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Q&A「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」 〜金融サービス仲介法制編〜

2020/01/01

金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(座長 神作裕之 東京大学大学院法学政治学研究科教授、以下「ワーキング・グループ」といいます。」)においては、令和元年(2019年)10月より、計7回にわたり、決済法制及び金融サービス仲介法制の在り方について、検討及び審議を行い、同年12月20日に「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」報告(以下「本報告書」といいます。)を公表いたしました[1][2]。同報告書は、「決済制度の見直し」と「新金融サービス仲介法制の創設」について示しています。本報告書を基に、2020年通常国会に資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)の改正法案と新金融サービス仲介法制の法案が提出される見込みです。
本ニュースレターでは、本報告書で示された改正の内容のうち、「新たな金融サービス仲介法制の創設」に関して、Q&A形式で分かりやすく解説いたします。
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Q&A決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ 報告書 (金融サービス仲介法制編)
(下記もご覧ください)
Q&A決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ 報告書(決済制度見直し編)
(全体取りまとめ版)
「Q&A「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」

(金融審議会情報)
金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」報告の公表について
金融審議会「決済制度及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(資料・議事録)

執筆者:渡邉雅之
* 本ニュースレターに関するご相談などがありましたら、下記にご連絡ください。
弁護士法人三宅法律事務所
弁護士渡邉雅之
TEL 03-5288-1021
FAX 03-5288-1025
Email m-watanabe@miyake.gr.jp

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Q1 新たに金融サービス仲介法制を創設が検討された理由について教えてください。

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1 新たな金融サービス仲介法制を創設する理由
 情報通信技術の発展により、オンラインで円滑に金融サービスを提供することが可能となっています。
 例えば、スマートフォンのアプリケーションを通じ、自身の預金口座等の残高や収支を利用者が簡単に確認できるサービスを提供するとともに、そのサービスを通じて把握した利用者の資金ニーズや資産状況を基に、利用可能な融資の紹介や、個人のライフプランに適した金融サービスの比較・推奨等を行うなど、日常生活上の金融取引ニーズに応える新たなビジネスが展開されることが想定されます。
 他方で、このように複数業種(銀行・証券・保険)にまたがって多数の金融機関が提供する金融サービスを仲介しようとした場合、現行制度では、
�@ 銀行法における銀行代理業者、金融商品取引法における金融商品仲介業者、保険業法における保険募集人や保険仲立人といった業種ごとの規制が存在し、仲介しようとする分野に応じて複数の登録等が求められるほか、(仲介分野に応じた複数の登録等)
�A 特定の金融機関に所属することが求められており、多数の金融機関が提供する商品・サービスを仲介しようとする場合、所属金融機関それぞれから行われる指導に対応する必要があることから、(所属金融機関ごとの指導)
 複数業種にまたがった仲介や多数の金融機関を相手方とする仲介を必ずしも念頭に置いていない面があり、事業者にとって負担が大きいとの指摘があります。
これを踏まえ、本ワーキング・グループでは、イノベーションを促進し、利便性のより高い金融仲介サービスを実現していく観点から、複数業種かつ多数の金融機関が提供する多種多様な商品・サービスをワンストップで提供する仲介業者に適した業種の創設について、制度の具体的な検討を行われました。

2 基本的な考え方
 複数業種かつ多数の金融機関が提供する多種多様な商品・サービスをワンストップで提供する仲介業者に適した制度を検討するにあたり、金融審議会 金融制度スタディ・グループ 「「決済」法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告≪基本的な考え方≫」(令和元年7月26日、以下「基本的な考え方」という。)においては、

業種ごとの複数の登録等を受けずとも、新たな仲介業への参入により、複数業種をまたいだ商品・サービスの仲介を行うことを可能とすること(ワンストップの登録制)

新たな仲介業者には所属制を採用せず[3]、取扱可能な商品・サービスの限定、利用者資金の受入れの制限、財務面の規制の適用等により利用者保護を図ること(無所属制)

等に留意しつつ、制度の具体的な検討を進めていくことが適当であるとされています。
 本ワーキング・グループも、このような考え方を踏まえて、制度の具体的な検討を行われました。
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〇既存の仲介業の参入規制の概要

(出所)金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第3回)「参考資料」(2019年10月30日)
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Q2 新たな金融サービス仲介業の業務範囲(�@仲介先・仲介内容、�A仲介行為、�B取扱い可能な金融サービス)について教えてください。

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【業務範囲】
1.仲介先・仲介内容

預金等の受入れ、資金の貸付、為替取引を内容とする契約の仲介(銀行等と利用者の仲介)

※ 協同組織金融機関や貸金業者への媒介を含める

有価証券の売買等の仲介(金融商品取引業者と利用者の仲介)

保険契約の仲介(保険会社と利用者の仲介)

※ 十分なシステム体制等を備えている者は、電子決済等代行業を行うことができることとすることを検討
2.仲介行為

「媒介」に限定し「代理」は認めない

3.取引可能な商品・サービス

仲介にあたって高度な商品説明を要しないと考えられる商品・サービスに限定

(例:商品設計が複雑でないもの、日常生活に定着しているもの)
※特定預金等契約や特定保険契約とされている商品などを参考に、商品の特性に応じて検討

商品の特性に応じ、取引金額や契約期間によっても限定

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1.仲介先・仲介内容(�@預金・資金の貸付け・為替取引、�A有価証券の売買、�B生命保険・損害保険の仲介)
 日常生活において生じる金融取引のニーズに応えるため、新たな仲介業者は、銀行・証券・保険の各分野における仲介を幅広く行えるようにすることが適当です。
 具体的には、銀行代理業・金融商品仲介業・保険募集人/保険仲立人の業務にならい、銀行分野の仲介としては、�@預金等・資金の貸付け・為替取引に関する仲介、�A証券分野の仲介としては、有価証券の売買等に関する仲介、�B保険分野の仲介としては、生命保険・損害保険等に関する仲介を行えるようにすることが考えらます。
 なお、銀行分野の仲介については、複数の金融機関が提供するサービスの中から、利用者が自身に最も適したものを選択できるようにするため、銀行のみならず、協同組織金融機関や貸金業者への仲介も行えるようにすることが適当です。
 また、新たな仲介業に参入しようとする事業者には、仲介業務と電子決済等代行業に該当する業務とを併せ営むニーズがあると想定されます(具体的には家計簿サービスを提供する参照型の電子決済代行業を営む事業者)。このような事業を行おうとする事業者の手続上の便宜のため、新たな仲介業者のうち、電子決済等代行業者と同様に十分な情報処理システム等の業務遂行体制などを備えている者については、電子決済等代行業者としての登録を受けることなく、銀行法の行為規制に基づいて電子決済等代行業を行うことができることとすることが考えられます。
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2.仲介行為(「媒介」のみ)
 一般に、「仲介」とは、他人のためにある事項について代理又は媒介することと解されています。このうち、「代理」は、仲介業者(代理人)の意思表示により契約当事者の間に直接法律効果が帰属する法律行為であるのに対し、「媒介」は、他人の間に立って、他人を当事者とする法律行為の成立に尽力する事実行為であるとされています。
 新たな仲介業者のビジネスモデルとしては、例えば、いわゆる家計簿アプリを通じて把握した資金ニーズや資産状況を基に、利用可能な融資の紹介及び送客や、個人のライフプランに応じ、顧客に適した金融商品・サービスの比較・推奨等を行うことが想定されます。
このようなビジネスを念頭に置けば、仲介業者を通じた多様な金融商品・サービスへのアクセスを確保する必要はあるが、必ずしも仲介業者が金融機関や顧客に代わって取引を成立させる必要はないと考えられます。
 これを踏まえ、新たな仲介業者の仲介行為として、「媒介」のみ認め、「代理」は認めないこととすることが適当です。
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3.取扱可能な金融サービス(高度な送品説明を要しないと考えられる商品・サービス)
新たな仲介業者には所属制を採用しないため、商品・サービスを提供する金融機関(銀行、証券会社、保険会社等)による指導・監督や賠償責任の負担がなされるとは限りません。また、顧客の資産状況やライフプランに応じて顧客に適した金融商品・サービスの比較・推奨等を行うビジネスを念頭に置けば、商品設計が複雑な金融商品・サービスを仲介するニーズは大きくないと考えられます。
これらを踏まえ、新たな仲介業者には、商品設計が複雑でないものや、日常生活に定着しているものなど、仲介にあたって高度な商品説明を要しないと考えられる商品・サービスに限って取扱いを認めることが適当である。取扱可能な商品・サービスの限定にあたっては、銀行法・保険業法において特定預金等契約・特定保険契約とされている商品や、二種外務員の職務の範囲[4]などを参考に、商品の特性に応じた限定を設けることが考えられます。
また、保険契約には、支払事由の発生に対して無制限の補償や長期の保障・補償を約するものがあるが、このような高額・長期の保険契約の締結の仲介にあたっては、一般に、個々のリスクと顧客意向の見極めや商品内容等の顧客への説明を一層丁寧に行うことが重要となることから、商品性による限定に加え、商品の特性に応じて、保険金額や保険期間による限定を設けることも考えられます。
一方で、金融仲介サービスにおけるイノベーションの促進や利用者利便等の観点からは、法令上の制約が過度なものとならないよう留意する必要があります。
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〇特定の金融商品を区分して取り扱う例

(出所)金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第3回)「参考資料」(2019年10月30日)
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〇新たな仲介業者が取扱可能な商品・サービスのイメージ

(出所)金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第5回)「参考資料」(2019年11月26日)
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Q3 新たな金融サービス仲介業の参入規制(�@財産的基礎、�A兼業規制、�Bその他)について教えてください。

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【業務範囲】
1.財産的基礎

保証金の供託等を求める

保険仲立人と同程度の水準の供託を求めた場合、事業者にとって過度な参入障壁ともなりうるか

・ 事業規模に応じて保証金の額を変動
2.既存の仲介業との兼業

銀行・証券・保険それぞれの分野において、事業者の立場が混在しない形での兼業が可能

3.その他

社会的信用、業務遂行能力等

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1.財産的基礎
 所属制を採用する既存の仲介業においては、仲介行為に関して顧客に損害が生じた場合、原則として所属金融機関がその賠償責任を負うこととされていますが、新たな仲介業には所属制を採用しないことから、新たな仲介業者自らが賠償責任を負う前提で制度を検討する必要があると考えられます。このため、顧客の保護を図る観点から、新たな仲介業者の賠償資力の確保に資するよう、保証金の供託等を求めることが適当です。
 また、例えば、仲介業者のシステムトラブルによる顧客の損害の場合、多くの顧客に同様の損害が発生することが想定され、仲介業者の事業規模が大きくなれば賠償額も大きくなることがあると考えられます。これを踏まえ、新たな仲介業者に求める保証金の水準は、その事業規模に応じたものとなることが望ましいです。
 例えば、一定の額をベースに、前事業年度に得た手数料その他の対価の合計額の一定割合を加えた額の供託等を求めることが考えられます。
前述のとおり、保証金の供託等は、顧客保護の観点から望ましいものであるが、保証金の水準が高すぎれば、事業者にとって参入障壁ともなり得ます。保証金の水準を定めるにあたっては、新たな仲介業者の取扱可能な商品・サービスの範囲が限定されていることを踏まえつつ、顧客保護の観点と、事業者の参入によるイノベーションの促進及び利用者利便の向上の観点とのバランスに留意すべきです。
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2.兼業制限
 新たな仲介業を創設することで、銀行・証券・保険の各分野において、�@既存の仲介業者として仲介行為を行うこと、�A新たな仲介業者として仲介行為を行うこと、がそれぞれ可能となります。仮に、銀行・証券・保険の各分野において、ある仲介業者が既存の仲介業と新たな仲介業の両方の許可・登録を受け、両方の立場で仲介行為を行いうることとした場合、仲介業者がいずれの立場でいかなる規制に基づいて仲介行為を行っているのか顧客に混同をもたらすおそれがあると考えられます。
 したがって、銀行・証券・保険の各分野において、仲介業者が複数の立場に立つことがないよう、既存の仲介業の許可・登録を受けている者については、当該分野において新たな仲介業としての仲介を認めないことが適当です。他方で、既存の仲介業と新たな仲介業を兼業した場合であっても、それぞれの立場で異なる分野における仲介を行う場合には、各分野における仲介業者の立場に重複が生じないため、兼業を認めることに問題はないと考えられます。
 このほか、既存の仲介業者は、公益に反する事業や仲介業務に支障を及ぼすおそれがあるものを除き、他の業務を行うことが認められており、新たな仲介業者についても、同様に広く兼業を認めることが適当です。
なお、金融機関(銀行・証券会社・保険会社等)が新たな仲介業を兼業すること又は子会社とすることについては、金融機関が既存の仲介業を兼業すること又は子会社とすることの可否にならって整理することが適当です。
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〇新たな金融サービス仲介業と既存の仲介業の兼業について

(出所)金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第3回)「参考資料」(2019年10月30日)
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(出所)金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第5回)「参考資料」(2019年11月26日)
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3.その他
その他、既存の仲介業者に求められている社会的信用や業務遂行能力等の参入規制については、新たな仲介業者にも同様の規制を設けることが適当です。

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Q4 新たな金融サービス仲介業の行為規制(�@財産的基礎、�A兼業規制、�Bその他)について教えてください。

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1.総論
行為規制のうち、名義貸しの禁止や顧客に対する説明義務、業務運営に関する体制整備義務等、仲介する金融サービスによらず必要と考えられる規制については、新たな仲介業者が銀行・証券・保険のいずれの分野において仲介を行うかにかかわらず共通して求めていくことが適当です。
他方で、≪基本的な考え方≫に示されているように、例えば、仲介業者が、「資金供与」(「預金受入れ」)に関する仲介を行う場合と、「資産運用」に関する仲介を行う場合、「リスク移転」に関する仲介を行う場合とでは、利用者保護等の観点から必要とされる行為規制は当然にして異なると考えられる。このため、仲介業者が取り扱う商品・サービスの特性を踏まえ、必要なルールが過不足なく適用されることを確保する必要があります。
このように、仲介する金融サービスによらず必要と考えられる規制については、新たな仲介業者が銀行・証券・保険のいずれの分野において仲介を行うかにかかわらず共通して求め、金融サービスごとの特性に応じた規制については新たな仲介業者が取り扱う金融サービスに応じて課すことで、仲介業者の事業内容に応じたアクティビティーベースの規制体系となることが期待されます。
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2.顧客資産の預託の受入れ
新たな仲介業者による仲介行為は「媒介」に限定されること、及び新たな仲介業者のビジネスとして、金融機関への送客サービスや、利用者が様々な金融商品・サービスを比較・検討した上で自身に最も適したものを選択できるサービス等が想定されていることにかんがみれば、新たな仲介業者の事業運営上、顧客資産の預託を受ける必要性は高くないと考えられます。
これを踏まえ、新たな仲介業者については、その行う業務に関して、顧客資産の預託の受入れを禁止することが適当です。
なお、新たな仲介業者が資金移動業等を兼業し、資金移動業者等として仲介業務に係る決済サービスを提供する場合など、他の規制により顧客資産の保全が適切に図られている業者として仲介業務に係る決済を併せ行うことは、妨げられるものではないと考えられます。
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3.顧客情報の適正な取扱い
〇顧客の非公開情報の利用の制限

(出所)金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第5回)「参考資料」(2019年11月26日)
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新たな仲介業者は、銀行・証券・保険の各分野における仲介を横断的に行いうることから、顧客の資産状況等に関する様々な情報を保有しうる立場にある。新たな仲介業者が、保有する顧客の資産に関する情報を不適切に利用して様々な金融サービスの推奨を行えば、利用者の保護に欠ける仲介行為につながるおそれがあります。
既存の仲介業者については、顧客の利益を保護する必要性が高い場合について、仲介業務を通じて取得した顧客に関する非公開情報を、顧客の事前の同意を得ることなく、兼業業務に用いたり、親子法人等に提供したりすること等が禁止されています。
新たな仲介業者についても、�@仲介行為を行う分野間(例:銀行分野における仲介業務を通じて取得した顧客情報を、証券分野や保険分野における仲介業務に用いること)、�A兼業業務との間(例:仲介業務を通じて取得した顧客情報を、兼業業務に用いること)、�Bグループ会社等との間(例:仲介業務を通じて取得した顧客情報を、親子会社等に提供すること)のそれぞれにおいて、既存の仲介業者に対する規制を参考に、仲介業務を通じて取得した顧客に関する非公開情報の適正な取扱いの確保を求めることが適当です。
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4.仲介業者の中立性
新たな仲介業には所属制を採用しないことから、金融機関と新たな仲介業者の関係は、法律上の義務に基づく指導関係から、業務上のパートナーとしての連携・協働関係となることが想定されます。このような仲介業者の中には、金融機関の側ではなく、顧客の側に立って仲介サービスを提供しようとする者も想定される。他方で、このような仲介業者が真に顧客の側に立って仲介サービスを提供しているか否かは、外観からは必ずしも明確ではありません。
既存の仲介業者については、法律上、“金融機関の委託を受けて”…を行う(又は“金融機関のために”…を行う)、とされているものもあれば、“顧客から委託を受けて”…を行う、とされているものもある。他方で、仲介業者の行動は、実態上は、このような法律上の定義・位置付けよりも、報酬・利益をどこから受け取るのかといった経済的なインセンティブの影響を強く受けていると考えられます。例えば、顧客に適した同種の金融商品・サービスが複数ある場合、仲介業者には、顧客の最善の利益ではなく、仲介業者が金融機関から受け取る仲介手数料の多寡に基づいて商品を紹介するインセンティブが働き得ます。
これを踏まえれば、新たな仲介業者の立場について、法律上何らかの位置付けを定めるのではなく、経済的なインセンティブに関する透明性を確保することで、顧客が仲介業者の中立性を評価できる環境を整えることが重要である。具体的には、所属金融機関を有しない既存の仲介業者である保険仲立人の制度にならい、新たな仲介業者に対し、金融機関から受け取る手数料等の開示を求めることが適当です。また、このような経済的なインセンティブに関する透明性の確保に加え、仲介先の金融機関との間の委託関係・資本関係の有無など仲介業者の立場を顧客へ明示することを求めることが適当です。そして、顧客本位で利便性の高い仲介サービスの実現に向けては、仲介業者の立場に関する透明性の確保を図るための制度上の対応に留まらず、新たな仲介業者において「顧客本位の業務運営の原則」を踏まえた自主的な取組が進められることが望ましいです。
なお、新たな仲介業者が報酬・利益をどこから受け取るのかについて制限を設けること(例:顧客からのみ報酬・利益を受け取ることを認めること)については、仲介業者のビジネスモデルを限定することにつながり、新たな仲介業への参入が進まなくなるおそれがあること、また、仲介業者が仲介先の金融機関等から報酬・利益を得ている場合でも、経済的なインセンティブに関する透明性の確保により、顧客に対する中立的なサービス提供を期待できる場合があると考えられることから、その必要性は乏しいと考えられます。

(出所)金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第5回)「参考資料」(2019年11月26日)
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5.顧客に対する説明義務
顧客が自身にあった金融サービスを選択できるようにするためには、様々な金融サービスについて、適切な情報提供を受けていることが重要です。新たな仲介業には所属制を採用しないことから、顧客に対する適切な情報提供を確保するため、既存の仲介業に求められている義務を参考に、書面交付、適合性原則を踏まえた適切な説明、情報提供を求めることが適当です。
その際、金融機関と新たな仲介業者の連携・協働関係において、仲介に関する両者の役割分担は、ビジネスモデルに応じて様々であると想定されます。また、顧客の立場に立ってみれば、仲介行為の開始から契約締結に至る一連の過程において、同じ情報の提供や説明を何度も受ける必要性は乏しいと考えられます。そこで、新たな仲介業者の説明義務等については、契約締結に至る一連の過程において、金融機関・仲介業者のいずれかが十分な説明を行えば足りることとすることが考えられます。
他方で、顧客保護上、金融機関と新たな仲介業者の間での書面交付や説明・情報提供の役割分担が明確になっていることは重要です。そこで、新たな仲介業者には、仲介を行うにあたって、書面交付や説明・情報提供に関して仲介業者が担う役割を顧客に明示することを求めることが考えられます。
6.「機能」ごとの特性に応じた規制
上記のとおり、新たな仲介業者が取り扱う商品・サービスの特性を踏まえ、必要なルールが過不足なく適用されることを確保する必要があります。
このため、銀行分野の仲介における情実融資の媒介の禁止、証券分野の仲介におけるインサイダー情報を利用した勧誘行為の禁止、損失補填の禁止、顧客の注文の動向等の情報を利用した自己売買の禁止、保険分野の仲介における意向把握義務、自己契約の禁止、告知の妨害の禁止、不適切な乗換募集の禁止、といった仲介分野ごとの特性に応じたルールについては、既存の仲介業に関する規制を参考に、必要なルールを過不足なく設けることが適当です。
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(出所)金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第5回)「参考資料」(2019年11月26日)
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7.その他
(1)仲介業者が金融機関に及ぼす影響力
本制度が導入された場合、金融商品・サービスの提供における仲介業者のシェア・規模・存在感が大きくなっていく可能性はあるものの、仲介業者と金融機関との関係性において、仲介業者が支配的な影響力を及ぼすような懸念は、現時点では、大きくないものと考えられます。仮に仲介業者の影響力が過大なものとなる状況となれば、まずは競争法の適用により対処されるものと考えられますが、今後、金融行政の観点からも必要な対応がありうることについて留意が必要であると考えられます。
(2)協会・裁判外紛争解決制度
新たな仲介業者に所属制を採用しないことを踏まえれば、利用者保護の観点から、新たな仲介業者に係る自主規制や紛争解決手続が整備されることが重要です。
そのため、新たな仲介業者に係る協会を設け、自主規制の整備や適切な業務運営に資する情報交換等を促すことや、新たな仲介業者を当事者とする紛争解決手続が整備されることが望ましいと考えられます。その際、必要に応じて既存の協会と連携・協力しながら、自主規制や協会体制の整備が進められることが期待されます。

[1]https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20191220.html

[2]本報告書は、令和元年7月26日の金融審議会 金融制度スタディ・グループ 「「決済」法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告≪基本的な考え方≫」(以下「基本的な考え方」という。)(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190726.html)で検討された内容を更に詳細に検討したものである。

[3]銀行代理業者、金融商品仲介業者、保険募集人等は、制度上、特定の金融機関に「所属」することとされている。所属制の下では、所属先の金融機関は、例えば、�@仲介業者の指導等の義務や、�A仲介業者が顧客に加えた損害の賠償責任、を負うこととされている。

[4]日本証券業協会「協会員の外務員の資格、登録等に関する規則」第2条第4号において、二種外務員には、デリバティブ取引や信用取引等の取扱いに一定の制限が設けられている。

個人情報保護法改正の方向性(第5回:適正な利用義務の明確化)

2020/01/01

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(セミナー情報)
Zoom無料セミナー(100名限定):渡邉雅之弁護士が2020年8月27日(木)午後6時より『2020年改正個人情報保護法を一挙解説!』と題するZoomセミナー(ウェビナー)を行います。

令和2年( 2020 年) 3月 10 日に閣議決定され国会に提出された「_個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案_」 が同年6月5日に国会で成立いたしました(同年6月12日に公布されました(令和2年法律第44号))。

「改正個人情報保護法Q&A(2020年8月21日全面改訂版)」を作成いたしましたのでご覧ください。

Q&A改正個人情報保護法(2020年8月21日全面改訂版)

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執筆者:渡邉雅之

本ニュースレターに関するご相談などがありましたら、下記にご連絡ください。

弁護士法人三宅法律事務所

弁護士渡邉雅之
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個人情報保護法の改正の方向性(3年ごと見直しの制度改正大綱) 〜第4回「漏えい等報告及び本人通知の義務化」〜

2019/12/31

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(セミナー情報)
Zoom無料セミナー(100名限定):渡邉雅之弁護士が2020年8月27日(木)午後6時より『2020年改正個人情報保護法を一挙解説!』と題するZoomセミナー(ウェビナー)を行います。

令和2年( 2020 年) 3月 10 日に閣議決定され国会に提出された「_個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案_」 が同年6月5日に国会で成立いたしました(同年6月12日に公布されました(令和2年法律第44号))。

「改正個人情報保護法Q&A(2020年8月21日全面改訂版)」を作成いたしましたのでご覧ください。

Q&A改正個人情報保護法(2020年8月21日全面改訂版)

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執筆者:渡邉雅之

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Q&A『デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方』

2019/12/30

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(セミナー情報)
Zoom無料セミナー(100名限定):渡邉雅之弁護士が2020年8月27日(木)午後6時より『2020年改正個人情報保護法を一挙解説!』と題するZoomセミナー(ウェビナー)を行います。

令和2年( 2020 年) 3月 10 日に閣議決定され国会に提出された「_個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案_」 が同年6月5日に国会で成立いたしました(同年6月12日に公布されました(令和2年法律第44号))。
「改正個人情報保護法Q&A(2020年8月21日全面改訂版)」を作成いたしましたのでご覧ください。

Q&A『デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方』
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本ニュースレターでは、令和元年(2019年)12月17日、公正取引委員会は、「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」[1](以下「本考え方」といいます。)について、Q&A形式で解説いたします。
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下記のPDFファイルもご参照ください。
Q&A『デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方』

公正取引委員会の関連ページは下記のとおりです。

(令和元年12月17日)「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」の公表について

【関連ニュースレター】
(全体取りまとめ版)
Q&A個人情報保護法改正の方向性(制度改正大綱を読み解く)
(ニュースレター形式)
個人情報保護法の改正の方向性(3年ごと見直しの制度改正大綱) 〜第1回「端末識別子等の取扱い」〜
_個人情報保護法改正の方向性(第2回:仮名化情報)
個人情報保護法改正の方向性(第3回:開示請求・利用停止請求等)
_個人情報保護法の改正の方向性(3年ごと見直しの制度改正大綱) 〜第4回「漏えい等報告及び本人通知の義務化」〜
_個人情報保護法改正の方向性(第5回:適正な利用義務の明確化)
個人情報保護法改正の方向性(第6回:オプトアウト制度の強化)
個人情報保護法改正の方向性(第7回:ペナルティの強化・課徴金制度の導入見送り)
個人情報保護法改正の方向性(第8回:公益目的による個人情報の取扱いに係る例外規定の運用の明確化)
個人情報保護法改正の方向性(第9回:域外適用と越境データ移転に関する改正の方向性)
(その他)
個人情報保護法ニュースNo.1:リクナビ事件と個人情報保護法の改正
個人情報保護法ニュースNo.2:個人情報保護法改正の方向性(第1回:端末識別子等の取扱い)

執筆者:渡邉雅之
* 本ニュースレターに関するご相談などがありましたら、下記にご連絡ください。
弁護士法人三宅法律事務所
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TEL 03-5288-1021
FAX 03-5288-1025
Email m-watanabe@miyake.gr.jp

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Q1.本考え方の策定の経緯について教えてください。

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平成30年(2018年)6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」[2]において、プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備のために、本年中(2018年中)に基本原則を定め、これに沿った具体的措置を早急に進めるべきものと定められました。
 これを踏まえ、経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、競争政策、情報政策、消費者政策等、多様な知見を有する学識経験者等からなる「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」を設置し、調査・検討を進め、同年12月に「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」[3]を策定しました。
同基本原則においては、「(4)デジタル・プラットフォーマーに関する公正かつ自由な競争の実現」として、「デジタル・プラットフォーマーが拡大し、独占化・寡占化を果たす傾向にあることに鑑みると、事後規制としての競争法の執行は重要性を持つため、デジタル市場の特性を踏まえた取組を進める必要がある」とされ、また、「サービスの対価として自らに関連するデータを提供する消費者との関係での優越的地位の濫用規制の適用等、デジタル市場における公正かつ自由な競争を確保するための独占禁止法の運用や関連する制度の在り方を検討する」こととされました。
「成長戦略フォローアップ」[4](令和元年6月閣議決定)においても、「現行の独占禁止法の優越的地位の濫用規制をデジタル・プラットフォーム企業による対消費者取引に適用する際の考え方の整理を2019年夏までに行い、執行可能な体制を整備する。」とされました。
これを受けて、公正取引委員会は、令和元年(2019年)8月29日に、「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」に対する意見募集[5]をしました(同年9月30日意見募集締切)。
そして、令和元年(2019年)12月17日、公正取引委員会は、「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を公表いたしました。

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〇検討の経緯

出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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Q2 本考え方の対象となる行為について教えてください。

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1.本考え方の対象となる行為
 本考え方においては、「デジタル・プラットフォーム事業者�@が提供するデジタル・プラットフォームにおける消費者の個人情報等�Aの取得又は当該取得した個人情報等の利用�Bにおける行為」について、優越的地位の濫用に該当しないか検討されています。
 上記の行為を対象とする理由は以下のとおりです(「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する中間論点整理」(平成30年12月))。

デジタル・プラットフォームは、ネットワーク効果、低廉な限界費用、規模の経済等の特性を通じて拡大し、独占化・寡占化が進みやすいとされていること。

デジタル・プラットフォーム事業者によるデータの集積・利活用が進展することにより、競争優位を維持・強化する循環が生じるとされていること。

デジタル・プラットフォーム事業者による消費者の個人情報等の取得・利用に対して懸念する声があること。

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2.デジタル・プラットフォーム
 「デジタル・プラットフォーム」とは、情報通信技術やデータを活用して第三者にオンラインのサービスの「場」を提供し、そこに異なる複数の利用者層が存在する多面市場を形成し、いわゆる間接ネットワーク効果が働くという特徴を有するものをいいます。
 第三者に場を提供することなく、自ら直接消費者にサービスを提供する場合は、本考え方の「デジタル・プラットフォーム」には含まれません。
 「間接ネットワーク効果」とは、多面市場において、一方の市場におけるサービスにおいて利用者が増えれば増えるほど、他方の市場におけるサービスの効用が高まる効果をいいます。
 これは、「デジタル・プラットフォーム」の定義として、欧州委員会のパブリック・コンサルテーションにおいて、「両面(又は多面)市場において活動する事業であって、インターネットを利用することにより、二又はそれ以上の別個かつ独立した利用者のグループ間における相互作用を可能とし、少なくともそのうちの一つのグループにとっての価値を生み出すことを目的とするもの」としているのを参考にしたものです。
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3.デジタル・プラットフォーム事業者
 「デジタル・プラットフォーム事業者」とは、以下のサービスを提供する事業者であって、上記2の特徴を有するデジタル・プラットフォームを提供する事業者をいいます。

 ・オンライン・ショッピング・モール
 ・インターネット・オークション
 ・オンライン・フリーマーケット
 ・アプリケーション・マーケット
 ・検索サービス
 ・コンテンツ(映像、動画、音楽、電子書籍等)配信サービス
 ・予約サービス
 ・シェアリングエコノミー・プラットフォーム
 ・ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)
 ・動画共有サービス
 ・電子決済サービス   等

 これは、EUのP2B規制において、「プラットフォーム事業」を、オンライン仲介サービスのうち、�@オンライン・プラット・フォームであり、�Aビジネス・ユーザーが消費者に商品又はサービスを提供し、ビジネス・ユーザーと消費者との間の取引を容易とするものであること、という2点を満たすものを対象としていることを参考にしたものです。
 「デジタル・プラットフォーム事業者」に該当するか否かは当該特徴を踏まえ判断していくため、上記の例示のサービスに限られず、ケースバイケースで判断されます。
 クラウドコンピューティング・サービスプロバイダー等企業向けソリューションのようなB2B取引は本考え方の対象ではありません。
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4.本考え方における「個人情報」「個人情報等」「個人データ」「消費者」
�@「個人情報」とは、個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)2条1項に規定する「個人情報」をいいます。
�A「個人情報等」とは、「個人情報」及び「個人情報以外の個人に関する情報」をいいます。例えば、ウェブサイトの閲覧情報、携帯端末の位置情報等は、一般には、それ単体では個人識別性を有しないため、個人情報保護法上の個人情報とは解されないとされています。ただし、このような情報であっても、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる場合は、個人情報となるとされています。

〇ウェブサイトの閲覧情報、携帯端末の位置情報等は、一般には、それ単体では個人識別性を有しないため、個人情報保護法上の個人情報とは解されないとされている。ただし、このような情報であっても、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる場合は、個人情報となるとされています。したがって、ウェブサイトの閲覧情報、携帯端末の位置情報など、一般に、それ単体では個人識別性を有しない情報のみの取扱いについても、本考え方の対象となります。
〇スマートフォン端末の機種情報(特定の個人が識別できない場合)が「個人情報以外の個人に関する情報」に該当する場合には、本考え方における「個人情報等」に該当します。
〇個人情報でない同一世帯の家族と紐付いた情報が「個人情報以外の個人に関する情報」に該当する場合には、本考え方における「個人情報等」に該当します。

�B「個人データ」とは、個人情報保護法2条6項に規定する「個人データ」をいいます。
�C「消費者」とは、個人をいい、事業として又は事業のためにデジタル・プラットフォーム事業者が提供するサービスを利用する個人を含みません。
デジタル・プラットフォームにおいて、個人情報等が不可避的に生み出される場合であっても、当該個人情報等を取得していることとなります。_
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Q3 本考え方の対象となる「優越的地位の濫用」規制について教えてください。

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1.独占禁止法上の「優越的地位の濫用」
独占禁止法2条9項5号(イ〜ハ)においては、優越的地位の濫用について以下のとおり規定されています。
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取引上の地位が相手方に優越している者が、取引の相手方に対して、正常な商慣習に照らして不当に、以下の行為をすること。
イ 継続して取引をする相手方に対して、取引の対象である商品又は役務以外の商品等を購入させること
ロ 継続的に取引をする相手方に対して、金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
ハ 取引の相手方からの受領拒否、返品、支払遅延、減額、取引の対価の一方的決定、やり直しの要請、その他取引の相手方に不利益となるように、取引条件の設定若しくは変更又は取引の実施

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優越的地位の濫用は、「�@優越的地位」+「�A正常な商慣習に照らして不当に」+「�B濫用行為」の3つの要素から判断されます。

出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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2.優越的地位の濫用規制についての基本的考え方
事業者がどのような取引条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものですが、事業者と消費者との取引においては、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差」(消費者契約1条)が存在しており、消費者は事業者との取引において取引条件が一方的に不利になりやすいものです。
自己の取引上の地位が取引の相手方である消費者に優越しているデジタル・プラットフォーム事業者が、取引の相手方である消費者に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、当該取引の相手方である消費者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害する一方で、デジタル・プラットフォーム事業者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものです。[6]
すなわち、消費者に対して、自己の取引上の地位が優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることにより削減した費用又は得た利益を、当該取引に係る事業又は他の事業に投入することにより、競争者との関係において、競争上有利になるおそれがあります。
 このような行為は、公正な競争を阻害するおそれがあることから、不公正な取引方法の一つである優越的地位の濫用として、独占禁止法により規制されます。
どのような場合に公正な競争を阻害するおそれがあると認められるのかについては、問題となる不利益の程度、行為の広がり等を考慮して個別の事案ごとに判断することになります。

出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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公正取引委員会は、デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用として問題となり得るもののうち、Q4の2�@から�Bまでの場合であって、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる事案について、優先的に審査を行います。
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3.「取引の相手方(取引する相手方)」の考え方
独占禁止法2条9項5号は、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」、「継続して取引する相手方」(同号イ及びロ)や「取引の相手方」(同号ハ)に対して、不利益を与える行為を優越的地位の濫用としており、「取引の相手方(取引する相手方)」には消費者も含まれます。
また、「個人情報等」(Q2参照)は、消費者の属性、行動等、当該消費者個人と関係する全ての情報を含み、デジタル・プラットフォーム事業者の事業活動に利用されており、経済的価値を有します。
消費者が、デジタル・プラットフォーム事業者が提供するサービスを利用する際に、その対価として自己の個人情報等を提供していると認められる場合は当然、消費者はデジタル・プラットフォーム事業者の「取引の相手方(取引する相手方)」に該当します。
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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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Q4 デジタル・プラットフォーム事業者は消費者に対して「優越的地位」にある場合はどのような場合ですか。

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1.デジタル・プラットフォーム事業者は消費者に対して「優越的地位」にある場合(「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」)
デジタル・プラットフォーム事業者が個人情報等を提供する消費者に対して優越した地位にあるとは、消費者がデジタル・プラットフォーム事業者から不利益な取扱いを受けても、消費者が当該デジタル・プラットフォーム事業者の提供するサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合です。
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 なお、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年11月30日公正取引委員会、以下「優越ガイドライン」という。)において、「市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく、取引の相手方との関係で相対的に優越した地位」があれば足りるとしていますが、「市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位」があれば、通常、取引の相手方に対して優越的地位にあるものと考えられます。
また、「市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位」になければ、優越的地位にあるとは認められないとするものでもありません。
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2.具体的な判断基準
消費者がデジタル・プラットフォーム事業者から不利益な取扱いを受けても、消費者が当該デジタル・プラットフォーム事業者の提供するサービス(以下「当該サービス」という。)を利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合であるかの判断に当たっては、消費者にとっての当該デジタル・プラットフォーム事業者と「取引することの必要性」を考慮することとされています。[7]
消費者にとって、以下の�@から�Bまでのいずれかに該当する場合には、通常、当該サービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者は、消費者に対して取引上の地位が優越していると認められます。

当該サービスと代替可能なサービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者が存在しない場合。

※当該サービスと代替可能であるかどうかについては、サービスの機能・内容、品質等を考慮して判断します。その判断に当たっては、個々の消費者ごとに判断するのではなく、一般的な消費者にとって代替可能であるかどうかで判断します。

代替可能なサービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者が存在していたとしても当該サービスの利用をやめることが事実上困難な場合。

※当該サービスの利用をやめることが事実上困難かどうかについては、サービスの機能・内容、当該サービスを利用する他の消費者と形成したネットワークや、当該サービスを利用することにより蓄積したデータを、他の同種のサービスで利用することが可能かどうかなどの特徴等を考慮して判断します。その判断に当たっては、個々の消費者ごとに判断するのではなく、一般的な消費者にとって利用をやめることが事実上困難かどうかで判断します。
※消費者が利用しているデジタル・プラットフォーム事業者が提供するサービスに代替可能なサービスが存在しており、迅速かつ簡単に切り替えることができる場合には、通常、当該デジタル・プラットフォーム事業者は優越的地位にないと考えられます。

当該サービスにおいて、当該サービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合

※「当該サービスにおいて、当該サービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合」とは、デジタル・プラットフォーム事業者が、提供するサービス分野において競争を実質的に制限できる地位にあり、各種の競争圧力を考慮することなく消費者に不利になるように各般の取引条件を変更できる場合です。
※�^サービス仕様を変更することや、�_「デジタル・プラットフォーム」の利用規約やプライバシーポリシーを変更することは、「価格、品質、数量、その他各般の取引条件を左右すること」に含まれます。
※約款契約等の標準化された契約条件を使用する契約自体が�Bの場合に当たるものではありません。
※「各般の取引条件」には、サービスの品質に係るものも含まれます。

出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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 消費者が不利益な取扱いを受け入れざるを得ないか否かの判断に当たって、消費者が、デジタル・プラットフォーム事業者の提供するサービスから得られる便益を得るために、当該サービスを利用する必要性があるかどうかを考慮しますが、当該便益を諦める(取引しない)という選択肢があるということは考慮しません。
 BtoC取引とBtoB取引とでは異なる特性があることから、本考え方では、消費者にとってデジタル・プラットフォーム事業者と取引することの必要性を考慮して、優越的地位を認定することとしており、上記�@〜�Bのいずれかの場合に該当すれば、通常、優越的地位が認められます。また、消費者は様々な消費活動を行っているため、あるサービスへの取引依存度の算定は困難です。なお、デジタル・プラットフォーム事業者の市場における地位については、「優越ガイドライン」で整理している「取引することで取引数量や取引額の増加が期待でき」るといった事情とは必ずしも同じではないものの、優越的地位の認定の判断に当たって考慮要素になり得ます。
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3.「利用して」行われた行為
優越的地位にあるデジタル・プラットフォーム事業者が、消費者に対して不当に不利益を課して取引を行えば、通常、「利用して」行われた行為であると認められます。
これらの判断に当たっては、デジタル・プラットフォーム事業者と消費者との間に、情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在することを考慮する必要があります。
優越的地位にあるデジタル・プラットフォーム事業者が、消費者に対して不当に不利益を課して取引を行う場合、消費者が当該行為を認識していない場合でも、消費者が当該行為を認識したとしても、自社との取引をやめられないために受け入れて当該サービスを利用せざるを得ないものとして当該行為を行ったときには、通常、優越的地位を利用して行ったものと考えられます。
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Q5 「正常な商慣習に照らして不当に」とはどのような場合ですか。

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「正常な商慣習に照らして不当に」という要件は、優越的地位の濫用の有無が、公正な競争秩序の維持・促進の観点から個別の事案ごとに判断されることを示すものです。
ここで、「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものをいいます。したがって、現に存在する商慣習に合致しているからといって、直ちにその行為が正当化されることにはなりません。
「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものであり、個別の事案ごとに判断されます。
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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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Q6 本考え方では、デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引において、デジタル・プラットフォーム事業者による個人情報等の取得又は利用におけるどのような行為が、独占禁止法2条9項5号の規定に照らして、優越的地位の濫用につながり得る行為とされていますか。

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本考え方では、デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引において、デジタル・プラットフォーム事業者による個人情報等の取得又は利用におけるどのような行為が、独占禁止法2条9項5号の規定に照らして、優越的地位の濫用につながり得る行為であるかについて、考え方を明らかにしています(本考え方5)。
なお、優越的地位の濫用として問題となるのは、本考え方に記載されている行為に限られるものではなく、また、他の法令に違反しない場合であっても優越的地位の濫用として問題となり得ます。
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1.優越的地位の濫用となる行為類型

個人情報等の不当な取得(⇒詳細はQ7参照)

ア 利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること。

【想定例�@】デジタル・プラットフォーム事業者A社が、個人情報を取得するに当たり、その利用目的を自社のウェブサイト等で知らせることなく、消費者の個人情報を取得した。

イ 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を取得すること。

【想定例�A】 デジタル・プラットフォーム事業者B社が、個人情報を取得するに当たり、その利用目的を「商品の販売」と特定して消費者に示していたところ、商品の販売に必要な範囲を超えて、消費者の性別・職業に関する情報を、消費者の同意を得ることなく取得した。

ウ 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること。

【想定例�B】デジタル・プラットフォーム事業者C社が、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、サービスを利用させ、消費者の個人情報を取得した。

エ 自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対して、消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等その他の経済上の利益を提供させること。

【想定例�C】 デジタル・プラットフォーム事業者D社が、提供するサービスを継続して利用する消費者から対価として取得する個人情報等とは別に、追加的に個人情報等を提供させた

個人情報等の不当な利用

ア 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を利用すること。

【想定例�D】 デジタル・プラットフォーム事業者E社が、利用目的を「商品の販売」と特定し、当該利用目的を消費者に示して取得した個人情報を、消費者の同意を得ることなく「ターゲティング広告」に利用した。
【想定例�E】 デジタル・プラットフォーム事業者F社が、サービスを利用する消費者から取得した個人情報を、消費者の同意を得ることなく第三者に提供した。

イ 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を利用すること。

【想定例�F】デジタル・プラットフォーム事業者G社が、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、サービスを利用させ、個人情報を利用した。

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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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2.本考え方の対象範囲
 本考え方の対象範囲は以下のとおりです。

〇デジタル・プラットフォーム事業者が消費者にサービスを提供し、その対価としてデジタル・プラットフォーム事業者が消費者の個人情報等を取得する場合、本考え方の対象となります。
〇デジタル・プラットフォーム事業者が取引関係にある消費者から取得した個人情報等を利用する場合(第三者への提供も含む)、本考え方の対象となります。
〇第三者がデジタル・プラットフォーム事業者から取得する消費者の個人情報等は、第三者が消費者との取引関係に基づいて取得するものではないため、第三者による当該個人情報等の取得又は利用は、本考え方の対象となりません。
 ただし、デジタル・プラットフォーム事業者が第三者をして、消費者から取得する「個人情報以外の個人に関する情報」と他の情報を照合して個人情報とさせ、消費者に不利益を与えることを目的に当該個人情報を利用させるために、消費者から「個人情報以外の個人に関する情報」を取得する場合等は、優越的地位の濫用として問題となります。
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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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Q7 優越的地位の濫用となる行為類型(「個人情報等の不当な取得」)はどのような行為を対象としていますか。

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1.消費者にとって不利益(「対価に相応でないサービス」)

デジタル・プラットフォーム事業者が、提供するサービスを利用する消費者に対して、下記2の各類型の行為を行うことは、対価に対し相応でない品質のサービスを提供すること等により、消費者に対して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなります。  
すなわち、下記2の各類型の行為を行う場合、当該サービスは、個人情報の取得に関して有すべき必要最低限の品質を備えていないものと認められるので、対価を得てそのようなサービスを提供することは、消費者に対して不利益を与えるものと認められます。
したがって、サービスを利用する消費者に対して優越した地位にあるデジタル・プラットフォーム事業者が、下記2の各類型の行為を行うことは、優越的地位の濫用として問題となります。
なお、サービスを利用する消費者に対して優越した地位にあるデジタル・プラットフォーム事業者による消費者が提供する個人情報等の取得に関する行為が、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる場合には、下記2の各類型の行為に限らず、優越的地位の濫用として問題となります。具体的には、デジタル・プラットフォーム事業者が第三者をして、消費者から取得する「個人情報以外の個人に関する情報」と他の情報を照合して個人情報とさせ、消費者に不利益を与えることを目的に当該個人情報を利用させるために、消費者から「個人情報以外の個人に関する情報」を取得する場合等は、優越的地位の濫用として問題となります。
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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』

2.「個人情報等の不当な取得」の行為類型
ア 利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること。(本考え方5(1)ア)

【想定例�@】デジタル・プラットフォーム事業者A社が、個人情報を取得するに当たり、その利用目的を自社のウェブサイト等で知らせることなく、消費者の個人情報を取得した。

出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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〇自社のウェブサイトの分かりやすい場所に利用目的を掲載した場合や、消費者に対して、電子メール等により利用目的を通知した場合は、通常、問題となりません。
〇利用目的の説明が曖昧である、難解な専門用語によるものである、利用目的の説明文の掲載場所が容易に認識できない、分散している、他のサービスの利用に関する説明と明確に区別されていないこと等により、一般的な消費者が利用目的を理解することが困難な状況において、消費者の個人情報を取得する場合には、利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得したと判断される場合があります。
一般的な消費者が容易にアクセスできる場所に分かりやすい方式で、明確かつ平易な言葉を用いて、簡潔に、一般的な消費者が容易に理解できるように利用目的に関する説明を行っている場合は、通常、問題となりません。
〇ウェブサイトの閲覧情報、携帯端末の位置情報等、一般には、それ単体では個人識別性を有しない情報であっても、当該情報を、個人を識別して利用する場合は、そのことを消費者に知らせずに取得すると問題となります。
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イ 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を取得すること。(本考え方5(1)イ)

【想定例�A】 デジタル・プラットフォーム事業者B社が、個人情報を取得するに当たり、その利用目的を「商品の販売」と特定して消費者に示していたところ、商品の販売に必要な範囲を超えて、消費者の性別・職業に関する情報を、消費者の同意を得ることなく取得した。

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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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〇「商品の販売」を利用目的とする場合に、消費者の氏名や、氏名と紐付いて取得されるメールアドレス、決済情報等といった利用目的の達成に必要な個人情報を取得することは、通常、問題となりません。また、氏名と紐付いて取得される消費者の性別や職業等といった利用目的の達成に必要な範囲を超える個人情報であっても、消費者本人の明示的な同意を得て取得する場合は、通常、問題となりません。
〇ただし、消費者が、サービスを利用せざるを得ないことから、利用目的の達成に必要な範囲を超える個人情報の取得にやむを得ず同意した場合には、当該同意は消費者の意に反するものと判断される場合があります。「やむを得ず同意した」ものであるかどうかの判断においては、同意したことにより消費者が受ける不利益の程度等を勘案することとし、その判断に当たっては、個々の消費者ごとに判断するのではなく、一般的な消費者にとって不利益を与えることとなるかどうかで判断されます。これは、個人情報保護法には違反しないが優越的地位の濫用に該当する具体例に該当します。
〇「商品の販売」に加えて追加的なサービスを提供しているときに、当該追加的なサービスの提供を受ける消費者本人の明示的な同意を得て、当該追加的なサービスの提供に必要な個人情報を取得する場合は、通常、問題となりません。

ウ 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること。(本考え方5(1)ウ)

【想定例�B】デジタル・プラットフォーム事業者C社が、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、サービスを利用させ、消費者の個人情報を取得した。

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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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エ 自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対して、消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等その他の経済上の利益を提供させること。(本考え方5(1)エ)

【想定例�C】 デジタル・プラットフォーム事業者D社が、提供するサービスを継続して利用する消費者から対価として取得する個人情報等とは別に、追加的に個人情報等を提供させた。

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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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〇当該追加的な個人情報等の取得が、上記ア、イ及びウにおいて問題とされているような行為を伴わずに行われた場合であっても、問題となります。
〇以下の各場合は通常問題となりません。
・任意のアンケート調査による場合等、消費者が対価として提供している個人情報等とは別に個人情報等を任意に提供する場合
・従来提供していたサービスとは別に、追加的なサービスを提供する場合であって、消費者が当該追加的なサービスの提供を受けるに当たり、その対価として追加的な個人情報等を提供させる場合
・サービスの品質の向上等、消費者が対価として提供している個人情報等とは別に個人情報等を提供することで消費者に生じる利益を勘案して、当該個人情報等を提供させることが合理的であると認められる範囲のものである場合
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Q8 優越的地位の濫用となる行為類型(「個人情報等の不当な利用」)はどのような行為を対象としていますか。

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1.消費者にとって不利益(「対価に相応でないサービス」)
デジタル・プラットフォーム事業者が、提供するサービスを利用する消費者から取得した個人情報について、下記2ア及びイのような行為を行うことは、対価に対し相応でない品質のサービスを提供すること等により、消費者に対して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなります。
すなわち、下記2ア及びイのような行為を伴う場合、当該サービスは、個人情報の利用に関して有すべき必要最低限の品質を備えていないものと認められるので、対価を得てそのようなサービスを提供することは、消費者に対して、不利益を与えるものと認められます。
したがって、サービスを利用する消費者に対して優越した地位にあるデジタル・プラットフォーム事業者が、下記2ア及びイのような行為を行うことは、優越的地位の濫用として問題となります。
なお、サービスを利用する消費者に対して優越した地位にあるデジタル・プラットフォーム事業者が消費者から取得する個人情報等の利用に関する行為が、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる場合には、下記2ア及びイのような行為に限らず、優越的地位の濫用として問題となります。例えば、デジタル・プラットフォーム事業者が第三者をして、消費者から取得した「個人情報以外の個人に関する情報」と他の情報を照合して個人情報とさせ、消費者に不利益を与えることを目的に当該個人情報を利用させるために、「個人情報以外の個人に関する情報」を当該第三者に提供した場合等は、優越的地位の濫用として問題となります。

出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』

2.「個人情報等の不当な利用」の行為類型
ア 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を利用すること。

【想定例�D】 デジタル・プラットフォーム事業者E社が、利用目的を「商品の販売」と特定し、当該利用目的を消費者に示して取得した個人情報を、消費者の同意を得ることなく「ターゲティング広告」に利用した。

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〇利用目的が「商品の販売」であるところ、新たに、ターゲティング広告に個人情報を利用することについて、例えば、電子メールによって個々の消費者に連絡し、自社のウェブサイトにおいて、消費者から取得した個人情報を当該目的に利用することに同意する旨の確認欄へのチェックを得た上で利用する場合には、通常、問題となりません。
〇ただし、消費者が、サービスを利用せざるを得ないことから、利用目的の達成に必要な範囲を超える個人情報の利用にやむを得ず同意した場合には、当該同意は消費者の意に反するものと判断される場合があります。やむを得ず同意したものであるかどうかの判断においては、同意したことにより消費者が受ける不利益の程度等を勘案することとし、その判断に当たっては、個々の消費者ごとに判断するのではなく、一般的な消費者にとって不利益を与えることとなるかどうかで判断することになります。これは、個人情報保護法には違反しないが優越的地位の濫用に該当する具体例に該当します。
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【想定例�E】 デジタル・プラットフォーム事業者F社が、サービスを利用する消費者から取得した個人情報を、消費者の同意を得ることなく第三者に提供した。

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〇個人情報を第三者に提供することについて、例えば、電子メールによって個々の消費者に連絡し、自社のウェブサイトにおいて、消費者から取得した個人情報を第三者に提供することに同意する旨の確認欄へのチェックを得た上で提供する場合には、通常、問題となりません。
〇ただし、消費者が、サービスを利用せざるを得ないことから、個人情報の第三者への提供にやむを得ず同意した場合には、当該同意は消費者の意に反するものと判断される場合があります。やむを得ず同意したものであるかどうかの判断においては、同意したことにより消費者が受ける不利益の程度等を勘案することとし、その判断に当たっては、個々の消費者ごとに判断するのではなく、一般的な消費者にとって不利益を与えることとなるかどうかで判断することになります。
〇なお、同一社内であれば、提供された個人情報を、消費者の同意なく、ある部門から別の部門に提供しても、問題となりません。
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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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イ 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を利用すること。

【想定例�F】デジタル・プラットフォーム事業者G社が、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、サービスを利用させ、個人情報を利用した。

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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』

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Q9 本考え方では、「個人情報以外の個人に関する情報」の取得や第三者への提供についてどのような考え方が示されていますか。

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1.「個人情報以外の個人に関する情報」の取得(本考え方(注8))
デジタル・プラットフォーム事業者が第三者をして、消費者から取得する「個人情報以外の個人に関する情報」と他の情報を照合して個人情報とさせ、消費者に不利益を与えることを目的に当該個人情報を利用させるために、消費者から「個人情報以外の個人に関する情報」を取得する場合等は、優越的地位の濫用として問題となります。
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2.「個人情報以外の個人に関する情報」の第三者への提供(本考え方(注17))
デジタル・プラットフォーム事業者が第三者をして、消費者から取得した「個人情報以外の個人に関する情報」と他の情報を照合して個人情報とさせ、消費者に不利益を与えることを目的に当該個人情報を利用させるために、「個人情報以外の個人に関する情報」を当該第三者に提供した場合等は、優越的地位の濫用として問題となります。
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出所:公正取引委員会『「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント』
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3.個人情報保護法との関係(本人の同意なきデータの第三者提供)
 令和元年(2019年)12月13日、個人情報保護委員会は、「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」(以下「制度改正大綱」という。)を公表し、パブリックコメントとして意見募集を開始しました(意見締切:2020年1月14日) [8]。
 制度改正大綱では、「本人の同意なきデータの第三者提供」として、提供元の個人情報取扱事業者においては、個人情報(個人データ)に該当しない(したがって、個人情報保護法23条1項に基づく第三者提供の同意は取得していない)ものの、提供先の個人情報取扱事業者においては個人情報(個人データ)となる場合においても、個人データの第三者提供の制限の規律に服する(すなわち、第三者提供の同意を要する)旨の制度改正の方向性が示されています。
 これは、上記1及び2の「個人情報以外の個人に関する情報」の取得・第三者への提供の考え方と平仄の取れたものです。
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個人情報保護委員会の問題意識

 提供元と提供先でデータ共有が行われる等の結果、提供先では、個人情報となることを知りながら、提供元では個人が特定できないとして、本人同意なくデータが第三者提供される事例が存在しています。

出所:個人情報保護委員会「個人情報保護をめぐる国内外の動向」(令和元年11月25日)
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制度改正大綱にも掲げられているとおり、これは、DMP(Data Management Platform)を利用したターゲット広告などで問題となります。
DMPとは、インターネット上の様々なサーバーに蓄積されるデータや自社サイトのログデータなどを一元管理、分析し、最終的に広告配信などを実現するためのプラットフォームのことです。
 DMPは「プライベートDMP」と「パブリックDMP」の2種類がある。企業が自社で蓄積したデータを活用するために用いる「プライベートDMP」と、DMPを運営する事業者が様々な事業者からユーザーデータを収集し、それにIDを付した上で統合・分析し、さらには、外部に提供する「パブリックDMP」があります。
 「プライベートDMP」は、自社データであり、アクセス解析データ、購買データ、キャンペーン結果、アクセスログ、広告配信データ等が含まれます。自社データであるので、特定の個人を識別できる「個人データ(個人情報)」に該当します。
「パブリックDMP」は、外部データであり、属性データ(性別、年代等)、嗜好性データ、外部サイト行動データ等が含まれる。個人を特定できるデータは含まれておらず、Cookie(クッキー)などで集約されます。
「プライベートDMP」(自社データ)と「パブリックDMP」(外部データ)を紐づけて、セグメント分析や顧客プロファイリングを行い、広告配信や自社の施策のターゲティングに利用されます。_
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(2)リクナビ問題
 今回の改正の方向性の背景には、就職情報サイト「リクナビ」を運営する株式会社リクルートキャリア(以下「リクルートキャリア社」という。)が、いわゆる内定辞退率を提供するサービスに関する問題があります。
「個人情報の保護に関する法律第42 条第1項の規定に基づく勧告等について」(個人情報保護委員会:令和元年12月4日)[9]によれば、以下のとおり、「提供元では個人データに該当しないものの、提供先において個人データになることが明らかな情報」の提供が本人の同意なしに行われていました。
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_ 2018年度卒業生向けの「リクナビ2019」におけるサービスでは、個人情報である氏名の代わりにCookieで突合し、特定の個人を識別しないとする方式で内定辞退率を算出し、第三者提供に係る同意を得ずにこれを利用企業に提供していた。 リクルートキャリア社は、内定辞退率の提供を受けた企業側において特定の個人を識別できることを知りながら、提供する側では特定の個人を識別できないとして、個人データの第三者提供の同意取得を回避しており、法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービスを行っていた。

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 リクナビ問題についての詳細については、「個人情報保護法ニュースNo.1:リクナビ事件と個人情報保護法の改正」を参照ください。
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[1]https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=110300034&Mode=2

[2]https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2018_zentai.pdf

[3]https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181218003/20181218003.html

[4]https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/fu2019.pdf

[5]https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=110300034&Mode=0&fromPCMMSTDETAIL=true

[6]デジタル・プラットフォーム事業者間の公正競争阻害性は観念できるが、消費者間の公正競争阻害性は観念できないのではないのではないかとのパブリックコメント意見に対応して追加された記載(「(注4)」)。

[7]事業者間取引では、取引当事者間の自由な交渉の結果、いずれか一方にとって取引条件が不利になることは当然あります。また、交渉の余地がある場合もあるため、「優越ガイドライン」では「著しく不利益な…」としています。
一方、デジタル・プラットフォーム事業者と消費者との間には情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在しており、交渉の余地がない場合が多く、不利益な取扱いを回避するためには、取引しないという選択をするほかないこと、また、取引の相手方が事業者の場合は、行為者から受けた不利益を行為者以外の者との取引によって解消する余地がある一方、取引の相手方が消費者の場合は、そういった余地がないことから、単に「不利益な…」としています。

[8]https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=240000058&Mode=0

[9]https://www.ppc.go.jp/files/pdf/190826_houdou.pdf

Q&A決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ 報告書(決済制度見直し編)

2019/12/27

以下にPDF形式のファイルも掲載しております。

Q&A決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ 報告書(決済制度見直し編)

(下記もご覧ください)
Q&A決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ 報告書 (金融サービス仲介法制編)

(全体取りまとめ版)
「Q&A「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」

(金融審議会情報)
金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」報告の公表について
金融審議会「決済制度及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(資料・議事録)

 金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(座長 神作裕之 東京大学大学院法学政治学研究科教授、以下「ワーキング・グループ」といいます。」)においては、令和元年(2019年)10月より、計7回にわたり、決済法制及び金融サービス仲介法制の在り方について、検討及び審議を行い、同年12月20日に「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」報告(以下「本報告書」といいます。)を公表いたしました[1][2]。同報告書は、「決済制度の見直し」と「新金融サービス仲介法制の創設」について示しています。本報告書を基に、2020年通常国会に資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)の改正法案と新金融サービス仲介法制の法案が提出される見込みです。
本ニュースレターでは、本報告書で示された改正の内容のうち、決済制度の見直しに関して、Q&A形式で分かりやすく解説いたします。
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執筆者:渡邉雅之
* 本ニュースレターに関するご相談などがありましたら、下記にご連絡ください。
弁護士法人三宅法律事務所
弁護士渡邉雅之
TEL 03-5288-1021
FAX 03-5288-1025
Email m-watanabe@miyake.gr.jp

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Q1 本報告書ではどのような改正や制度の創設が提示されていますか。

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本報告書は、情報通信技術の発展を背景に、イノベーションの促進を通じ、利用者利便の向上と利用者保護のバランスに留意した以下の制度の整備を提言しています。
第1 決済法制
キャッシュレス時代の利用者ニーズに応え、利便性が高く安心・安全な決済サービスを実現するため、柔軟かつ過不足のない規制を整備。
1 資金移動業
〇資金移動業者について、現行の100万円以下の送金を取り扱う事業者に加えて、「高額」(100万円超)送金を取り扱う事業者、「少額」(数万円程度)送金を取り扱う事業者の類型が創設され、3類型となる(3類型の併営可能)。
〇「高額」(100万円超)送金を取り扱う事業者
〇認可制(現行資金移動業者は登録制)
〇具体的な送金指図を伴わない資金の受入れを禁止
〇現行制度(100万円以下の送金)を前提に事業を行う事業者
〇利用者資金残高が送金上限額(100万円)を超える場合、事業者が送金との関連性を確認し、無関係な場合は払出し。
〇「少額」(数万円程度)送金を取り扱う事業者
〇利用者資金について、供託等の現行の保全方法に代えて、自己の財産と分別した預金での管理を認める。
〇供託、保全契約、信託契約の併用を認めるなど、利用者資金の保全方法を合理化。
2 前払式支払手段
〇チャージ残高の譲渡が可能なものについて、不適切な取引を防止するために発行者に求められる対応を明確化。
* 利用者資金の保全額(半額)の引き上げについては、共通の認識が得られず(直ちに実施せず)。
3 無権限取引への対応
〇事業者の自主的な対応を促す観点から、利用者に対する情報提供事項に個社の対応方針を追加。
4 収納代行
〇割り勘アプリについて、資金移動業の規制対象であることを明確化。
* エスクローについては、共通の認識が得られず(直ちに制度整備せず)。

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第2 金融サービス仲介法制
多様な金融サービスの提供をワンストップで受けられる利便性の高い金融仲介サービスを実現する観点から、このようなサービスを提供しようとする仲介業者に適した業種を創設。
1 新たな仲介業の創設
〇業種毎の登録等を受けずとも、1つの登録で銀行・証券・保険全ての分野での仲介を可能に。
※一定の要件を満たせば、電子決済代行業の登録手続を省略可能。
〇特定の金融機関への所属を求めず、業務上のパートナーとして金融機関と連携・協働する関係に。
※これにより、金融機関は、�@仲介業者に指導等を行う義務や、�A仲介業者が顧客に加えた損害を原則として賠償する責任、を負わない。
2 業務範囲
〇銀行・証券・保険分野の金融サービスのうち、仲介にあたって高度な説明を要しないと考えられるものの媒介。
3 参入規制
〇賠償資力の確保に資するよう、事業規模に応じた額の保証金の供託等の義務付け。
4 行為規制
〇仲介する金融サービスの特性に応じて必要な規制を過不足なく適用するアクティビティ・ベースの規制体系を志向。
・ 顧客資産の受入れの禁止
・ 顧客情報の適正な取扱いの確保
・ 仲介業者の中立性の確保(手数料の開示等)
・ 顧客に対する説明義務
5 その他
〇新たな仲介業者に係る協会や紛争解決手続の規定の整備。

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Q2 本報告書によれば、資金移動業については、送金額に応じた規制が導入されることになるとのことですが、具体的にはどのようになりますか。

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〇資金移動業の類型ごとの規制

類型

送金上限額

参入規制・体制整備

滞留規制

利用者資金の保全

第1類型:
「高額」送金を取り扱う事業者

上限額なし

認可制
※システムリスク管理、セキュリティ対策、マネロン・テロ資金供与対策は現行制度よりも充実した体制必要

�@具体的な送金指図を伴わない利用者資金は受入不可�A利用者資金は運用・技術上必要な期間を超えて滞留不可

供託、保全契約、信託のいずれの併用も認める。
信託契約については、�@保全すべき額を毎日算定し、�A不足がある場合、その翌日から起算して2営業日以内に信託する

第2類型:
現行制度を前提に事業を行う事業者

100万円相当額

登録制
※現行と変更なし

利用者の滞留資金が100万円を超えている場合、
�@為替取引に関するものであるか確認
�A為替取引に用いられる蓋然性が低いと判断される場合、利用者に払出しを要請。

供託、保全契約、信託契約のいずれの併用も認める(現行は供託と保全契約の併用のみ認める。)。
信託契約については、要履行保証額の算定が「営業日ごと」から「1週間以内」に変更。保全すべき期間はできる限り短縮。

第3類型:
「少額」送金を取り扱う事業者

数万円程度(5万円以下という意見あり)

登録制
※マネロン・テロ資金供与規制も第2類型と同水準

設けない方向

供託、保全契約、信託契約に代えて、自己の財産と分別した預金で管理することを認める。

※複数類型の併営可能。併営に伴う弊害防止の観点から、複数類型を併営する場合、利用者がどの類型を利用しているかを明確に認識できるようにするとともに、類型ごとに保全が必要な額を区分管理する。第1類型と第2類型を併営する場合、第2類型において、為替取引との関連性が認められない利用者資金を保有しないための措置を適切に講ずる。
※「少額」を超える送金を第3類型のアカウントでは受け取れない措置が必要。
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1 現行資金移動業制度の送金限度額(100万円相当額以下)
 従前、為替取引は銀行等のみに認められてきましたが、資金決済法の施行(2010年(平成22年)4月1日)により、資金移動業者にも解禁されることとなりました。このような経緯や、資金移動業者の業務遂行の実態を見極める必要があること、資産保全等の仕組みが必ずしも有効に機能しない場合の懸念もあり得ること等から、資金移動業の登録をした資金移動業者が営むことができる「為替取引」は、「少額の取引として政令で定めるものに限る」とされています(同法2条2項)。
 資金決済法施行令2条においては、「法第2条第2項に規定する政令で定める取引は、百万円に相当する額以下の資金の移動に係る取引とする」と規定されており、資金移動業の対象となる為替取引は100万円相当額以下のものに限定されます。
「少額の取引として政令で定めるもの」については、現在銀行等で行われる為替取引の一件当たりの平均金額や現金書留の損害要償額などを踏まえ、50万から100万円程度になると国会審議の中でされていました(平成21年4月14日の衆議院財務金融委員会における石原宏高委員の質問に対する与謝野馨国務大臣の答弁)。
�@銀行等の為替取引の一件当たりの平均金額が、業態別でまちまちな点であるものの、80万円から250万円というような幅になっていること、�A現金書留の損害要償額が50万円といること、などを踏まえて50万から100万円の幅が妥当であると考えられました(平成21年6月4日の参議院財務金融委員会における尾立源幸委員の質問に対する内藤純一政府参考人の答弁)。業界からの要望で最終的に上方の数値である「100万円相当額」とされたものと考えられます。
2 送金額に応じた規制の導入
現行規制上、資金移動業者が取り扱うことができる送金には、上限額(1件当たり100 万円)が設けられていますが、海外送金を含め、個人による高額商品・サービスの購入や企業間決済の際に利用するなど、現行の送金上限額を超える利用者のニーズが一定程度存在するとの指摘があります。こうしたニーズに対応していくため、1件当たり100 万円を超える「高額」送金を取り扱うことができる資金移動業の新類型を設けることが考えられます(第1類型:「高額」送金を取り扱う事業者のニーズ)。
他方で、実態として、既存の資金移動業者が取り扱っている送金額は1件当たり数万円以下のものが多く、利用者資金の残高も1人当たり数万円程度のものが多くなっています。現行の送金上限額を大幅に下回るような「少額」送金に伴うリスクは相対的に小さいと考えられます。これに加えて、利用者1人当たりの受入額も「少額」とすれば、資金移動業者が破綻した場合でも、個々の利用者が被る影響を限定的なものとすることができると考えられる。これらを前提とすれば、「少額」送金を取り扱う資金移動業者については、規制緩和の余地があると考えられます(第3類型:「少額」送金を取り扱う事業者のニーズ)。
こうした考え方に基づき、資金移動業者に対する規制が、機能やリスクに応じた柔軟なものとなるよう、�@「高額」送金を取り扱う事業者、�A現行規制を前提に事業を行う事業者、�B「少額」送金を取り扱う事業者の3類型に分けた上で、それぞれの類型に過不足のない規制を適用していくことが適当と考えられます。
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3 「高額」送金を取り扱う事業者(第1類型)
「高額」送金については、その履行が確保されない場合に資金の受け手が資金繰りに窮するなどの社会的・経済的な影響が大きく、また、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の重要性も相対的に高まることとなります。「高額」送金を取り扱うことができる資金移動業の新類型を設けるにあたっては、こうした点を踏まえた制度整備が必要と考えられます。
(1)参入規制・体制整備
「高額」送金を取り扱う場合の参入規制は、資金移動業を行うために最低限必要な要件を満たしていることを確認するため、既存の資金移動業者と同様に登録制の対象とした上で、「高額」送金を取り扱うことに伴うリスクを踏まえた対応として、認可制の対象とすることが考えられます。
こうした枠組みの下で、「高額」送金に係る事業の具体的な内容や収支計画、当該事業を適正かつ確実に遂行するための体制整備の状況等を追加的に確認することが考えられます。
特に、�@システムリスク管理、�Aセキュリティ対策、�Bマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策等に関しては、「高額」送金を取り扱うことに伴うリスクを踏まえ、現行規制における資金移動業者と比較して充実した体制整備を求めることが必要と考えられます。
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(2)滞留規制
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〇利用者資金の滞留規制の必要性
資金移動業者に、為替取引との関連性に疑義がある利用者資金が滞留することについては、�@資金移動業者が利用者資金を受け入れた状態で破綻した場合、利用者が還付を受けるまでに相応の時間を要するなど、利用者保護の観点からの課題がある、�A資金移動業者が本来的には必要がない保全コストを負担することとなり、効率的な業務運営の妨げとなり得る、�B出資法の預り金規制に抵触する疑義が生じる、といった問題があります。(金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第6回)「決済法制に関する補足討議資料」
(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/kessaichukai_wg/siryou/20191210/hosoku.pdf))

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 「高額」送金を取り扱う事業者が破綻した場合に利用者に与える影響や社会的・経済的な影響を極小化するため、こうした事業者が受け入れる利用者資金については、厳格な滞留規制を課すことが必要と考えられます。
具体的には、英国の規制を参考に、�@具体的な送金指図を伴わない利用者資金は受入不可とし、�A利用者資金は運用・技術上必要な期間を超えて滞留不可とすることが考えられます。 
「具体的な送金指図」の要件としては、入金時点で、少なくとも、�@送金日時、�A送金先、�B送金額が全て明確に指定されていることが考えられます。
また、「運用・技術上必要」な場合としては、�@送金先口座に誤りがあった場合、�A送金先の金融機関が休業日であった場合等、事業者の努力だけでは滞留を回避することができない、真にやむを得ない場合が考えられます。
なお、こうした滞留規制の趣旨を踏まえれば、他者に送金を行う場合(仕向送金の場合)のみならず、他者から送金を受ける場合(被仕向送金の場合)であっても、利用者の第1類型のアカウントに資金が滞留することは認められないと考えられます。
(3)利用者資金の保全
本報告書では、「高額」送金を取り扱う事業者が破綻した場合の社会的・経済的な影響の大きさを懸念するあまりに厳格な制度整備を行った場合、我が国において利便性の高い新たなサービスが生まれにくくなるおそれがあることにも留意すべきとの考え方に基づき、上記(2)の滞留規制が適用されることを前提としつつ、「高額」送金を取り扱う事業者を含め、資金移動業者による送金サービスは、銀行による送金サービスとは破綻時の履行の確実性等が異なるものであることが利用者に正確に理解され、利用者資金が全額保全される前提で利用されるのであれば、必ずしも銀行と同等の枠組みを整備する必要はない[3]との考え方が示されました。そこで、現行の供託、銀行との保全契約、信託契約の3つの利用者資金の保全方法が維持されることになります。
ただし、後者の指摘の考え方を前提としたとしても、「高額」送金を取り扱う事業者が破綻した場合の社会的・経済的な影響の大きさを踏まえれば、利用者資金の全額保全をより確実なものとする観点から、利用者資金の受入れから保全が図られるまでのタイムラグをできる限り短期化することが必要と考えられます。
そこで、信託契約の利用を前提とした場合、現行の金融規制において、いわゆる外国為替証拠金取引業者(FX 業者)に対して、�@保全すべき額を毎日算定し、�A不足がある場合、その翌日から起算して2営業日以内に信託することを求めていることを参考にし、また、実務上の実現可能性も考慮し、「高額」送金を取り扱う事業者に対しても、これと同水準の対応を求めることが最低限必要と考えられます。
Q3のとおり、「現行制度を前提に事業を行う事業者」については、信託契約における要履行保証額の算定を「営業日ごと」から「週1回以上」に緩和されることになりますが、「「高額」送金を取り扱う事業者」については、「営業日」ごとの算定が必要な点は変更なく、信託するのが「翌営業日まで」から「2営業日以内」に緩和される以外は変更がないことになります。
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〇信託契約による保全

現行規制

�@各営業日の要履行保証額以上の額を、�A翌営業日までに保全することが求められる。

                            ↓

現行制度を前提に事業を行う事業者

要履行保証額の算定の頻度について、供託及び保全契約と同様に、「営業日」ごとから、「週1回以上」に統一される。
保全すべき額の算定日から実際に保全が図られるまでの期間は、機動的に短期化しうる枠組みとする(現行1週間以内)。

「高額」送金を取り扱う事業者

�@保全すべき額を毎日算定し、�A不足がある場合、その翌日から起算して2営業日以内に信託する。

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 このように、「高額」送金を取り扱う事業者について、「信託契約による保全」については、現行の取扱いと変更がほぼないこと、また、信託報酬もかかることから、現行規制の実務のように、多くの「高額」送金を取り扱う事業者は供託や銀行との保全契約により、信託契約による事業者はほとんど現れないのではないかと思われます。
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(4)送金上限額
 1件当たりの送金額については、�@主要な諸外国において、上限額を設けている例が見受けられないこと、�A利用者資金の全額保全を維持する限り、事業者の資金力等に照らし、おのずと送金可能額にも一定の制約が課されることになるとも考えられることを踏まえ、前述の参入規制・滞留規制や利用者資金の保全に要する期間の短期化を前提に、法令上の上限額は設けないこととされています。
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4 現行制度を前提に事業を行う事業者(第2類型)
(1)参入規制・体制整備
 参入規制に関しては、現行の登録制からの変更や体制整備の強化などは検討されていません。
(2)滞留規制
 本報告書は、現行規制を前提に今後も事業を行おうとする資金移動業者に対する規制については、当該資金移動業者やその利用者の活動に支障が生じることのないよう、現行の枠組みを基本的に変えないことが適当と考えられるとされています。
ただし、一部の資金移動業者において、資金決済法制定時の想定の範囲を超えて、利用者資金が滞留していることが指摘されており、為替取引との関連性が認められないような利用者資金の滞留を防止するための方策を講ずることが必要と考えられます。
具体的には、利用者1人当たりの受入額が1件当たりの送金上限額を超えている場合、資金移動業者に対し、�@利用者資金が為替取引に関するものであるかを資金移動業者内で確認し、�A仮に為替取引に用いられる蓋然性が低いと判断される場合、利用者に払出しを要請し、利用者がこれに応じない場合、払出しを行うといった措置を講ずることを求めることが考えられます。
また、この場合において、利用者資金と為替取引との関連性を判断するにあたっては、利用者ごとに、�@受入額、�A受入期間、�B送金実績、�C利用目的を総合考慮することが考えられます。
資金移動業者が為替取引と無関係に利用者資金を受け入れた場合、その金額の多寡にかかわらず、出資法の預り金規制に抵触するおそれがあることは、資金決済法制定時にも示されている考え方であり[4]、各資金移動業者がこのことを再認識した上で、こうした資金を保有することがないよう、適正に業務を遂行していくことが重要と考えられます。その上で、今後とも、当局によるモニタリングを通じて、資金移動業者における利用者資金の滞留の実態を注視しつつ、必要に応じて追加的な規制の在り方を検討していくことが考えられます。
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(3)利用者資金の保全
 Q3参照。
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(4)送金上限額
 現行規制どおり、「100万円相当額以下」から変更される予定はありません。
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5 「少額」送金を取り扱う事業者(第3類型)
(1)参入規制・体制整備
 1件当たりの送金額や利用者1人当たりの受入額が「少額」であっても、資金移動業の適正かつ確実な遂行が求められることに変わりはない。
このため、参入規制(登録制)や、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る規制等のその他の規制は、現行の資金移動業者と同水準のものとすることが考えられる。
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(2)滞留規制
 本報告書には、「少額」送金を取り扱う事業者に関する利用者資金の滞留について規制を設けるか否かについては、特に記載はありません。
 ワーキング・グループでは、「少額」送金を取り扱う事業者については、利用者の利便性の観点から柔軟な取扱いを求めるべきであり、滞留規制を設けるべきではないのではないか、という意見も多くあったため、「少額」送金を取り扱う事業者については、滞留規制は設けられないのではない可能性があります。
(3)利用者資金の保全
本報告書では、1件当たりの送金額のみならず、利用者1人当たりの受入額の上限も「少額」とする場合、その実効性確保の観点から、上限を超えるような他者からの送金を第3類型のアカウントでは受け取れないようにする措置が必要と考えられます。その上で、具体的な規制緩和の方策として、利用者資金の保全に関し、現行の保全方法に代えて、利用者資金を自己の財産と分別した預金で管理することを認めることが考えられるとされています。
現行の保全方法のうち、供託又は信託契約を利用する場合、資金移動業者は、供託又は信託した資金を直ちに取り戻すことができないため、実務上、実際に送金を行う際に別途資金を調達する必要があります。
また、保全契約を利用する場合、契約の相手方である銀行等が資金移動業者に提供できる保証枠には、与信管理上の限度があるほか、資金移動業者は保証料を負担する必要があります。
こうした中、預金による管理が可能となれば、資金移動業者の資金繰り負担が軽減されることから、低コストで利用者利便の高いサービスの提供が促進されることが期待されます。
ただし、その場合、必ずしも倒産隔離が効かないことから、資金移動業者の破綻時に利用者が十分な資金の還付を受けられないおそれがある[5]。
このため、預金による管理を行う資金移動業者に対しては、利用者にこうしたリスクについての十分な情報提供を行うことを義務付けることが考えられます。
また、資金移動業者に対するモニタリングを強化する観点から、預金による管理の状況及び財務書類についての外部監査や、預金による管理の状況についての当局への定期的な報告を義務付けることも考えられます。
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(4)送金上限額
 「少額」の具体的な水準については、ワーキング・グループでは、数万円程度とすることを念頭に検討を行われましたが、公共料金や宿泊料金等の支払いに利用されることも想定し、利用者利便を損なわないためにも、5万円以下としてはどうかとの意見がありました。
 そこで、「5万円」以下とされる可能性が高いのではないかと思われます。
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6 複数類型の併営
本報告書では、利用者利便を確保するためにも、同一の資金移動業者による複数類型の資金移動業の併営を認めることが考えられるとされています。
ただし、併営に伴う弊害を防止する観点から、複数類型を併営する資金移動業者は、少なくとも、利用者がどの類型を利用しているかを明確に認識できるようにするとともに、類型ごとに保全が必要な額を区分管理することが必要と考えられます。具体的には、「少額」の上限を超えるような他者からの送金を第3類型のアカウント、「100万円」の上限を超える他社からの送金を第2類型のアカウントでは受け取れないようにする措置が必要となります。
また、第1類型と第2類型を併営する場合、第2類型で受け入れている利用者資金を第1類型で送金することで、第1類型の滞留規制が潜脱されることを防止する必要があり、その観点からも、第2類型において、為替取引との関連性が認められない利用者資金を保有しないための措置を適切に講ずることが重要と考えられます。

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Q3 本報告書では、資金移動業者における利用者資金の保全に関してどのような考え方が示されていますか。

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1 現行規制
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履行保証金の供託
(法43条)

履行保証金保全契約
(法44条)

履行保証金信託契約
(法45条)

期限

�@1週間における要履行保証額の最高額以上の額を
�Aその週の末日から1週間以内に保全
※保全契約は、保証枠の範囲内であれば供託による対応不要。

�@各営業日の要履行保証額以上の額を、
�A翌営業日までに保全

事務的負荷

1週間ごとの「要履行保証額」の算定は必要。
1週間における要履行保証額以上の金額の最高額以上を供託しておけば追加の供託は必要ない。

1週間ごとの「要履行保証額」の算定は必要。
保証枠以内の要履行保証額であれば事務的負担はかからない。

各営業日の要履行保証額の算定が必要。
各営業日において信託されている信託財産の額が、その直前の営業日における「要履行保証額」以上の額である場合には、履行保証金の供託を行わないことができる。
⇒システム的に負荷がかかる。安全のため、要履行保証金以上の信託をしておく必要がある。

コスト

なし
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銀行に対して保証料を支払う。

信託銀行(信託会社)に信託報酬を支払う。

当局の承認・届出

必要なし

事前届出必要

事前承認必要

他の保全方法との併用

保全契約の併用可能

供託の併用可能

供託・保全契約の併用不可

保全状況の報告

年2回

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 資金移動業者は、送金にあたり利用者から受け入れた資金を適切に保全することが求められています。現行規制上、利用者資金の保全方法として、原則である供託のほか、保全契約又は信託契約による方法が認められています(資金決済法44条)が、供託又は保全契約による保全と、信託契約による保全を併用することは認められていません。
供託又は保全契約による保全を行う場合、資金移動業者は、�@1週間における要履行保証額[6]の最高額以上の額を、�Aその週の末日から1週間以内に保全することが求められています(資金決済法45条1項)。
他方で、信託契約による保全を行う場合、資金移動業者は、�@各営業日の要履行保証額以上の額を、�A翌営業日までに保全することが求められ、さらに、�B翌営業日までに必要な額の信託がなされない場合、その日のうちに保全すべき額の全額を供託することが求められています。また、資金移動業者と信託契約を締結する信託会社等の受託者は、資金移動業者に対するモニタリング義務を負うものとされています。こうした現状の下、実態として、信託契約を利用している資金移動業者は1業者にとどまっています。
このほか、資金移動業者による利用者資金の保全に関しては、供託金の取戻し、保全契約における保証枠の減額、信託契約による保全の開始に際して、事前承認が必要とされているなど、他の金融規制と比較しても、当局の関与が多い枠組みとなっています。
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2 改正の方向性
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〇改正後の利用者資金の保全の方向性

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履行保証金の供託

履行保証金保全契約

履行保証金信託契約

期限

週1回以上、当該期間における「要履行保証額」の最高額以上の額に相当する額の履行保証金を、当該期間の末日(基準日)から1週間以内に供託(実務状況に応じて機動的に短縮化しうる枠組み)。

保証枠の範囲内であれば供託による対応不要。

(現行制度を前提に事業を行う事業者:第2類型)
週1回以上、当該期間における「要履行保証額」の最高額以上の額に相当する額の履行保証金を、当該期間の末日(基準日)から1週間以内に信託(実務状況に応じて機動的に短縮化しうる枠組み)。
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(「高額」送金を取り扱う事業者:第1類型)
�@保全すべき額を毎日算定し、�A不足がある場合、その翌日から起算して2営業日以内に信託する

当局の承認・届出

必要なし

事前届出必要

事前関与を必要最小限度に(事前届出か?)

保全状況の報告

利用者資金の保全状況に関する当局への報告頻度を引き上げ(年2回から年4回か?)

他の保全方法との併用

保全契約・信託の併用可能

供託・信託の併用可能

供託・保全契約の併用可

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(1)保全方法の合理化(3つの保全方法の併用可能に・当局の事前関与の最小限化)
本報告書は、上記1で説明した現行の利用者資金の保全方法については、利用者保護と事業者の規制対応コストのバランスを考慮しつつ、より合理的なものとしていくことが適当と考えられるとしています。
具体的には、まず、資金移動業者のビジネスモデルに応じた最適な保全方法を選択可能とする観点から、供託、保全契約、信託契約のいずれについても併用を認めることが考えられます。これにより、例えば、資金移動業者が保全すべき額のうち、通常必要となる固定的な部分については、供託又は保全契約を利用しつつ、日々変動がある部分については、比較的入出金が容易な信託契約を利用するといった対応も可能になると考えられます。
また、信託契約の受託者の義務や保全に関する当局の事前関与について、必要最小限度のものに見直すことが考えられます。他方で、事後チェック機能を強化する観点から、資金移動業者の事務負担を考慮しつつ、利用者資金の保全状況に関する当局への報告頻度を引き上げることが考えられます[7]。
(2)保全が図られるまでのタイムラグの短期化
3つの保全方法の併用を認める前提として、保全すべき額(要履行保証額)の算定頻度を統一することが必要と考えられます。
具体的には、現行規制上、供託及び保全契約を利用する場合は「1週間ごと」、信託契約を利用する場合は「営業日ごと」と、それぞれ特定の算定頻度が定められています。これらの算定頻度について、既存の資金移動業者に与える影響も踏まえつつ、「週1回以上」に統一することが考えられます。このように算定頻度を画一的な期間としないことで、利用者保護の観点から、よりタイムリーな保全を図る資金移動業者の自主的な努力を阻害しない枠組みとすることができると考えられます。
また、保全すべき額の算定日から実際に保全が図られるまでの期間についても、現状、「1週間以内」と法定されていますが、利用者保護の観点からは、できる限り短期化することが適当と考えられます。実現にあたっては、既存の資金移動業者に与える影響を考慮する必要がありますが、制度上の対応として、少なくとも、実務の状況に応じて、この期間を機動的に短期化しうる枠組みとしておくことが考えられます。
ただし、Q2の3(3)で説明したとおり、現行の送金上限額を超える「高額」送金を取り扱う事業者については、破綻時の社会的・経済的な影響の大きさを踏まえ、利用者資金の全額保全をより確実なものとする観点から、利用者資金の受入れから保全が図られるまでのタイムラグをできる限り短期化することが必要と考えられます。
そこで、信託契約の利用を前提とした場合、現行の金融規制において、いわゆる外国為替証拠金取引業者(FX 業者)に対して、�@保全すべき額を毎日算定し、�A不足がある場合、その翌日から起算して2営業日以内に信託することを求めていることを参考にし、また、実務上の実現可能性も考慮し、「高額」送金を取り扱う事業者に対しても、これと同水準の対応を求めることが最低限必要と考えられます。
_
3 保全契約を利用する場合の利用者資金の取扱い
資金移動業者が、利用者資金の保全方法として保全契約を利用する場合、受け入れた利用者資金は資金移動業者の預金口座等に残ることとなります。現行規制上、こうした利用者資金の使途の制限について明確な規定はなく、仮に保全契約を利用している資金移動業者が、貸金業の登録を受けて、利用者資金を貸付けに活用した場合、銀行業の免許を受けることなく、実質的に信用創造を行うことが可能となり、問題であるとの指摘がある。また、資金移動業者が、為替取引を行うために受け入れた利用者資金を流動性が低い資産である貸付金に転換すると、流動性リスクを抱えることになり、資金移動業の適正かつ確実な遂行の観点から問題であるとの指摘があります。
 資金移動業に係る規制と貸金業に係る規制は、それぞれ為替取引と貸付けの機能・リスクに着目して整備されているところ、為替取引と貸付けのほか預金の受入れを併せ行うことを前提に整備されている銀行業に係る規制との関係で、規制のアービトラージが生じるおそれがあることや、銀行預金について、過去に預金保険で全額保護が図られていた際にも、取付けが生じた事実があることには留意が必要と考えられます。また、今後、仮に事業規模が相当程度大きい資金移動業者が出現し、利用者資金を原資として貸付けを行う場合、必ずしも経済全体に与える影響が限定的とは言い切れないと考えられます。
 そこで、利用者資金の保全方法として保全契約を利用する資金移動業者に対し、利用者資金を貸付けに活用することを防止するための措置を講ずることを、制度上明確に求めることが考えられます。
なお、現行規制上、資金移動業者には、資金移動業を適正かつ確実に遂行することが求められていることを踏まえれば、貸付け以外の使途であれば利用者資金を自由に活用して良いというわけではなく、利用者からの指図に円滑に対応していくために十分な流動性を確保している必要性があると考えられます。
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※シンガポールにおいては、eマネー発行サービス提供者に対し、利用者資金を、貸付けのために活用したり、全面的(wholly)又は実質的(to any materialextent)に自らが営む事業活動のために活用したりすることを禁止しています(貸金業等を併営することは可)。
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Q4 本報告書では、前払式支払手段については、どのような改正が提言されていますか。

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1 不適切な取引の防止
(1)現行規制
 現行規制上、発行者以外の加盟店でも利用可能な「第三者型」の前払式支払手段発行者に対しては、前払式支払手段の使用により販売・提供される商品・サービスが、公序良俗を害するものでないことを確保するために必要な措置を講じることが求められています。

〇事務ガイドライン(金融会社関係 5 前払式支払手段発行者関係)
��−3−3 加盟店の管理(第三者型発行者のみ)
第三者型発行者については、利用者に物品・役務を提供するのは主に加盟店であるため、前払式支払手段に係る不適切な使用を防止する趣旨から、加盟店が販売・提供する物品・役務の内容について、公序良俗に反するようなものではないことを確認する必要がある。
なお、法第10 条第1項第3号に規定する「公の秩序又は善良の風俗を害し、又は害するおそれがある」とは、犯罪行為に該当するなどの悪質性が強い場合のみならず、社会的妥当性を欠き、又は欠くおそれがある場合を広く含むものであり、こうしたものが含まれないように加盟店管理を適切に行う必要があることに十分留意する。
また、前払式支払手段の決済手段としての確実性を確保する観点から、加盟店に対する支払を適切に行う措置を講じる必要がある。

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(2)譲渡可能な前払式支払手段に関するサービス
前払式支払手段のうち、「第三者型」で、「IC型」や「サーバ型」に該当するものの中には、例えば、発行者が提供する仕組みを通じて、

_利用者が、他者に前払式支払手段のチャージ残高を譲渡することで、個人間で支払手段の移転を行うこと、

利用者が、他者に前払式支払手段の番号等をメール・SNS等で送付することで、当該他者が支払手段として利用すること、

が可能なものも存在します。

〇出所:金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第2回)「参考資料」(2019年10月24日)
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(3)利用者が、利用者が、他者に前払式支払手段のチャージ残高を譲渡することで、個人間で支払手段の移転を行うことが可能なタイプ
「利用者が、利用者が、他者に前払式支払手段のチャージ残高を譲渡することで、個人間で支払手段の移転を行うことが可能なタイプ」は、発行者が提供する仕組みの中で、チャージ残高の譲渡が繰り返されるため、「利用者が、他者に前払式支払手段の番号等をメール・SNS等で送付することで、当該他者が支払手段として利用するタイプ」と比較して、移転の履歴が把握しやすいという利点があります。
しかしながら、こうしたタイプについても、発行者が提供する仕組みの中で財産的価値を有する支払手段の移転を伴う以上、例えば、公序良俗を害するような不適切な取引に利用されることがないようにすることが必要と考えられます。上記(1)のとおり、現行規制上、第三者型前払式支払手段発行者には、前払式支払手段の使用により販売・提供される商品・サービスが、公序良俗を害するものでないことを確保するために必要な措置を講ずることが求められています。既に自主的な対応を講じている発行者も存在するところではありますが、制度上も、発行者に求められる対応を明確化しておくことが適当と考えられます。
具体的には、発行者に対し、譲渡可能なチャージ残高の上限設定[8]や、繰り返し譲渡を受けている者の特定等の不自然な取引を検知する体制整備を求めることが考えられます。
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(4)利用者が、他者に前払式支払手段の番号等をメール・SNS等で送付することで、当該他者が支払手段として利用するタイプ
このタイプは、基本的には、ギフトや返礼目的での利用を念頭に他者へ譲渡することを目的としており、チャージが行われた後は、再譲渡できない仕組みとなっています。
しかしながら、チャージが行われる前の番号等の譲渡が非常に容易で、架空請求を通じて番号等が詐取されるなどの被害が発生したこともあり、2016 年8月に「事務ガイドライン」が改正され、被害者の申出等を速やかに受け付けるとともに、利用停止の措置を迅速かつ適切に講ずる体制整備や、販売上限額の引下げや取扱停止といった販売方法の見直しを迅速に行う体制整備等が監督上の着眼点として追加されました[9]。
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2 利用者資金の保全
(1)前払式支払手段発行者と資金移動業者との比較

〇出所:金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第2回)「参考資料」(2019年10月24日)
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資金移動業者については、利用者資金の全額保全が求められている一方で、前払式支払手段発行者については、利用者資金の半額保全が求められています。
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(2)利用者資金の全額保全(規制改正見送り)
発行者が提供する仕組みの中で、利用者が他者にチャージ残高を譲渡するタイプの前払式支払手段については、財産的価値の移転を伴うものである以上、送金サービスに類似した性質を有しているといえることから、発行者に対し、資金移動業者と同様に、利用者資金の全額保全を求めるべきであるとの指摘があります。また、前払式支払手段には、原則として現金化が不可であり、使途が限定されているといった特性はあるものの、キャッシュレス化が進展すれば、現金との違いは相対的なものにとどまるとの指摘もあります。
他方で、前払式支払手段の譲渡については、使途が限定され、現金化ができず、発行者の破綻時に備えて半額保全されている財産的価値がそのまま移転されるだけであることから、送金とは性質が異なるとの指摘があります。また、前払式支払手段については、これまで多くの利用者に対して高い利便性を提供してきた経緯も考慮することが必要との指摘や、キャッシュレス社会の進展に向けて、各般の取組が進められている中、発行者の業務運営に大きな影響を与える規制強化を行うことは適当ではないとの指摘もあります。
本報告書では、利用者資金について、これまで、制度上求められる保全が半額保全であるがために社会的・経済的に重大な問題となるような被害は生じていないことも踏まえれば、現時点で共通の認識を得ることができなかった利用者資金の保全割合の引上げについては、直ちに実施することは必ずしも適当ではなく、引き続き検討課題とされました。
 ただし、その場合であっても、利用者が正確な理解の下で前払式支払手段を利用できるようにするため、利用者に対する情報提供事項として「利用者資金の保全に関する事項」を追加し、利用者に対して、法令上は利用者資金の半額以上の保全が求められており、必ずしも全額保全が図られているわけではない旨や、各発行者の保全方法についての情報提供を行うことを前払式支払手段発行者に義務付けることが考えられるとされました。
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3 無権限取引への対応
 なりすまし等による無権限取引が行われた場合の対応については、2019 年8月に、一般社団法人キャッシュレス推進協議会において、「コード決済における不正利用に関する責任分担・補償等についての規定事例集(利用者向け利用規約)」が策定・公表されました[10]。これにより、資金移動業者や前払式支払手段発行者を含め、事業者ごとに規約の内容は様々であり、消費者契約法により不当条項として無効となる可能性が指摘される「利用者に損失が発生した場合でも事業者は一切責任を負わない」旨を盛り込んだ規約も存在していたことが明らかとなりました。
他方で、現状においては、事業者による規約の自主的な見直しが進みつつあり、中には「利用者に故意・重過失があるなどの場合を除き損害を補償する」旨の規約を整備する事業者も出てきています。
本報告書においては、不正利用の態様や各事業者のビジネスモデルが多様な中で、統一的なルールの整備を直ちに実現するには課題があることや、利用者保護の観点から望ましい補償ルールの整備も進みつつある現状を踏まえれば、当面は、事業者による自主的な対応を促していくことが適当とであり、そのための制度上の対応として、利用者に対する情報提供事項に「無権限取引が行われた場合の対応方針」を追加することが考えられるとされています。
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4 監督上の対応

〇出所:金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第4回)「参考資料」(2019年11月12日)
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 近年、第三者型前払式支払手段発行者の登録を受けている事業者が、資金移動業者の登録も受け、一体的なサービスを提供する例が増加してきています。
 たとえば、LINE Payは、LINE Pay残高について、銀行口座出金不可・送金不可の「LINE Cash」(前払式支払手段)と銀行口座出金可能・送金可能の「LINE Money」(資金移動業)から構成されます。
この点、現行規制上、前払式支払手段発行者には、資金移動業者に求められている業務の外部委託先の管理体制の整備が法律上は義務付けられていません。
また、業務改善命令の発出要件は、資金移動業者については、「資金移動業の適正かつ確実な遂行のために必要があると認めるとき」とされている一方で、前払式支払手段発行者については、「利用者の利益を害する事実があると認めるとき」に限定されています。
監督上の対応の整合性・実効性を確保するため、少なくとも、これらの制度上の差異については、前払式支払手段発行者に係る規定を資金移動業者に係る規定と整合的なものとする形で解消することが必要と考えられます。
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5 犯罪収益移転防止法上の取引時確認義務等
令和元年7月26日の金融審議会 金融制度スタディ・グループ 「「決済」法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告≪基本的な考え方≫」(「基本的な考え方」)では、資金移動業者が提供する送金サービスと異なり、前払式支払手段は払戻しが認められておらず、マネー・ローンダリングやテロ資金供与に係るリスクが相対的に限定されているため、取引時確認義務等については、これを引き続き課さないこととすることが考えられるとされています。
もっとも、2019年10月〜11月のFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の第4次対日相互審査を受け、2020年8月に公表される予定の報告において、EUの第5次EUマネー・ローンダリング指令と同様に、リローダブルな前払式支払手段については、一定金額以上(同指令では150ユーロ超)となる場合には、顧客管理措置を講じることが求められる可能性があります。

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Q5 本報告書では、収納代行サービスについてはどのような制度改正が提言されていますか。

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1 収納代行サービスについての現行法下での整理
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〇典型的な収納代行のイメージ

〇出所:金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第2回)「参考資料」(2019年10月24日)

コンビニ、運送業者等の事業者が、債権者から代理受領の委託を受けて、�@債務者から商品等の代金を受領し、�A債権者に受け渡す。(コンビニの公共料金支払い等で利用され、運送会社が行う代金引換サービスも同様の仕組みとされる。

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 「収納代行サービス」とは、商品やサービスの提供者のために、代理人(コンビニエンス・ストア等)が、自ら又はその関連会社の店頭において、料金を現金で受け取るサービスです(例えば、公共料金の受取サービスがこれに該当します。)。
他方、「代金引換サービス」とは、宅配業者が、顧客の代金の支払いと引き換えに、商品やサービスを引き渡すサービスです。収納代行サービスと代金引換サービスのいずれにも、現在規制は設けられていません。
 従前から、これらのサービスは、法律上、「為替取引」に該当するのではないかとの議論があります。また、これらのサービス提供者の破綻や詐欺的行為の防止のため、何らかの措置を講じるべきではないかとの議論もありました。
 もっとも、収納代行業者が債権者から代理受領権を付与されている場合、債務者が収納代行業者に代金を支払った時点で債務の弁済が終了することから、債務者に二重払いの危険はありません。 債務弁済終了後の収納代行業者の信用リスクは債務者が負担することになります。
 金融審議会金融文科会第二部会報告「資金決済に関する制度整備について」(2009年1月)[11]では、以下のとおり、収納代行サービスの制度整備を図ることなく、将来の課題としました。
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銀行法(為替取引)に抵触する疑義がある、サービスを提供する事業者が破綻した場合には収納を依頼した者に被害が生じる可能性がある等から制度整備を行うことが適当との意見に対し、為替取引に該当しない、支払人に二重支払の危険はない、利用者の利便性を低下させる等から制度整備は必要がないとの意見があり、サービスを提供する事業者や関係省庁等からも制度整備に対する強い異論が出された。このように共通した認識を得ることが困難であった事項については、性急に制度整備を図ることなく、将来の課題とすることが適当と考えられる。

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2 収納代行サービスを取り巻く状況の変化
その後、例えば、割り勘アプリといった形で、収納代行の形式をとりつつ、実質的に個人間送金を行う新たなサービスが提供されるなど、収納代行を取り巻く状況が変化しています。
ワーキング・グループでは、現時点で把握できている収納代行の形式をとったサービスを念頭に、為替取引に関する規制を適用する必要性についての検討を行われましたが、イノベーションが進展する中で、事業者の創意工夫により、将来、収納代行の形式をとった新たなサービスが提供される可能性もあります。そこで、本報告書では、今後とも、収納代行を巡る動向を注視しつつ、それぞれのサービスの機能や実態に着目した上で、為替取引に関する規制を適用する必要性の有無を判断していくことが適当と考えるとしています。
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3 債権者が事業者等である収納代行
収納代行については、サービス形態によっては、債権者・債務者双方が収納代行業者に対する信用リスクを抱える可能性があることから、利用者保護のための制度整備が必要との指摘があります。
他方で、収納代行のうち、�@債権者が事業者や国・地方公共団体であり、かつ、�A債務者が収納代行業者に支払いをした時点で債務の弁済が終了し、債務者に二重支払の危険がないことが契約上明らかである場合には、既に一定の利用者保護は図られていると考えることが可能です。したがって、本報告書では、こうした収納代行について、為替取引に関する規制を適用する必要性は、必ずしも高くないと考えられるとしています。
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4 個人間の収納代行�@(割り勘アプリ):資金移動業の対象に
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〇割り勘アプリのイメージ

〇出所:金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第2回)「参考資料」(2019年10月24日)
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 「割り勘アプリ」とは、オンライン上で、債権者(宴会幹事)に代わって事業者が債務者(宴会参加者)から債権(参加費)の回収を行うサービスを指します。
割り勘アプリ事業者が、債権者(宴会幹事)から、�@宴会代金の支払を行った旨の通知と代金請求の依頼とともに、代理受領の委託を受けて、�A債務者(宴会参加者)に代金請求を行った上で、�B債務者から代金を受領し、�C債権者に受け渡します。
このようなサービスについては、サービス提供者は、個人間の債権債務関係の発生事由に関与しておらず、単に資金のやり取りを仲介しているだけであり、その経済的な効果は、債権者が、第三者であるサービス提供者に対して逆為替(取立為替)の依頼を行っている場合と同視しうると考えられます。また、一般消費者である債権者・債務者双方が、サービス提供者に対して信用リスクを抱えるおそれがあり、利用者保護を確保する必要性は高いと考えられます。
そこで、報告書は、こうしたサービスについては、収納代行の形式をとってはいるものの、資金決済法等の為替取引に関する規制の適用対象となることを明確化することが必要と考えられます。すなわち、割り勘アプリサービスの提供者は資金移動業者としての登録が必要となることが明確化されます。

5 個人間の収納代行�A(エスクローサービス):共通の認識得られず規制化見送り
〇エスクローサービスのイメージ

〇出所:金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第2回)「参考資料」(2019年10月24日)
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 エスクローサービスのイメージは、以下の通りです。

ネットオークション、フリマアプリ等のサービスを提供する事業者(「事業者」)が、個人間の物品売買等の契約締結を確認し、債権者(売主)から代理受領の委託を受ける。

事業者が債務者(買主)から商品の代金を受領する。

事業者が代金入金の通知を行う。

これを受けた債権者が商品を発送する。

債務者が商品到着の通知を行う。

これを受けた事業者が、債務者から受領した代金を債権者に受け渡す。

 エスクローサービスにおいては、個人間における物品の売買等の取引に際し、当事者双方の債務の同時履行を図ることにより、当事者間トラブルの未然防止機能があり、債権者・債
務者双方がその利点を享受しています。
 エスクローサービスについては、売買契約等の当事者間に生じる信用リスクをサービス提供者に付け替えているだけであるとの指摘があります。また、仮にエスクローサービスに為替取引に関する規制を適用した場合、利用者保護上重要な役割を果たしているエコシステムに支障が生じかねないとの指摘もあります。
 他方で、エコシステムへの留意は、利用者保護に懸念を生じさせない範囲にとどめるべきであり、債務者が債権者に支払うべき資金をサービス提供者が保持する以上、利用者保護のためにその保全が図られることが必要との指摘もあります。
 本報告書では、エスクローサービスに為替取引に関する規制を適用する必要性については、現時点で共通の認識を得られておらず、また、これまで社会的・経済的に重大な問題とされるような被害は発生していないことも踏まえて、直ちに制度整備を図ることは必ずしも適当ではなく、引き続き検討課題とすることとされました。
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Q5 本報告書では、ポストペイサービスについてはどのような制度改正が提言されていますか。

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1 ポストペイサービス
 「ポストペイサービス」とは、一定期間の送金サービス利用代金をまとめて支払うことを可能とするサービスを指します。
 ポストペイサービス※を提供する場合には、
・ 銀行法上の銀行業の免許を受けて行う方法(為替取引と貸付けの組合せ)
・ 資金決済法上の資金移動業の登録及び貸金業法上の貸金業の登録を受けて行う方法
・ 割賦販売法上の信用購入あっせん業の登録を受けて行う方法
の3つの方法が考えられますが、貸金業法や割賦販売法上の規制への対応が負担であるとの指摘があります。
 ワーキング・グループでは、ポストペイサービスのうち、「資金移動業と貸金業の両方の登録を受けて、為替取引と貸付けを組み合わせる方法」に関して、利用者ニーズがあるとされる少額でのポストペイサービスを念頭に、貸金業法上の規制の合理化の必要性について検討を行われましたが、少額であっても過剰与信防止の必要性に変わりはないとの指摘があった一方で、利便性の高いポストペイサービスを実現していくために必要な規制の合理化に関し、具体的かつ喫緊のニーズについての共通の認識は得られませんでした。
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2 割賦販売法上の信用購入あっせん業の登録を受けて行う方法(「少額・低リスクの後払いサービスに対するリスクベース・アプローチの導入」)
 経済産業省の産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会は、2019年12月20日、「当面の制度化に向けた整理と今後の課題〜テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方〜」[12]を公表しました。
 同報告書では、「少額・低リスクの後払いサービスに対するリスクベース・アプローチの導入」等について方向性が示され、「少額包括信用購入あっせん業者(仮称)」の新設が提言されています。
 具体的内容は以下のとおりです。
(1)「少額包括信用購入あつせん業者(仮称)」 の新設
 近時、新たに出現している「少額・低リスクの後払いサービス」のうち、少額の2ヶ月超又は リボ払いの 後払いサービスであって、ビッグデータ・AI 等の技術・データを用いた高度な与信リスク管理が行われているものについて、これを行おうとする事業者を、割賦販売法上、「少額包括信用購入あつせん業者(仮称)」と位置づけ、新たに登録制を創設することとします。その際、これらの事業者に対する規制については、主たる担い手として想定されるFinTech 企業のビジネス特性を踏まえた上で 現行の一律の規制ではなく、リスクに応じ柔軟な規制を行うものとします。なお、「少額」の範囲については、「極度額10万円以下」とします。
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〇「少額包括信用購入あつせん業者(仮称)」の新設

出所「当面の制度化に向けた整理と今後の課題〜テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方〜」(経済産業省の産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会・2019年12月20日)
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(2)割賦販売法上のリスクとリスクベース・アプローチを適用すべき規制項目の整理
「少額包括信用購入あつせん業者(仮称)」 について、リスクベース・アプローチを導入するにあたり、FinTech企業のビジネス特性を踏まえた上で、割賦販売法上のリスクとリスクベース・アプローチを適用するべき規制項目について整理を行うと、次のようになると考えられます。
こうした整理に基づき、�@純資産要件等の登録基準、�A契約解除の催告期間・催告書面、�B取引条件表示・社内体制整備の見直しを行うことが適切であると考えられます。
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〇割賦販売法上のリスクベース・アプローチを適用すべき規制項目の整理

出所「当面の制度化に向けた整理と今後の課題〜テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方〜」(経済産業省の産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会・2019年12月20日)
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(3)具体的な制度措置
 「少額包括信用購入あつせん業者(仮称)」について登録制を新設するにあたっては、上記�Aのリスクベース・アプローチを適用すべき規制項目について、以下の通り、規制の合理化を行うことが提言されています。
(ア)純資産要件等の登録基準
(a)純資産要件
現行法上、割賦販売法では、純資産要件として、登録時に、「 資産−負債≧ 資本金又は出資額× 百分の九十」を満たすことを求めています。
今次の見直しにあたっては、主たる担い手として想定されるFinTech 企業の事業特性上、 多額の初期投資を中長期的に回収する場合が多いことから、「少額包括信用購入あつせん業者(仮称)」に対しては 、登録時に(資産−負債)が負の値でないこと、かつ、�@登録時にグループ全体で現行基準を満たす、�A事業開始から例えば5年以内に現行基準を満たす、又は�B事業開始から例えば5年以内に一定額以上(例えば、1,000万円以上)の純資産を保有することを許容することとされています。
(b)資本要件
現行法上、割賦販売法では、資本金要件として、登録時に2,000万円の資本金があることを求めています。この資本金要件は、旧商法上の株式会社の最低資本金が1,000 万円とされていること等を踏まえて設定されたものですが、平成17年に会社法が制定され、最低資本金制度は廃止されています。
こうしたことから、「少額包括信用購入あつせん業者(仮称)」には、会社規模が小さい事業者の登録が見込まれることや、個々の取引額は少額であると想定され、加盟店を害する可能性が相対的に低いこと等も踏まえ、資本金要件を登録要件としては課さないこととされています。
(c)与信審査体制のあり方
「少額包括信用購入あつせん業者(仮称)」においては、登録時に、技術・データを用いた与信審査手法の適正実施 が担保されていることを前提として、支払可能見込額調査に代えて、技術・データを用いた与信審査を適正に行うための体制の整備を求めることとされています。
(イ)契約解除の催告期間・催告書面
催告期間について関係各法における規制を見ると、貸金業法においては規制はなく、民法においては「相当の期間」とされ、判例・通説では3日程度とされています。
こうしたことを踏まえ、割賦販売法においても、「少額包括信用購入あつせん業者(仮称)」においては、 主たる担い手として想定されるFinTech 企業の 債権回収モデル等を踏まえ、 催告期間を現行法に定められている20日間から短縮(例えば7日〜8日)するとともに催告書面の電子化を進めることとされています。
(ウ)取引条件表示・社内体制整備
「少額包括信用購入あつせん業者(仮称)」 については、主たる担い手として想定されるFinTech 企業のUI・UX をより重視するサービス特性や利用者の利便性を踏まえ、取引条件の表示義務に関する規制を柔軟化し、例えば、具体的算定例や特約について、URL 表示による記載をすることを認め、その他必要な事項についても 精査した上で見直しを行うこととされています。
また、社内体制整備について、例えば、必置とされる「営業部門とは独立した監査部署」に代わる監査方法を認めることや、認定割賦販売協会が主催する研修の受講方法を柔軟化(elearning等)することとされ、その他必要な事項についても 精査した上で見直しを行うこととされています。

[1]https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20191220.html

[2]本報告書は、令和元年7月26日の金融審議会 金融制度スタディ・グループ 「「決済」法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告≪基本的な考え方≫」(以下「基本的な考え方」という。)(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190726.html)で検討された内容を更に詳細に検討したものである。

[3]送金の履行の確実性に関して、銀行の破綻時に決済途上の資金は預金保険により迅速に全額保護が図られることを踏まえ、特に企業間決済に用いられた場合の影響の大きさを念頭に、資金移動業者の破綻時にも迅速に送金が行われる制度整備を図るべきとの指摘や、業務の継続性・安定性を確保するため、最低所要自己資本規制や為替業務単独での収支確保等の方策も必要との指摘

[4]2010 年2月23 日金融庁「資金決済に関する法律の施行に伴う政令案・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」

[5]分別管理された預金について倒産隔離の効果が認められた事例として、公共工事の請負者が、地方公共団体から支払いを受け、他の財産と分別された預金口座で管理していた前払金について、地方公共団体と請負者との間の信託契約の成立が認められた事例がある(最判平成14 年1月17 日民集56 巻1号20頁)。

[6]「要履行保証額」とは、各営業日における未達債務の額と権利実行の手続に関する費用の額の合計額をいう。資金移動業者は、各営業日における未達債務算出時点を特定した上で、未達債務の額を算出することが求められる。

[7]現行規制上、資金移動業者には、保全すべき額の算定頻度が年2回である前払式支払手段発行者と同様に、年2回、当局への利用者資金の保全状況に関する報告書の提出が求められている一方、仮想通貨交換業者には、年4回、当局への利用者財産の管理に関する報告書の提出が求められている。

[8]現状、こうしたサービスを提供している前払式支払手段発行者は、チャージ残高の譲渡額について、自主的に、1回又は1日当たり10 万円以下の上限を設定している。

[9]2016 年8月4日金融庁「「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正(案)」に対するパブリックコメントの結果等について」

[10]2019 年8月30 日一般社団法人キャッシュレス推進協議会『コード決済における不正利用に関する責任分担・補償等についての規定事例集(利用者向け利用規約)』

[11]https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20090114-1/01.pdf

[12]https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000196234

個人情報保護法の改正の方向性(3年ごと見直しの制度改正大綱) 〜第3回「短期保存データの保有個人データ化・開示請求のデジタル化・利用停止請求権等の要件の緩和」〜

2019/12/21

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(セミナー情報)
Zoom無料セミナー(100名限定):渡邉雅之弁護士が2020年8月27日(木)午後6時より『2020年改正個人情報保護法を一挙解説!』と題するZoomセミナー(ウェビナー)を行います。

令和2年( 2020 年) 3月 10 日に閣議決定され国会に提出された「_個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案_」 が同年6月5日に国会で成立いたしました(同年6月12日に公布されました(令和2年法律第44号))。

「改正個人情報保護法Q&A(2020年8月21日全面改訂版)」を作成いたしましたのでご覧ください。

Q&A改正個人情報保護法(2020年8月21日全面改訂版)

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執筆者:渡邉雅之

本ニュースレターに関するご相談などがありましたら、下記にご連絡ください。

弁護士法人三宅法律事務所

弁護士渡邉雅之
03-5288-1021

Email: m-watanabe@miyake.gr.jp

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個人情報保護法の改正の方向性(3年ごと見直しの制度改正大綱) 〜第2回「「仮名化情報(仮称)」の創設」〜

2019/12/17

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個人情報保護法ニュースNo.2:個人情報保護法改正の方向性(第1回:端末識別子等の取扱い)

2019/12/17

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個人情報保護法の改正の方向性(3年ごと見直しの制度改正大綱) 〜第1回「端末識別子等の取扱い」〜

2019/12/16

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個人情報保護法ニュースNo.1:リクナビ事件と個人情報保護法の改正

2019/12/10

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Q&A改正個人情報保護法(2020年8月21日全面改訂版)

平素より大変お世話になっております。

さて、今回は個人情報保護法ニュース「リクナビ事件と個人情報保護法の改正」をご案

内させていただきます。

〇ニュースレターは下記のリンク先をご覧ください。また、下記にも同様の内容の記載がございます。
リクナビ事件と個人情報保護法の改正

下記もご参照ください。
(関連ニュースレター)
Q&A『デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方』

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執筆者:渡邉雅之

* 本ニュースレターに関するご相談などがありましたら、下記にご連絡ください。

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弁護士渡邉雅之

TEL 03-5288-1021

FAX 03-5288-1025

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リクナビ事件と個人情報保護法の改正
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令和元年(2019年)12月14日に、個人情報保護委員会は、就職情報サイト「リクナビ」を運営する株式会社リクルートキャリア(以下「リクルートキャリア社」という。)及びその親会社である株式会社リクルート(以下「リクルート社」という。)に対して、いわゆる内定辞退率を提供するサービスに関して、個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)に基づく勧告を行った。また、同サービスの利用企業に対し、同法に基づく指導を行った。(以下「12月14日勧告等」という。)[1][2]
なお、リクルートキャリア社に対しては、8 月26 日付で勧告等を行っていた[3]が、 当該勧告等の原因となった事項以外にも個人情報保護法に抵触する事実が確認されたため、改めて勧告を行ったものである。
本ニュースレターでは、リクナビ事件について個人情報保護委員会の勧告を分析するとともに、これに伴う個人情報保護法の改正の方向性について解説する。
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第1.リクナビ事件における個人情報保護法上の論点
1.12月14日勧告等において認定された「勧告の原因となる事実」
 12月14日勧告等において個人情報保護委員会が認定した「勧告の原因となる事実」は以下のとおりである。
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_ 2018年度卒業生向けの「リクナビ2019」におけるサービスでは、個人情報である氏名の代わりにCookieで突合し、特定の個人を識別しないとする方式で内定辞退率を算出し、第三者提供に係る同意を得ずにこれを利用企業に提供していた。 リクルートキャリア社は、内定辞退率の提供を受けた企業側において特定の個人を識別できることを知りながら、提供する側では特定の個人を識別できないとして、個人データの第三者提供の同意取得を回避しており、法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービスを行っていた。
_ 本サービスにおける突合率を向上させるため、ハッシュ化すれば個人情報に該当しないとの誤った認識の下、サービス利用企業から提供を受けた氏名で突合し内定辞退率を算出していた。ハッシュ化されていても、リクルートキャリア社において特定の個人を識別することができ、本人の同意を得ずに内定辞退率を利用企業に提供していた。
__ 「リクナビ2020」プレサイト開設時(2018年6月)に、本サービスの利用目的が同サイト内に記載されたことをもって、サービス利用企業から提供を受けた氏名で突合し内定辞退率を、算出していた。 しかしながら、プレサイト開設時のプライバシーポリシーには第三者提供の同意を求める記載はなく、2019年3月のプライバシーポリシー改定までの間、本人の同意を得ないまま内定辞退率をサービス利用企業に提供していた。
_ 本人の同意なく第三者提供が行われた本人の数は、上記_、_及び前回の勧告の対象となった事実によるもの等を合わせ、26,060人となった。

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 上記の�@から�Bまでの各勧告に該当する事実につき、リクルートキャリアが公表している『『リクナビDMP フォロー』に関するお詫びとご説明』[4]を基に検討する。

2.勧告�@(アンケートスキーム(2019年2月以前の仕組み))
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【勧告_】
2018年度卒業生向けの「リクナビ2019」におけるサービスでは、個人情報である氏名の代わりにCookieで突合し、特定の個人を識別しないとする方式で内定辞退率を算出し、第三者提供に係る同意を得ずにこれを利用企業に提供していた。 リクルートキャリア社は、内定辞退率の提供を受けた企業側において特定の個人を識別できることを知りながら、提供する側では特定の個人を識別できないとして、個人データの第三者提供の同意取得を回避しており、法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービスを行っていた。

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(1)アンケートスキーム[5]
2019年2月以前に実施していたアンケートスキームにおいては、リクルートキャリアが契約企業から学生の姓名・メールアドレス等の個人情報の提供を受けるのではなく、契約企業が学生向けに実施したウェブアンケートを通じて、リクルートキャリアの委託先である株式会社リクルートコミュニケーションズ(以下「リクルートコミュニケーションズ」という。)が�@契約企業固有の応募者管理ID(契約企業が付与していた応募者の管理ID)、�ACookie 情報、�B選考プロセスにおける辞退・承諾情報を直接取得していた。
また、リクルートコミュニケーションズは、『リクナビ』のウェブサイトを通じて「Cookie情報」およびリクナビサイト上での「業界ごとの閲覧履歴」を直接取得していた。
そして、リクルートコミュニケーションズは「契約企業固有の応募者管理ID」とリクナビサイト上での「業界ごとの閲覧履歴」をウェブアンケートとリクナビサイトの「Cookie情報」によって紐づけ、スコアを算出[6]していた。
リクルートコミュニケーションズでは、これらの情報だけでは特定の個人を識別することはできなかった。
契約企業においては、「応募者管理ID」は特定の個人の姓名と紐づけられているので、個人を特定してスコアを活用してフォローに利用することが可能であった。
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(提供データの例)

管理ID

スコア

内定辞退
可能性

C333

0.40

★★

C444

0.53

★★★

C555

0.61

★★★

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(2)評価
 『「契約企業固有の応募者管理ID」に紐づけられたスコア』は、その提供元であるリクルートキャリアにとっては特定の個人が識別できないので、「個人情報」[7](個人情報保護法2条1項1号)に該当しないということは可能かもしれない。
 この点、契約企業は、ウェブアンケートを通じて、リクルートキャリア(実際には委託先であるリクルートコミュニケーションズ)に�@契約企業固有の応募者管理ID(契約企業が付与していた応募者の管理ID)、�ACookie 情報、�B選考プロセスにおける辞退・承諾情報を提供している。
 下記第2の2のとおり、個人情報保護法は、特定の情報が提供先で特定の個人が識別することができず個人情報として認識できないとしても、提供元において、特定の個人であることを識別できる情報については個人情報として扱うことを求めている(いわゆる提供元基準)。
この考え方に基づけば、�@契約企業固有の応募者管理ID(契約企業が付与していた応募者の管理ID)、�ACookie 情報、�B選考プロセスにおける辞退・承諾情報という情報は、提供先であるリクルートキャリアにとっては特定の個人の識別はできなくても、提供元の契約企業にとっては特定の個人の識別は可能であるから、「個人情報」に該当していた可能性がある。そうであるとすれば、契約企業においては、本人の事前の同意を得ない個人データの第三者提供として、個人情報保護法23条1項違反であった可能性もある。
契約企業から提供を受けた情報がリクルートキャリアにとっても「個人情報」に該当するとすれば(提供元基準を採り、かつ、「個人情報」該当性について相対性を認めない場合)、『「契約企業固有の応募者管理ID」に紐づけられたスコア』は「個人情報」に該当し、リクルートキャリアによる契約企業への提供は、応募者本人の事前の同意のない個人データの第三者提供として個人情報保護法23条1項違反となる。
これに対して、契約企業から受けた情報がリクルートキャリアにとっては、特定の個人が識別できないのであるから「個人情報」ではないと評価する場合には(提供元判断基準を採り、「個人情報」の判断の相対性を認める場合)、『「契約企業固有の応募者管理ID」に紐づけられたスコア』についてもリクルートキャリアにとっては特定の個人が識別できないので、「個人情報」に該当せず、リクルートキャリアによる契約企業への提供は、応募者本人の事前の同意のない個人データの第三者提供ではなく個人情報保護法23条1項違反とならないことになる。もっとも、契約企業は、「契約企業固有の応募者管理ID」と特定の応募者個人を識別可能であるから、『「契約企業固有の応募者管理ID」に紐づけられたスコア』は、個人情報(個人データ)に該当することになる。
勧告�@は、後者の立場に立ち、「リクルートキャリア社は、内定辞退率の提供を受けた企業側において特定の個人を識別できることを知りながら、提供する側では特定の個人を識別できないとして、個人データの第三者提供の同意取得を回避しており、法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービスを行っていた。」としている可能性が高い。
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3.勧告�A(アンケートスキーム化におけるイレギュラーケース)

【勧告_】
本サービスにおける突合率を向上させるため、ハッシュ化すれば個人情報に該当しないとの誤った認識の下、サービス利用企業から提供を受けた氏名で突合し内定辞退率を算出していた。ハッシュ化されていても、リクルートキャリア社において特定の個人を識別することができ、本人の同意を得ずに内定辞退率を利用企業に提供していた。

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(1)アンケートスキーム化におけるイレギュラーケース
2019年2月以前に実施していたアンケートスキームにおいて、一部の契約企業との間で、対象学生のCookie情報を利用した特定(突合)率を向上させる目的で、アンケートスキームとは異なるスキームでスコア算出を実施するケースがあった。このイレギュラーケースにおいては、当該一部の契約企業から氏名等の個人情報の提供を受けていた。
リクルートコミュニケーションズにおいて取扱うデータがハッシュ化されたものであれば、契約企業に提供する際も非個人情報として取扱えるという誤った認識のもと、契約企業から預かった学生の情報とリクナビ会員の情報がハッシュ化された状態で紐づけられており、これを通じて算出したスコアは、学生本人の同意なく当該契約企業に対して第三者提供されていた。
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(2)評価
 「ハッシュ化」とは、元のデータから一定の計算手順に従ってハッシュ値と呼ばれる規則性のない固定長の値を求め、その値によって元のデータを置き換える方法であり、ハッシュ関数と呼ばれる特殊な計算手順により、任意長の長さのデータから固定長の一見ランダムに思えるハッシュ値を得ることができる。[8]
個人情報保護法は、特定の情報が提供先で特定の個人が識別することができず個人情報として認識できないとしても、提供元において、特定の個人であることを識別できる情報については個人情報として扱うことを求めているという「提供元基準」による場合、ハッシュ化をして、個人データの提供先にとっては特定の個人を識別できなくしても、提供元の個人情報取扱事業者にとっては、個人情報保護法上の「匿名加工情報」としての処理(加工方法等情報の漏洩防止措置等)をしない限りは、「個人情報」に該当することになる。
勧告�Aが「ハッシュ化すれば個人情報に該当しないとの誤った認識」としているのは、かかる考え方によるものである。
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3.勧告�B(プライバシーポリシースキーム(2019年3月以降))

【勧告_】
「リクナビ2020」プレサイト開設時(2018年6月)に、本サービスの利用目的が同サイト内に記載されたことをもって、サービス利用企業から提供を受けた氏名で突合し内定辞退率を、算出していた。しかしながら、プレサイト開設時のプライバシーポリシーには第三者提供の同意を求める記載はなく、2019年3月のプライバシーポリシー改定までの間、本人の同意を得ないまま内定辞退率をサービス利用企業に提供していた。

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(1)プライバシーポリシースキーム(2019年3月以降)
 『リクナビ2020』では、2019年3月に、プライバシーポリシーを『リクナビDMPフォロー』の提供にあたって、学生が使用する複数の画面においてプライバシーポリシーに同意をしてもらうサイト構成に変更された。この中には、契約企業への第三者提供の同意も含まれていた。
リクルートキャリアは、契約企業の委託先企業として、契約企業より、委託業務に必要な限度で氏名などの個人情報の提供を受ける。その後、当社委託先であるリクルートコミュニケーションズにおいて、提供された個人情報とリクナビに登録された個人情報を紐づけた上で、当該学生のリクナビサイト上での「業界ごとの閲覧履歴」などからスコアを算出していた。
契約企業からは、学生に関する�@応募者管理ID(契約企業が付与していた応募者の管理ID)、�A姓名、メールアドレス、�B大学、学部、学科、�C選考プロセスにおける辞退・承諾情報の提供を受けていた。
また、契約企業によって異なる「企業独自管理情報」の提供を受けていた場合もある。一例としては、�@契約企業の説明会予約有無、�Aエントリーシートの記述内容、�B契約企業が利用していた適正検査の項目の値、�C応募職種が挙げられる。
(2)プライバシーポリシー更新漏れによる同意取得の不備
 『リクナビ2020』は、学生が使用する複数の画面においてプライバシーポリシーに同意をしてもらうサイト構成になっているが、プレサイト開設時のプライバシーポリシーにおいては第三者提供の同意を求める記載がなく、2019年3月のプライバシーポリシー改定までの間、本人の同意を得ないまま内定辞退率をサービス利用企業に提供していた。
これにより、『リクナビ2020』に会員登録されている学生のうち、2019年3月以降にプレエントリー・イベント予約・説明会予約・ウェブテスト受検等の機能を利用していない者で、かつ、『リクナビDMPフォロー』を導入した企業への応募者の中で2019年3月以降に『リクナビDMPフォロー』のスコア提供対象となった者、計13,840名の情報が、適切な同意を得られていない状態で企業に提供されていた。
(3)評価
 個人データの第三者提供の同意を求めるプライバシーポリシーへの同意をしていない状態で学生(応募者)の個人データが「リクナビDMP」の対象となっていたという、個人情報保護法23条1項違反の事態である。
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第2.個人情報保護法の改正の方向性
 個人情報保護委員会が、令和元年(2019年)11月29日に公表した「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱(骨子)」[9](以下「制度改正大綱(骨子)」という。)においては、リクナビ事件を受けて「提供先において個人データとなる場合の規律の明確化」がなされることになる。以下では、その改正の方向性の内容について解説する。
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1.制度改正大綱(骨子)の記載
 制度改正大綱(骨子)においては、以下のとおり、提供元では個人データ(個人情報)に該当しないものの、提供先において個人データになることが明らかな情報については、個人データの第三者提供を制限する規律を設けるものとしている。これは、リクナビ事件のうち、上記第1の2(勧告�@(アンケートスキーム(2019年2月以前の仕組み)))を念頭においた規制の方向性である。
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�「.データ利活用に関する施策の在り方
2.提供先において個人データとなる場合の規律の明確化
個人に関する情報の活用手法が多様化する中にあって、個人情報の保護と適正かつ効果的な活用のバランスを維持する観点から、提供元では個人データに該当しないものの、提供先において個人データになることが明らかな情報について、個人データの第三者提供を制限する規律を適用する。

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2.個人情報保護委員会資料における説明
 上記1の改正の方向性について、令和元年(2019年)11月25日に改正された個人情報保護委員会における配布資料「個人情報保護をめぐる国内外の動向」[10]においては以下のとおり解説されている。
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(1)個人情報の該当性について

個人情報保護法では、生存する個人に関する情報であって、特定の個人を識別できるものを個人情報として規律の対象としている。情報は、あくまでも集合として意味を成すものなので、単独で評価するのではなく、組み合わせでも評価する。そのため、それ自体で特定の個人を識別できる場合に加えて、当該情報を取り扱う事業者の内部において、他の情報と容易に照合することにより特定の個人を識別できる情報も、個人情報に該当することとし、様々なケースを漏らさずとらえることとしている。

この場合、民間事業者における適切な管理を促進し、一方で民間の営業の自由に配慮して過度に広範な規制を避ける観点から、照合できると判断する範囲は、実務に照らし違和感のない範囲にとどめ、容易に照合できる、としているが、近年の組織内外のIT化の進展により、通常の業務従事者の能力で照合できる範囲が格段に拡大している。

例えば、組織内に、照合可能なデータベースが存在していれば、普段、分離して使っていたとしても、意図をもって照合しようと思えばできることから、容易に照合できると評価し、全体として、個人情報としての管理を求めることになる。

個人情報保護法は、それぞれの個人情報取扱事業者が個人情報を適切に取り扱うことを求めている。このため、外部に提供する際、出す部分単独では個人情報を成していなくても、当該情報の提供元である事業者において「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなる」場合には、提供元に対して、 個人情報としての管理の下で適切に提供することを法律は求めている。

これは、提供先で個人情報として認識できないとしても、個人情報を取得した事業者に、一義的に、本人の権利利益を保護する義務を課すという基本的発想から、提供元において、上記のような情報についても個人情報として扱うことを求めている(いわゆる提供元基準)。

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(2)本人の同意なきデータの第三者提供
提供元と提供先でデータ共有が行われる等の結果、提供先では、個人情報となることを知りながら、提供元では個人が特定できないとして、本人同意なくデータが第三者提供される事例が存在している。
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出所:個人情報保護委員会「個人情報保護をめぐる国内外の動向」(令和元年11月25日)

(3)提供先において個人データとなる場合に係る意見について
中間整理の意見募集に寄せられた意見
・3の団体・事業者または個人から3件の意見があった。
(主な意見)

提供元では非個人データであっても提供先で特定の個人が識別されることになる情報についても議論されるべきであると考える。(MyData Japan)

「提供元では必ずしも個人情報でない場合であっても、提供先で照合可能な情報が保有さ れ、個人情報になる可能性」のようなケースを第三者提供にすることには反対。受領者である提供先が第三者提供に係る確認・記録義務をしようと思っても、提供元では、個人デー タではないので、本人の同意をとっていないので、本人同意の確認はできないし、トレーサビリティを確保できない。(個人)

(4)個人情報保護委員会の委員の意見
個人情報保護委員会の議事概要[11]によれば、上記の改正の方向について、小川克彦委員から「提供先において個人データとなる情報の取扱いについて 一言申し上げる。これまでターゲティング広告というのは基本的には個人情報を含まないユーザーデータを使用して、個人を特定しない形で広告を出していたということが業界で行われてきたと思う。ただ最近は、事務局 からの説明にもあり、また、先ほど藤原委員からビッグデータという話もあったが、ユーザーデータを大量に集めてマッチングを行うといったIT技術が進歩したこともあって、提供先において個人データとなるような、あらかじめそういうことを知りながら個人情報でないということで第三者に提供するという、法の趣旨を潜脱するような、資料53ページの図のようなスキームが横行しつつあると懸念される。本人が関与しないところで個人情報の収集や処理が広まることが懸念されるところであり、こうした場 合への対応を事業者側とユーザー側も含めて、様々な視点から整理する必要がある」旨の発言があった。
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3.提供元判断基準について
(1)匿名化された情報に関する個人情報保護法の改正前の考え方
 A社が保有する個人データ(個人情報)から特定の個人を識別することができる氏名や住所等の情報を削除した上で、B社に提供した場合、当該匿名化された情報は個人情報に該当するか。
_ _もし、A社が個人情報を匿名化しても依然として個人情報に該当するのであれば、B社への提供は個人データの第三者提供に該当し、当該個人情報に係る本人の同意を得る(個人情報保護法23条1項)か、または、オプトアウト手続(同条2項)に基づき提供をする必要がある。
 「個人情報」とは、�@生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)及び�A個人識別符号をいう(個人情報保護法2条1項)。
 個人情報の匿名化においては、このうち、上記�@の「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる」(いわゆる「容易照合性」)かどうかが問題となる。
 この容易照合性があるか否かについては、従前から、匿名化された個人情報の提供元において判断する「提供元判断基準」と提供先において「提供先判断基準」という2つの考え方があった。
 「提供元判断基準」においては、容易照合性があるか否かについて提供元で判断される。上記の具体例においては、A社(提供元)において容易に照合できる限りは、A社による匿名化された情報の提供は「個人データ(個人情報)」の提供に該当し、匿名化された情報に係る本人の同意を取得するか、または、オプトアウト手続により提供する必要がある。
 他方、「提供先判断基準」においては、容易照合性は提供先で判断される。B社(提供先)において容易に照合できない限りは、A社による情報提供は、「個人データ(個人情報)」の提供には該当せず、匿名化された情報に係る本人の同意の取得、または、オプトアウト手続による提供は不要になる。
 平成29年5月31日に施行された個人情報保護法の全面改正前までは、どちらかというと「提供先判断説」が有力な考え方であった。
 たとえば、岡村久道弁護士の「個人情報保護法(新訂版)」(商事法務・2009年)76頁においては、「Aにとって識別性を具備する情報を、これを具備しないBに提供する場合には、第三者提供の制限(法23条1項)違反とならないものと考えるべきである。Bにとどまらず通常人からみても誰の情報なのか識別できない以上、その提供によって、本法が想定する権利利益侵害のおそれが通常発生すると認められないからである。また、かく解さなければ、本人の権利利益を図るため、特定の個人を識別しうる部分を番号・符号に置き換える方法を用いて匿名化したデータを第三者に提供することすら許容されなくなりかねない。」とされていた。
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(2) 提供元判断説に立つ重要なパブリックコメント回答
平成29年5月31日に施行された個人情報保護法の全面改正にかかる法令やガイドラインにおいては、容易照合性について「提供元判断説」、「提供先判断説」のいずれに立つのかは明らかにされていなかった。
しかしながら、ガイドラインのパブリックコメント回答において、『ある情報を第三者に提供する場合、当該情報が(個人情報の定義の一つである)「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなる」かどうかは、当該情報の提供元である事業者において「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなる」かどうかで判断します。』(『「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(案)」に関する意見募集結果』[12]19番参照)とされ、「提供元判断説」によることが明らかにされた。
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4.クッキー情報の利用者同意の義務付けに係る改正
(1)日本経済新聞の記事
 2019年11月27日の日本経済新聞電子版の記事(「クッキー情報での個人特定防止へ 利用者同意義務付け」)[13]においては、「政府の個人情報保護委員会は個人情報保護法を見直し、企業が個人データを分析する際の新ルールを整える。企業が「クッキー」と呼ばれるウェブ閲覧情報を、個人の分析に使う他の企業に提供する場合に、本人の同意を取ることを義務付ける。個人データがいつの間にか拡散し、本人が知らないうちに嗜好などが分析される事態を防ぐ。」との記載がなされている。
(2)クッキーとは
 Cookie(クッキー)は、ウェブサイトがブラウザにコンピュータまたはモバイルデバイスに保存するように要求する小さなデータである。Cookieを使用すると、ウェブサイトは個人の行動や嗜好を時間の経過とともに「記憶」することができる。
 ほとんどのブラウザはCookieをサポートしているが、ユーザーはブラウザにおいてCookieを使用しないように設定できる。
(3)ウェブサイトにおけるCookieの用途
 ウェブサイトは主にCookieを、�@ユーザーの識別、�Aユーザーのカスタム設定の記憶、�Bユーザーのサイトを閲覧するときにサイトに入らずにタスクを完了できるようにすること、に使用できる。
Cookieは、オンラインの行動ターゲット広告に使用して、過去にユーザーが検索したものに関連する広告を表示することもできる。
 ウェブページを提供するウェブサーバは、ユーザーのコンピュータまたはモバイルデバイス上にクッキーを格納することができる。ファイルをホストする外部Webサーバは、Cookieを格納するためにも使用できる。 これらのCookieはすべて、http header Cookieと呼ばれる。Cookieを保存する別の方法は、そのページに含まれているJavaScriptコードを使用する方法である。
ユーザーが新しいページを要求するたびに、WebサーバはCookieのセットの値を受け取ることができる。 同様に、JavaScriptコードは、そのドメインに属するCookieを読み取り、それに応じてアクションを実行することができる。
(4)Cookieの種類
ア 存続期間による分類
�@セッションCookie:ユーザーがブラウザを閉じたときに消去されるCookie
�A永続Cookie:事前定義された期間、ユーザーのコンピュータ/デバイスに残るCookie
イ 帰属による分類
�@ファーストタイプCookie: Webサーバによって設定され、同じドメインを共有するCookie
�AサードパーティCookie:訪問したページのドメインとは別のドメインによって保存されたCookie。このCookieは、Webページがそのドメイン外にあるJavaScriptなどのファイルを参照しているときに発生する。
(5)クッキーの個人情報該当性
 クッキーは、現在の個人情報保護法においては、特定の個人を容易に識別できるものではなく、「個人情報」には該当しないと考えられている。
これに対して、2018年5月25日に施行されたEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulations:GDPR)においては、「個人データ」に該当するものと考えられており、EU域内の事業者はウェブサイトにおいてクッキーの利用目的について同意を取得するのが一般化しているところである。
 制度改正大綱(骨子)には記載がないものの、リクナビ事件を受けて改正がなされるのかもしれない。

[1]「個人情報の保護に関する法律第42 条第1項の規定に基づく勧告等について」(個人情報保護委員会:令和元年12月4日)(https://www.ppc.go.jp/files/pdf/191204_houdou.pdf)

[2]「�@利用目的の通知、公表等を適切に行うこと」「�A個人データを第三者に提供する場合、組織的な法的検討を行い、必要な対応を行うこと」「�B個人データの取扱いを委託する場合、委託先に対する必要かつ適切な監督を行うこと」という個人情報保護法41条に基づく指導が全35社に対して行われた(うち、11社については�@のみの指導)。

[3]「個人情報の保護に関する法律第42 条第1項の規定に基づく勧告等について」(個人情報保護委員会:令和元年8月26日)(https://www.ppc.go.jp/files/pdf/190826_houdou.pdf)

[4]https://www.recruitcareer.co.jp/r-dmpf/pdf/r-dmpf_20191204.pdf

[5]リクルートコミュニケーションズ内の『リクナビDMPフォロー』のスコア算出等を行っていた部署では、広告配信等の『リクナビDMPフォロー』とは異なるサービスの運用も行っており、これらのサービスにおいて、一部の契約企業から応募者管理IDと共に個人情報を取得していた実態があった。これらの個人情報を『リクナビDMPフォロー』において、実際に利用していた事実は把握されていないが、『リクナビDMPフォロー』において取得していた情報と、別サービスにおいて取得していた情報が同一部署内に存在していたことで、『リクナビDMPフォロー』において一部の契約企業に納品していた情報が、他の情報と照合することによって、特定の個人を識別することが可能な状態になっていた。
 これにより、『リクナビ2019』会員のうち、『リクナビDMPフォロー』のスコア提供は、契約企業への個人情報の提供とみなすべきところ、アンケートスキーム期のプライバシーポリシーには契約企業への個人情報の提供に必要な同意を得るための文言が盛り込まれていなかったため、これらの情報提供は未同意の状態で行われていた。

[6]「スコアの算出」は、契約企業における前年度の「選考参加者/辞退者、または、内定承諾者/辞退者」の「業界ごとの閲覧履歴」や契約企業から預かった情報から、応募学生の当該契約企業に対する選考離脱や内定辞退の可能性を予測するためのアルゴリズムを作成する。そのアルゴリズムを用いて、当該契約企業から提供を受けた今年度の応募学生の「業界ごとの閲覧履歴」から、当該応募学生の当該契約企業に対する選考離脱や内定辞退の可能性をスコア化していた。スコア算出において参照していた閲覧履歴は、『リクナビ』とリクルートキャリアが提携する就職情報サイトにおける業界ごとの閲覧履歴(ページの閲覧数など)であり、それ以外のデータ(検索エンジンでの検索履歴やサイトの利用履歴など)は参照していない。また、学生がどの企業に応募しているかといったエントリー情報や、志望業種など学生が自らリクナビ内に登録した情報も、スコア算出に一切利用していない。
 「リクナビDMPフォロー」は、契約企業の前年度における「選考参加または内定承諾者」および「選考辞退または内定辞退者」の群のデータ(企業管理応募者ID、大学、学部、学科、企業独自管理情報、閲覧行動など)の違いを分析し、アルゴリズムを作成する。作成されるアルゴリズムは、各企業ごとに異なるため、スコアに影響を与えるデータは、企業ごとに異なる。

[7]個人情報取扱事業者の「個人情報データベース等」(個人情報保護法2条4項)を構成する「個人情報」(同条1項各号)が「個人データ」である(同条6項)。厳密には第三者提供の制限(同法23条)は、「個人データ」について適用され、「個人情報」には適用されないが、リクナビサービスにおける「個人情報」は事業者(リクルートキャリアやリクルートコミュニケーションズおよび契約企業)の個人情報データベース等を構成し、「個人データ」に該当すると考えられるので、本ニュースレターにおいては「個人情報」と「個人データ」を特に区別しない。

[8]個人情報保護委員会事務局レポート:「匿名加工情報 パーソナルデータの利活用促進と消費者の信頼性確保の両立に向けて」(2017年2月)21頁(https://www.ppc.go.jp/files/pdf/report_office.pdf)

[9]https://www.ppc.go.jp/files/pdf/191129_houdou_koshi.pdf

[10]https://www.ppc.go.jp/files/pdf/191125_shiryou1.pdf

[11]https://www.ppc.go.jp/files/pdf/1125_gaiyou.pdf

[12]https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000151056

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