類型の拡大として、従前対象とされていた不当な取引制限及び支配型私的独占のほか、以下の�@〜�Bが、その対象として加えられることになりました。
�@排除型私的独占
…他の事業者の事業活動を排除することにより、私的独占を行う行為
�A不公正な取引方法
(a) 不当廉売
…正当な理由なく、供給に要する費用を著しく下回る対価での販売を継続することにより、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為
(b) 差別対価
…地域または相手方により、同じ商品・役務について不当に異なる対価を設定することで、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為
(c) 共同の取引拒絶
…競争関係にある事業者が、正当な理由なく、共同して取引を拒絶し、または制限する行為
(d) 再販売価格の拘束
…正当な理由なく、事業者が取引の相手方に対し、当該相手方による販売価格(再販売価格)を指定し、その価格で販売するように拘束する行為
�B優越的地位の濫用
…取引上優越した地位にある事業者が、その地位を利用して不当に不利益を被らせる行為
ただし、�Aについては、同一の違反行為を繰り返した場合に適用されることになっています。
�@〜�Bの行為は、今回、課徴金の対象となっており、取引を行うにあたって、事前に十分な検討が必要となります。実際、企業が通常の事業活動として行う事業提携、販売政策等といった活動は、排除型私的独占や不公正な取引方法(不当廉売、差別対価、共同の取引拒絶、再販売価格の拘束)、あるいは優越的地位の濫用といった類型に該当する可能性がありますので、課徴金の対象とならないよう注意すべきです。
なお、新たに課徴金の対象とされた行為類型のうち、施行日前の違反行為については課徴金が課されず、違反行為が施行日前と後とにまたがっている場合は、施行日後の行為のみが課徴金の対象となります。
2.課徴金を課す仕組みの見直し
課徴金を課す仕組みの見直しとして、大きく、以下の2点が改正されました。
�@主導的事業者に対する課徴金の割増
�A課徴金減免制度の拡充
�@主導的事業者に対する課徴金の割増は、カルテル・入札談合等において主導的な役割を果たした事業者に対し、課徴金を5割増しとするものです。また、�A課徴金減免制度の拡充として、課徴金減免の申請者数が最大5社まで拡充されることになりました。
(以上)

『消費者の安心につながる住宅瑕疵担保履行法』

2009/07/21

(執筆者:弁護士 岸野 正)
【Q.】住宅瑕疵担保責任の履行の確保とは?
当社は、年間300戸程度の住宅を供給する新築住宅の建設請負業者です。将来の住宅瑕疵担保責任の履行に支障が出ないようにするため、この10月から保証金の供託または保険加入が義務付けられると聞きました。そこで、制度の概要と具体的にどのような準備をすればよいか、また保証金はいくら必要なのか、教えてください。
【A.】
1.制度導入に至る背景
平成17年に構造計算書の偽装問題が発覚し、偽装のあった物件では、建て替えや補修工事のために多大な費用が必要となりました。このような場合、本来責任を負うべき売主が倒産するおそれもあり、売主の財産だけでは十分な補償が期待できません。平成12年4月から、新築住宅の売主や請負人には10年間の瑕疵担保責任が義務付けられていますが、売主や請負人の資力を確保し、その実効性を高めるため、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」が平成21年10月1日から本格施行されることとなりました。
2.制度の概要
平成21年10月1日以降に引き渡される新築住宅(工事完了後1年以内の住宅であって、まだ人が居住したことのないもの)を対象とし、請負人または売主のうち、建設業許可を受けた建設業者と、宅地建物取引業免許を受けた宅地建物取引業者に資力確保措置(保証金供託または保険加入)が義務付けられます。ただし、新築住宅の発注者や買主が宅地建物取引業者である場合は、対象となりません。
まず保証金ですが、基準日(毎年3月31日と9月30日の年2回)から過去10年間に遡って引き渡した新築住宅の戸数に応じて算定します。ただし、平成21年10月1日から10年間は、同日以後に引き渡した新築住宅の戸数が対象となります。保証金は供給戸数の区分に応じた算定式により、例えば年間300戸を供給する事業者で、最初の基準日(平成22年3月31日)までの半年間に150戸引き渡していれば、1億500万円の保証金の供託が必要です。その後も供給戸数に応じて、1年後に300戸であれば1億2000万円、10年後に3000戸であれば2億6000万円まで保証金の積増しが必要です。
つぎに保険加入ですが、国土交通大臣指定の住宅瑕疵担保責任保険法人と保険契約を締結した住宅については、供託の対象となる戸数から除外できます。現場検査料を含めた保険料(保険期間10年)の目安は、1戸あたり約6〜9万円とされています。
年間の供給戸数が数百戸程度であれば、短期的には保証金供託よりも保険加入のほうが負担は小さいといえますが、保険料は掛け捨てですので、長期的な負担も考慮のうえ資力確保措置の方法を選択してください。
なお、毎年2回の基準日時点での供託や保険加入の状況を、基準日から3週間以内に国土交通大臣等に届け出る必要があります。届出を行わない場合、罰則の適用や業法に基づく処分の可能性があるほか、基準日の翌日から50日を経過した日以降、新たな新築住宅の請負契約や売買契約ができなくなります。
3.請負人または売主に必要な準備
新築住宅の請負契約または売買契約を締結するまでに、当該住宅の資力確保措置の内容について、発注者や買主に書面を交付して説明しなければなりません。また、最初の基準日(平成22年3月31日)までに供託の必要な金額が比較的高額になることが予想されますので、保証金の確保にはご留意ください。
なお、保険加入には、建設着工前の保険申込みと保険法人による現場検査が必要です。保険未加入のまま、すでに着工済みで、引き渡しが平成21年10月1日以降となる新築住宅については、保証金供託での対応となります。
制度の詳細につきましては下記の国土交通省ホームページにも記載されていますので、詳しくはそちらをご覧ください。_
_http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/index.html
(以上)

『中小企業経営者が裁判員に選ばれたら』

2009/05/01

(執筆者:弁護士 雑賀裕子)
【Q.】裁判員に選ばれましたが……
私は従業員5人の会社の社長です。昨年末、「裁判員候補者名簿への記載のお知らせ」という通知を受け取りましたが、この不況下で会社の経営が苦しく、裁判員になることを辞退したいのですが、可能でしょうか?
【A.】
1.裁判員選任までの流れ
平成21年5月21日に裁判員制度がスタートします。名簿記載通知が届き、どう対応してよいのか不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。そこで、まず裁判員選任までの手続についてご説明します。
前年の12月頃までに、裁判員候補者名簿への記載を通知する書面が届きます。その際、
�@就職禁止事由の有無(自衛官、警察職員など)
�A1年を通じての辞退希望の有無・理由(70歳以上、過去5年以内の裁判員経験者、重い疾病・傷害など)
�B月の大半にわたって裁判員となることが特に困難な特定の月がある場合、その特定の月における辞退希望の有無・理由(株主総会の開催月、農産物の収穫・出荷時期など)
などをたずねる調査票も一緒に送付されますので、辞退希望の方はその旨を回答することになります。なお、�Bが認められた場合、当該特定の月に行われる事件については、候補者に選任されることはありません。
この調査で辞退等が認められなかった方の中から、事件ごとにくじで裁判員候補者が選ばれます。原則として個々の裁判の6週間前までに「裁判員等選任手続期日のお知らせ」(呼出状)が送付されます。その際にも、
�@重い疾病・傷害により裁判所に出頭することが困難である
�A介護または養育が行われなければ日常生活を営むのに支障がある同居の親族がいる
�B仕事における重要な用務があって、自らがこれを処理しなければ著しい損害が生じるおそれがある
などに該当する辞退希望の有無・理由をたずねる質問票も一緒に送付されますので、辞退希望者はその旨、回答することになります。
辞退を希望しなかったり、質問票の記載のみからは辞退が認められなかった方は、選任手続期日に裁判所に行くことになります。選任手続では、裁判長から、辞退希望の有無・理由などの質問が行われます。この時点で辞退が認められると、候補者から除外されます。通常であれば、午前中に裁判員が選任され、午後から裁判の審理が始まります。
2.仕事を理由とする辞退の申立
このように、裁判員選任までの間、辞退の希望を表明する機会が数度にわたり設けられています。しかし、裁判員制度は広く国民が参加することを目的とした制度ですので、原則として仕事があるからという理由のみでは辞退は認められず、法律上、「その従事する事業における重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがあるものがある」(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律16条8号ハ)場合に限って、仕事を理由とする辞退の申立ができるとされています。
辞退可否の判断として、最高裁判所のHP(http://www.saibanin.courts.go.jp/)では、
�@裁判員として職務に従事する期間(期間が長いほど仕事への影響が大きい)
�A事業所の規模(規模が小さいほど仕事への影響が大きい)
�B担当職務の代替性(代替性が低いほど仕事への影響が大きい)
�C予定される仕事の日時を変更できる可能性(裁判員として職務に従事する予定期間に、日時変更の困難な業務がある場合には、仕事への影響が大きい)
などの観点から、総合的に判断されると紹介されています。また、仕事の関係で「自己又は第三者に経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当な理由がある」場合にも辞退が認められるとされています。
従って、会社の経営が苦しいという理由がある場合も、現在の経営状態や、社長自身が会社を休むことでどのくらいの不利益が生じるかなど、個別具体的な事情を総合勘案して辞退の可否が判断されることになるでしょう。
(以上)

『ホームページに潜む著作権侵害』

2009/04/20

(執筆者:弁護士 川畑真治)
【Q.】_著作権侵害といわれましたが……
_
弊社(A社)は中古車販売の会社です。先日B社から、弊社ホームページがB社の著作権を侵害しているため、侵害部分の削除と損害賠償を支払えという内容証明郵便が届きました。弊社の担当者に確認したところ、B社ホームページに掲載してある写真をコピーして掲載した、とのことです。しかし、写真は停車している車を広告用に撮ったものであり、著作権侵害といわれてもピンときませんこれは、著作権侵害にあたるのでしょうか。(写真は、晴れた日に車体を左斜め前から写したものであり、影が写っていないことから順光であると思われます)。
【A.】
_1.はじめに
インターネットが普及し、多くの企業がホームページを作成しています。しかしホームページ作成の際、著作権侵害の危険性について意識されることは少なく、ご質問のような事例がたびたび問題となっています。そこで今回は、ホームページに潜む著作権侵害について解説します。
2.著作物、著作権とは
思想または感情を創作的に表現したものが文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものである場合、これら創作物は「著作物」にあたり著作権が発生します。そして「著作権」とは、著作者の財産的利益を保護することを目的として、著作物を複製する権利(複製権)や著作物を公衆送信する権利(公衆送信権)など、その著作物の利用を著作者に独占させる権利です。
3.写真の著作物性について
裁判例によると、写真が著作物に該当するためには、被写体の選択・設定、構図の決定、シャッターチャンスの補足、光量の調整等により、思想または感情を創作的に表現していることが必要です(東京地判平11・3・26 判時1694号142頁参照)。
たとえば、絵画を再現するだけの写真には著作物性が認められません。撮影対象が平面なので撮影位置を選択する余地がなく、あくまで再現であって独自に表現するものではないからです(東京地判平10・11・30 判タ994号358頁参照)。また、自動撮影される証明用写真なども著作物性が認められません。
一方、素人が撮った写真であることは、著作物性の妨げとはなりません(仙台高判平9・1・30 判タ976号215頁参照)。広告用の写真であっても、被写体の組み合わせ・配置、構図・カメラアングル、光線・陰影、背景などにそれなりの独自性が表れていれば著作物性が認められ、創作性の程度が低くても、当該写真をそのままコピーして利用した場合には著作権侵害になるとされます(知財高判平18・3・29 判タ1234号295頁参照)。
4.ご質問について
以上の前提で、本件写真は、晴れた日に順光となるよう車を配置し、撮影位置を選択した上で車体を左斜め前から写しているのであり、撮影位置の選択、被写体の配置、光線・陰影等にそれなりの独自性が表れているといえます。よって、著作物性が認められ、これをそのままコピーしてホームページに使用しているA社は、B社の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害しているといえるでしょう。
5.著作権を侵害すると
A社のように、会社ホームページに著作権侵害がある場合、民事上の損害賠償請求のみならず、侵害行為である著作物のホームページへの掲載の停止(差止請求)を求められるおそれがあります(民法第709条、著作権法第112条)。また、故意に著作権侵害がなされた場合には、行為者及び会社に刑事罰が科されるおそれもあり(著作権法第119条ないし第124条)、会社経営にとって、そのリスクは無視できません。
ホームページに掲載されている写真、文章は誰が作成したものか、どこから引用したのかを調査して、著作権侵害がないかを改めて確認する必要があります。具体的判断に際しては、社団法人著作権情報センターのホームページ(http://www.cric.or.jp/qa/qa.html)を参考にしてください。
(以上)

『派遣切りと2009年問題』

2009/03/01

(執筆者:弁護士 荻野伸一)
【Q.】派遣切りは違法ですか?
近時、派遣契約の解除が「派遣切り」として社会問題となっていますが、派遣先が「派遣切り」を行うことは違法なのでしょうか。
また、「2009年問題」という言葉を耳にしますが、どのような問題なのでしょうか。派遣先としての対処法を教えてください。
【A.】
1.いわゆる「派遣切り」について
派遣をめぐる契約関係には、労働者、派遣元、派遣労働者受入企業(以下、派遣先)の三者が関与しています。派遣元が、労働者と雇用契約を結び、派遣先と派遣契約を結ぶことで、労働者を派遣先に派遣します。ここで契約関係にあるのは、派遣元と労働者、派遣元と派遣先であって、労働者と派遣先は契約関係にはありません。したがって、派遣先が派遣契約を解除(派遣切り)しても、派遣先と労働者との間で、通常の解雇に伴う問題は生じません。
しかし派遣先が、労働者の国籍、信条、性別、社会的身分等を理由として派遣契約を解除することは禁止されています(「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律<労働者派遣法>」26条)。
また、派遣先の事情で、派遣期間満了前に派遣契約を解除する場合は、以下のような措置を講ずる必要があります(「平成11年労働省告示第138号<派遣先指針>」第2の6 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/haken/16.html)。
�@派遣元に対して相当の猶予期間をもって解除の申入れを行い、その合意を得ること
�A派遣先の関連会社での就業をあっせんする等して、労働者の新たな就業機会の確保を図ること。これができないときは、解除を行おうとする日の少なくとも30日前に派遣元に対してその旨の予告を行うこと
�B予告を行わない場合は、少なくとも30日分以上の賃金に相当する額について損害賠償を行うこと
派遣先としては、派遣契約の解除がやむを得ないかを検討し、仮に解除する場合には、このような措置を講ずる必要があります。正当な理由のない解除や、措置を講じない解除は、違法となり得ます。
2.いわゆる「2009年問題」について
「2009年問題」とは、製造業における多くの派遣契約が2009年2月28日以降、順次終了することに関する問題です。
製造業のように、派遣期間に制限がある業務(従来から派遣が認められていた26業務以外の業務)については、派遣先が一定期間経過後も派遣使用を継続することが禁止されています(<労働者派遣法>40条の2)。
派遣先がその期間経過後も派遣使用を行おうとする場合は、雇用契約の申込義務が生じ得るため(同法40条の4)、派遣先としては派遣期間満了を機に、�@派遣使用を止める、�A労働者を直接雇用する、�B派遣使用によりまかなっていた仕事を請負として外部化する、という対応策を採る必要があります。
その場合に留意すべき事項として、�Aに関して、派遣先が一定期間(※)のみ労働者を直接雇用した後に、派遣元がその労働者を改めて雇い入れ、再度、派遣労働者として派遣先に派遣すると事前に合意するのは違法となること、このような場合には、3ヶ月を超えても適正なクーリング期間とは認められないことがあります(この場合、雇用申込義務が生ずる可能性もあります)。
※“クーリング期間”とよばれる3ヶ月以上の期間。この期間をあければ、再度、派遣使用が可能とされる(<派遣先指針>第2の14参照)
また、�Bに関して、契約の形式が請負でありながら発注者が直接請負労働者を指揮命令するなどの“偽装請負”とならないよう留意すること等があります(厚生労働省通達「いわゆる『2009年問題』への対応について」http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/dl/h0926-6c.pdf)。
派遣先としては、以上のような点に留意して、いずれの対応を採るのかについて、慎重に検討する必要があるでしょう。
(以上)

『内定取消の法的な問題点』

2009/01/01

(執筆者:弁護士 内芝良輔)
【Q.】内定取消の問題点は?
昨今の不況の影響で業績が大幅に悪化し、内定を取り消す企業が増加していると聞いています。我が社も他人事とは言い切れません。このような内定取消に関する法的な問題点について、教えてください。
【A.】
1.はじめに 〜採用内定の法的意味〜
企業が新卒者を採用する際には、その者に採用内定を通知し、卒業し次第、採用するといった方法が一般的ですが、そもそもこの採用内定というものは法的にどのような意味を持つのでしょうか。
この点について最高裁は、企業の採用募集に対する応募は労働契約の申込であり、企業側の採用内定は申込に対する承諾にあたるとして、内定時点で誓約書等記載の取消事由が生じた際は解約できるという、解約権留保付きの労働契約が成立するとの判断を示しています(最高裁昭和54年7月20日判決等)。また、最高裁は採用内定の法的性質は個々の事案毎に判断すべきとも述べていますが、一般的な事案では、企業が内定通知をした時点で労働契約が成立したと考えられるでしょう。
2.内定取消が許されうる場合
このように採用内定時点で労働契約が成立していることから、その取消は契約関係の解消となります。そして最高裁は、内定取消は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できなかった事実があり、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と判断される場合にのみ認められるとしています。
例えば、学校を卒業できなかった場合や病気による著しい健康状態の悪化の場合、内定者の非違行為があった場合、提出書類の重要事項への虚偽記載があった場合などが、この「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できなかった事実」にあたると考えられています。
3.会社都合の内定取消の可否
では、会社の業績の悪化を理由とする内定取消は可能でしょうか。
先述したように、内定取消は「解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができる」ものであることが必要なため、それが業績悪化という会社の都合によるものである場合は、その可否がより厳格に判断されると考えられます。
その判断には、業績悪化に伴う従業員の解雇(整理解雇)の可否の判断基準が参考になるものと思われます。
具体的には、
�@人員削減の必要性
�A解雇(内定取消)回避努力の有無
�B人選の合理性
�C手続の妥当性
といった事情を勘案して、整理解雇が解雇権の濫用に当たるかを判断するものです。
業績悪化による内定取消が認められるか否かの判断は、まさにケースバイケースです。従業員の解雇よりも先に内定取消を行うことに一定の合理性を認めた判例もありますが、あくまで会社側の事情による内定取消であり、やはり、その判断は会社に対して厳格なものとならざるを得ません。
なお、内定取消が違法と認定された場合には、内定者が従業員としての地位確認を求めることができるほか、会社に対する損害賠償請求が認められる場合もあります。内定取消を検討するのであれば、このようなリスクがあることを考えて検討する必要があります。
4.おわりに
以上の通り、採用内定を出した場合には会社と内定者の間に一定の契約関係が成立しているといえます。そして、いったん成立した契約を解消することは、容易ではありません。
したがって、採用にあたっては、会社の経済状況や社会の動向等を慎重に判断し、計画的に行う必要があるといえるでしょう。
(以上)

『中国進出の第一歩 〜 常駐代表機構の開設と注意点 〜』

2008/11/01

(執筆者:弁護士 西堀祐也)
【Q.】常駐代表機構を開設するには?
当社は工場用機械設備のメーカーです。顧客に在中国の日系企業があり、機械のメンテナンス等のサービスのため、新たに中国に拠点を設置しようと考えております。具体的には、駐在員事務所(常駐代表機構)の開設を考えておりますが、どのような点を注意すべきでしょうか。
【A.】
1.開設上の注意点
外国企業が中国に常駐代表機構の開設(中国法上の表現に倣って「設立」と呼ぶ場合もある)を申請する場合、原則として、関係当局から開設の認可証書を得た上で、首席代表が工商行政管理局で登記手続きをすることが必要です(常駐代表機構の審査認可及び管理に関する実施細則9条、14条)。
もっとも、製造業などの多くの業種については、認可証書の取得が省略され、登記申請のみでよいとされています。
申請に必要な書類としては、開設の目的・業務範囲等を記載した申請書のほか、御社の資本信用証明書、御社の登記簿謄本、代表への授権委任状、代表の履歴書・パスポートなどがあります(同細則12条)。開設までに要する期間は通常1か月程度ですが、余裕を持ってスケジュールを組んでおいたほうがよいでしょう。
2.事業活動上の注意点
(1)営業活動の禁止
常駐代表機構は、法的には日本法人の内部組織であり、企業を代表して業務連絡、製品の紹介、市場調査などの業務活動を行うことができる一方、直接営業に係わる活動は禁止されています(同細則4条)。禁止される営業活動とは、常駐代表機構が自らの名義で契約を締結したり、生産や販売などの活動を行うことです。
したがって、常駐代表機構が人員を顧客に派遣して機械設備のメンテナンス等のサービスを提供し、対価を受領する場合は営業活動とみなされ、当局から過料、財産の没収、業務停止などの処分が課せられる可能性があります(常駐代表機構登記管理規則15条)。
対策としては、御社が現地のメンテナンス業者等に業務を委託し、常駐代表機構は顧客と現地業者との間の連絡役に徹するというスキームなどが考えられます。
(2)直接雇用の禁止
また、常駐代表機構が、みずから労働者を雇用することは禁止されています(常駐代表機構の管理に関する暫定規定11条)。
したがって、御社が開設した常駐代表機構が必要な労働力を得るには、政府が指定する人材派遣業者等から労働者の派遣を受けるか、または御社で雇用した従業員を常駐代表機構に出張させたり、派遣するなどの方法で対応する必要があります。
3.最近の動向など
常駐代表機構の営業活動に対しては、これまで必ずしも当局による規制が徹底していなかったきらいがありましたが、現在、国務院法制弁公室において「常駐代表機構登記管理条例」の法案が審議中であり、常駐代表機構の営業活動に対する規制が強化されるとの情報もあります。御社が中国に常駐代表機構を開設する場合、営業活動とみなされる行為は一切行わないよう徹底することが必要です。
いずれにせよ、常駐代表機構での事業活動には活動範囲や労働力の面で限界がありますので、中国において本格的な事業展開をされる場合には、現地法人の設立を検討されたほうがよいと思われます。
(以上)

『債務不履行時の対応 〜 債権譲渡担保・集合動産譲渡担保の実行 〜』

2008/10/01

(執筆者:弁護士 竹田千穂)
【Q.】回収実行時のポイントは?
弊社(A社)は機械部品を製造販売しています。ある販売先(B社)に信用不安があり、�@B社がその販売先(C社)に対して将来有することになる売掛債権(Y)につき、将来債権譲渡担保契約を締結するとともに、�AB社が倉庫に保管している在庫商品につき、集合動産譲渡担保契約を締結しています。
今般、売掛金(X)が期限までに支払われなかったので、上記各担保から回収したいのですが、実行時の留意点を教えてください。
【A.】
1.はじめに
B社が売掛金(X)を期限までに支払わない場合、連帯保証人等による任意の弁済や貴社のB社に対する債務との相殺等も考えられますが、今回は上記担保を実行して売掛金(X)を回収する方法を解説します。
2.将来債権譲渡担保実行時の留意点
譲渡担保の実行方法は設定契約で自由に定められますが、通常、債権譲渡担保設定契約には、債務者(B社)が債務不履行等に陥った場合には、債権者(A社)が債務者から譲り受けた第三債務者(C社)に対する売掛金債権(Y)をC社から直接取り立てて自己の債権(X)に充当できる旨、定めています。
したがって貴社は、B社が債務不履行等に陥った場合には、C社から売掛金(Y)全額を取り立てて自己の売掛金債権(X)に充当し、残余はB社に返還し、不足すればさらに請求することになります。
なお、貴社は自らがC社に対する売掛金(Y)の債権者となるので、C社に対する売掛金債権(Y)の弁済期さえ到来すれば、その全額を取り立てることができます(ただし自己の売掛金債権(X)の弁済期が到来するまでは、これに充当はできません)。
もっとも前回*1説明したとおり、当該債権譲渡が債権譲渡登記ファイルに登記されている場合には、貴社はC社に対し、登記事項証明書を交付して通知する必要があります。
一方、C社が売掛金(Y)の取り立てに応じないときは、貴社は当該売掛金債権(Y)について支払命令を申し立てる、請求訴訟を提起する等の方法により、それらの債務名義に基づきC社の一般財産に対する強制執行を検討する必要があります。
3.集合動産譲渡担保実行時の留意点
通常、集合動産譲渡担保設定契約には、債権者(A社)が適当と認める方法、時期及び価格等によって評価または処分できる旨、定めています。
したがって貴社は、B社が債務不履行等に陥った場合、まずB社に対して譲渡担保権実行を通知し、保管場所に目的物を引き上げに行きます。B社が任意に引き上げに応じた場合には、貴社は目的物を適正な方法で評価(帰属清算方式)または第三者に処分して換価(処分清算方式)し、その金額または代金を自己の売掛金(X)に充当し、残余はB社に返還し、不足すればさらに請求することになります。
なお前々回*2も説明したとおり、B社に無断で倉庫から目的物を引き上げたりすると、住居侵入罪や窃盗罪が成立しえますので、管理者の承諾が必要です。
一方、B社が引き上げに応じない場合や、二重担保設定等により他の債権者から仮処分・差押・仮差押手続が申し立てられ、引き上げられない場合等には、貴社は目的物について引渡請求の訴訟を提起しなければなりません。この場合、判決まで担保権を保全するため、目的物について占有移転禁止又は処分禁止の仮処分の申し立てを検討する必要がありますが、安心できない場合には、引き渡し断行の仮処分を申し立て、貴社のもとへの引き上げも検討する必要があります。
4.最後に
日頃から確実に担保が実行できるように、�@については、担保債権であるC社に対する売掛金(Y)の存在や弁済期、第三債務者(C社)の支払能力の有無等を、�Aについては、目的物の対抗要件の具備、公示の有無等を確認しておくことも有用です。
*1「在庫商品を担保に取る方法」:当事務所ホームページ法律判例情報 2008/9掲載。
*2「将来債権を担保に取る方法について」:当事務所ホームページ法律判例情報 2008/8掲載。
(以上)

『在庫商品を担保にとる方法』

2008/09/01

(執筆者:弁護士 猿木秀和)
【Q.】
弊社は,機械部品を製造販売しておりますが,ある販売先について信用不安があるため担保の提供を求めようと考えています。
この販売先には,倉庫に保管している在庫商品以外にめぼしい財産がないため,この商品を担保に取ることを考えています。
その場合の注意点を教えて下さい。
【A.】
1 はじめに
前回,不動産等の資産がない取引先より担保を取る方法として,将来債権の譲渡担保について説明しましたが,例えば,在庫商品を日頃から多く抱えている会社で,その商品が容易に売却できるものである場合などには,その在庫商品を担保にとることも有用と考えられます。
2 在庫商品を担保に取る方法
例えば,自社が相手方に有する売掛債権を担保するため,相手方が倉庫等に保管する在庫商品の譲渡担保契約を結びます。それにより相手方が債務不履行に陥ったときは,担保を実行し,在庫商品の売却代金等から債権の回収を図ることができます。
この場合,倉庫内の商品は日常の取引の中で絶えず入れ替わるため,担保の対象をいかに特定するかが重要になります(特定が不十分な場合,担保契約自体が無効となることもあります。)。
具体的には,動産の種類,所在場所,量的範囲を特定する必要があるとされており,判例では,例えば,「第1ないし第4倉庫内及び同敷地・ヤード内に存在する普通棒鋼,異形棒鋼等一切の在庫商品」などの特定方法が有効と認められています。
3 第三者に対する対抗要件について
在庫商品など動産の譲渡担保は,物の占有を自己に移していないと,相手方以外の第三者に対抗することはできません。占有を移す方法としては,実際に自己の管理下に物を移すほか,相手方に以後は自己のために物を保管する旨の意思を表示させる方法(占有改定),第三者が物を保管している場合に,以後は自己のために保管するよう命じ,承諾を得る方法(指図による占有移転)等が認められています。在庫商品を担保とする場合には,現実に商品を動かすことは困難でしょうから,占有改定または指図による占有移転によることになるでしょう。
なお,近年法整備がなされ,動産譲渡についても登記により対抗要件を得ることが可能になったので,これによることも有用です。
もっとも,動産については,他人の物であっても,そのことを過失なく知らずに取引により取得した者は,その物の所有権を得るという善意取得(民法192条)の制度があり,担保だと知らずに在庫商品を買った者に対しては,担保の効力を主張できないおそれがあります(なお,譲渡の登記がなされた動産については,買主の過失が認められ善意取得が成立しないのではとの議論もありますが,未だ裁判等において判断はなされていません。)。
そこで,担保の対象については,倉庫に担保物件であることを示す立て札を立てる等の明認方法を施すことが望ましいです。
4 担保の実行方法
相手方に債務不履行が生じるなどして担保を実行する場合には,相手方にその旨を通知し,在庫商品を引き揚げることになります。そして,引き揚げた商品を契約の定めに従い売却するなどして,債権の回収を図ります。この場合,相手方に無断で倉庫に立ち入り商品を引き揚げるなどした場合は,住居侵入罪,窃盗罪が成立しますので,必ず商品の管理者の承諾を得て商品を引き揚げることが必要です。
5 最後に
在庫商品の担保については,善意取得の問題や,商品を引き揚げる際に相手方の承諾が必要となること等の問題はありますが,冒頭に述べたような一定の場合には有用であり,検討に値するものと考えます。
(以上)

『将来債権を担保に取る方法について』

2008/08/01

(執筆者:弁護士 佐藤竜一)
【Q.】
弊社は,機械部品を製造販売している会社ですが,新たな取引先と継続的な取引基本契約を結ぼうとしています。
この取引先には会社所有の不動産はなく,代表者の自宅にも既に抵当権が付いています。
取引先が将来有することになる売掛債権を担保に取る方法を考えていますが,注意点を教えてください。
【A.】
1.はじめに
新たな取引先と継続的な取引をするに際し,将来,当該取引先に信用不安が発生した時に備えて,担保を取っておくことが通常行なわれますが,質問のように会社に不動産等の資産がなく,代表者の不動産にも抵当権が付けられていると,会社代表者との間で連帯保証契約を結んだとしても実効性が高くありません。
もっとも取引先につき,継続的に安定した売り上げが期待できる場合は,将来発生する売掛金等をあらかじめ譲渡してもらい,これを担保とする方法が考えられます。
今回はこの方法のポイントを簡単に説明します。
2.将来発生する債権を担保に取る方法とは
将来発生する債権を担保に取る方法を具体的に説明します。
例えば,取引先(B社)が,特定の会社(C社)に対して継続的安定的に売掛債権を有する場合に,AB社間で,B社がC社に対して現在有し並びに将来有する売掛債権をA社に譲渡する旨の債権譲渡担保契約を結びます。
そして,当該契約には,B社がA社に対して負っている債務につき期限の利益を有している限りは,B社自らC社に対する債権の取り立てることができ,その回収金をB社の自己資金として使用できる旨を定めるのです。
このような債権譲渡担保契約をあらかじめ締結することにより,A社としては,将来B社が債務不履行等,信用不安が発生した場合に,その時点でB社のC社に対して有している債権を直接取立てて回収を図ることができ,B社も,信用不安に陥らない限りは,C社に対する売掛金を自ら回収し使用することができることとなります。
ただし,A社が債権譲渡担保を第三者に対抗するためには,対抗要件を備える必要がありますので,この点を次に説明します。
3.第三者に対する対抗要件について
債権譲渡担保は,確定日付ある債権譲渡通知等を第三債務者(本件ではC社)にしておかないと,C社以外の第三者に対抗できません。この点は通常の債権譲渡の対抗要件と同様です。
ところが,このような債権譲渡通知を発することは,B社の信用に問題があるとの印象をC社に与えてしまいますので,B社としては避けたいところです。
将来債権譲渡担保に関しては,この点が問題点としてありました。
これに関しては,債権譲渡の対抗要件に関する特例法(「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」)が整備され,債権譲渡につき債権譲渡登記ファイルに登記がなされた場合には,第三者対抗要件が具備できることとされました(なお従前,債権譲渡登記の一部が商業登記簿に記載されていましたが,この制度も廃止されました)。
B社が期限の利益を失ったとき,A社が譲受債権をC社に対して行使する場合は,登記事項証明書をC社に交付して通知等する必要がありますが,かかる通知等についてもB社に信用不安が生じた時に初めて行なうこととすることで,C社にあらかじめ債権譲渡の事実を知らせて欲しくないとのB社の要望に応えられるようになっています。
4.さいごに
従前,将来債権譲渡担保契約については,支払停止等を条件として効力が発生するという形式の契約が締結されていましたが,この方式は,判例で破産管財人の否認対象となると判断されました(最判平成16年7月16日判決)。
上記で説明した,将来債権につき譲渡契約を締結し,債権譲渡登記により第三者対抗要件を具備しておく方法は,破産管財人による否認リスクも少ないと考えられています。また,上記ではB社が特定のC社に対して有することとなる将来債権について説明しましたが,債務者が不特定の場合であっても,債権譲渡登記により第三者対抗要件を備えることが可能になりました。
このように債権譲渡の対抗要件に関しては,一定法制度が整備されておりますので,質問のような場合には,取引先が有する将来債権を担保として取ることも検討されてよいと考えます。
(以上)

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