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トピックス・法律情報

有期雇用の無期転換ルールの特例

2014/04/21

(執筆者:弁護士 雑賀裕子)

【Q.】
昨年4月から、同じ職場で5年を超えて働いた契約社員等は、本人が希望すれば無期雇用へ転換できるという新ルールが導入されましたが、この新ルールに特例が設けられると聞きました。どのようなケースを対象に、どんな措置がとられるのでしょうか。

【A.】
1.有期労働契約の無期転換ルール
平成24年8月、有期雇用労働者の雇用の安定等を図るため、労働契約法が一部改正されました(改正の概要は、2012.9.10「有期労働契約に関する新しいルール」ご参照)。この改正により、平成25年4月1日より、同一使用者との間で有期労働契約が通算で5年を超えて反復更新された場合は、労働者から使用者への申込みにより、無期労働契約に転換することができるようになりました(同法第18条。以下「無期転換ルール」)。
しかし、このルールの導入により、とくに定年退職後の高齢者について、無期転換申込権が発生する直前に企業側が雇い止めをする懸念があり、かえって有能な高齢者の安定的な雇用が難しくなるとの指摘があります。
また、高収入かつ高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者については、産業の国際競争力の強化等を図る観点から、国家戦略特別区域法において、無期転換申込権の発生までの期間のあり方等について検討を加え、必要な措置を講ずるとされ、有期雇用期間の上限に対し、規制緩和の方針が打ち出されていました。
このような状況を踏まえ、平成26年3月7日、政府はこれらの者について無期転換ルールの特例を設け、有期雇用期間を延長する旨の「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法案」を、閣議決定しました。

2.無期転換ルールの特例
この特例の主な内容は、特例の対象者について、無期転換申込権発生までの期間(現行5年)を延長するというものです。その対象者は、以下のとおりです。
�@「5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務」に就く、高度な専門的知識、技術または経験を有する有期雇用労働者(その賃金が厚生労働省令で定める額以上である者に限る)
�A定年(60歳以上のものに限る)後に引き続き雇用される有期雇用労働者
特例の効果として、�@の者は、一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(上限10年)は、無期転換申込権が発生しないこととされます。また、�Aの者は、定年後引き続き雇用されている期間は、通算契約期間に算入しないこととされます。
ただし、特例の適用に当たっては、対象労働者の能力を有効に発揮させるという特例の趣旨や対象労働者の保護等といった観点に鑑み、事業主には適切な雇用管理の実施が求められます。事業主は、厚生労働大臣が今後定める基本指針にしたがって、対象労働者の特性に応じた雇用管理に関する措置を計画し、厚生労働大臣の認定を受け、これを実施することが必要となります。
適切な雇用管理の例として、�@の者には、労働者が自らの能力の維持向上を図る機会を付与すること等、�Aの者には、配置、職務及び職場環境に関する配慮等などが挙げられています。
詳しい内容は、厚生労働省のHP*をご確認ください。なお、政府は今国会での特別措置法の成立、来年4月の施行を目指していますので、今後の動向には注意が必要です。
* http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000037665.html

労働者派遣の業務単位による受入期間制限の撤廃

2014/04/16

(執筆者:弁護士 竹田千穂)

【Q.】
 最近の報道で、来年の労働者派遣法改正によって、すべての業務において原則、3年ごとに人を交代すれば、派遣労働者に仕事を任せ続けられるようになる見込みだと聞きました。その内容と、注意すべき点について教えてください。

【A.】
1.はじめに
 厚生労働省の労働政策審議会の部会は、平成26年1月29日、厚生労働大臣に対し、平成27年4月の施行を目指す「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(以下「労働者派遣法」)の改正に関する最終報告書*1を提出しました。同報告書に沿った改正法案が、現在開会中の国会に提出される予定です。
 最終報告書の詳細は下記URLをご覧ください。
 http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11654000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu-Jukyuchouseijigyouka/0000036087.pdf

2.報告書の骨子
 本報告書は、基本的な考え方として、労働者派遣事業が労働力の需給調整において重要な役割を果たしていることを評価したうえで、雇用の安定と処遇の改善を進めていく必要があること等を示したものです。その具体的措置として、�@登録型派遣・製造業務派遣を原則禁止しない、�Aすべての労働者派遣事業を許可制にする、�B業務単位による期間制限を撤廃する、�C直接雇用を推進する、�D派遣先企業の責任について周知等を行う、�E派遣労働者の処遇を改善する、�F派遣労働者のキャリアアップを支援する、等を講じるものとしています。
 今回はこの中から、�B業務単位による期間制限の撤廃についてご説明します。

3.業務単位による期間制限の撤廃
 これまでは、通訳や秘書などのいわゆる「専門26業務」を除き、企業が派遣労働者に仕事を委ねることができるのは最長3年という期間制限がありました。これは、労働者派遣法が、派遣労働を臨時的・一時的な働き方と位置づけることを原則としていることによるものです。
 しかし、具体的にどのような仕事が「専門26業務」に該当するのかが不明確であり、業務単位での期間制限がわかりにくい等の問題があったことから、本報告書では、業務単位による期間制限を撤廃し、人ごとに期間制限を設けることとしました。すなわち、派遣先企業は、派遣元事業主との間で有期の雇用契約を結んでいる派遣労働者につき、同一の組織単位において、同じ者を3年を超えて継続して受け入れることができません(例外として、無期雇用の派遣労働者や60歳以上の高齢者等は、期間制限の対象から除外されます)。逆に言えば、派遣先企業は3年ごとに人員を交代させることにより、派遣労働者に同一の仕事を任せ続けられるようになります。
 もっとも、本報告書も、派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限るとの原則を変更するものではないため、派遣労働が正社員の雇用を代替してしまわないよう、人員を交代して派遣労働者に同じ仕事を任せ続ける場合には、過半数労働組合に意見を聞くよう派遣先企業に求めています。
 そして、派遣元事業主は、派遣労働者が3年働いた時点で引き続き就業することを希望する場合には、 �@派遣先企業に直接雇用を依頼する、�A新たな就業機会(派遣先)を提供する、�B派遣元事業主において無期雇用に転換する等の措置を講じることにより、雇用の安定を図る必要があります。

4.おわりに
 本報告書に沿った労働者派遣法の改正が行われれば、派遣先企業は今よりも派遣労働者を活用しやすくなり、派遣労働者は雇用の安定が図られます。その一方で、派遣元事業主は負担が増えると予想されます。

商標制度、守れていますか?

2014/02/25

(執筆者:弁護士 竹村知己)

【Q.】
最近、音や色などを商標として登録できるような法改正が行われると聞いたのですが、そもそも現行の商標制度についての理解が曖昧です。商標制度の意義について、簡単に教えてください。

【A.】
1.はじめに
特許庁は先日、音や色、動きといったものを新たに商標として登録できるよう法改正を行うとの方針を発表しました。この法改正により商標の範囲が広がれば、言葉の壁を越えてさらに企業ブランドを商品やサービスに盛り込めるほか、コピー商品を排除する抑止力としての機能が期待できます。一方、自社で使用する標章を他者に先に登録されてしまい、商標権を巡る紛争に発展するというリスクもあり、注意が必要です。

2.商標とは
現行法における「商標」とは、�@文字、図形、記号、立体的形状のいずれか、�Aこれらを組み合わせたもの、�B�@ないし�Aに色彩が結合したもの(以下「標章」)であって、自己の業務に係る商品・役務について使用するものを言います(商標法2条1項。以下、記載のない場合は同法を指す)。
一定の要件を満たし商標登録が認められると、指定商品・指定役務につき登録商標を使用する権利を専有できます(25条)。また、商標権侵害に対して、後述のような救済策があります。

3.商標権侵害の基準
商標権侵害となるのは、登録された指定商品・指定役務と同一又は類似の商品・役務について、登録商標と同一又は類似する標章を使用する場合です。つまり、商品・役務が非類似であれば、他人の登録商標と同一又は類似の標章を使用しても商標権侵害になりません(ただし、防護標章登録されている場合は侵害となり得ます<64条、67条1号>)。
商標の類否は、外観、称呼、観念を全体的に考察し、取引の実情を考慮して、商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるかを基準に判断されます(最判昭和43年2月27日)。また、商品・役務の類否は、当該商品・役務に同一又は類似の商標が付けられた場合に出所の誤認混同が生じるかにより判断されます(最判昭和36年6月27日)。
実務上、商標権侵害との関係では様々な点が争われますが、しばしば商標の「使用」に当たるかが争われます。一般に、形式的に2条3項各号が定める行為に該当しても、当該商標が出所を表示する機能を果たす態様で用いられていない場合には、商標の「使用」に当たらないと解されています(例えば、商標が単なるデザインとして用いられている場合、「使用」に当たらないことがあります)。
結局のところ、これらは事案ごとの個別的判断にならざるを得ません。

4.商標権侵害に対する救済策
仮に自社の登録商標を他人に無断で使用された場合、どのような対応が可能でしょうか。
第1に、商標権者として、�@当該商標を使用することの差止請求(36条1項)及び廃棄請求(36条2項)、�A謝罪広告等による信用回復措置請求(39条)のほか、�B損害賠償請求(民法709条、商標法38条)といった民事上の請求をすることができます。
第2に、商標権侵害をした者には刑罰が科せられることもあります。従業員等が業務として商標権を侵害した場合には、その個人のほか、法人についても刑罰が科される可能性がありますので(78条、78条の2、82条)、告訴を検討することも考えられるでしょう。

5.おわりに
標章は、自己の商品や役務であることを消費者にアピールできますが、商標登録することで初めて、排他的に利用できる“商標権”となります。他者の商標権を侵害しないよう注意するとともに、自社で使用する標章は、商標登録し、適正に管理することが重要です。

『障害者雇用促進法の改正』

2013/12/16

(執筆者:弁護士 神部美香)

【Q.】
今年、障害者雇用促進法が改正されたと聞きましたが、事業主としてどのような点に注意すればよいでしょうか。_

【A.】
1.障害者の雇用促進の流れ
すべての事業主には、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があります。今年4月から、民間企業における障害者の法定雇用率が1.8%から2.0%に引き上げられ、同時に、適用事業主の範囲が「常用雇用労働者50人以上」に拡大されました。
また、平成20年の障害者雇用促進法(以下「促進法」)の改正により、平成27年4月から、後述の障害者雇用納付金制度の対象事業主の範囲が、常用雇用労働者101人以上に拡大されるなど、次々と障害者の雇用促進のための施策が推進されています。

2.平成25年6月の促進法改正の内容
この流れを受け、さらに今年6月19日、促進法の一部を改正する法律(以下「本改正」)が公布されました。本改正は、大きく、�@障害者権利条約の批准に向けた対応に係る部分と、�A法定雇用率の算定基礎の見直しに係る部分に分けられます。
�@に関し、今般新たに、障害を理由とする差別禁止規定(促進法34条、35条)及び合理的配慮の提供義務規定(促進法36条の2乃至36条の4)が設けられました(平成28年4月施行)。これらの規定は、募集・採用の局面と雇入れ後の局面とを両方規定しており、厚生労働省作成の「障害者雇用促進法の改正の概要*」によれば、障害を理由とする採用拒否、賃金の引き下げ、研修や現場実習の非実施、食堂や休憩室の利用不許可等は、差別に該当するものとされています。
また、募集・採用時の配慮の具体例としては、問題用紙の点訳・音訳、拡大読書器の利用、回答時間の延長などが、雇入れ後の配慮の具体例としては、車椅子利用者に合わせて作業台等の高さを調整すること、筆談すること、手話通訳者・要約筆記者等を配置・派遣すること、通勤ラッシュを避けるために勤務時間を変更することなどが挙げられています。
�Aは、事業主に義務付けられている障害者雇用の法定雇用率について、その算定基礎に、従来の身体障害者・知的障害者のみならず、精神障害者を加えることを内容とするものです。法定雇用率は、わが国全体の労働者の総数に占める障害者認定を受けた労働者の総数の割合を基準として設定されますが、精神障害者が加わることにより、今後、法定雇用率の引き上げが予想されます。法定雇用率を達成できない事業主からは、現行どおり、未達労働者1人につき月額5万円の「障害者雇用納付金」が徴収されるため、今後の事業主負担が増大するおそれがあります。
なお、前述のとおり、今年4月に法定雇用率が引き上げられ、また平成27年4月には障害者雇用納付金制度の対象が拡大されることで事業主の負担増が見込まれる上、精神障害者の雇用義務化は、法定雇用率のさらなる引き上げに繋がるとして、使用者側から強い反対が示されました。その結果、�Aの施行日を平成30年4月に設定するとともに、施行日からさらに5年間の経過措置(改正法附則4条)が定められました。
* http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha_h25/dl/kaisei02.pdf

3.本改正による影響と差別禁止規定の私法上の効果
このように、本改正によって、促進法は、常用雇用労働者を一定以上擁する事業主や、現に障害者を雇用している事業主に限らず、差別禁止や合理的配慮提供義務という点において、あらゆる事業主にとって関係のあるものとなります。促進法は、直接私法上の効果は生じさせないものの、公序良俗(民法90条)、不法行為(民法709条)または信義則(民法1条2項)等を介して、間接的に効果が生じると考えられるため、今後は募集・採用等にあたり、新たに規定される促進法の内容を念頭に置いた対応が望まれます。_

『消費税の転嫁と共同行為について』

2013/11/18

(執筆者:弁護士 岸野 正)

【Q.】
消費税の転嫁について、当社のような中小事業者が取引先と交渉しても、受け入れられるのは難しいと思うのですが、同じような立場の事業者と協力して取引先と交渉する方法はありますか。_

【A.】
1.はじめに
「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法」(以下「特措法」)が平成25年10月1日より施行されていますが、これに先立ち、公正取引委員会をはじめ、関係各省庁からそれぞれガイドライン*が公表されており、消費税の転嫁を検討するに際して参考になります。
*_http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h25/sep/tenkaGLkouhyou.html
特措法では、市場での価格形成力の弱い中小事業者に配慮し、同法2条3項で定義する中小事業者(例えば、「製造業、建設業、運輸業」では従業員300人以下または資本金3億円以下の事業者が該当)において、「消費税の転嫁の方法の決定」について、事前に公正取引委員会に対し届け出たうえで、複数の事業者(参加事業者の3分の2以上が中小事業者)または事業者団体もしくは複数の事業者団体(各団体の構成事業者の3分の2以上が中小事業者)等による共同行為が許容されています(同法12条)。

2.共同行為として許容されるもの
独占禁止法との抵触が問題となりますが、公正取引委員会のガイドラインによれば、例えば、�@各事業者がそれぞれ自主的に定めている本体価格に消費税額分を上乗せする旨の決定、�A消費税率引上げ後に発売する新製品について、各事業者がそれぞれ自主的に定める本体価格に消費税額分を上乗せする旨の決定、�B消費税率引上げ分を上乗せした結果、計算上生じる端数について、対象となる商品の値付け単位、取引慣行、上乗せ前の価格からの上昇の度合等を考慮して、切上げ、切捨て、四捨五入等により合理的な範囲で処理する旨の決定、といったものが共同行為として許容されます。
一方、�@消費税率引上げ後の税抜価格又は税込価格を統一する旨の決定、�A消費税率引上げ分と異なる額(率)を転嫁する旨の決定、�B消費税の全部又は一部の転嫁をしないことの決定、�C合理的な範囲を超える不当な端数処理を行う旨の決定、�D簡易課税方式を選択する(又は選択しない)旨の決定、といったものは「消費税の転嫁の方法の決定」に該当せず、許容されませんので注意が必要です。
このほか、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を維持し若しくは引き上げることとなるとき」として、例えば、消費税率引上げ前の税込価格に消費税率引上げ分を上乗せする旨の共同行為を通じて消費税率引上げ分を上乗せした後の対価を不当に維持したり、消費税率引上げ分以上に対価を不当に引き上げたりすること、「事業者が不公正な取引方法を用いるとき又は事業者団体が構成事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにするとき」として、例えば、事業者団体が、共同行為に参加しない構成事業者に対して、それを理由に制裁を課すことにより当該構成事業者の事業活動を困難にさせることなどは、共同行為として許容されません。
なお、共同行為が許容されるのは、平成26年4月1日から平成29年3月31日までの間における商品または役務の供給を対象とするものであって(つまり、許容されるのは販売についてのもので、購入する場合の共同行為は許容されません)、平成25年10月1日から平成29年3月31日までの間に行うものに限られます。

3.おわりに
以上のように、要件を備えた中小事業者または中小事業者が構成員となる事業者団体が共同して「消費税の転嫁の方法の決定」を行うことが許容されていますので、同様な立場にある事業者等と協力して対処することも検討されてはいかがでしょうか。このほか、すべての事業者は、税率引上げ後の価格について、「消費税についての表示の方法の決定」に係る共同行為も許容されています。詳細は、公正取引委員会のガイドラインやパブリックコメントに対する回答を参照ください。_

『競業避止義務契約の有効性』

2013/09/20

(執筆者:弁護士 西堀祐也)

【Q.】
当社は、従業員との間で退職後の競業避止義務契約を締結していますが、裁判ではその契約が無効とされる場合もあると聞きます。契約が有効となるためのポイントを教えてもらえないでしょうか。_

【A.】
1.はじめに
企業が保有している顧客や技術等の情報を退職者により競業に利用されてしまうと、企業活動に大きな影響を受けます。そのため、企業の利益を守る手段として、従業員との間で退職後の競業避止義務契約を締結することが広く行われています。
一方で、競業避止義務契約は、憲法で保障された職業選択の自由を制限する側面を有するため、過度に制限的な契約は、裁判において、公序良俗違反として無効(民法90条)と判断される場合があります。そこで、契約の締結に当たっては、その有効性を判断した裁判例の傾向を知ることが重要です。
この点、経済産業省は、有識者による委員会において取りまとめた報告書(平成24年度「人材を通じた技術流出に関する調査研究」)をもとに、平成25年8月16日に営業秘密管理指針を改定し、競業避止義務契約の有効性判断のポイントを示しました(同指針58頁以下)。そこで、本稿ではこれを取り上げ、概要を説明します。
※詳しくは、経済産業省HPをご参照ください。
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html

2.有効性判断のポイント
同指針では、裁判例において、競業避止義務契約の有効性につき、�@守るべき企業の利益があることを前提として、契約内容が目的に照らして合理的範囲内にとどまっているかどうかの観点から、�A従業者の地位、�B地域的な限定の有無、�C競業避止義務の存続期間、�D禁止される競業行為の範囲、�E代償措置の有無の項目を考慮して判断されている、と指摘しています。
このうち、「�@守るべき企業の利益」については、不正競争防止法上の要件を満たす営業秘密に限定はされないものの、包括的ではなく具体的に存在していることが必要であり、「�A従業者の地位」については、形式的な職位ではなく、具体的な業務内容の重要性、特に使用者が守るべき利益との関係が判断されていると指摘しています。
また、「�B地域的な限定」については、使用者の事業内容や職業選択の自由に対する制約の程度、特に禁止行為の範囲との関係を意識した裁判例が見られ、地域的制限がないことのみをもって有効性が否定されているわけではないこと、また、「�C存続期間」については、あくまで労働者の不利益の程度、業種の特徴等との関係で判断されますが、1年以内の期間は肯定的に捉えられているものの、近年は2年の期間について否定的に捉えている裁判例が見られることを指摘しています。
さらに、「�D禁止行為の範囲」については、競業企業への転職を一般的・抽象的に禁止するだけでは合理性が認められないことが多いのに対し、業務内容や従事する職種等が限定されている場合には、肯定的に捉えられていると指摘しています。
最後に、「�E代償措置」については、代償措置と呼べるものが何もない場合には有効性を否定されることが多いと指摘しています。
なお、今回の改定により追加された同指針の参考資料6では、上記の項目ごとに裁判例の要旨が整理されており、詳細を知るうえで参考となります。

3.おわりに
同指針が指摘したポイントは、近時の裁判例の傾向を整理したもので、契約の締結に当たり参考となるものです。もっとも、一定の傾向はあるとしても、裁判例の判断は個別の事案についてのものですので、貴社の場合にどのような規定であれば契約が有効となるかに関しては、貴社の実情に即した具体的な検討が必要です。_

『濫用的会社分割と詐害行為取消権について』

2013/08/19

(執筆者:弁護士 松原浩晃)

【Q.】
当社は、ここ数年、慢性的な赤字体質により膨らんだ借入金の返済に苦しんでいます。そこで、知人に相談したところ、「新設分割の方法による会社分割を行い、設立会社に優良事業を承継させ、不採算事業や金融機関に対する債務を分割会社に残して、分割会社を法的整理により清算すればいい」と言われました。この方法によれば、金融機関の承諾なく債務を圧縮できるそうです。本当にそのようなことができるのでしょうか。_

【A.】
1.会社分割を用いた私的整理(第二会社方式)
ご質問のスキームは、私的整理において、「第二会社方式」と呼ばれる手法です。
典型例としては、債務者の事業や資産のうち、今後の事業継続に必要な優良事業や資産のみを新会社(設立会社)に承継させる新設分割を行い、債務者自身(分割会社)は破産や特別清算等の法的整理によって清算するケースが考えられます。その際、分割対価として発行された設立会社の株式は、分割会社からスポンサー等の第三者に譲渡され、その譲渡代金及び分割会社に残された遊休資産等が分割会社の残存債権者に対する弁済原資となります。
この新設分割の場合に、分割会社が設立会社に承継される債務の全てについて併存的債務引き受けをすれば、会社分割について異議を述べることができる債権者が存在しないこととなる結果(会社法810条参照)、官報公告や債権者に対する個別通知を省略して会社分割を行うことも可能です。
第二会社方式は、簡易迅速な手続きで債務の圧縮や不採算事業廃止に伴う経営資源の有効利用を実現できるだけでなく、税務上のメリット、簿外債務リスクの遮断によりスポンサーが付きやすいといった長所があることから、実務においても多く利用されています。

2.濫用的会社分割と詐害行為取消権
ところが、近年、残存債権者に異議を述べる機会を与えることなく会社分割を完遂できるというこのスキームを悪用し、特定の債権者を不当に害する会社分割が行われるケースが増えています。
このような濫用的な事例に対しては、民法の詐害行為取消権や法人格否認の法理、会社法22条1項の商号続用責任、倒産法の否認権といった主張により、対抗することが考えられます。
このうち詐害行為取消権について、平成24年10月12日、最高裁判所として初めての判断が下されました。
本事件では、�@分割会社Aが設立会社Yに不動産(担保余力約3300万円)を含む債権債務を承継させるとともに、�AYの承継債務につきAが併存的債務引き受けを行い、�BYがAに対し発行株式の全部を割り当てる、という新設分割を行いました。
この新設分割において、Aが債権者Xに対して負う保証債務(約4億5000万円)はYに承継されませんでした。さらに、この新設分割の直後、Aは株式会社Bを新たに設立する新設分割を行い、AにはYとBの株式以外には全く資産のない状態となりました。
そこで、XがYに対し、詐害行為取消権に基づき、会社分割の取消、及び、上記不動産について行われた会社分割を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続きを請求したものです。
この事案につき、最高裁判所は、分割会社の残存債権者は、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると判示しました。 

3.まとめ
確かに、ご質問のスキームを用いれば、金融機関等の債権者にも秘匿したまま無断で会社分割を行い、債務の圧縮を図ることが可能です。しかし、詐害行為取消等により会社分割の効力が否定されるリスクが残ってしまいます。
やはり、私的整理においては、債権者に対し、再生スキームについて十分に説明し、可能な限り、その理解・協力を得てから実行することが肝要と言えるでしょう。_

『いわゆる消費税転嫁法について』

2013/07/19

(執筆者:弁護士 雑賀裕子)

【Q.】
消費増税に向けて、先ごろ、大手仕入業者が中小の納入業者に消費税の負担を迫ることを禁じたり、「消費税還元セール」と銘打った広告などを禁じる法律が成立したそうですが、法律の具体的な内容を教えてください。_

【A.】
消費税の納税義務者は事業者ですが、転嫁を通じて最終的には消費者が負担することが予定されています。平成26年4月からの消費税率の引き上げに際し、事業者が、消費税を円滑かつ適正に転嫁できるようにするため、平成25年6月5日に「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」が成立しました(同月12日公布、一部を除き同年10月1日施行。ただし、同法の規制の対象は、平成26年4月1日以降に供給する商品または役務について行われる転嫁拒否等の行為や転嫁を阻害する表示となります)。
本稿では、同法が定める特別措置のうち、主な2点をご紹介します。

1.消費税転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置
特定事業主(大規模小売事業主、特定供給事業主から継続して商品又は役務の供給を受ける法人事業主)が、特定供給事業者(大規模小売事業主に継続して商品又は役務を供給する事業主、個人事業主・資本金等の額が3億円以下である事業主等であって、特定事業主に継続して商品又は役務を供給する事業主)から受ける商品又は役務の供給に関して、以下の行為を行うことが禁じられます。
ア.減額・買いたたき
…商品もしくは役務の対価の額を減じ、又は通常支払われる対価に比して低く定めることにより、消費税の転嫁を拒むこと
イ.購入強制、役務の利用強制、不当な利益提供の強制
…消費税の転嫁に応じることと引き換えに、商品を購入させもしくは役務を利用させ、又は金銭・役務その他の経済上の利益を提供させること
ウ.税抜き価格での交渉の拒否
…商品又は役務の対価に係る交渉にて消費税抜き価格を用いる旨の申出を拒むこと
エ.報復行為
…特定供給業者が公正取引委員会等に対しこれらの行為に該当する事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取り扱いをすること
公正取引委員会・主務大臣・中小企業庁長官は、これらの行為の防止・是正のための指導・助言を行い、違反行為があると認められるときには、公正取引委員会において、必要な措置をとるよう勧告し、その旨公表します。

2.消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置
事業主において、消費税の転嫁を阻害する以下の表示をすることが禁じられます。
ア.取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示
…「消費税は当店が負担しています」など
イ.取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部または一部を対価の額から減ずる旨の表示であって消費税との関連を明示しているもの
…「消費増税分値引きします」など
ウ.消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であってイ.に掲げる表示に準ずるものとして内閣府令で定めるもの
…「消費税相当分、次回購入時に利用できるポイントを付与します」など

これらの表示に対する指導・勧告等は内閣総理大臣等により行われます。
同法では、このほか、価格の表示に関する特別措置、消費税の転嫁及び表示の決定に係る共同行為に関する特別措置なども定められていますので、ご関心をお持ちの方は公正取引委員会HPなどでご確認ください。
また、今後、ガイドライン等が策定される予定もありますので、これらの動向にもご注意ください。_

『解雇に関するルールが変わる?』

2013/06/01

(執筆者:弁護士 岩崎浩平)

【Q.】
最近、解雇に関するルールが変わるかもしれないと報道されていますが、どのように変わるのでしょうか。_

【A.】
1.解雇ルールの現状
解雇に関するルール(以下「解雇ルール」といいます。)については、現在、解雇予告(労働基準法第20条)、解雇理由の制限(労働組合法第7条第1号等)など、様々な規制が存在します。労働契約法第16条の規定(「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」)は代表的な解雇ルールですが、この規定を含め、現在の解雇ルールには必ずしも明確でないものがあります。その結果、解雇の有効性が明確にならないまま、無用な法的手続(労働審判、裁判等)に発展するという問題が指摘されています。また、現在の解雇ルールについては、解雇無効を主張する労働者が職場復帰ではなく金銭的解決を望むこともあるという実態を制度として反映できていないなど、必ずしも合理的でないという問題も指摘されています。さらに、現在の解雇ルールについては、解雇要件が厳格過ぎるため、正規雇用者が著しく厚遇されて非正規雇用者との著しい格差を生み出す、高年齢の正規雇用者が保護され若者の雇用を阻害する、雇用の流動性が失われて成長産業への人材移動が進まず経済成長を阻害するなどの問題も指摘されています。_

2.解雇ルール変更の方向性
このように様々な問題を有する解雇ルールの変更については、日本経済再生本部の下で開催される産業競争力会議で議論が始まったばかりです。現時点で、解雇ルールの変更の詳細、実現可能性等は不明ですが、産業競争力会議での平成25年3月15日付配布資料(首相官邸HPで閲覧可能)では、次の�@乃至�Eのような記載が見受けられ、その方向性を窺うことができます。
�@正規雇用者の雇用が流動化すれば、待機失業者が減り、若年労働者の雇用も増加すると同時に、正規雇用者と非正規雇用者の格差を埋めることにもなる
�A現行規制の下で企業は、雇用調整に関して「数量調整」よりも「価格調整」(賃金の抑制・低下と非正規雇用の活用)に頼らざるを得なかった。より雇用しやすく、かつ能力はあり自らの意志で積極的に動く人を後押しする政策を進めるべきである
�B労働市場の流動性を高め、失業を経由しない成長産業への人材移動を円滑にすると同時に、セーフティネットを作る
�C解雇ルールの合理化・明確化(再就職支援金の支払いとセットでの解雇などを含め、合理的な解雇ルールを明文で規定)
�D民法627条に明記されている解雇自由の原則を労働契約法にも明記し、どういう場合には解雇を禁止するか、あるいは解雇の際に労働者にどういう配慮をすべきか、といった規定を明文で設けるべきである
�E判例に基づく解雇権濫用法理による解雇ルール(労働契約法第16条)を見直す_

3.おわりに
解雇ルールの変更は、「明確化」及び「合理化」により、前述したような各問題の解消を目指すものであると考えられます。労働契約法第16条との関連では、一定額の金銭支払いと併せれば解雇が有効になると明文化することも検討されたようです。近時、解雇ルールの変更の一部見送りという報道もなされていますが、今後、何かしらの解雇ルールの変更が実現されれば、解雇の判断基準等に影響を与え、就業規則の変更等が必要になる可能性もあるため、その動向を注視することが適切でしょう。_

『TwitterやFacebookを安心して利用してもらうために 〜ソーシャルメディアポリシーとガイドライン〜』

2013/05/27

(執筆者:弁護士 竹田千穂)

【Q.】
近年、ソーシャルメディアポリシーやガイドラインを策定する企業が増えていると聞きました。当社でもFacebookを個人的に使っている従業員がおり、策定を考えています。策定の際の注意点はありますか。_

【A.】
1.ソーシャルメディアとは
「ソーシャルメディア」とは、Facebook、YouTube、Twitter、ブログなど、インターネットやウェブ技術を使用して個人の発信をもとに、不特定多数のユーザーがコミュニケーションを行うことが可能なメディアをいいます。近年、企業がソーシャルメディアを活用して広告等を行い、商品の認知や集客に大きな効果を上げている例も見られます。

2.ソーシャルメディアポリシー及び同ガイドライン策定の目的・必要性
一方、企業の広報部等のみならず個人によるソーシャルメディアの利用が増加したことで、従業員等が個人アカウントにて顧客の個人情報を漏えいするなど、企業の価値を低下させる事態も起こるようになりました。そのため企業には、ソーシャルメディアに不慣れな従業員でも安心して適切に利用でき、その利用が企業価値の向上に資するよう、対策を取ることが求められています。具体的には、ソーシャルメディアの利用に対する企業の方針を記載したポリシーや、利用時の注意点等を記載したガイドラインを策定するとともに、適用対象となる従業員等に研修を行うなどして周知徹底させる必要があります。
なお、個人アカウントでの利用を前提としたガイドラインのほかに、企業の公式アカウント利用についても、運用担当者向けのルールを別途策定しておいた方がよいでしょう。

3.ガイドラインへの記載事項
記載事項に決まりがあるわけではありませんが、少なくとも次のような事項は記載しておくとよいでしょう。
○営業秘密の保護(企業の営業秘密を第三者に漏えいすること等の禁止)
○個人情報の保護(個人情報保護法や社内規程等を遵守すること)
○著作権法等の知的財産権法の遵守、誹謗中傷の禁止(特定の個人や団体への名誉棄損や差別的表現の禁止。特定の思想、信条、宗教、政治等に関する攻撃的、差別的表現を差し控えること)
○責任の明記(個人アカウントにおける発言に対する自己責任の明確化と、所属する企業とは何ら関係ないことの表明)
○デジタルツールとしての特質の理解(一度発信した情報は瞬時に伝達され、完全には消去できない性格のものであることを理解し、表現には細心の注意を払うこと) 等
そして、ガイドラインの策定にあたっては、適用対象である従業員等が容易に理解し、安心して活用できるように、平易な表現を用い、具体例を記載するなどの工夫が必要になります。また、ガイドラインから逸脱した投稿があるかの調査や対処方法などについても、社内体制を整えておくべきでしょう。

4.公式アカウントの運用担当者向けルールへの記載事項
企業のウェブサイトなどで公式アカウントを公表するとともに、運用担当者向けのルールにはソーシャルメディアを利用する際の基本方針のほか、コメントに対する対応方法、投稿内容を訂正する必要が生じた場合の対処方法、パスワードの管理方法などを記載しておく必要があります。

5.おわりに
ガイドライン等を公開している企業もありますので、策定する場合には参考にしてください。また、ポリシーやガイドラインを策定するまでには至らない場合でも、従業員等に対して注意喚起することをお勧めします。_

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