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トピックス・法律情報

『解雇に関するルールが変わる?』

2013/06/01

(執筆者:弁護士 岩崎浩平)

【Q.】
最近、解雇に関するルールが変わるかもしれないと報道されていますが、どのように変わるのでしょうか。_

【A.】
1.解雇ルールの現状
解雇に関するルール(以下「解雇ルール」といいます。)については、現在、解雇予告(労働基準法第20条)、解雇理由の制限(労働組合法第7条第1号等)など、様々な規制が存在します。労働契約法第16条の規定(「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」)は代表的な解雇ルールですが、この規定を含め、現在の解雇ルールには必ずしも明確でないものがあります。その結果、解雇の有効性が明確にならないまま、無用な法的手続(労働審判、裁判等)に発展するという問題が指摘されています。また、現在の解雇ルールについては、解雇無効を主張する労働者が職場復帰ではなく金銭的解決を望むこともあるという実態を制度として反映できていないなど、必ずしも合理的でないという問題も指摘されています。さらに、現在の解雇ルールについては、解雇要件が厳格過ぎるため、正規雇用者が著しく厚遇されて非正規雇用者との著しい格差を生み出す、高年齢の正規雇用者が保護され若者の雇用を阻害する、雇用の流動性が失われて成長産業への人材移動が進まず経済成長を阻害するなどの問題も指摘されています。_

2.解雇ルール変更の方向性
このように様々な問題を有する解雇ルールの変更については、日本経済再生本部の下で開催される産業競争力会議で議論が始まったばかりです。現時点で、解雇ルールの変更の詳細、実現可能性等は不明ですが、産業競争力会議での平成25年3月15日付配布資料(首相官邸HPで閲覧可能)では、次の�@乃至�Eのような記載が見受けられ、その方向性を窺うことができます。
�@正規雇用者の雇用が流動化すれば、待機失業者が減り、若年労働者の雇用も増加すると同時に、正規雇用者と非正規雇用者の格差を埋めることにもなる
�A現行規制の下で企業は、雇用調整に関して「数量調整」よりも「価格調整」(賃金の抑制・低下と非正規雇用の活用)に頼らざるを得なかった。より雇用しやすく、かつ能力はあり自らの意志で積極的に動く人を後押しする政策を進めるべきである
�B労働市場の流動性を高め、失業を経由しない成長産業への人材移動を円滑にすると同時に、セーフティネットを作る
�C解雇ルールの合理化・明確化(再就職支援金の支払いとセットでの解雇などを含め、合理的な解雇ルールを明文で規定)
�D民法627条に明記されている解雇自由の原則を労働契約法にも明記し、どういう場合には解雇を禁止するか、あるいは解雇の際に労働者にどういう配慮をすべきか、といった規定を明文で設けるべきである
�E判例に基づく解雇権濫用法理による解雇ルール(労働契約法第16条)を見直す_

3.おわりに
解雇ルールの変更は、「明確化」及び「合理化」により、前述したような各問題の解消を目指すものであると考えられます。労働契約法第16条との関連では、一定額の金銭支払いと併せれば解雇が有効になると明文化することも検討されたようです。近時、解雇ルールの変更の一部見送りという報道もなされていますが、今後、何かしらの解雇ルールの変更が実現されれば、解雇の判断基準等に影響を与え、就業規則の変更等が必要になる可能性もあるため、その動向を注視することが適切でしょう。_

『TwitterやFacebookを安心して利用してもらうために 〜ソーシャルメディアポリシーとガイドライン〜』

2013/05/27

(執筆者:弁護士 竹田千穂)

【Q.】
近年、ソーシャルメディアポリシーやガイドラインを策定する企業が増えていると聞きました。当社でもFacebookを個人的に使っている従業員がおり、策定を考えています。策定の際の注意点はありますか。_

【A.】
1.ソーシャルメディアとは
「ソーシャルメディア」とは、Facebook、YouTube、Twitter、ブログなど、インターネットやウェブ技術を使用して個人の発信をもとに、不特定多数のユーザーがコミュニケーションを行うことが可能なメディアをいいます。近年、企業がソーシャルメディアを活用して広告等を行い、商品の認知や集客に大きな効果を上げている例も見られます。

2.ソーシャルメディアポリシー及び同ガイドライン策定の目的・必要性
一方、企業の広報部等のみならず個人によるソーシャルメディアの利用が増加したことで、従業員等が個人アカウントにて顧客の個人情報を漏えいするなど、企業の価値を低下させる事態も起こるようになりました。そのため企業には、ソーシャルメディアに不慣れな従業員でも安心して適切に利用でき、その利用が企業価値の向上に資するよう、対策を取ることが求められています。具体的には、ソーシャルメディアの利用に対する企業の方針を記載したポリシーや、利用時の注意点等を記載したガイドラインを策定するとともに、適用対象となる従業員等に研修を行うなどして周知徹底させる必要があります。
なお、個人アカウントでの利用を前提としたガイドラインのほかに、企業の公式アカウント利用についても、運用担当者向けのルールを別途策定しておいた方がよいでしょう。

3.ガイドラインへの記載事項
記載事項に決まりがあるわけではありませんが、少なくとも次のような事項は記載しておくとよいでしょう。
○営業秘密の保護(企業の営業秘密を第三者に漏えいすること等の禁止)
○個人情報の保護(個人情報保護法や社内規程等を遵守すること)
○著作権法等の知的財産権法の遵守、誹謗中傷の禁止(特定の個人や団体への名誉棄損や差別的表現の禁止。特定の思想、信条、宗教、政治等に関する攻撃的、差別的表現を差し控えること)
○責任の明記(個人アカウントにおける発言に対する自己責任の明確化と、所属する企業とは何ら関係ないことの表明)
○デジタルツールとしての特質の理解(一度発信した情報は瞬時に伝達され、完全には消去できない性格のものであることを理解し、表現には細心の注意を払うこと) 等
そして、ガイドラインの策定にあたっては、適用対象である従業員等が容易に理解し、安心して活用できるように、平易な表現を用い、具体例を記載するなどの工夫が必要になります。また、ガイドラインから逸脱した投稿があるかの調査や対処方法などについても、社内体制を整えておくべきでしょう。

4.公式アカウントの運用担当者向けルールへの記載事項
企業のウェブサイトなどで公式アカウントを公表するとともに、運用担当者向けのルールにはソーシャルメディアを利用する際の基本方針のほか、コメントに対する対応方法、投稿内容を訂正する必要が生じた場合の対処方法、パスワードの管理方法などを記載しておく必要があります。

5.おわりに
ガイドライン等を公開している企業もありますので、策定する場合には参考にしてください。また、ポリシーやガイドラインを策定するまでには至らない場合でも、従業員等に対して注意喚起することをお勧めします。_

『うつ病をめぐる労務管理』

2013/04/15

(執筆者:弁護士 福田泰親)

【Q.】
最近、うつ病に罹患する労働者が増加していると聞きましたが、従業員がうつ病に罹患した場合、当社は責任を負うのでしょうか。また、当社で何か対策をとるべきことはあるでしょうか。_

【A.】
1.はじめに
厚生労働省の自殺・うつ病等対策プロジェクトチームの発表*1によると、うつ病等の気分障害の総患者数は、平成8年には43.3万人であったのに対し、平成20年には104.1万人と12年間で2.4倍に増加しました。この患者数急増の背景には様々な要因があるとみられていますが、平成23年度における精神障害の労災請求件数が3年連続で過去最高を更新したこと(平成23年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」まとめ*2)に鑑みると、職場における労働環境が一つの要因になっていると考えられます。
*1 http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2010/07/03.html
*2 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002coxc.html

2.使用者の法的責任
使用者には労働者の生命、身体等の安全に配慮しなければならないという義務があることは確立された判例(最三小昭50.2.25民集29巻2号143頁)であり、労働契約法5条にもこの義務が明記されています。そして、この安全の中には「労働者の健康」も含まれると解釈されています。よって、使用者は、労働者がうつ病に罹患しないように労働条件を整備しなければならず、既にうつ病に罹患している者がいる場合には、軽減勤務や休業等の措置をとらなければなりません。
これらの義務に違反し、労働者に損害を及ぼした場合には、債務不履行として損害賠償責任(民法415条)を負う可能性があり、使用者の故意・過失により労働者の権利を侵害したときには、不法行為として損害賠償責任(民法709条)を負う可能性があります。また、うつ病によって労働者の注意力が低下したことにより事故やトラブルが発生し、顧客や同僚などに損害を与えた場合には、使用者が使用者責任(民法715条)を負う可能性もあります。

3.具体的な方策
うつ病は様々な要因が重なって発症することが多く、身体面の病気とは異なり、見た目ではわかりにくいのが特徴です。また、労働者自身が自覚していない場合や、自覚していても言い出しづらいと感じている場合があります。そこで、使用者が労働者の不調に気づくための具体的方策として、労働者や管理監督者に対してうつ病への理解を深めるための教育研修の実施、事業場内に相談窓口や産業保健スタッフ等の設置、健康診断の促進などが考えられます。
また、長時間労働が継続すると、仕事の負荷が増加する一方で睡眠時間が減少することになるため、健康への影響が大きいと考えられています。そこで、時間外・休日労働時間を削減し、労働者に休息を与えることも重要な方策といえます。
なお、都道府県ごとに厚生労働省の委託を受けてメンタルヘルス対策支援センターが設置されており、対面や電話等による相談を受けつけているほか、専門家を事業場に派遣してのアドバイスなどの活動を行っています。このセンターは無料で利用することができますので、この機会に是非ご検討ください。

4.おわりに
精神疾患を有する労働者が年々増加している状況に鑑みると、企業におけるメンタルヘルスケア対策はもはや必須のものといえるでしょう。厚労省でも、うつ病を極めて重要な健康問題としてとらえた上で、心の健康を保つための対策を進めています。同省では、平成18年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」*3を策定してメンタルヘルスケアの進め方などを提言していますので、ご参照ください。
*3 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/dl/060331-2.pdf

『債権回収のための支払督促手続の活用』

2013/03/18

(執筆者:弁護士 西堀祐也)

【Q.】
当社は製造業を営んでいますが、支払期限が過ぎても売掛金を支払ってくれない取引先があります。未払額が数百万円になっており、社長に再三催促し、内容証明も送りましたが、一向に支払ってくれません。
裁判所から督促状を送ってもらう手続があるそうですが、利用を検討したいと思っています。ポイントを教えてもらえないでしょうか。_

【A.】
1.督促手続とは
貸金、立替金、売買代金などの金銭債務を相手方(債務者)が支払わない場合に、申立人(債権者)の申立てだけに基づいて簡易裁判所(書記官)が支払を命じる文書(支払督促)の発付を行う簡易な裁判手続を「督促手続」といいます(民事訴訟法382条以下)。
督促手続には、主に以下のような利点と限界がありますので、それらを踏まえたうえで、利用を検討する必要があります。

2.利点
督促手続では、通常の訴訟と比較して、簡易・迅速・低額に債務名義(債務者の財産に対する強制執行の根拠となる文書)を取得できるという利点があります。
例えば、支払督促の申立てには、申立書を簡易裁判所(書記官)に提出する必要があるものの(持参、郵送のほか、オンライン申請も可能)、請求の趣旨及び原因の記載は簡潔でよく、申立書に証拠書類を添付する必要はありません。
また、通常の訴訟とは異なり、審理のための期日は開かれず、申立書に不備がなければ、速やかに支払督促が発令されます。支払督促の送達から2週間以内に、債務者から「督促異議」(後述)が出なかった場合、債権者は、30日以内に仮執行宣言申立てを行う必要があります。
そして、債務者への仮執行宣言付きの支払督促の送達後、債務者から督促異議の申立てがないままさらに2週間が経過すれば、支払督促は確定判決と同一の効力を有することになります。
そのうえ、支払督促の申立手数料は、請求の目的の価格に応じて算出された訴訟提起の手数料の2分の1とされており、訴訟よりも低額となっています。

3.限界
もっとも、督促手続には債務者の利益保護の観点から、以下のような限界があります。
例えば、支払督促の送達は、公示送達によることができないため、債務者が行方不明の場合には、督促手続の利用ができません。
また、支払督促が債務者に送達後、その確定前に債務者から「督促異議」が出れば、請求金額に応じて簡易裁判所(140万円以下)または地方裁判所(140万円超)での訴訟手続に移行します。したがって、債務者が債務の存在や金額を争っていて、督促異議が見込まれる場合には、この手続は適しません。債務者が分割払い等を希望して、督促異議を出すこともあります。
さらに、支払督促の申立ては、債務者の普通裁判籍の所在地(債務者の住所地等)を管轄する簡易裁判所(書記官)に対して行う必要があります(事前に管轄を合意していても同じ)。督促異議により訴訟手続に移行した際にも同じ管轄になりますので、債務者の住所地が遠方の場合には、督促手続を利用するかどうかを十分に検討する必要があります。

4.おわりに
支払督促を得ても債務者が従わない場合には、別途に強制執行手続を取って支払督促の内容を実現することになります。この点は、通常の訴訟で確定判決を得たときと変わりません。なお、督促手続で使用する書式と記載例は、裁判所のホームページ*に掲載されていますので、ご参照ください。
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_siharai_tokusoku/siharai_tokusoku/index.html_

『高年齢者継続雇用に関する初めての最高裁判決について』

2013/02/18

(執筆者:弁護士 岸野 正)

【Q.】
当社は、労使協定により高年齢者継続雇用規程を定めていますが、高年齢者の継続雇用の採否を判断する際、その運用について留意すべき点はありますか。_

【A.】
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年法)9条2項に規定されている、継続雇用制度の対象となる高年齢者を事業主が労使協定によって定める基準で限定できる仕組みは、平成25年4月1日の改正高年法の施行により廃止されます。しかし、同法が施行されるまでに、この基準を定めていた事業主については、経過措置として、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者を対象に、定めていた基準を引き続き利用することが認められています。したがって、改正法の施行日以降についても、継続雇用制度の対象者を限定する基準の運用が問題となりえます。

この高年齢者継続雇用制度に関して、平成24年11月29日、初めての最高裁判決がありました。本事例は、労使協定により高年齢者継続雇用規程を定めた会社が、継続雇用を希望した高年齢者(60歳の定年後1年間の嘱託契約あり)に対し、基準に満たないとして、嘱託契約終了日をもって再雇用契約を締結しないと通知したことに起因します。

この会社は、高年齢者の業務能力等を点数化し、その結果に応じて、高年齢者の採用、勤務時間、雇用期間、賃金算定方法等を決定していたのですが、当該高年齢者の点数化の査定を誤っており、正しい査定では所定の継続雇用基準を満たしていたことから、裁判では、高年齢者の地位(雇用関係の有無)が問題となりました。

最高裁は、本件について次のように判示し、高年齢者継続雇用規程に沿った雇用関係の成立を認めました。
「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから、被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方、上告人において……被上告人の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって、本件の前記事実関係等の下においては、前記の法の趣旨等に鑑み、上告人と被上告人との間に、嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」
この最高裁判決は、具体的な事実関係等の下における事例判決ではありますが(比較的詳細な労働条件が定められていた事案といえる)、高年齢者の継続雇用に対する合理的な期待を保護するとともに、いわゆる雇い止めに関する過去の最高裁判決を引用していることから、解雇権濫用法理を類推適用した事案とも位置づけられます。

以後、継続雇用制度の対象者を限定する基準の運用にかかる判断については、前述の最高裁判決で示されたように、対象者において継続雇用に対する合理的な期待の有無の評価が主に問題とされることが考えられます。したがって、事業主としては、継続雇用を行わないと判断した対象者に、そのような期待が認められることがないよう、高年齢者継続雇用規程の運用に際しては言動に注意する必要があります。例えば、1年ごとの雇用期間の更新が定められているのであれば、65歳まで継続雇用されるといった期待を対象者に与えないよう、「1年ごとに更新がなされない場合があり、65歳まで継続雇用されることを保障する制度ではない」ことを十分理解させるとともに、規程の基準に沿って、更新手続を厳格に行うなどといった運用が必要と考えられます。
なお、高年法の改正内容と高年齢者継続雇用制度の詳細については、厚生労働省のホームページ*に解説がありますので、ご参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1.html_

『パワーハラスメント予防のための取り組み』

2013/01/21

(執筆者:弁護士 神部美香)

【Q.】
使用者として、職場におけるパワーハラスメントの予防のために、どのような取り組みを検討すればよいでしょうか。_

【A.】
1.職場のパワーハラスメントに関する実態調査
平成24年12月、厚生労働省が国として初となるパワーハラスメント(以下「パワハラ」)に関する実態調査(企業調査・従業員調査)を実施し、報告書*が取りまとめられました。
*報告書http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002qx6t-att/2r9852000002qx99.pdf
報告書によれば、従業員調査において、4人に1人が過去3年以内にパワハラを受けたことがあると回答し、メディアでも大きく取り上げられました。また、企業調査においても、回答企業全体の80.8%が、パワハラの予防・解決を経営上の課題として重要と位置づけるなど、パワハラの予防・解決のための取り組みの重要性は高くなっています。

2.パワハラに該当しうる行為
パワハラには、法令や判例上統一された定義はありませんが、厚生労働省が行っている「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」(平成24.1.30厚生労働省)では、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義されています。
パワハラは、業種や企業文化、当該言動が行われた状況により、指導や注意、適正な業務命令などとの線引きが難しいのですが、例えば、仕事に専念していない部下にやる気を起こさせるためであっても、「意欲がない、やる気がないなら会社を辞めるべき」などと、他の従業員全員の前で名指しで叱責するような場合には、パワハラの問題が生じる危険性があります。

3.使用者に生ずる責任
職場でパワハラが行われた場合、加害者である社員が不法行為責任(民法709条)を負う可能性があり、職務の遂行に際して行われた場合には、会社が使用者責任(民法715条)を負うこともあります。
また、これとは別に、使用者は労働者に対し、職場環境配慮義務を負うとされており、直接、不法行為責任(民法709条)ないし債務不履行責任(民法415条)を追及されることもあります。つまり、パワハラを行った社員そのものの責任とは別個に、会社が責任を問われる場合もあり、会社として適切な対応をとることが求められています。

4.パワハラの防止策
報告書によれば、調査対象企業では、パワハラの予防・解決のために、相談窓口の設置、就業規則など社内規定への盛り込み、会社方針(CSR宣言など)への規定、ポスターやリーフレット等の啓発資料の配布または掲示など、各種の取り組みが実践されています。その中でも特に、講演や研修会の実施やアンケート等による実態把握など、直接従業員に働きかける取り組みについて、その効果が高く評価されています。
もっとも、実際にパワハラを受けた者が相談窓口に相談する比率は極めて低いため、単に設置するだけでなく、相談窓口が活用され、解決につなげるアクションを促すような仕組みづくりを進めることも必要です。また、上位者がパワハラについて理解した上で、部下等とのコミュニケーションを行うことにより、パワハラが生じにくい環境を作り出すとともに、パワハラに関する相談がしやすい職場環境を作り出すことが重要です。
これらの取り組みが効果を発揮するまでには、相応の時間を要しますが、報告書によれば、パワハラの予防・解決のための取り組み実施期間が長ければ長いほど、効果を実感する比率が高くなる傾向が示されており、地道な取り組みが求められています。_

『従業員に裁判員選任通知が来た場合の対応』

2012/12/17

(執筆者:弁護士 内芝良輔)

【Q.】
弊社は従業員20名を雇用して製造業を営んでおりますが、今般、営業担当の従業員から、裁判員裁判の呼出状が届いたとの相談を受けました。弊社としては、従業員が裁判員に選ばれた際にはこれをサポートする方針ですが、今回は審理期間が50日と長く、当該従業員は仕事に支障が出るとして辞退を希望しています。このような場合に、辞退は可能なのでしょうか。
また、参加する場合に弊社が注意すべき事項はあるでしょうか。_

【A.】
1.はじめに
裁判員裁判は平成21年5月にスタートし、丸3年が経過しました。その中で、審理が長期にわたった場合の裁判員への負担が大きいことが、今後の検討課題として挙げられています。企業に勤める方の多くは、長期の審理による業務への支障を心配し、辞退を希望することも多いようです。
今回は、このような場合の辞退の可否や従業員が裁判員裁判に参加する場合の会社としての対応について、ポイントを説明したいと思います。

2.辞退の可否について
法律上、仕事を理由とする辞退については、「その従事する事業における重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがあるものがある」場合に認められています。そして、これに該当するかどうかは、�@裁判員として職務に従事する期間、�A事業所の規模、�B担当職務の代替性、�C予定される仕事の日時を変更できる可能性などの観点から判断されますが、最終的には個々の裁判所の判断となります。
今回のご相談についても最終的には当該裁判所の判断に委ねられますが、御社の規模が大きくないこと(�A)に加えて、審理期間が50日と長く、当該従業員が約2ヶ月不在となること(�@)から、従事する事業への影響が大きいと判断され、当該従業員が辞退を希望する場合には、辞退が認められる可能性が相当程度あると思われます(裁判所も、審理期間が長期にわたる案件については、数百名へ呼出状を送付しており、辞退についてある程度柔軟に考えていると推測されます)。

3.従業員が裁判員裁判に参加する場合の対応
まず、業務への影響の大きさ等に関わらず、従業員が裁判員になることを希望する場合には、会社はこれを尊重しなければならず(労働基準法7条)、辞退を勧めたり、裁判員となった従業員を人事考査等で不利に扱ったりすることは許されません(裁判員法100条)。
また、従業員が裁判員として刑事裁判に関与する場合、その審理期間中、当該従業員は会社を休むことになります。この休暇については、公職に就く際の休暇に関する就業規則上の規定を裁判員にも適用して対応する方法や、裁判員休暇制度を新設する方法が多く利用されています。
そして、裁判員を務めるための休暇を有給とするか無給とするかについては、法律上の定めはなく、就業規則で定めることにより無給とすることも問題はありませんが、実際には有給としている会社が多いようです。
なお、裁判員となった従業員に対して裁判所から支払われる日当について、これを会社に納付するように義務付けることは、当該休暇について会社から支払われる給与が裁判所から支払われる日当の額以上であるような一定の場合を除いて、不利益的取扱いを禁止した裁判員法第100条に違反することとなりますので、注意が必要です。_

『高年齢者雇用安定法の改正』

2012/11/20

(執筆者:弁護士 雑賀裕子)

【Q.】
今般、高齢者の継続雇用に関し、法改正があったと聞きました。改正内容につき、概要を教えてください。_

【A.】
現行の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」によれば、定年は60歳を下回ることができず(法8条)、また、65歳未満の定年を定める事業主は、65歳までの雇用確保のため、�@定年の引き上げ、�A継続雇用制度の導入(ただし、継続雇用の対象者を限定する基準を労使協定で定めることも可能)、�B定年の定めの廃止、のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じる必要があります(法9条1項・2項)。実務上は、60歳定年のまま、�Aの労使協定による基準に従った制度を導入している企業がほとんどです。
しかし、年金制度改革により厚生年金(定額部分)の支給開始年齢が引き上げられ、報酬比例部分についても、男性は平成25年4月から(女性は平成30年4月から)支給開始年齢の段階的な引き上げが始まることから、現行法のままでは、同月以降、60歳定年後に雇用が継続されず、厚生年金も支給されないために無収入となる者が生じる可能性があります。かかる事態の回避を目的として、平成24年8月29日に法の一部が改正されました(平成25年4月1日施行)。改正の概要は、次のとおりです。

1.継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
前記�Aのとおり、労使協定で基準(健康状態、勤務態度や業績評価など)を定めることで、当該基準を満たす者のみを継続雇用の対象とすることも可能でしたが、この仕組みが廃止され、希望者全員を対象としなければならないこととされました。なお、後記4.の指針で、心身の故障のため業務遂行に堪えない者等、就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合は例外とされました。

2.継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大
高年齢者の継続雇用先について、自社に限らず、子会社や関連会社などグループ企業にまで拡大できるようになりました(改正法9条2項)。子会社や関連会社の具体的範囲は、高年齢者雇用安定法施行規則の改正により定められました。その内容は厚生労働省HP*で確認することができます。

3.義務違反の企業への公表制度の導入
高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に対し、厚生労働大臣は、指導、助言、勧告を行うことができますが(法10条1項・2項)、改正法では、さらに、勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができるとされました(改正法10条3項)。

4.高年齢者雇用確保の措置の実施及び運用に関する指針の策定(改正法9条3項)
指針は平成24年11月9日に告示され、厚生労働省HP*で確認することができます。

5.経過措置
労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を設けている事業主については、厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢に達した者を対象に、当該基準を引き続き利用できる12年間(平成37年4月1日まで)の経過措置が設けられます。すなわち、厚生年金報酬比例部分の支給開始年齢が平成25年4月1日には61歳とされ、その後3年ごとに1歳ずつ引き上げられることに対応して、平成37年3月31日までは労使協定による基準を適用することができます。
例えば、平成28年3月31日までは61歳未満の者につき希望者全員を継続雇用制度の対象としなければなりませんが、61歳以上の者については当該基準の適用が可能です。

本改正により希望者全員が継続雇用制度の対象となることから、今後、高年齢者の雇用の増加によるコスト増が見込まれます。各事業者においては、給与体系の見直しや、多様な勤務形態の整備、若年者の採用とのバランスを図ることなど、全体的・長期的な視野をもって対策を講じていく必要があります。
*厚生労働省HP(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1.html)_

『取引先が倒産した場合の債権回収について』

2012/10/15

(執筆者:弁護士 松原浩晃)

【Q.】
当社は、工作機械の製造会社ですが、今般、取引先の卸売会社(A社)が倒産し、数日中に破産申し立てを行う予定であることを聞き付けました。現在、当社はA社に対し、数千万円に上る工作機械の売掛金を有しています。当社としては、少しでも多く売掛金を回収したいと考えていますが、何かよい方法はあるでしょうか。_

【A.】
1.はじめに
法人が破産を申し立てた場合の以後の流れとしては、申し立てを受け付けた裁判所が破産手続開始決定を発令した後、裁判所から選任された破産管財人が破産会社の財産を換価し、配当可能なほどの破産財団が形成されれば、破産債権者への配当が行われることになります。
破産債権者が破産会社の支払不能以後に破産会社より弁済を受けた場合には、後に偏頗(へんぱ)弁済として破産管財人より否認されるおそれがありますし、破産手続開始決定がなされた場合は、個別的な債権回収は禁止され、破産手続の中で満足するほかないのが原則です。
もっとも、担保権者には別除権として破産手続外での権利行使が認められるなどの例外もあります。
御社の場合、考えられる手段としては、所有権留保または動産売買先取特権に基づく権利行使があります。以下、順にご説明します。

2.所有権留保について
割賦販売契約などでよく見られますが、売買契約において、目的物の占有を買主に移転する一方、所有権は代金完済まで売主に留保(代金完済時に所有権移転)することがあり、所有権留保と呼ばれています。
この所有権留保については、実質的には、代金債権確保のための担保的要素が強く、破産手続においても、担保権として別除権と扱うのが一般的です。
そこで、御社においても、A社との間での売買契約書等で代金完済まで所有権を留保しているのであれば、留保所有権に基づき、A社(破産手続開始決定以後は破産管財人)に対し、目的物の引き渡しを求めることが考えられます。もっとも、所有権留保はあくまで代金債権を担保するためのものですから、目的物の評価額が残代金債権を上回っている場合には、その差額をA社(破産管財人)に支払って清算する必要があります。
なお、目的物が既に第三者に転売されている場合でも、第三者に対し留保所有権を主張できる余地はありますが、第三者による即時取得等の問題があります。

3.動産売買先取特権について
動産売買先取特権は、動産を売買した際に、その売買した動産から他者に優先して弁済を受けることができる権利です。法律の規定により当然に生じる権利であり、所有権留保のように当事者間での合意を必要としません。この動産売買先取特権についても、破産手続上は、別除権として扱われることになります。
もっとも、動産売買先取特権は、当該動産が第三者に転売された後は、動産自体に権利行使することができなくなります。この場合、売主としては転売代金債権を差し押さえて、そこから回収を図ることになりますが、転売代金が第三者から買主(転売人)に支払われてしまえば、もはや転売代金債権を差し押さえることもできなくなりますので、注意が必要です。
御社においても、まだ目的物がA社の下にあるのであれば、当該目的物について動産競売を申し立てることが考えられます。また、目的物がA社から第三者に転売されたものの転売代金支払前であれば、その転売代金債権を差し押さえることが考えられます。
以上の点は、破産手続開始決定がなされ破産管財人が選任された後も変わりませんが、目的物が第三者に転売され転売代金が支払われてしまえば、もはや動産売買先取特権による回収は不可能となってしまいますので、御社でも速やかに対応を検討し適切な手続を取る必要があります。_

『有期労働契約に関する新しいルール』

2012/09/10

(執筆者:弁護士 岩崎浩平)

【Q.】
パート・契約社員など、契約期間の定めのある雇用に関して、労働契約法の一部が改正されたと聞きました。この改正の概要を教えてください。_

【A.】
ご質問の改正は、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結している労働者(有期契約労働者)の保護を目的に、次の1から3までの各規定を労働契約法に追加する改正です。
2の規定は平成24年8月10日に施行され、1及び3の各規定は同日から起算して1年以内の政令で定める日に施行されます。

1.有期労働契約の期間の定めのない労働契約(無期労働契約)への転換(第18条)
2つ以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間(通算契約期間)が5年を超えるときは、使用者への有期契約労働者の申込みにより、現に締結している有期労働契約の契約期間満了日翌日から労務提供される無期労働契約が成立する旨が規定されています。有期契約労働者の申込みは口頭で足りると解されます。
また、無期労働契約の期間の定め以外の労働条件は、従前の有期労働契約の労働条件と同一ですが、労働条件変更に関する合意等があれば、期間の定め以外の労働条件も変更可能です。
なお、有期労働契約が6か月以上の空白期間後に再度締結されたときなどには、通算契約期間の計算はリセットされます。

2.更新拒否(雇止め)の制限(第19条)
�@有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合、または�A労働者が有期労働契約の契約期間満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合には、雇止めが制限される旨が規定されています。この規定は、最高裁判例で確立している法理を定めたものです。
�@の該当例としては、契約期間を2か月とする臨時工が、採用時に使用者から「2か月の期間が満了しても真面目に働いていれば解雇されることはない。安心して長く働いて欲しい」と言われ、その仕事の内容及び種類の点で無期契約労働者と差がなく、簡易な更新手続で契約が5回更新されてきたなどの事情がある場合があげられます。
また、�Aの該当例としては、契約期間を2か月とする臨時工が、実態としては季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、契約書に期間の更新欄があらかじめ印刷され、就業規則で年休、定期健康診断等に関して規定され、契約が5回更新されてきたなどの事情がある場合が考えられます。

3.期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止(第20条)
有期契約労働者の労働条件(賃金等のみならず、労働契約の内容となっている福利厚生等労働者に対する一切の待遇を含む)が、期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、労働者の業務の内容等を考慮して、有期契約労働者にとって不合理であってはならない旨が規定されています。例えば、通勤手当、安全管理等の点で差があれば、特段の理由がない限り不合理であると解されます。
不合理とされた労働条件の定めは無効となり、さらに、使用者が当該有期契約労働者に対して損害賠償責任を負う可能性もありますので、注意が必要です。_

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