TOPICS

トピックス・法律情報

コーポレートガバナンス・コード改訂案ニュースレター~2026年4月10日公表 改訂案の詳細解説/実務対応/取締役会実効性評価質問事項~

2026/05/01
作成者:弁護士 渡邉 雅之
弁護士法人三宅法律事務所においては、改訂案に対応したCG報告書改訂、取締役会実効性評価アンケート設計、株主対話体制構築、サステナビリティ・人的資本開示等について、ご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。  
連絡先 TEL: (03)5288-1021(代表)
Email: m-watanabe@miyake.gr.jp

コーポレートガバナンス・コード改訂案ニュースレター~2026年4月10日公表 改訂案の詳細解説/実務対応/取締役会実効性評価質問事項~

第1 はじめに──改訂案の基本思想

2026年4月10日、金融庁・東京証券取引所は、コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という。)の改訂案を公表した[1]。今回の改訂案の最大の特徴は、コードの内容を細かく増やすのではなく、「プリンシプルベース・アプローチ」と「コンプライ・オア・エクスプレイン」の原点に立ち返り、コード自体の実質化を図ることにある。

具体的には、改訂案は、上場会社が特に注力すべき点が明確になるよう、従前の補充原則を再整理し、ガバナンスの中核となる箇所を原則に格上げする一方、コード内の他の箇所または法令等との重複がある箇所等を削除する手法を採っている(改訂案前文11項)。これは対応コストの削減のみを意図するものではなく、改訂後にコンプライ・オア・エクスプレインの対象から外れ「解釈指針」に移管された記載や本コードから削除された記載について、その重要性が失われたと考えることは適切ではないとされている(同12項)。

また、改訂案には「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」が参照文書として明示されており(同13項)、今回の見直しの主眼が成長投資・資源配分の適正化にあることがうかがえる。

以下、本ニュースレターでは、改訂案の重要論点をテーマ別に整理し、各テーマについて①改訂案の条項・趣旨、②実務対応、③取締役会実効性評価における設問例を一体で示す。

第2 章構成の再編──株主との対話を冒頭に

改訂案では、現行の第1章(株主の権利・平等性の確保)と現行の第5章(株主との対話)を統合し、新第1章「株主の権利・平等性の確保、株主との対話」として再編している(改訂案第1章柱書)。これは、第1章を株主との関係に関する規定、第2章を株主以外との関係に関する規定と整理した上で、株主との対話の重要性に鑑み冒頭の章に統合する観点による。

これに伴い、現行基本原則5は新基本原則1の末尾に統合され、現行原則5-1は新原則1-1(株主との建設的な対話)として再構成された。改訂案が株主との建設的対話をガバナンスの起点として位置付けていることが、章構成の面からも示されている。

第3 取締役会実効性評価設問の回答区分(共通)

以下の各テーマで掲げる取締役会の実効性評価設問例は、原則として次の5段階で回答するものとする。

5:十分適切である

4:一応適切である

3:普通である

2:不十分である

1:全く不十分である

ただし、各取締役の自己評価(取締役会への貢献等)に関する設問については、次の5段階で回答するものとする。

5:十分できている

4:一応できている

3:普通である

2:あまりできていない

1:全くできていない

経営指標、業績連動報酬、株主との対話の具体的状況等に関する設問は、自由記載とする。

第4 テーマ別解説

1 成長投資・資源配分への集中(原則4-1・4-2)

(1) 改訂案の条項

新原則4-1(取締役会の役割・責務Ⅰ:企業戦略等の大きな方向付け)後段は、取締役会は経営戦略・経営計画の策定・公表に当たり、自社の資本コストを踏まえて収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて説明を行うべきであるとする。

新原則4-1の解釈指針は、投資先を検討するに当たり、(ⅰ)投資対象を自社の内部に求めるのか(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)、外部に求めるのか(M&A・業務提携・スタートアップ出資等)、(ⅱ)短期・中長期、(ⅲ)国内投資・国外投資といった多様な投資機会の認識を求める。

また、新原則4-2(2)は、取締役会は、自社の経営資源の配分が、経営戦略や経営計画に照らし適切なものとなっているかについて不断に検証を行うべきであるとする。これは、現行3-1③前段の一部・現行4-2②後段・現行5-2・現行5-2①を新4-1、4-2及びその解釈指針に統合・整理したものである。

(2) 実務対応

①取締役会の議題を、中期経営計画の報告にとどめるのではなく、設備投資、研究開発投資、人的資本投資、DX投資、事業ポートフォリオの見直し、株主還元と内部留保のバランスまで踏み込んだ議論の場に変える必要がある。

②現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているかという観点からの検証(新原則4-2の解釈指針)を、定例の議題として組み込むことが望まれる。

③知的財産等の無形資産への投資について、その創出・取得・強化・保護・収益化に戦略的に取り組む方針を整理する必要がある。

(3) 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、会社の目指すべき姿や成長の道筋について、十分かつ継続的な議論を行っているか。

(イ) 取締役会は、設備投資、研究開発投資、人的資本投資、DX投資、事業ポートフォリオの見直し等を含む成長投資・資源配分について、資本コストや収益力・資本効率を踏まえて十分に議論しているか。

(ウ) 取締役会は、自社の経営資源の配分が経営戦略・経営計画に照らし適切なものとなっているかについて、不断に検証を行っているか。

(エ) 取締役会は、株主還元、内部留保、成長投資のバランスについて、会社の成長段階や経営戦略に照らして適切に議論しているか。

(オ) 取締役会は、無形資産(知的財産、人的資本等)への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を踏まえて議論しているか。

2 株主総会前の情報提供──有価証券報告書の総会前提出(原則1-2)

(1) 改訂案の条項

新原則1-2(株主総会における権利行使)は、上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを踏まえ、株主の視点に立って、「有価証券報告書を株主総会開催日前に提出するなど株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報を必要に応じ適確に提供する」、株主総会関連の日程を適切に設定する、プライム市場上場会社は少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とする等、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきであるとする(現行1-2①の格上げ・現行1-2③の格上げ・現行1-2④後段の格上げ)。

新原則1-2の解釈指針(ⅰ)は、有価証券報告書には役員報酬や政策保有株式等のガバナンス情報等、投資家がその意思を決定するに当たって有用かつ信頼性の高い情報が豊富に含まれていることから、本来、株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいとし、そのため株主総会開催日や議決権行使に係る基準日を従前の慣行に基づく時期から後ろ倒しすることも含めて検討するものとされている。

改訂案前文14項は、金融庁が、企業負担も考慮し、現行法制下で一般化している実務運用からすると総会日3週間以上前の開示は必ずしも容易ではないとの認識の下、法務省とも連携し、法制審議会において議論されている有価証券報告書と事業報告等の一本化、会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の一元化、有価証券報告書の記載事項の整理といった制度的な検討も並行して進めることを明記している。

(2) 実務対応

直ちに3週間以上前提出を実現することが困難であるとしても、少なくとも次を取締役会・経営会議等で検討した記録を残すことが重要である。すなわち、

①現行スケジュールで前倒し可能な開示は何か

②招集通知・参考書類・任意開示で代替的に前倒しできる情報は何か

③総会日程や基準日を見直す余地はあるか(基準日変更には定款変更の要否を含めた検討が必要となる場合がある)

④監査スケジュール(会社法監査・金商法監査)への影響はどうか

である。改訂案自体が制度的検討も並行するとしている以上、現時点では「即実行義務」ではないが、取締役会として検討している事実が問われる。

(3) 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、株主総会における適切な判断に資する情報提供の在り方(有価証券報告書の株主総会前提出、招集通知記載事項の早期電子公表等)について、必要な検討を行っているか。

(イ) 取締役会は、株主総会関連の日程(株主総会開催日、議決権行使基準日、招集通知発送日等)の設定について、株主の権利行使の観点から適切に検討しているか。

(ウ) 取締役会は、議決権電子行使プラットフォーム、招集通知の英訳等、株主の権利行使環境整備の状況を適切に把握・監督しているか。

※なお、有価証券報告書の株主総会前提出又はこれに準じた株主総会前の情報提供の充実について、どのような検討又は対応を行っているかは、自由記載とする。

3 相当数の反対票があった会社提案議案への対応(原則1-3)

(1) 改訂案の条項

新原則1-3(株主総会で相当数の反対があった会社提案議案)は、現行補充原則1-1①を原則に格上げしたものであり、取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主の権利の確保に資するよう適切に対応すべきであるとする。

新原則1-3の解釈指針は、例として、株主に対し、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析結果や、当該分析を踏まえた上場会社の対応状況等の説明を行うことを挙げている。

(2) 実務対応

総会結果を「可決された」で終わらせず、

①原因分析(株主構成・議決権行使助言会社の推奨理由・個別対話で得られた懸念等の整理)

②投資家・株主との追加対話

③CG報告書・統合報告書等での開示見直し

④翌年議案設計への反映

を行う社内フローを整備する必要がある。

(3) 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、株主総会において相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合に、その原因分析及び対応の要否について適切に検討しているか。

(イ) 反対の理由や反対票が多くなった原因の分析結果、当該分析を踏まえた対応状況等を、株主に対して説明することが検討されているか。

※なお、株主総会において相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合の反対理由・原因分析、その後の株主との対話・開示の見直し等の対応については、自由記載とする。

4 株主との建設的対話の体制整備(原則1-1)

(1) 改訂案の条項

新原則1-1(株主との建設的な対話)は、(1)株主からの対話の申込みへの合理的範囲での前向きな対応、及び取締役会による株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針の検討・承認・開示(現行5-1の移管)、(2)対話への対応者は、株主の希望と面談の主な議題を踏まえ、合理的な範囲で経営陣、社外取締役を含む取締役または監査役が臨むことを基本とすべきこと(現行5-1①の原則格上げ)、(3)対話の内容を踏まえた社内での情報共有や検討等の適切な対応(追加)、を規定する。

新原則1-1の解釈指針は、対話促進の方針には少なくとも、(ⅰ)対話統括を行う経営陣または取締役の指定、(ⅱ)IR担当・経営企画・総務・人事・財務・経理・法務部門等の有機的連携のための方策、(ⅲ)個別面談以外の対話手段の充実、(ⅳ)株主の意見・懸念の経営陣・取締役会へのフィードバック方策、(ⅴ)インサイダー情報・フェア・ディスクロージャー・ルール上の重要情報の管理に関する方策を記載すべきとする。さらに、面談の主な議題によっては社外取締役が対話の対応者となるべき場面があることを認識した上で、対話ごとに適切な対応者を選定すべきであるとされている(追加)。

(2) 実務対応

①対話統括責任者を明確化し、社内連携部門との情報フローを整理する。

②社外取締役が対話に出るべき議題(指名・報酬、後継者計画、サステナビリティ、関連当事者取引、買収提案への対応等)を予め整理する。

③対話結果を取締役会に報告する定型書式を整備し、議題設定や意思決定への反映ルートを可視化する。

④インサイダー情報・重要情報の管理方針を、対話実務のレベルまで具体化する。

(3) 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針を検討・承認し、開示しているか。

(イ) 株主との対話には、株主の希望と面談の主な議題を踏まえ、合理的な範囲で、経営陣、社外取締役を含む取締役または監査役が臨むことが基本となっているか。

(ウ) 取締役会は、株主との建設的な対話において把握された意見・懸念を、議題設定や意思決定に適切に反映しているか。

(エ) 対話に際してのインサイダー情報・重要情報の管理方策は、実務レベルで具体化されているか。

※なお、株主との対話を補助する社内部門の有機的連携のための方策、個別面談以外の対話手段(投資家説明会・IR活動等)、対話結果のフィードバック方策、インサイダー情報の管理方法、株主構造の把握状況等については、自由記載とする。

5 サステナビリティを巡る取組み(原則4-5)

(1) 改訂案の条項

改訂案は、サステナビリティに関する規定(現行2-3・現行2-3①・現行3-1③前段の一部・現行4-2②前段)を新原則4-5(取締役会の役割・責務Ⅳ:サステナビリティを巡る取組み)及びその解釈指針に統合・整理している。

新原則4-5は、取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、サステナビリティを巡る課題に積極的・能動的に取り組むべきであり、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定するほか、適切な対応を行うべきであるとする。

新原則4-5の解釈指針は、ISSB基準の策定等、サステナビリティ情報の重要性が世界的に高まっていることを踏まえ、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、自然災害等への危機管理、多様性などのサステナビリティ課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識すべきとする。

なお、現行2-2のステークホルダーとの協働の解釈指針(基本原則2考え方)には、**人的資本への投資等や適切な分配、取引先と公正・適正な取引(サプライチェーンにおける適正な価格転嫁を含む)**との協働が、明示的に追加されている。

(2) 実務対応

サステナビリティ課題を別建ての委員会だけで扱うのではなく、経営戦略・リスク管理・資源配分・人材戦略との整合で議論する体制を整える。特に、人的資本、多様性、人権、取引先との適正取引(価格転嫁)、気候変動は、経営上のリスクであると同時に収益機会でもあるという認識を社内で共有する必要がある。

(3) 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定しているか。

(イ) 取締役会は、サステナビリティに関する課題を、リスク低減の観点にとどまらず、収益機会及び中長期的な企業価値向上の観点からも捉えて議論しているか。

(ウ) 取締役会は、人的資本、多様性、人権、取引先との公正・適正な取引(価格転嫁を含む)、気候変動対応等の主要なサステナビリティ課題について、経営戦略・資源配分と整合的に議論しているか。

(エ) 取締役会は、サステナビリティに関する方針・目標・計画の進捗状況について、定期的な報告を受け、必要な監督を行っているか。

6 多様性の確保(原則2-2)

(1) 改訂案の条項

現行原則2-4は新原則2-2に整理され、現行2-4①前段・後段の内容が原則本体に格上げされた。すなわち、新原則2-2は、上場会社はジェンダーや国際性、経歴(中途採用を含む)、年齢、文化的背景やこれらに限られない観点から、中核人材への登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を決定するとともに、その状況を開示すべきであり、また、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきであるとする。

(2) 実務対応

多様性の例示が「女性・外国人・中途採用者」から「ジェンダー・国際性・経歴・年齢・文化的背景」に整理されたことを踏まえ、中核人材登用の目標設定及び開示文言を見直す必要がある。また、人材育成方針・社内環境整備方針が、実施状況と併せて開示されているかを再確認する。

(3) 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、中核人材の登用等における多様性の確保(ジェンダー、国際性、経歴、年齢、文化的背景等)について、考え方と自主的かつ測定可能な目標を決定し、その状況を開示しているか。

(イ) 取締役会は、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針について、その実施状況と併せて開示しているか。

7 独立社外取締役の役割・質・数・機能発揮(原則4-7〜4-12)

(1) 改訂案の条項

改訂案では、独立社外取締役に関する規律が、役割・責務(新4-8)、質の確保(新4-9)、数の確保(新4-10)、独立性判断基準(新4-11)、機能発揮(新4-12)として体系化されている。

ア 役割・責務(新原則4-8) 新原則4-8は、現行原則4-7の柱書を維持しつつ、独立社外取締役の役割を、(1)経営の監督、(2)利益相反の監督、(3)少数株主を含むステークホルダーの意見の反映、(4)経営の方針や経営改善についての助言、として整理し、監督の重要性を強調する観点から、現行(ⅰ)の助言機能を末尾((4))に移管している。

イ 質の確保(新原則4-9) 新原則4-9が新たに独立した原則として追加された。取締役会は、取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できるなど、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすことができる資質を十分に備えた人物を独立社外取締役の候補者として選定すべきであるとする。

ウ 数の確保(新原則4-10) 新原則4-10は、プライム市場上場会社における3分の1以上、その他市場上場会社における2名以上の選任要件を維持しつつ、支配株主を有するプライム市場上場会社における独立社外取締役過半数(その他市場では3分の1以上)の選任要件を原則に格上げしている(現行4-8③前段の格上げ)。

エ 機能発揮(新原則4-12) 新原則4-12が新設され、現行4-8①(独立社外者のみを構成員とする会合)及び現行4-8②(筆頭独立社外取締役)が原則に格上げされた。

(2) 実務対応

スキル・マトリックスを単に作成済みであることに満足せず、成長戦略・事業ポートフォリオの変化・後継者計画との整合から見直しを継続する必要がある。また、独立社外取締役が(1)〜(4)の役割を実質的に果たし得る構成・運営となっているかを点検する。独立社外者のみの会合(社外取締役会)の定期開催と、筆頭独立社外取締役の指名・機能発揮は、運用としても重要性を増す。

(3) 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、独立社外取締役に期待される役割・責務(経営の監督、利益相反の監督、少数株主を含むステークホルダーの意見の反映、経営の方針や経営改善についての助言)を十分に果たし得る構成となっているか。

(イ) 取締役会は、率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できるなど、必要な資質を備えた人物を独立社外取締役の候補者として選定しているか。

(ウ) 独立社外取締役は、他の独立社外取締役との間で、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図っているか(独立社外者のみの会合の定期開催等)。

(エ) 筆頭独立社外取締役等を通じて、経営陣との連絡・調整や監査役・監査役会との連携に係る体制が整備されているか。

(オ) 独立社外取締役は、株主との対話の議題・内容に応じて、合理的な範囲で対話に関与すべき場面に適切に関与できているか。

8 指名・報酬委員会の独立性・客観性(原則4-7・補充原則4-10①)

(1) 改訂案の条項

新原則4-7(任意の仕組みの活用)は、現行原則4-10を並び替え、監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合における、独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会の設置を原則に格上げしている(現行4-10①前段の格上げ)。

さらに、新原則4-7は、プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきことを原則に格上げしている(現行4-10①後段の格上げ)。

新原則4-7の解釈指針は、指名委員会・報酬委員会の設置は、経営陣・取締役の指名(後継者計画を含む)・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化する観点から重要であり、両委員会は、ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め、適切な関与・助言を行うことを責務とするとされている。

なお、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社においては、「指名・諮問委員会」「指名・報酬諮問委員会」など、両委員会を一体的に運営している上場会社も多い。

(2) 実務対応

社外取締役が過半数か否かという形式だけでなく、両委員会が経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)、多様性・スキル、報酬制度の設計に実質的に関与しているかを確認する。委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等の開示文言を、原則格上げを踏まえて見直す必要がある。

(3) 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

ア 指名諮問委員会に関する設問

(ア) 指名諮問委員会の構成は適切か。

(イ) 指名諮問委員会の運営は適切になされているか(議事録の作成・見直しを含む)。

(ウ) 指名諮問委員会は、経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)に関し、独立性・客観性・説明責任を高める観点から、適切に機能しているか。

(エ) 指名諮問委員会は、取締役会の構成について、ジェンダー等の多様性及びスキルの観点を含め、適切な関与・助言を行っているか。

イ 報酬諮問委員会に関する設問

(ア) 報酬諮問委員会の構成は適切か。

(イ) 報酬諮問委員会の運営は適切になされているか(議事録の作成・見直しを含む)。

(ウ) 報酬諮問委員会は、中長期的な企業価値向上に資する報酬制度の在り方について、適切な関与・助言を行っているか。

ウ 両委員会共通の設問

(ア) 指名諮問委員会・報酬諮問委員会の独立性に関する考え方・権限・役割は明確であり、社内外に説明可能な状態となっているか。

9 CEOの選解任・後継者計画(原則4-3)

(1) 改訂案の条項

新原則4-3(取締役会の役割・責務Ⅲ:経営陣・取締役に対する実効的な監督①)は、(1)現行原則4-3①(経営陣幹部の選解任の業績評価への反映)、現行原則4-3②(CEO選解任手続の客観性・適時性・透明性)、現行原則4-1③(CEO後継者計画への主体的関与)、現行原則4-3③(CEO解任手続の確立)を原則に格上げして一括整理し、(2)適時かつ正確な情報開示の監督・内部統制やリスク管理体制の整備、(3)関連当事者取引の管理(現行原則1-7の統合)、を規定する。

(2) 実務対応

CEO後継者計画について、候補者の教育・選定基準・選定手続を文書化し、取締役会・指名委員会の関与を議事録上明確化する。CEO解任手続についても、客観性・適時性・透明性を担保する手続を確立する。関連当事者取引の枠組み開示と取引監視は、現行1-7の新4-3への統合を踏まえて整理し直す。

(3) 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会においては、代表取締役の後継者の計画(後継者候補の教育・選定基準・選定手続)に関して適切に議論・監督がなされているか。

(イ) 取締役会は、経営陣幹部の選解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、適切に議論されているか。

(ウ) 取締役会は、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合の解任手続(客観性・適時性・透明性)を確立しているか。

(エ) 取締役会は、関連当事者間の取引について、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めて枠組みを開示し、その手続を踏まえた監視を行っているか。

10 取締役会実効性評価の原則格上げ(原則4-13)

(1) 改訂案の条項

新原則4-13(取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件)は、現行補充原則4-11①(スキル等の特定・スキル・マトリックス)、現行補充原則4-11①(独立社外取締役における他社経営経験者を含めるべきこと)、現行補充原則4-11③(取締役会全体の実効性分析・評価とその結果概要の開示)を原則に格上げしている。

新原則4-13の解釈指針は、取締役会の実効性評価を実施するに際しては、自らの役割・責務を果たすために、取締役会としてどのような機能を発揮すべきかを踏まえた評価を行うことが効果的であり、評価の手法についても様々な方法が考えられるが、例えば、まずは各取締役が自ら及び取締役会全体についての評価を行うことが考えられるとしている(追加)。

(2) 実務対応

実効性評価が原則に格上げされたことを踏まえ、評価票そのものを改訂する必要がある。従来の「資料」「時間」「自由闊達」中心の設問では足りず、本ニュースレターのテーマ1〜9に対応する設問を追加することが望まれる。また、各取締役の自己評価を組み込んだ二層評価(自己評価+取締役会全体評価)の導入を検討する余地がある。

(3) 取締役会実効性評価設問例

ア 取締役会の構成・スキル・運営に関する設問(5段階評価)

(ア) 取締役会の人数は適切か。

(イ) 取締役会の構成員(監査役を含む。)は多様性(知識・経験・能力、ジェンダー、国際性、職歴、年齢、その他のバックグラウンド)が適切に確保されているか。

(ウ) 取締役会において経営戦略に照らして自らが備えるべきスキルを特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役・各監査役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスを策定しているか。

(エ) 取締役会は、スキル・マトリックスについて、成長戦略、事業ポートフォリオ及び経営環境の変化を踏まえ、定期的に見直しを行っているか。

(オ) 取締役会の年間スケジュール、予想される審議事項について事前に決定されているか。

(カ) 取締役会の開催頻度は適切か。

(キ) 取締役会に提出される資料は内容・分量の観点で適切か(分かり易いか、網羅的か、十分に整理されているか)。

(ク) 取締役や監査役には、取締役会に提出される資料を事前に検討する時間が十分に与えられているか。

(ケ) 取締役会における審議時間は十分か(活発な、充実した議論が行われているか)。

(コ) 取締役会議長の司会進行は適切か。

(サ) 取締役会の審議中、社外取締役・平取締役・監査役が自由に発言できる雰囲気となっているか。

(シ) 取締役会の議事録は正確に作成されているか。各取締役・監査役に見直しの機会があるか。

イ 各取締役の自己評価に関する設問(5段階評価/自己評価用)

(ア) 自己の取締役会での発言状況は適切か。

(イ) 取締役会における自己の貢献度は適切か。

(ウ) 自己は、成長投資・資源配分、株主との建設的対話、サステナビリティ、後継者計画等の重要テーマに関し、取締役会に十分な貢献ができているか。

(エ) 自己は、必要な情報収集・研鑽を通じて、取締役又は監査役として期待される役割・責務を果たすよう努めているか。

ウ 経営指標等に関する設問(自由記載)

(ア) 当社の経営においてはどのような経営指標(ROE、ROIC等)を重視しているか。その理由も記載してください。

(イ) 業績連動報酬を導入又は見直すことについて、どのように考えているか記載してください。

(ウ) 成長投資、事業ポートフォリオ見直し、人的資本投資等に関する取締役会の議論内容を、株主・投資家にどのように説明しているか記載してください。

11 取締役会事務局の機能強化(原則4-12

(1) 改訂案の条項

新原則4-12(取締役会における審議の活性化等)の解釈指針は、取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)について、会議運営を行う単なる事務方としての役割のみならず、取締役会やその傘下の各委員会の会議体が実効性ある議論の場となるよう、当該会議体の果たすべき役割・責務に照らし適切な審議事項を定めるなど、それらの運営を能動的に行うことが望ましいとする(追加)。また、独立社外取締役が議長を務める場合や、取締役会における社外取締役が占める割合が高い場合には、取締役会事務局が果たす機能が特に大きくなるとされている(追加)。

(2) 実務対応

取締役会事務局の人員・権限・業務範囲を見直し、議題設定・資料品質管理・社外取締役への情報提供・株主対話結果のフィードバック等を能動的に担う体制を整備する。

(3) 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会を支える事務局体制(資料作成、事前説明、議事録作成、社外取締役・監査役への情報提供、株主対話結果のフィードバック等)は、取締役会の実効性を確保する上で十分か。

(イ) 社外取締役がその役割・責務を十分に果たすために必要な事前説明、社内関係部署との連絡・調整、監査役又は監査役会との連携体制は十分に整備されているか。

(ウ) 取締役・監査役は、必要と考える場合に、会社に対して追加の情報提供を求める機会、また会社の費用において外部の専門家の助言を得る機会が適切に確保されているか。

(エ) 内部監査部門と取締役(特に社外取締役)・監査役との連携は確保できているか。

(オ) 個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援が適切になされているか。

第5 削除された規定の取扱い

改訂案では、いくつかの規定が削除されている。主要なものは次のとおりである。

削除された規定削除理由
現行補充原則1-1②(総会決議事項の取締役会委任)実務上理解が進み浸透
現行原則1-5(買収防衛策)・現行補充原則1-5①有価証券上場規程・金商法との重複
現行原則1-6(株主の利益を害する可能性のある資本政策)上場規程との重複
現行補充原則3-1①(ひな型的記述の回避)基本原則3との重複
現行補充原則3-1②後段(プライム市場上場会社の英文開示)上場規程との重複
現行補充原則3-1③後段(TCFD等に基づく開示)有価証券報告書記載事項との重複
現行補充原則4-1①(経営陣への委任範囲の開示)実務上浸透
現行原則4-6(経営の監督と執行)実務上浸透
現行補充原則4-4①前段(監査役会の独立性・情報収集力)実務上浸透
現行補充原則4-11②後段(兼任状況の毎年開示)事業報告等との重複

ただし、改訂案前文12項が明示するとおり、これらの規定の重要性が失われたわけではない。削除された規定の趣旨は、解釈指針への移管、他の法令・上場規程による規律、または既に浸透した実務として、引き続き上場会社に求められる。

第6 総括

今回の改訂案は、項目数だけを見れば「整理」「移管」「格上げ」が中心であり、一見すると地味に映る。しかし、実務インパクトは大きい。改訂案が求めているのは、①企業価値向上のために本当に必要なテーマを取締役会で議論し、②それを株主に説明し、③その結果を実効性評価に反映させるというサイクルの構築である。

したがって、上場会社としては、CG報告書の文言修正、取締役会議題の見直し、株主対話の運用改善、総会前情報提供の検討、実効性評価設問の改訂を、別個ではなく一体の対応として進めることが求められる。

特に、有価証券報告書の総会前提出に関する金融庁の問題意識(改訂案前文14項)は、今後の制度改正(有価証券報告書と事業報告等の一本化、会社法監査と金商法監査の一元化、有価証券報告書の記載事項の整理)と連動するものであり、中長期的な開示・監査スケジュールの見直しの起点として位置付けられるべきである。

以上


[1] コーポレートガバナンス・コード改訂案の公表について(https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260410.html)

ACCESS 所在地
M&Pインベストメント・コンプライアンス株式会社
弁護士法人 三宅法律事務所  MIYAKE & PARTNERS

大阪事務所 OSAKA OFFICE

〒541-0042
大阪市中央区今橋3丁目3番13号
ニッセイ淀屋橋イースト16階
FAX
06-6202-5089

東京事務所 TOKYO OFFICE

〒100-0006
東京都千代田区有楽町1丁目7番1号
有楽町電気ビルヂング北館9階
FAX
03-5288-1025