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トピックス・法律情報

オンラインカジノは違法です(法的議論の整理)

2022/06/02

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本ニュースレターに関して、ご質問・ご相談がありましたら、下記にご連絡ください。
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弁護士法人三宅法律事務所
弁護士・公認不正検査士
政府・特定観光施設区域整備推進会議委員
渡邉 雅之
TEL:03-5288-1021
Email:m-watanabe@miyake.gr.jp
※東京大法学部卒。2017年に有識者でつくる特定複合観光施設区域整備推進会議の委員となり、政府に「日本型IR」の在り方を提言した。

_(2022年6月17日更新)
※解説レジュメを作成いたしましたのでこちらもご覧ください。
解説レジュメ:オンラインカジノは違法です。
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山口県阿武町が、新型コロナの給付金を誤ってひとりに4630万円を振り込み、逮捕された男性が「オンラインカジノで使い切った」と話していた問題に関して、2022年6月1日の衆議院予算委員会の集中審議で岸田文雄総理は、オンラインカジノについて「違法なものであり、関係省庁と連携し厳正な取り締まりを行う」との考えを示しました。
オンラインカジノは以下のとおり、日本の法律においては違法であると考えられます。

1 刑法の賭博罪等
(1)賭博罪の構成要件
刑法185条においては、以下のとおり賭博罪の構成要件と、刑罰(50万円以下の罰金または科料)を規定しています。

(賭博)
第百八十五条 賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。

「賭博をした者」とは、平成7年改正前の刑法においては、「偶然ノ輸贏ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者」(=偶然の事情に関して財物を賭けてその得喪を争う者)とされていましたが、現行刑法においても意義については変更はありません。すなわち、�@偶然性、および、�A財物を賭けてその得喪を争うこと、が賭博罪の構成要件となります。
(2)偶然性
「偶然」とは、当事者において確実に予見できず、又は自由に支配し得ない状態をいい、また、主観的に不確実であることをもって足り、客観的に不確定であることまでを要しません(大判大3.10.7、大判大11.7.12)。また、技量等の差異により勝敗が予め歴然としているときは別段、多少とも偶然の事情により勝敗が左右されうるような場合には偶然性が認められます(大判明44.11.13)。
_ _判例上、「偶然性」が認められたものとしては以下のものがあります。

〇闘鶏(大判大11・7・12)  〇取引所の相場(米穀取引所相場、大判明45・5・23)(株式先物相場、大阪高判昭27・11・1) 〇競馬(大判明44・5・6) 〇麻雀(大判昭6・5・2) 〇囲碁(大判大4・6・10)   〇将棋(大判昭12・9・21)  〇ジャンケン札及び花札(大判大12・11・14) 〇チーハー(大判明38・2・2)  〇三突(大判大5・10・6) 〇ピン倒し(大判昭2・11・17) 〇ABC三色ゲーム(札幌高判昭28・6・23)

(3)財物を賭けてその得喪を争うこと
「財物を賭けてその得喪を争うこと」の「財物」とは、有体物に限らず、広く「財産上の利益」であれば足り、債権等を含みます。
「財物の得喪」とは、勝者が財産を得て、敗者はこれを失うことをいいます。富くじ(宝くじ・ロッタリー)の販売は、販売者が財物を失うことはないので、別の犯罪の構成要件とされます(刑法187条)。したがって、オンラインロッタリーについては、賭博罪(185条)ではなく、富くじを販売した罪・富くじを授受した罪(刑法187条1項・3項)が問題となります。
「賭ける」とは、_財物授受の約束があれば足り、現に賭場に提出することを要しません(大判明45.7.1)。金銭に代えて予め購入した遊戯券を提供させる場合も、それが金銭の代用物として使われたにすぎないときは、金銭を賭けたものとされます(札幌高判昭28.6.23)。
(4)一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき(賭博罪の違法性阻却事由)
刑法185条ただし書により、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」が違法性阻却事由となります。
パチンコ・パチスロのように、外形的には客相手に賭博的要素を含む遊技を行う形態の営業行為であっても、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」の規定するところにより風俗営業の許可を受けた者がその許可条件に従って客に遊技をさせる場合には、「一時の娯楽に供する物を賭けている場合」にあたるとして賭博罪の成立が否定されます。
(5)常習賭博罪
常習して賭博をした者は、3年以下の懲役に処せられます(刑法186条1項)。
(6)賭博場開帳罪
賭博場を_開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処せられます(刑法186条2項)。

2 オンラインカジノ(ネットカジノ)
インターネット等を通じて行われるカジノをオンラインカジノ(online casino)と言います。日本では「ネットカジノ」とも言われます。英国領マン島、フィリピン、マルタのように、オンラインカジノ(ネットカジノ)を合法化している国・地域もあります。
オンラインカジノ(ネットカジノ)に対して、カジノ施設で行われるカジノのことをLand based casino(「ランドベースカジノ」)ということがあります。
_ オンラインカジノに参加することが刑法185条の賭博罪に該当し、オンラインカジノを運営する事業者が刑法186条2項の賭博場開帳罪に違反するのではないかとの議論があります。
オンラインカジノ自体が上記1の(1)から(3)で説明した賭博罪(刑法185条1項)の構成要件である「偶然性」「財物を賭けてその得喪を争うこと」のいずれの構成要件にも該当し、違法性阻却事由である「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」に該当しないことは比較的明らかです。
賭博罪の成立を「否定する」(グレーという)論者(グレーゾーン論者)は、下記5のとおり、属地主義・必要的共犯を持ち出して賭博罪の成立がグレーというのです。

3 2016年の2件の摘発事例
_ 2016年には、オンラインカジノ(ネットカジノ)について以下の2件の摘発事例がありました。
(1)1件目の摘発事例(※弁護士ドットコム「海外サーバの「オンラインカジノ」で初の摘発・・・なぜ決済業者が逮捕されたのか?」に筆者がコメントした記事です。)
海外のオンラインカジノに賭け金を振り込むための決済サービスを運営し、プレイヤー(顧客)に賭博をさせていたとして、さいたま市の会社役員の男性ら2人が2016年2月中旬、常習賭博罪の疑いで千葉県警に逮捕されました。無店舗型のオンラインカジノについて、賭博罪が適用されるのは全国初の事案でした。
報道によれば、会社役員らは2012年から2015年までのおよそ3年間、海外のオンラインカジノが利用できる決済サービスを運営し、常習的に不特定多数の客に賭博行為をさせていた疑いが持たれています。これまで10億円を超える利益をあげていたとみられます。
バカラなどができるソフトを客のパソコンにインストールさせたうえで、賭け金を指定の口座に振り込ませ、勝敗に応じて現金を払い戻していたとのことです。
(2)2件目の摘発事例(※弁護士ドットコム「オンラインカジノの客、全国初の逮捕「海外サイト」なのに摘発されたのはなぜ?」に筆者がコメントした記事です。)
インターネット上のオンラインカジノで賭博をしたとして、京都府警は2016年3月10日、大阪府吹田市の30代男性ら3人を、単純賭博容疑で逮捕しました。無店舗型オンラインカジノでプレイヤー(顧客)が逮捕されるのは全国初の事案でした。
報道によれば、3人は2016年2月頃、オンラインカジノに接続し、「ブラックジャック」で金を賭けた疑いが持たれています。利用したサイトは英国に拠点ですが、日本人女性のディーラーがルーレットやブラックジャックなどのゲームを提供していました。プレイヤーは、あらかじめ氏名やメールアドレスなどを登録し、クレジットカードや決済サイトを使って入金し、賭けていました。サイトは日本語でやりとりができ、賭博の開催時間は、日本時間の夕方から深夜に設定されていました。サイトでは1日平均で合計95万円程度が賭けられました。
3人の逮捕容疑は2016年2月18日から26日までに、会員制カジノサイト「スマートライブカジノ」で、ブラックジャックのゲームに現金計約22万円を賭けた疑いがあります。容疑者の一人は「1000万円ほど賭けた」と話しているようです。
この逮捕においては、画面上に利用客がやりとりする「チャット」機能もあり、府警はこの書き込みなどを元に容疑者を割り出したようです。京都府警は事実上、国内で日本人向けにカジノが開かれて賭博行為をしていると判断したとのことです。
本件については、京都区検察庁において、いずれも、賭博罪により公訴を提起して略式命令を請求し、京都簡易裁判所により、罰金20万円又は罰金30万円の略式命令が発せられました。(令和2年2月28日の衆議院議員丸山穂高君提出オンラインカジノに関する質問に対する政府の答弁書参照)
オンラインカジノのプレイヤーに対して賭博罪の有罪判決がなされているという点でも本件は重要な事件であると考えられます。
なお、上記政府答弁書によれば、「平成三十年(※2018年)中の検挙件数として警察庁が都道府県警察から報告を受けたものは十三件である。」とのことです。

4 属地主義・属人主義
刑法は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用されることになっています(刑法1条)。これは、「属地主義」(国内で犯された犯罪に対しては行為者の国籍を問わず自国の刑法を適用する)という考え方です。
したがって、日本国内で外国人が地下カジノ等でプレー(賭け)をする場合も、賭博罪(刑法185条)や常習賭博罪(同法186条1項)の対象となります。また、オンラインカジノについても、国内で店舗型のオンラインカジノを設けている場合は、店主には賭博開帳罪(同法186条2項)、プレイヤーには賭博罪や常習賭博罪を適用して摘発されてきた例が多数あります。
他方、日本人が海外旅行の際に、海外のカジノにおいてプレー(賭け)をする行為は明らかに賭博行為ですが、違法ではありません。また、日本の法人やその現地法人が日本国外においてカジノ場を運営してもこれは違法ではありません。これは、賭博罪、常習賭博罪、賭博開帳罪が、日本国民の国外犯処罰規定(同法3条)の対象となっていないからです。すなわち、わが国は賭博関連罪について、「属人主義」(自国民による犯罪に対しては犯罪地を問わず自国の刑法を適用する)を適用していないのです。
なお、プロ野球の元投手や芸能人である韓国人がマカオやラスベガスで多額の賭けをして「海外遠征賭博」(遠征賭博)により、韓国当局により逮捕されたことが話題になりますが、これは、韓国の関連刑法において、「属人主義」を採用しているからです。
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5 グレーゾーン論者の主張
上記4のとおり、国外で日本人がカジノでプレーすることや日本の法人が海外でカジノを運営することは、(常習)賭博罪や賭博場開帳罪の対象となりません。他方、日本国内の店舗(インターネット賭博カフェ)においてオンラインカジノを提供している場合は、運営者には賭博開帳罪、プレイヤーには(常習)賭博罪が適用されます。
問題となるのは、海外のオンラインカジノ事業者が日本国内に店舗を設けずに、インターネットを通じて日本国内のプレイヤーにオンラインカジノを提供している場合です。ここにいう「海外のオンラインカジノ事業者」には、日本にいる者が海外にサーバーを設けているような実態が国内で行われている場合とそうでない場合のいずれも含みます。
このようなオンラインカジノについて「違法ではない」と主張する者も、完全に「合法である」とは主張しておらず、以下のとおり、「グレーゾーン」でありプレーをしても(常習)賭博罪に該当しないので、「安心してプレーをしてください」「インターネット賭博カフェと自宅でのネット賭博は違うので安全」などと説明しているのです。
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(グレーゾーン論者の主張)

インターネットを通じて、日本国内で賭博に参加していると評価されれば日本の刑法が適用され、賭博罪に該当する。これに対して、日本国外で賭博に参加していると評価されれば、海外の法律が適用されるということになれば、合法となる。この点については現在のところ不透明である。

仮に、国内で賭博に参加していたとしても、賭博罪は、「必要的共犯」であり、賭博開帳者と共に処罰される(刑法186条2項参照)ことが前提である。賭博開帳者が国外犯として処罰されないのであれば、その対抗犯である賭博罪は成立しない。

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6 グレーゾーン論者の主張に対する疑問
上記5のグレーゾーン論者の主張は、「必要的共犯」で賭博開帳者が処罰されないから、国内のプレイヤーが賭けるのも現在のところ、違法ではないから「どうぞやってください」という姿勢に大きな違和感があります。
現在、大阪府及び長崎県の2つの都道府県等から区域整備計画の認定の申請が行われているランドベースのカジノを含む統合的なリゾート(Integrated Resort(IR))の整備をする『特定複合観光施設区域整備法』(「IR整備法」)においては、賭博罪との関係での合法性の問題、賭博依存症対策の問題、マネー・ローンダリング対策の問題、反社会的勢力の排除の問題等の対応をすることが求められています。これらの公益性の高い対策を講ずることにより、IR整備法では賭博罪が違法性阻却されています(IR整備法39条参照)。
すなわち、認定設置運営事業者(=国土交通大臣から認定を受けたIR運営事業者)は、カジノ管理委員会からカジノ事業免許を受けたときは、免許に係るカジノ施設で、当該免許に係る種類・方法のカジノ行為(ゲーミング)に係るカジノ事業を行うことができます。この場合、当該カジノ事業免許に係るカジノ行為区画で行うカジノ行為については、刑法185条(賭博罪)、刑法186条(1項:常習賭博罪、2項:賭博場開帳罪)の規定は、適用されないこととされています。
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〇IR整備法39条
(免許等)
第三十九条 認定設置運営事業者は、カジノ管理委員会の免許を受けたときは、当該免許に係るカジノ施設において、当該免許に係る種類及び方法のカジノ行為に係るカジノ事業を行うことができる。この場合において、当該免許に係るカジノ行為区画で行う当該カジノ行為(中略)については、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条及び第百八十六条の規定は、適用しない。

そのような対策も全く取られず、野放図にプレイヤーに賭博を推奨する行為自体、問題があると考えられます。オンラインカジノは暴力団の資金源となっている可能性も大きいですし、間違いなく賭博依存症の問題があるはずです。さらに、オンラインカジノは、その匿名性とビットコインなどの仮装通貨を利用することによって、マネー・ローンダリングに利用されているとのFATF(Financial Action Task Forces: 金融作業部会:マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の政府間会合)の報告(Vulnaerabilities of Casinos and Gaming Sector)もあるところです。
また、同じ国内でも、オンライン賭博カフェでプレーすれば賭博罪になり、自宅で行えば賭博罪に該当しないというのも大きな違和感があります。
特に、日本から国外にサイトを開いて、そのサイトで開帳しても、その実際の管理運営は日本から行う場合は、そうした賭博行為はサイトが海外にあるというだけで、開帳者も賭けを行うものも日本国内で、かつ日本で遠隔操作する場合には、賭博場開帳行為・賭博の両方とも日本国内において行われていると評価せざるを得ないのではないでしょうか。

7 必要的共犯の主張についての検討:そもそも必要的共犯ではない
「必要的共犯」とは、「任意的共犯」の対となる概念です。

「任意的共犯」が、単独でも犯しうる犯罪に複数人が関与する場合で、共同正犯(刑法60条)、教唆犯(同法61条)、幇助犯(同法62条)の規定が適用されます。たとえば、殺人罪(同法199条)や窃盗座(同法235条)は共犯の存在なくして成立し得ます。
これに対して、「必要的共犯」は、その犯罪が成立するために複数人による共働や加功が犯罪類型上、前提とされているものです。
「必要的共犯」にも、「集団犯」と「対抗犯」の2種類があります。
「集団犯」は、内乱罪(刑法77条)や騒乱罪(同法106条)のように、犯罪の構成要件上同一の目標に向けられた多衆の共同行為を要する犯罪をいいます。
「対抗犯」は、重婚罪(同法184条)、贈賄罪・収賄罪(同法197条〜198条)のように、犯罪の構成要件上2人以上の者の互いに対抗した行為を必要とする犯罪をいいます。その双方とも処罰される場合が一般的ですが、わいせつ物頒布・販売罪(刑法175条)のように、対向者の一方のみ(販売者)を処罰する場合もあります(大谷實「刑法講義総論(新版第3版)」(成文堂)368頁)。
グレーゾーン論者が、賭博場開帳罪と(常習)賭博罪が必要的共犯であると主張する根拠の拠り所となるのが、東京地判昭和59年11月5日(刑集最高裁判所刑事判例集40巻6号514頁)です。
同事件では、賭博遊技場経営者に賭博場開帳罪の実行行為が成立すると認められるためには、「経営者の右の個々の賭客との賭博行為の存在を立証する必要がある」として、その理由を以下のとおり掲げています。
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「賭博行為」は、財物を賭して偶然の輸を争う行為であって、相手方たる賭客の存在を必要とする対向的必要的共犯であり、これを処罰する理由は、賭博が「国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強盗その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらある」(最判昭和二五年一一月二二日刑集四巻二三八〇頁)ことにあるほか、「當事者ノ産ヲ破ル虞アルカ故」(大判昭和四年二月一八日法律新聞二九七〇号九頁)にこれを処罰するのであり、その保護対象が、公益ばかりでなく、個人的な面にも及んでいることを考慮すれば、賭博遊技場経営者の賭博行為を「不特定多数の賭客を相手方とした賭博行為」と広く捉えると、個々の相手方たる賭客の存在があいまいとなり、その賭客の勤労観念や財産等を侵害する点を捨象する点を捨象することになるので、やはり個々の賭客の存在を明らかにし、その賭客との間の賭博行為としての刑事責任を問うべきものと考える。

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気を付けなければならないのは、上記判決は下級審レベル(東京地方裁判所)の判決であるということです。
最高裁判所の判決である最判昭和24年1月11日(最高裁判所裁判集刑事7号11頁)は、以下のとおり、賭博場開帳罪と常習賭博罪を別個独立の犯罪であり、賭博の共犯者中に賭博開帳罪に該当するものがなく、同罪によって処罰されたものがなかったとしても常習賭博罪は成立するものと判示しています。
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常習賭博罪と賭博開張罪とは刑法第一八六条の第一項と第二項とに分けて規定されて居るのであつて、もともと両罪は罪質を異にし、且その構成要件も何ら関聯するところがないのであるから、両罪が同一条下に規定されて居るからと云うて、所論のように不可分の関係にあるものと即断することは出来ないし、又両罪は全然別個の犯罪事実に関するものであるから、所論のように正犯と従犯の関係にあるものでないことも極めて明白であるばかりでなく、被告人両名の賭博常習性の有無は専ら、各被告人個人の習癖の有無によつて決せられることであるから、本件賭博の共犯者中に賭博開張罪に該当するものがなく、又同罪によつて処断されたものがなかつたとしても、それによつて被告人両名に対する常習賭博罪の成立が阻却される理由は少しも存しない。

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_ _本判決は、賭博場開帳罪と(常習)賭博罪が必要的共犯であることを否定した判決であると考えられます。「賭博罪」(刑法185条)と「常習賭博罪」(同法186条1項)の違いは、「常習性」だけですので、本判決に従えば、「賭博場開帳罪」と「賭博罪」についても別個独立の犯罪であると考えられます。筆者はこの裁判の判示が正しいものと考えています。
著名な刑法学者(大谷實、山口敦、前田雅英先生らの著書)の書籍を調べてみた限りでは、「贈賄罪」と「収賄罪」の関係と同様に、「賭博開帳罪」と「(常習)賭博罪」について、「対抗的必要的共犯」であるとするものはありませんでした。
なお、仮に、「賭博場開帳罪」と「(常習)賭博罪」が、上記の東京地方裁判所の判決のとおり、対抗的必要的共犯であったとしても、グレーゾーン論者が主張するとおりの結論となるかについても疑問があります。
上記の東京地方裁判所の判決では、賭博遊技場経営者に賭博場開帳罪の成立のためには、対抗的なプレイヤー(顧客)の賭博行為がなければならないとするものです。海外にサーバーを置くオンラインカジノ事業者については、オンラインカジノ事業者の「賭博場の開帳」とプレイヤーの「賭博行為」というそれぞれの実行行為はいずれも特定しており、仮に属地主義の観点からオンラインカジノ事業者に賭博場開帳罪が成立しないとしても、それに伴って、国内のプレイヤーに(常習)賭博罪が成立しないとまで言えるかについては疑問があります。
贈賄罪・収賄罪のような対抗的必要的共犯について、贈賄者が国外にいて、収賄者が国内にいる場合に、贈賄者に贈賄罪が成立しないからといって、収賄者に収賄罪が成立しないと考えられているか、というとそういう訳ではないと思われます。
この点については、筆者がリサーチした限り、明確に論点として挙げている文献はありませんでした。
しかしながら、筆者は、下記8に掲げるとおり、海外のオンラインカジノ事業者の「賭博場の開帳」は「国内において」行われているものと考えられ、そもそも、必要的共犯か否かは論点にならないものと考えています。
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8 オンラインカジノは「国内において」行われている(政府の質問主意書に対する答弁書)
筆者は、海外のオンラインカジノ事業者は、日本国内にいるプレイヤーを相手にサービスを提供している以上、「国内において」賭博場を開帳しているものとして、賭博場開帳罪が適用されるものと考えます。
実際、公然わいせつ罪(刑法174条)に関しては、海外サーバーに猥褻な画像をアップロードして有罪となった事件や海外に拠点を置く動画投稿サイトの運営者が有罪となった事件があります。
また、金融庁は、外国の銀行や証券会社がインターネットを通じて、日本国内の顧客に対して、預金や有価証券を勧誘することは、銀行法や金融商品取引法に照らして違法である旨、インターネット上で注意喚起をしております。

「預金口座開設の勧誘に関する注意喚起について」
「無登録の海外所在業者による勧誘にご注意ください」

インターネットを通じて、国内のプレイヤーに対してサービスを提供している以上、「国内において」賭博開帳行為が行われていると考えるべきです。
この点について、平成25年に私の友人で、『銀行の法律知識』(日経文庫)の共著者ある国会議員(階猛衆議院議員)にお願いして「賭博罪及び富くじ罪に関する質問主意書」と題する質問主意書を提出していただきました。その質問部分は以下のとおりです。

一 日本国内から、インターネットを通じて、海外で開設されたインターネットのオンラインカジノに参加したり、インターネットで中継されている海外のカジノに参加することは、国内のインターネットカジノ店において参加する場合だけでなく、国内の自宅からインターネットを通じて参加する場合であっても、刑法第百八十五条の賭博罪に該当するという理解でよいか。
二 上記一の「日本に所在する者」にサービスを提供した者には、国内犯が適用されるか。すなわち、海外にサーバを置いて賭博サービスを提供する業者にも、賭博開帳罪(同法第百八十六条第二項)が成立し得るという理解でよいか。
三 賭博罪の成立要件とされる必要的共犯に関して、共犯者の片方(賭博に参加する者)が国内、もう片方(賭博開帳者)が国外に所在する場合に共犯関係は成立し得るのか。片方を罰する事が出来ない(非可罰的な)状態にあっても、両者による共犯関係を立証することが出来ればもう片方の者の罪は成立し得るのか。
四 日本国内から、インターネットを通じて、代行業者を通じて海外の宝くじを購入する行為は、刑法第百八十七条第三項の「富くじを授受」する行為に該当するという理解でよいか。
五 国内からインターネットを通じて、オンラインカジノに参加する行為や海外の宝くじを購入する行為が賭博罪や富くじ罪に該当し、禁止されていることを国民に周知するための政府広報をすべきではないか。

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これに対して、政府からは以下の答弁書が出されました。
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一から三までについて
犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であることから、政府として、お答えすることは差し控えるが、一般論としては、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ、また、賭博場開張行為の一部が日本国内において行われた場合、同法第百八十六条第二項の賭博開張図利罪が成立することがあるものと考えられる。
四について
犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であることから、政府として、お答えすることは差し控えるが、一般論としては、富くじの授受行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法第百八十七条第三項の富くじ授受罪が成立することがあるものと考えられる。
五について
御指摘のような観点からの広報については、今後の社会情勢等を踏まえ、慎重に検討してまいりたい。

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オンラインカジノにおける「賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ、また、賭博場開張行為の一部が日本国内において行われた場合、同法第百八十六条第二項の賭博開張図利罪が成立する」とされている点が注目されます。
筆者は、この答弁書について、海外のオンラインカジノ事業者についても日本国内でその行為の一部が行われた場合には賭博開帳罪が成立するとした所が非常に大きいと考えております。
また、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合には、賭博開帳罪が別件で摘発されているかどうか、すなわち、賭博開帳罪と(常習)賭博罪が対抗的必要的共犯であるか否かは問題にせずに、賭博罪の成立を認めている点も非常に大きな判断であると考えます。

なお、令和2年には、上記の質問主意書と政府答弁を前提として、丸山穂高衆議院議員から「オンラインカジノに関する質問主意書」が提出され、それに対する政府答弁がなされています。(こちらの質問主意書はどちらかというと、オンラインカジノを合法化・推進したいという立場に基づいたものです。)

9 上記3の2件の摘発事例の評価
上記3の1件目の摘発事例(上記3(1))の容疑者は、日本国内の顧客と海外のオンラインカジノ事業者との間の賭け金の入金と払い出しの決済(送金)を行っており、「決済サービスは行ったが、賭博はしていない」と容疑を否認しているようです。警察はこのような決済サービスとオンラインカジノ事業者が「実質的に一体」であると見て摘発したのではないかと思われます。なお、このような送金サービスは、銀行または資金移動業者(100万円相当以下)しか許されませんので、銀行法又は資金決済法違反でもあります。実際、決済サービスとオンラインカジノ事業者は「実質的に一体」であると思われます。私も過去、海外のオンラインカジノ事業者から、資金決済法上の資金移動業者の登録の支援を依頼されたことがありますが、賭博開帳罪・賭博罪の懸念が払しょくできないことから断りました。
上記3の2件目の摘発事例(上記3(2))は、実態が日本人向けのサイトで、「国内で日本人向けカジノが開かれて賭博行為をしている」と判断したとのことであり、上記7で紹介した答弁書の回答に沿った摘発事例です。

10 オンラインカジノのアフィリエーターにも賭博罪の幇助犯が成立する
橋爪隆教授(刑法・東京大学大学院法学政治学研究科教授)の「賭博罪をめぐる論点について」(2022年3月22日・経済産業省・第5回 スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会 資料)によれば、海外で運営されるオンラインカジノに参加する日本の参加者(プレイヤー)に日本の刑法の賭博罪(刑法185条)が成立する以上、これを幇助する行為についても日本の刑法が適用されるとしている(刑法62条1項)。(※橋爪教授は、この場合の日本の参加者(プレイヤー)に賭博罪(刑法185条)が成立することを当然の前提としています。)
いわゆるオンラインカジノのアフィリエーターが行う_「データ等の提供」は、海外事業者によるベッティングの運営を容易にする行為であり、直接 的に参加者の賭博行為を幇助しているわけではないが、「海外事業者による運用を容 易にすることは、当該サービスを利用してベッティングに参加する者の行為を間接的に容 易にしていると評価する余地がある(いわゆる間接幇助)。」「そして、幇助犯の故意としては 正犯者を個別に特定する必要はない」から、日本国内からベッティングに参加する者が一定 数存在する蓋然性が高いと認められる場合に、そのことを認識、認容しながら、データ等の 提供を行い、ベッティングへの参加を容易にしていれば、賭博罪の幇助犯の成立が認められ る可能性があるとしている。

11_ NFT(Non-Fungible Token)のパッケージ販売と賭博罪の成否
近時、NFT(Non-Fungible Token)のパッケージ販売が賭博罪に該当しないか議論がなされている。
(1)NFTパッケージのスキーム
(販売会社によるNFTパッケージの販売)
・有名人(芸能人やアーティスト)、スポーツ団体などとライセンス契約を締結したNFTの販売会社が、自社アプリを通じて、スポーツ選手や芸能人等の写真、動画、絵画等のNFTを無作為に複数抽出した上でパッケージに入れたものを会員ユーザーに販売する。
・NFTはその希少性により種類が分けられる。パッケージの値段も異なる。
・会員ユーザーはパッケージ購入前に当該パッケージに含まれる個々のNFTを確認できない。
・NFT販売会社は個々のNFTの販売は行わない。
(二次流通市場)
・会員ユーザーは二次流通市場で自身の個々のNFTを転売し、換金可能である。二次流通市場での取引価格は会員ユーザーが自由に設定できる。
・会員ユーザーは二次流通市場でNFTのパッケージ販売はできない。
・NFT販売会社は転売の際に取引金額の数%程度を手数料として徴収。
・NFT販売会社は二次流通市場でNFTの販売しない。パッケージに含まれるNFTを会員ユーザーから買い戻すこともしない。
・個々のNFTの中で人気なものは、20万ドルなど高額で取引(転売)されるものもある。

〇NFT(Non-Fungible Token)のパッケージ販売の例

※参考:平尾覚ほか「NBA Top Shotと類似したサービスの提供と賭博罪の成否」について(2022年3月22日・経済産業省・第5回 スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会 資料)

(2)問題の所在
パッケージの中のNFTの一部には、希少性があり、高額で転売されるものがある。高額で転売可能なNFTが取得できるか否かについて、購入者間では「勝ち負け」がある。また、二次取引市場がある場合には、「勝ち負け」が経済的な利得・損失として実現する。
賭博罪(刑法185条)の構成要件である「偶然性」に関しては、NFTのパッケージの中身は分からず、いかなるNFTが取得できるかは「偶然」に左右されるので、「偶然性」は否定できない。

(3)「得喪を争う」関係の有無
(賭博罪の成立を認める見解)_得喪を争う関係を肯定
・NFTの販売行為と二次流通市場における転売行為を一体的に捉える。
・販売者が二次流通市場も併設しており、当該市場取引によりNFTの客観的な価値は、実際の販売価格とは別個独立に、二次流通市場で明確に算定可能。

(賭博罪の成立を否定する見解)_得喪を争う関係を否定
・二次流通市場における価格形成は、NFTを販売する際の価格設定とは別個独立に行われる。
・転売価格は常に変動する可能性があり、転売価格が取得価格を下回るからといって、直ちに、NFTの販売時の客観的価値が取得価格を下回っている評価が導かれるわけではない。
・NFTの販売行為と二次流通市場における転売行為は主体が異なり、一体的に評価をする点無理がある。

※参考:橋爪隆教授(刑法・東京大学大学院法学政治学研究科教授)の「賭博罪をめぐる論点について」(2022年3月22日・経済産業省・第5回 スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会 資料)

12 オンラインカジノ(ネットカジノ)の今後
筆者自身もオンラインカジノ(ネットカジノ)の存在自体に反対するものではありません。むしろ、ビットコインや近時のNFT等の暗号資産を用いたFinTec等のイノベーションが進んでいく中で、オンラインカジノ(ネットカジノ)を否定することは難しいかもしれません。
しかしながら、そのためには、IR整備法に見られるような合法化のための法制化、特に賭博依存症対策、反社対策、マネー・ローンダリング対策等の議論を乗り越えなければ難しいと思われます。
ランドベースのカジノの導入について四苦八苦している現状からすれば、日本においてオンラインカジノ(ネットカジノ)の合法化の議論がなされるのは時期尚早でしょう。
この点、上記8で紹介した令和2年の丸山穂高衆議院議員の質問主意書における「五 刑法の賭博罪は、明治四十年に制定され、インターネットが存在しなかった時代の法規範となっている。インターネット利用を想定した現在の実態に合わせた新たな法律を定める必要があると考える。政府の見解は如何なるものか、回答されたい。」「六 世界各国においてはオンラインカジノを合法化し財源にしている国も多数ある。今後、我が国においてオンラインカジノの合法化の検討を行うことはあり得るのか、政府の見解を問う。」との質問に対して、政府の答弁書は、「御指摘の「インターネット利用を想定した現在の実態に合わせた新たな法律」及び「オンラインカジノの合法化」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにしても、現時点で、政府として、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪等の規定を改正することは検討していない。」としているところです。

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