【【動画解説】なぜ薬局では「現金払い」だけポイントが付くのか?~身近なポイント制度から考える規制・キャッシュレス・顧客誘引(外部YouTube)】
【【動画資料】なぜ薬局では「現金払い」だけポイントが付くのか?~身近なポイント制度から考える規制・キャッシュレス・顧客誘引(PDFファイル)】
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本件に関するご相談は、弁護士法人三宅法律事務所 弁護士 渡邉雅之(TEL 03-5288-1021/m-watanabe@miyake.gr.jp)までお願いいたします。
※本動画及び資料は、厚生労働省、消費者庁、金融庁その他の関係当局が公表している法令、通知、事務連絡、監督指針その他の資料等に基づき、薬局におけるポイント制度、キャッシュレス決済、顧客誘引及び規制業種における販促施策の法務・コンプライアンス上の論点を整理したものです。個別の薬局、決済事業者、ポイント事業者その他の事業者の法的評価を行うことを目的とするものではなく、個別事案については、最新の法令、監督指針、通知、業界自主規制及び当局運用等を確認する必要があります。
・厚生労働省保険局医療課「経済上の利益の提供による誘引の禁止について」(令和8年6月23日)
・厚生労働省保険局医療課「医療機関等における一部負担金のキャッシュレス支払いについて」(令和5年9月29日)
・保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(昭和32年厚生省令第16号)
・消費者庁「景品類ではないもの」FAQ
・金融庁・厚生労働省等の各業法・監督指針・広告規制に関する公表資料
今回は、「なぜ薬局では『現金払い』だけポイントが付くのか?~身近なポイント制度から考える規制・キャッシュレス・顧客誘引」をご案内いたします。
きっかけは、非常に身近な出来事です。これまで楽天ポイントが付いていた薬局でPayPayを利用して支払おうとしたところ、「7月から、現金じゃないとポイントが付きません」と言われました。キャッシュレス決済が普及している中で、なぜ現金払いの方が有利になるのでしょうか。
まず重要なのは、2026年7月から「現金払いの場合だけポイントを付けてよい」という新しい法律ができたわけではない、という点です。背景にあるのは、2026年6月23日に厚生労働省から発出された事務連絡であり、新しい法律による規制というより、従来から存在する患者誘引規制について、その考え方や実務上の取扱いがより明確化されたものと整理できます。その結果、各薬局がコンプライアンス対応としてポイント付与の運用を変更しているというのが実態です。
保険調剤では、一般の小売業と同じように「ポイントを付けて顧客を呼び込めばよい」という発想はそのまま通用しません。保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則では、経済上の利益を提供することによって患者を自らの薬局での調剤へ誘引することが規制されています。背景には、調剤料や薬価が公的制度によって定められていること、患者による薬局選択は経済的利益ではなく調剤や服薬指導の質を基礎とすることが望ましいという考え方があります。
ポイント制度を巡る行政上の取扱いも段階的に明確化されてきました。2012年には、調剤一部負担金について専らポイント還元を目的とするカード利用等について考え方が示され、2017年には1%を超えるポイント付与、減額、大々的な広告等について指導対象となり得ることが明確化されました。他方、2023年には、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済等によるキャッシュレス支払い自体は、患者の利便性等の観点から差し支えないとの整理が示されています。そして2026年6月23日の事務連絡では、決済事業者側のポイントと薬局側のポイントとの重複付与について、合算管理や説明可能性がより重要な論点となりました。
これが、「現金なら薬局ポイントが付くのに、PayPayやクレジットカードでは付かない」という一見不思議な運用につながります。現金払いであれば決済事業者側のポイントは通常発生しないため、薬局側のポイントを管理しやすいのに対し、キャッシュレス決済ではカード会社やQRコード決済事業者によるポイント、さらにはキャンペーンによる還元まで加わる可能性があります。そのため、合計の経済的利益を管理・説明する観点から、実務上の安全策として「キャッシュレス決済時には薬局独自ポイントを付けない」という運用が採用されやすくなります。
ここで重要なのは、「ポイント」という名称だけを見て判断しないことです。同じ100ポイントでも、誰が付与するのか、誰がその費用を負担するのか、何を条件として付与されるのか、患者・顧客の選択を誘導する性質があるのか、さらに一般法以外の業法、通知、ガイドライン等が適用されないかによって、法的評価は大きく変わります。ポイントは単なるサービスではなく、規制上は「経済上の利益」として評価され得ます。
2026年の通知が提起している論点は、店頭でのポイントだけではありません。処方箋受付サイトが「アンケート謝礼」や「サイト利用特典」などの名目でキャッシュバックを行う場合であっても、実質的に特定の薬局への患者誘導につながっていないかが問題となります。また、「処方薬の配送料無料」といった表示を顧客誘引の材料として大きく広告する場合や、高齢者施設等に対して配薬カート、棚、システム等を無償で提供する場合についても、サービス改善なのか、患者紹介の対価としての経済的利益なのかを実質的に検討する必要があります。
本動画では、この薬局のポイント問題を入り口として、さらに「規制業種における販促」という共通テーマへ展開します。一般の小売業では通常の販売促進として整理できるポイント、キャッシュバック、送料無料等であっても、業法や行政解釈が加わることによって結論が変わることがあります。「景品表示法上問題がないから大丈夫」というだけでは、規制業種の法務レビューとして十分ではありません。
例えば金融分野では、口座開設、NISA、投資信託購入等にポイントや特典を付けることそれ自体だけではなく、特典が顧客の商品選択やリスク判断を過度に左右していないかという視点が重要です。保険では、契約者間の公平性や、保障内容ではなく特典によって契約を選択させていないかが問題となります。医薬・ヘルスケア分野では、高還元やまとめ買いの促進が過量消費等につながらないか、広告表示が効能・効果について誤認を生じさせないかという安全性の視点が加わります。
さらに、ポイント制度はデータビジネスとも密接に関係します。ポイントIDを通じて購買履歴、決済履歴、来店履歴等が結び付けられる場合には、利用目的、共同利用、同意のあり方等を検討する必要があります。また、プラットフォームが高還元の店舗を上位表示する場合には、そのランキングが純粋な人気順なのか、広告・送客料等によるものなのかについて透明性も問題となります。ポイントは、販促であると同時に、データ取得と顧客行動を誘導する仕組みにもなり得ます。
規制業種の販促施策を考える際には、まず「誰が得をするのか」「何を選ばせようとしているのか」「その誘導がどの規制目的と衝突するのか」という三つの問いを置くと整理しやすくなります。患者選択、投資者保護、契約者間の公平、安全性、透明性など、それぞれの業法が何を守ろうとしているのかを確認することが重要です。
そして法務・コンプライアンス部門の役割は、単に販促施策に対して「できない」と回答することではありません。誰が誰に何を提供するのかという構造を把握し、一般法に加えて業法、通知、監督指針等を確認し、広告、Webページ、アプリ画面、店頭表示等も含めてレビューした上で、必要に応じて金額、対象者、条件、表現等を修正し、実施可能な設計を探ることが重要です。また、その判断理由や当局への照会結果、運用開始日等を記録として残しておくことも実務上重要となります。
本件が示しているのは、「ポイント制度が危険である」とか、「キャッシュレス決済が問題である」ということではありません。同じ「お得」に見える仕組みであっても、業界、規制目的、利益の負担者、顧客への誘引効果によって法的評価は変わるということです。薬局のレジで感じる小さな違和感から、その背後にある「誘引」「公平」「安全」「透明性」という規制目的を読み解くことが、規制業種における法務・コンプライアンスの重要な仕事となります。