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有期雇用労働者に賞与を支払わなくてもよいのでしょうか?

2021/04/06

(執筆者:弁護士 森村 奨)
【Q.】
 最近、会社が有期雇用労働者に対して賞与を支払わなかったことが違法でないとする最高裁判決が出たと聞きました。当社でも、有期雇用労働者に対して賞与を支払わなくてもよいのでしょうか。

【A.】
1.はじめに
 令和2年10月13日と15日に、労働契約法20条(平成30年法律71号による改正前のもの。以下同じ)に関する5件の最高裁判決が出されました。労働契約法20条には、同一使用者のもとでの有期雇用労働者と無期雇用労働者間の労働条件の不合理な相違を禁止する旨が定められていましたが、法改正に伴いこれは削除され、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート有期法」)8条に同趣旨の規定が設けられました(大企業では令和2年4月から、中小企業では令和3年4月から施行)。そのため、パート有期法8条の下でも、これらの判決は重要な解釈指針になると思われます。本稿では、これらの判決のうち、賞与について判断したものを検討した上で、賞与について求められる企業対応を説明します。
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2.判決の概要
 前述の5つの判決のうち、大阪医科薬科大学事件では、教室事務員の正職員とアルバイト職員との間における賞与の支給の有無の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものにあたるかが問題となりました。判決では、賞与の目的が「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなど」にあるとした上で、「職務の内容」「職務の内容・配置の変更の範囲」については一定の相違があること、「その他の事情」として、教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務の内容および変更の範囲を異にするに至った経緯や、契約社員および正職員への登用制度の存在を考慮し、賞与の有無の相違は不合理とはいえないとされました。
 このように、同判決は、賞与の趣旨や目的を特定した上で、それに照らして、「職務の内容」「変更の範囲」「その他の事情」を考慮してもなお格差を設けることが不合理でないかを審査しています。このような判断手法は、今後の対応を検討していく中で参考になる一方、あくまで各事案における個別判断となるため、「賞与であれば異なる取り扱いは許される」と判断するのは妥当ではありません。
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3.同一労働同一賃金ガイドライン
 また、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(厚生労働省告示第430号)(以下「同一労働同一賃金ガイドライン」)は、「賞与を会社の業績等への貢献に応じて支給する場合、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には同一の支給、貢献に一定の違いがある場合にはその相違に応じた支給をしなければならない」とし、賞与についての待遇差が違法となる場合があることを示唆しています。同一労働同一賃金ガイドラインも、パート有期法8条の解釈において参考となるでしょう。
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4.求められる企業の対応
 以上のとおり、賞与についての待遇差も場合によって違法とされる可能性は大いにあります。最高裁判決や同一労働同一賃金ガイドラインを踏まえると、企業は、概ね次のような対応をすべきでしょう。
 まず、社内で賞与について待遇差があるかを確認し、待遇差がある場合には、その理由は何か、その理由が前述の判決の審査方法に照らして合理的かどうかを検証する必要があります。合理性が認められないと判断されるなら、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の業務内容を見直す、短時間・有期雇用労働者にも賞与を支給するなどの対応が求められます。
 また、紛争予防の観点から、労働者に対して、待遇の相違について説明をできるようにしておくことも必要です(パート有期法14条1項、2項も参照)。
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5.最後に
 今年4月のパート有期法の施行に向けて、中小企業でも、個々の待遇について見直す必要があるでしょう。待遇差が不合理かどうか、不合理であるおそれがある場合にどのような改善策があるかは微妙な判断を伴いますので、弁護士等の専門家に相談することもご検討ください。

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