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『障害者雇用促進法の改正』

2013/12/16

(執筆者:弁護士 神部美香)

【Q.】
今年、障害者雇用促進法が改正されたと聞きましたが、事業主としてどのような点に注意すればよいでしょうか。_

【A.】
1.障害者の雇用促進の流れ
すべての事業主には、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があります。今年4月から、民間企業における障害者の法定雇用率が1.8%から2.0%に引き上げられ、同時に、適用事業主の範囲が「常用雇用労働者50人以上」に拡大されました。
また、平成20年の障害者雇用促進法(以下「促進法」)の改正により、平成27年4月から、後述の障害者雇用納付金制度の対象事業主の範囲が、常用雇用労働者101人以上に拡大されるなど、次々と障害者の雇用促進のための施策が推進されています。

2.平成25年6月の促進法改正の内容
この流れを受け、さらに今年6月19日、促進法の一部を改正する法律(以下「本改正」)が公布されました。本改正は、大きく、�@障害者権利条約の批准に向けた対応に係る部分と、�A法定雇用率の算定基礎の見直しに係る部分に分けられます。
�@に関し、今般新たに、障害を理由とする差別禁止規定(促進法34条、35条)及び合理的配慮の提供義務規定(促進法36条の2乃至36条の4)が設けられました(平成28年4月施行)。これらの規定は、募集・採用の局面と雇入れ後の局面とを両方規定しており、厚生労働省作成の「障害者雇用促進法の改正の概要*」によれば、障害を理由とする採用拒否、賃金の引き下げ、研修や現場実習の非実施、食堂や休憩室の利用不許可等は、差別に該当するものとされています。
また、募集・採用時の配慮の具体例としては、問題用紙の点訳・音訳、拡大読書器の利用、回答時間の延長などが、雇入れ後の配慮の具体例としては、車椅子利用者に合わせて作業台等の高さを調整すること、筆談すること、手話通訳者・要約筆記者等を配置・派遣すること、通勤ラッシュを避けるために勤務時間を変更することなどが挙げられています。
�Aは、事業主に義務付けられている障害者雇用の法定雇用率について、その算定基礎に、従来の身体障害者・知的障害者のみならず、精神障害者を加えることを内容とするものです。法定雇用率は、わが国全体の労働者の総数に占める障害者認定を受けた労働者の総数の割合を基準として設定されますが、精神障害者が加わることにより、今後、法定雇用率の引き上げが予想されます。法定雇用率を達成できない事業主からは、現行どおり、未達労働者1人につき月額5万円の「障害者雇用納付金」が徴収されるため、今後の事業主負担が増大するおそれがあります。
なお、前述のとおり、今年4月に法定雇用率が引き上げられ、また平成27年4月には障害者雇用納付金制度の対象が拡大されることで事業主の負担増が見込まれる上、精神障害者の雇用義務化は、法定雇用率のさらなる引き上げに繋がるとして、使用者側から強い反対が示されました。その結果、�Aの施行日を平成30年4月に設定するとともに、施行日からさらに5年間の経過措置(改正法附則4条)が定められました。
* http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha_h25/dl/kaisei02.pdf

3.本改正による影響と差別禁止規定の私法上の効果
このように、本改正によって、促進法は、常用雇用労働者を一定以上擁する事業主や、現に障害者を雇用している事業主に限らず、差別禁止や合理的配慮提供義務という点において、あらゆる事業主にとって関係のあるものとなります。促進法は、直接私法上の効果は生じさせないものの、公序良俗(民法90条)、不法行為(民法709条)または信義則(民法1条2項)等を介して、間接的に効果が生じると考えられるため、今後は募集・採用等にあたり、新たに規定される促進法の内容を念頭に置いた対応が望まれます。_

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