平素より大変お世話になっております。
さて、今回は「オンラインカジノのサイトブロッキングは導入されるのか ― 総務省検討会報告書(令和8年7月27日公表)と236件のパブリックコメント ―」をご案内いたします。
総務省の「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会」(座長・曽我部真裕京都大学大学院法学研究科教授)は、令和8年4月24日の第14回会合において「報告書(案)」を取りまとめ、同年5月15日から6月15日まで意見募集を実施しました。そして、令和8年7月27日、総務省は、提出された意見及び意見に対する考え方(別紙1)並びに、同年7月22日の第15回会合における議論の結果を踏まえてとりまとめられた報告書(別紙2)を公表しました(e-Govパブリック・コメント案件番号145210715)。本稿は、この確定した報告書を前提として解説するものです。
報告書は、違法オンラインカジノサイトへのアクセスをISP(インターネット接続事業者)が遮断する、いわゆる「サイトブロッキング」について、①必要性、②有効性、③許容性、④実施根拠・妥当性の四つの観点から検討したものです。本ニュースレターでは、ブロッキングの仕組みと方式、報告書の四つの視点ごとの結論、過去のブロッキング論との比較、パブリックコメントを受けた6か所の修正、及び実務上の留意点を整理するとともに、四つの視点が他の違法・有害情報にも及び得ることについて、筆者の所感を述べます。
令和8年7月
弁護士法人三宅法律事務所
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オンラインカジノのサイトブロッキングは導入されるのか
― 総務省検討会報告書(令和8年7月27日公表)と236件のパブリックコメント ―
| 【目次】 1 ブロッキングとは何か ― 「誰が止めるか」と「どこで止めるか」 2 必要性 ― ブロッキング以外の対策は尽くされたか 3 有効性 ― 回避できるブロッキングに意味はあるのか 4 許容性と過去のブロッキング論との比較 5 実施根拠・妥当性と諸外国の状況 6 パブリックコメント236件と6か所の修正 7 実務上の論点とまとめ |
| 【本件の経緯】 令和8年4月24日(第14回会合) 「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会 報告書(案)」をとりまとめ 令和8年5月15日~6月15日 意見募集を実施(提出意見236件) 令和8年7月22日(第15回会合) 提出意見及び会合における議論を踏まえ、報告書をとりまとめ 令和8年7月27日 総務省が、提出意見及び意見に対する考え方(別紙1)並びに報告書(別紙2)を公表 本稿は、令和8年7月27日に公表された報告書を前提とし、あわせて第15回会合資料15-1(報告書案の意見公募の結果〔概要〕)を参照したものである。なお、e-Govの公表情報には、公表に際して実質的な内容の変更をもたらさない形式的な修正を行った旨が付記されている。本稿が引用する頁数は、第15回会合資料15-3のものである。 |
| 【本稿の要点】 1 導入は決定されていない。他方で、「排除することなく」検討するという表現が一貫して用いられ、選択肢からも排除されていない。 2 必要性の判断は留保された。包括的対策に一定の効果は認められるものの、なお効果検証が必要とされた。 3 有効性は「否定できない」。VPN等による回避可能性を認めつつ、若年層・カジュアルユーザーの保護という限定された観点から肯定された。 4 目的は依存症対策に純化された。国富の流出防止・スポーツ健全性の確保は「踏まえる必要がある」から「踏まえる余地がある」へ格下げされた。 5 制度設計の核心は先送りされた。立法措置が必要であることに異論はないが、司法・独立機関の関与、ISPの免責、費用負担は今後の検討事項とされた。 |
【図表1】ブロッキング検討の4要件と報告書の結論
| 要件 | 問われる内容 | 報告書の結論 |
| ① 必要性 | 他の権利制限的でない対策(取締り・情報削除・ジオブロッキング・支払抑止・周知啓発)が十分に尽くされたか | 一定の効果は認められるが、なお効果検証が必要【判断留保】 |
| ② 有効性 | 対策としてのブロッキングは有効か(VPN・パブリックDNS・IP直接入力による回避可能性) | 若年層・カジュアルユーザー保護の観点から【有効性は否定できない】 |
| ③ 許容性 | 得られる利益が失われる利益(通信の秘密・知る自由・表現の自由)と均衡するか | 目的を依存症予防・流通蔓延防止に純化【均衡するかは今後の検証事項】 |
| ④ 実施根拠・妥当性 | どのような根拠・枠組みで行うか | 【立法措置が必要】(緊急避難・自主的取組は不可) |
※ ①②が認められ、かつ③が認められる場合に、④の立法により実施が可能となる(中間論点整理の枠組み)。
中間論点整理は、アクセス抑止策として、端末等におけるフィルタリング、サイト運営者等による削除・ジオブロッキング、通信事業者によるブロッキングを挙げている。これらは「誰が止めるのか」が決定的に異なり、その違いがそのまま法的な扱いの違いになる。
【図表2】アクセス抑止策の全体像 ― 誰が止めるか
| 手段 | 止める主体 | 止まる位置 | 通信の秘密 | 報告書の評価 |
| 削除 | サイト運営者、ホスティング事業者、CDN事業者、プラットフォーム事業者 | 情報そのものが消える | 生じない | 誘導投稿等は大幅に減少。検索紹介サイト・CDNが課題 |
| ジオブロッキング | サイト運営者・ホスティング事業者 | サイト側が日本からのアクセスを断る | 生じない | 外国政府等への要請は任意にとどまり実効性に課題 |
| フィルタリング | 利用者(保護者)=端末側 | 自分の端末が開かない | 生じない | 利用率が頭打ちで、これ以上の努力を求めることは難しい |
| ブロッキング | ISP(通信事業者) | 通信の途中で第三者が遮断 | 生じる | 他の手段が尽くされた場合に、立法により実施 |
削除等はいずれも「情報を出す側」か「受け取る側」自身が止めるものであるが、ブロッキングだけが、通信の当事者でないISPが、利用者の同意なく宛先を確認したうえで遮断する構造をとる。報告書はパブリックコメントを受け、3頁に「ブロッキングは、オンラインカジノサイトを閲覧する者だけでなく、すべてのインターネット利用者の宛先を網羅的に確認することを前提とする技術であり、ISPが、利用者の同意なく、特定のIPアドレスへのアクセスを強制的に遮断するものである」と追記した。オンラインカジノに近寄りもしない利用者を含む全員の通信先を常時照合する仕組みであるがゆえに、憲法21条2項・電気通信事業法4条1項の通信の秘密の問題が生じる。
(1)前提となる仕組み ― DNSとCDN
ドメイン名(example.com)は「名前」、IPアドレス(203.0.113.10)は「住所」であり、名前から住所を調べる仕組みがDNS、その作業が名前解決である。端末は通常、契約ISPが自社網内に置く「ISP内キャッシュDNSサーバ」を参照するが、設定を変えれば第三者が公開する「パブリックDNS」を参照させることもできる。APNIC調査によれば、日本では約95%のクライアントがISP内キャッシュDNSサーバを参照しており、フランス・スイス・ドイツ・イギリスも同様である。
CDN(Content Delivery Network)は、コンテンツの写しを各地のキャッシュサーバに置き、利用者に近い場所から配信する仕組みであり、本来の配信元をオリジンサーバという。CDNは、①契約を解除しても情報がオリジンサーバに残るため削除が効きにくい、②日本近傍から配信され通信が国内で完結し得る、③一つのIPアドレスを無数のサイトが共有するため後述のIPブロッキングが無関係な適法サイトを巻き込む、という三重の意味で対策の急所である。報告書が「今後、CDN事業者による対応状況等を見据え、ブロッキングの必要性を判断すべきである」としているのは、①の限界が必要性論に直結するからである。
(2)ブロッキングの三つの方式
【図表3】ブロッキング3方式の比較
| 観点 | ① DNSブロッキング | ② IPブロッキング | ③ DPI |
| どこで止めるか | 名前解決(DNSサーバ) | 宛先のIPアドレス | パケットの中身 |
| たとえると | 電話帳に載せない | その住所には通さない | 荷物を開けて中身を見る |
| 権利制約の程度 | 小 | 中 | 大 |
| オーバーブロッキングの危険 | 低い | 高い(CDN・共有IP) | 中 |
| 回避のされやすさ | 高い | 中 | 低い |
| 設備・費用負担 | 小 | 中 | 大 |
| 実例 | 児童ポルノ(日本)、フランス、スイス | ― | スイスの裁判で懸念表明 |
| 報告書の想定 | 大多数の事業者が採用する可能性が非常に高い | ― | 将来的に慎重に検討 |
※ DNSブロッキングは、国内で唯一実施されている児童ポルノブロッキングの方式であり、安定的に運用されている実績がある(NTTドコモビジネス・吉田参考人)。DPIについては、スイスの裁判において通信の秘密の侵害の懸念がある手法であると言及されている。
| 「回避されにくさ」と「権利制約の小ささ」は反比例する。回避されにくい方式ほど通信の秘密の侵害度が高く、権利制約の小さい方式ほど回避しやすい。ブロッキング論が容易に決着しない構造的な理由がここにある。スイスがDNS方式を採用したのも、VPNによる回避可能性を認識したうえで、オーバーブロッキングのリスクが低い方式を選んだ結果である。 |
【図表4】回避手段×方式のマトリクス
| 回避手段 | DNS | IP | DPI | 理由 |
| パブリックDNSへの変更 | ✕ | ○ | ○ | ISPの電話帳を見に行かなくなる |
| DoH・DoT(暗号化DNS) | ✕ | ○ | △ | 名前解決の内容がISPから見えない |
| IPアドレスの直接入力 | ✕ | ○ | ○ | そもそも電話帳を引かない |
| VPN・プライベートリレー | ✕ | ✕ | ✕ | ISP網を経由しない/接続先が見えない |
| 海外ローミング・eSIM | ✕ | ✕ | ✕ | 国内ISPを経由しない |
| ドメイン変更・ミラーサイト | △ | △ | △ | リストの継続的更新が必要 |
凡例:○=遮断が維持される/△=運用次第/✕=回避される。VPN等は国内ISP網を経由しないため、どの方式でも遮断できない。他方、端末の設定を何も変えていない一般の利用者にとってはDNS方式でも入口が閉まる。有効性が「若年層・カジュアルユーザー」に限定して論じられているのは、この構造による。
ブロッキングは通信の秘密等に抵触し得るため、より権利制限的でない手段を十分に実施した上でなければ導入を正当化できない。報告書は、関係省庁・関係事業者の取組を整理したうえで、なお効果検証が必要であるとしている。
【図表5】関係省庁・関係事業者の取組と残された課題
| 分野 | 主な取組 | 残された課題 |
| 周知啓発 (警察庁) | 改正基本法に関するポスター・チラシ、若年層向け動画の政府広報との連携配信 | 違法性の認識は6割程度にとどまる。学校教育等における知識の普及も含め継続が必要 |
| 取締り (警察庁) | 賭客のみならず決済代行業者・アフィリエイター等に重点。背後に匿名・流動型犯罪グループの関与 | 海外で合法的に運営され捜査協力が得られにくい。困難であればそれを前提に必要性を判断 |
| 情報削除 (総務省・警察庁) | 違法情報ガイドライン改定(R7.9.25)、主要PF5社へのヒアリング、IHC運用ガイドライン改定。IHCの削除依頼は誘導情報2,542件・提示447件(R7.9.25~12.31) | 国外所在のサイト管理者等には削除・アクセス制限に至らない傾向。検索結果上位に紹介サイトが残存し、CDN対応も課題 |
| 外国政府への要請 (外務省) | 在外公館への訓令、在京大使館への要請、要人往来の機会の活用 | 任意の協力要請にとどまり実効性に課題 |
| 支払抑止 (金融庁・経産省) | 注意喚起・利用規約明確化・決済停止の要請(R7.5)、資金決済法改正による越境収納代行の登録制(R7.6)、疑わしい取引の参考事例更新(R7.8)、国際ブランドを介した外国所在アクワイアラーへの要請(R7.7) | 効果を十分に検証したうえで必要性を判断 |
| スポーツ健全性 (スポーツ庁) | ガバナンスコード、スポーツ基本法改正(R7.6)による不正操作防止規定の新設 | ― |
【図表6】効果検証 ― 動いた指標と動かない指標
| 動いた指標 | 動かない指標 |
| ・SNS等の誘導投稿数:812件/日(3月)→11.4件/日(11月) ・検索ヒット件数(減少傾向) ・アプリのダウンロード(iOS・Androidとも不可) ・目撃経験・検索経験(全体的に減少傾向) | ・オンラインカジノサイトへのアクセス経験 低水準で推移するが、基本法改正の施行前後で大きな変化なし ・違法性の認識 「違法である」との回答は6割程度にとどまる |
出典:株式会社三菱総合研究所調査(投稿数)、株式会社野村総合研究所調査(その他)。
| 「流通する情報の量」は大きく減ったが、「アクセス経験」と「違法性の認識」は動いていない。この非対称性が、必要性の判断を留保させる直接の理由となっている。 |
【図表7】必要性の判断構造 ―「失敗の確認」が立法のトリガーとなる
| 分野 | 報告書の記述 | 立法トリガーとなる事態 |
| 取締り | 捜査資源を適切に投入してもなお取締り等が困難である場合は、そのことを前提として必要性を判断すべき | 胴元の摘発が引き続き不可能であることの確認 |
| CDN対策 | 今後、CDN事業者による対応状況等を見据え、必要性を判断すべき | CDN事業者による削除が進まないことの確認 |
| ジオブロッキング | 外国政府等による対応が進まないことが明らかになった場合は、そのことを前提として必要性を判断すべき | 外国政府等の対応が進まないことの確認 |
| 支払抑止 | 今後も各種取組を行うとともに、その効果を十分に検証し、必要性を判断すべき | 決済遮断の効果が限定的であることの確認 |
| 他の対策の「失敗の確認」が、ブロッキングの必要性を基礎付ける構造になっている。その失敗をいかなる指標・主体・期間で認定するかが実質的な立法トリガーとなるが、報告書は「基本法改正の施行から一定の期間を経た適切な時期」と述べるにとどまり、時期・指標・評価主体のいずれも特定していない。なお、効果検証は関係省庁が連携し政府全体で実施すべきであるとされている。 |
報告書は、VPN等の利用、パブリックDNSの利用、IPアドレスの直接入力等によりISPのDNSサーバ等を迂回することが可能であるため、特にヘビーユーザに対しては効果を期待することができないとの指摘があるとしている。焦点は、APNIC調査の「約95%」という数字をどう評価するかにある。
【図表8】APNIC調査をめぐる評価の対立
| 立場 | 内容 |
| 【肯定】長瀬構成員 | 約95%がISPのDNSを参照している以上、カジュアルユーザ対策という意味では、ある程度の有効性が認められる |
| 【否定】森構成員 | APNIC調査は通常時のDNS利用率にすぎない。ブロッキングが行われていない状況ではパブリックDNSを利用する必要が生じない一方、実施されれば利用者が回避手段としてこれを用いる可能性がある。現にDNSブロッキングが行われている児童ポルノサイトへのパブリックDNS利用率と比較すべき |
| パブリックコメント | 回避方法を説明するページが容易に検索可能な現状では、若年層・カジュアルユーザに限定しても有効性に疑問がある/国際的な暗号化技術の標準化に伴い実効性が著しく喪失する/有効といえる期間は極めて限られるだろう |
| 報告書の整理 | 技術的な回避策により一定の限界はあるが、現在のインターネット利用環境等に照らせば、若年層やカジュアルユーザを保護する観点から対策としての有効性は否定できない。ただし、技術的動向は変化し得ることから、検証時点における利用環境等に十分留意すべき |
※「有効といえる期間は極めて限られる」との指摘は、①効果検証に長期間を要すればその間に有効性の前提が失われる、②仮に立法するとしても定期的な再検証(サンセット条項ないし見直し規定)が不可欠となる、という二つの制約をもたらす。
失われる利益は、全インターネット利用者の通信の秘密のほか、知る自由・表現の自由である。得られる利益について、報告書は、ギャンブル等依存症の弊害が借金・家庭崩壊・自殺リスク等、依存症患者やその周囲の者の人生そのものを奪い得るものであり、単なる財産上の利益の喪失にとどまらず、個人の人格的利益に関わる問題であるとしている。
報告書は、国内の先例として、①児童ポルノブロッキング(被害児童の個人の尊厳・幸福追求の権利に関わることなどから、緊急避難として民間事業者の自主的取組により実施)と、②インターネット上の海賊版(経済的利益の確保のみの観点からは正当化されないとして見送り)を対比している。オンラインカジノがどちらの側に位置付けられるかが、許容性の結論を決めることになる。
【図表9】保護法益の座標軸 ― 4つの先例の位置
| 人格的利益 | 経済的利益 | |
| 個人的法益 | 児童ポルノ【実施中】被害児童の個人の尊厳・幸福追求権 オンラインカジノ【報告書が目指す位置】依存症患者及びその家族の人格的利益 | 海賊版【見送り】著作権者の経済的利益 → 経済的利益のみでは正当化されない |
| 社会的法益 | わいせつ図画【検討対象外】性的秩序・健全な性的風俗 (参考)賭博罪の「勤労の美風」→ 抽象的であり目的の柱とできない | 国富の流出 → 独立の目的とすることは難しく、「踏まえる余地がある」に格下げ |
※ わいせつ物頒布等罪に係る情報は違法情報として削除要請の対象とされているが、ブロッキングは検討されてこなかった。保護法益が性的秩序という社会的法益であり、「現在の危難」を観念しにくく、通信の秘密との比較衡量に堪えないためである。この構造は賭博罪の「勤労の美風」をめぐる議論と相似形をなす。報告書が依存症被害という人格的利益を前面に出さざるを得なかったのは、この構造上の必然による。
【図表10】国内3先例とオンラインカジノの比較
| 観点 | 児童ポルノ | 海賊版 | わいせつ図画 | オンラインカジノ |
| 実施状況 | 実施中(平成23年~) | 見送り | 検討対象外 | 未実施・検討中 |
| 法的根拠 | 緊急避難(刑法37条1項) | ―(法整備に至らず) | ― | 立法措置が必要 |
| リスト管理 | ICSA(民間団体) | ― | ― | 公的機関の関与を検討 |
| 保護法益 | 被害児童の個人の尊厳・幸福追求権 | 著作権者の経済的利益 | 性的秩序(社会的法益) | 依存症患者・家族の人格的利益 |
| 被害者 | サイトに写された第三者 | 権利者(第三者) | 特定の被害者なし | アクセスする本人及び家族 |
| アクセスする者 | 加害側 | 侵害の利用者 | ― | 犯罪行為者かつ被害者 |
| 児童ポルノではサイトに写された第三者を守るために加害側の通信を止めるのに対し、オンラインカジノではアクセスする本人を本人から守ることになる(橋爪座長代理は、利用者は法的には犯罪行為を行っており専ら被害者である児童とは状況が異なると指摘)。もっとも、パブリックコメントを受けた23頁の修正により「依存症患者やその周囲の者」と明記され、家族という第三者被害者を示すことで児童ポルノ型の構造に接近させたと読むことができる。 仮に導入されれば、児童ポルノに次ぐ二例目であると同時に、日本で初めて法律に基づいて行われるブロッキングとなる。制度設計の巧拙は、今後の違法・有害情報対策全体の枠組みを規定することになる。 |
(1)四つの視点が充足されれば、わいせつ図画等も同様に立法化の方向に向かう
報告書は、末尾において、本報告書は他の違法有害情報に係るアクセス抑止の在り方について述べたものではないと明示している。もっとも、これは今回の検討の射程を限定したものであって、四つの視点という判断枠組みそのものを違法オンラインカジノに固有のものとしたわけではない。
すなわち、①他の権利制限的でない対策が尽くされたこと、②対策としての有効性があること、③得られる利益が失われる利益と均衡すること、④立法により対象・要件・手続・救済が明確化されることという四つの視点は、およそブロッキングの可否を判断する一般的な枠組みである。したがって、わいせつ図画、詐欺サイト、海賊版、違法薬物、違法金融等についても、これら四つの視点が充足されると評価されるに至れば、同様に立法化の方向に進むことになる。
現に、わいせつ図画がこれまで俎上に載らなかったのは、保護法益が性的秩序という社会的法益にとどまり、③許容性の段階で通信の秘密との均衡を満たさないと考えられてきたためである。逆にいえば、③を満たす被害構造——特定の個人の人格的利益が現に、かつ継続的に侵害されている構造——が示されれば、四つの視点を通過し得る。オンラインカジノの議論において、報告書が依存症被害を「依存症患者やその周囲の者の人生そのものを奪い得るもの」と描き直し、国富の流出等を正当化根拠から外したことは、まさに③を満たすための作業であった。
したがって、目的の純化は、「経済的損失が大きいから」という理由による拡張を封じる一方で、「人格的利益が現に侵害されているから」という理由による拡張には道を残している。今回の報告書は、オンラインカジノについての結論を示した文書であるにとどまらず、今後、他の違法・有害情報についてブロッキングの可否を論じる際の共通の判断様式を提示した文書でもある。オンラインカジノに限定する理由を立法上どう書き込むかが課題として残ると後述するのは、この意味においてである。
報告書は、通信事業者の自主的判断や緊急避難を根拠として恒常的なブロッキングを行うことには否定的であり、実施すべき状況にあるといえる場合には立法措置を講じることが必要であるとしている。特に、遮断の義務付けを実効的に確保する観点から、公的機関の関与を適切に確保する必要があるとされている。
【図表11】制度設計上の検討事項(報告書26頁・脚注/意見募集を受けて追記)
| 区分 | 検討すべき事項 |
| ① 遮断義務付け主体 | 遮断対象リストの作成・管理を適切に行う主体 |
| ② 遮断対象 | 対象範囲の明確化(国外・国内サイト、日本向けに提供するサイト、無料版の扱い等) |
| ③ 実体要件 | 補充性(他の対策では実効性がないこと)、実施期間、実施方法 |
| ④ 手続要件 | 【事前】司法を含む独立機関の関与、遮断対象リストの公表等 【事後】不服申立手続・簡易な権利救済手段、実施状況の報告・事後監査 |
| ⑤ その他 | 実施に伴う費用負担、誤遮断時の責任の所在(補償) |
【図表12】諸外国の状況と手続構造
| 項目 | フランス | スイス | ドイツ |
| 規制当局 | ANJ(国立賭博局) | ESBK(連邦カジノ監督委員会) | GGL(州合同賭博監督機関) |
| 法的位置付け | 違法 | 許認可制の下で合法 | 許認可制の下で合法 |
| 手続 | ANJが違法サイトを特定 → 運営者・ホスティング事業者へ削除・ジオブロッキングを要請 → 5日以内に対応がなければISPへ命令 | ESBKが官報公示で国内からアクセスできない措置を求め、ISPへ命令。運営者が自ら遮断措置を講じれば対象から除外 | GGLが特定 → 削除・ジオブロッキングを要請 → 一定期間経過後にISPへ命令(改正法案) |
| 実績 | 2024年に1,337件 | 2025年8月時点で約2,600ドメイン | 未実施。2026年末までに法改正予定 |
| 司法の関与 | 行政措置 | 国民投票で賭博法を承認。施行後の裁判でDPIに懸念表明 | 裁判で「ISPは命令対象に含まれない」と判断され、現行法では実施不可 |
※ イギリスは、UKGCの将来的な対策方針の一つに掲げられているものの、2025年11月時点で関連法案の提出はなく、実施していない。
| フランス・ドイツでは、ISPへの遮断命令の前に、必ず削除・ジオブロッキングの要請が置かれている。通信の秘密を制約しない手段を先に尽くすという補充性が、手続として制度に組み込まれているということである。スイスの「除外制度」も同じ発想による。いずれも日本の制度設計に直接応用可能な論点である。 |
意見募集には、団体等14件(テレコムサービス協会、JPNIC、NTTドコモ、KDDI、JAIPA、ICSA、Infoblox、ネット情報信頼性機構、日本司法書士会連合会、MyDataJapan、全国消費者団体連絡会、全国ギャンブル依存症家族の会、ギャンブル依存症問題を考える会、桜花法律事務所)、個人222件の合計236件が提出された。論点別の意見総数は274件で、内訳は報告書全体33件、必要性106件、有効性15件、許容性14件、実施根拠・妥当性17件、その他89件である。制度設計の中核である許容性・実施根拠は合計31件(11.3%)にとどまり、意見は「他の対策を先に尽くすべきか/被害が限界に達しているか」という必要性の次元に集中した。
【図表13】報告書(案)から報告書への主な修正箇所とその意味
| 区分 | 頁 | 修正内容 | 修正の性質 |
| ブロッキングについて | 3頁 | 全利用者の宛先を網羅的に確認する技術であること、ISPが利用者の同意なく強制的に遮断するものであることを、中間論点整理を引用して追記 | 権利制約の範囲を正確化 |
| 必要性 | 12頁 | 検索結果上位に違法オンラインカジノ紹介サイトが複数表示されている旨の指摘を踏まえ、検索事業者による情報削除等の取組促進のため官民連携を強化することが重要である旨を追記 | 「未了の対策」の追加明示 |
| 必要性 | 12頁 | 違法性の認識向上のための周知啓発に関し「学校教育等における知識の普及も含め」との文言を追加 | 同上 |
| 許容性 | 23頁 | 「借金や家庭崩壊、自殺リスク等」を明示し、「依存症患者やその周囲の者の人生そのものを奪い得る」と修正 | 正当化根拠の補強(人格的利益) |
| 許容性 | 24頁・30頁 | 国富の流出防止・スポーツ健全性の確保等について「踏まえる必要がある」を「踏まえる余地がある」に修正 | 正当化根拠の限定・純化 |
| 実施根拠・妥当性 | 26頁 | 遮断対象リストの作成主体、対象範囲の明確化、実施方法、実施に伴う費用負担等を引用して追記 | 論点の明示(実質判断は先送り) |
| 23頁の修正(家族被害の明示)と24頁・30頁の修正(国富流出等の格下げ)は、方向が逆に見えて同じ論理に立っている。すなわち、正当化根拠を「人格的利益の侵害」の一点に集約し、周辺的公益を外すという整理である。これは対象範囲を限定する方向に働くとともに、他の違法・有害情報への安易な拡張を抑制する論拠ともなり得る。逆にいえば、「経済的損失が大きいから」という理由での拡張は、海賊版に係る従前の整理と併せ、正面から否定されたに等しい状態になる。 |
政府対応の特徴は三点に整理できる。第一に、賛否については結論を動かしていない。導入を促す意見にも慎重論にも、結論を変更する修正は行われていない。第二に、記述の正確性・論理の純化に関する意見は採用されている。事務局は、結論に影響しない範囲で法的な精緻さを高める意見を積極的に取り入れた。第三に、判断基準と制度設計の中核は先送りされている。定量的指標・評価主体・評価時期、司法又は独立機関の関与の要否、ISPの免責、国の費用負担、異議申立て、サンセット条項は、いずれも詳細な意見が提出されたにもかかわらず修正には至っていない。
最大の論点は、いつ、どのような指標に基づき既存対策が尽くされたと評価するのかである。違法性の認知率(現状6割程度)、若年層の接触率、誘導投稿数、検索結果における紹介サイトの表示状況、決済拒否件数、海外送金額、CDN事業者の削除対応状況、外国政府等のジオブロッキングの進捗等が考えられるが、指標・主体・期間が示されなければ、判断が政策当局の裁量に委ねられるおそれがある。
このほか、①対象指定を行政機関・独立機関・裁判所のいずれが行うか(フランス型とドイツ型の対比)、②誤遮断時の異議申立て・仮解除・補償、③ISPの責任と費用(リストに従って遮断した限りにおいて電気通信事業法179条の罪責を負わないことを法律上明記できるか、卸提供・再販構造の中で誰が義務を負うか、費用の利用料金への転嫁)、④技術的中立性(特定方式を書き込めば陳腐化し、委ねればDPI等が導入され得る)、⑤オンラインカジノに限定する理由を立法上どう書き込むかが課題として残る。
【図表14】ステークホルダー別に求められる対応
| 主体 | 現時点で求められる対応 | 効果検証における意味 |
| 金融機関・暗号資産交換業者・資金移動業者・前払式支払手段発行者 | 利用規約上の禁止行為の明確化、取引モニタリングによる検知、決済停止、疑わしい取引の届出 | 決済拒否件数・海外送金額が指標となる可能性。対応記録が政策判断の基礎データとなる |
| 収納代行業者・カード会社 | 越境収納代行の登録制への対応、取引モニタリング、決済停止、カード会員への注意喚起 | 同上 |
| 通信事業者(ISP) | 現時点では義務なし。制度化に備えた設備・費用負担の見通しの検討 | 遮断義務付け主体・費用負担の議論に直結 |
| プラットフォーム・検索事業者 | 違法情報ガイドラインを踏まえた削除体制の整備、紹介サイトの表示抑制 | 報告書が明示的に課題として追記した分野 |
| CDN事業者 | 利用規約違反への対応、ジオブロッキング | 報告書が「対応状況等を見据えて必要性を判断」と明記 |
(筆者の所感)議論は立法化に近づいているのではないか
検討会の設置当初は、ブロッキングについて、通信の秘密との関係で消極に解すべきであるとの意見や、VPN・パブリックDNS等により容易に回避されるため技術的に困難であるとの意見が少なくなかった。実際、中間論点整理の段階では、回避可能性の大きさが繰り返し強調されており、議論は必ずしも導入に向かうものではなかった。
しかし、その後の議論の推移を追うと、潮目は変わりつつあるように思われる。第一に、有効性の評価軸が「完全に遮断できるか」から「若年層・カジュアルユーザーの入口を一つ塞げるか」へと移された。第二に、許容性において、依存症被害が家族を含む人格的利益の侵害として位置付けられ、児童ポルノ型の構造に接近した。第三に、実施根拠については、立法措置が必要であることに構成員間で特段の異論がなかったと明記された。回避可能性という技術的な弱点は、有効性を否定する決定打としてではなく、目的を限定することで乗り越えるべき課題として扱われている。
背景にあるのは、やはり被害の大きさであろう。若年層への急速な拡大、24時間・賭け額の上限なしという利用態様、家族を巻き込む生活の破綻、そして海外運営者に対する執行の限界は、いずれも既存の手段では届いていないことを示している。パブリックコメントに寄せられた当事者家族の切迫した意見の量も、これを裏書きしている。
筆者としては、報告書が導入を決定していないことを前提としつつも、議論は着実に立法化へ近づいているとの実感を持っている。もっとも、そうであるからこそ、対象、要件、手続、救済及び費用負担を法律上いかに限定するかという設計論を、今のうちに詰めておく必要がある。ブロッキングが「入るか入らないか」ではなく「どのような形で入るか」を議論すべき段階に移りつつある、というのが現時点での見立てである。
| 【まとめ】 今後の焦点は、ブロッキングの賛否そのものから、既存施策の効果をどのように測定するのか、どの時点で立法検討に移行するのか、そして、誰が、どの手続で、どのサイトを遮断するのかという具体的な制度設計へ移っていく。金融機関、通信事業者、プラットフォーム事業者及びスポーツ団体にとっては、ブロッキングの是非にかかわらず、既に進行している各分野の対策への対応状況そのものが、次の政策判断の基礎資料となる点に留意が必要である。また、四つの視点は分野中立的な枠組みであり、これが充足されると評価される他の違法・有害情報についても、同様に立法化が論じられ得ることを見据えておく必要がある。 |
※ 本稿は、令和8年7月27日に総務省が公表した「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会 報告書」(別紙2)及び「提出された意見及び意見に対する考え方」(別紙1)並びに第15回会合資料15-1(報告書案の意見公募の結果〔概要〕)に基づくものです。本稿が引用する頁数は第15回会合資料15-3(報告書(案))のものであり、公表に際して形式的な修正が行われているため、確定版の頁数とは異なる場合があります。報告書は法律案そのものではなく、今後の立法の要否は効果検証を経て判断される点に留意が必要です。本稿は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。
〔参考1〕総務省「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会」配布資料等 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/online_casino/index.html
〔参考2〕e-Govパブリック・コメント「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会 報告書(案)についての意見募集の結果」(案件番号145210715・結果の公示日 令和8年7月27日) https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/1040?CLASSNAME=PCM1040&Mode=1&id=145210715