(執筆者:弁護士 石井千晶)
【Q.】
先日、令和7年の労働安全衛生法の改正により、小規模事業場におけるストレスチェックが義務化されると聞きました。そこで、今回の改正とストレスチェックの詳細を教えてください。
【A.】
1.はじめに
令和7年の労働安全衛生法の改正により、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場(以下「小規模事業場」)におけるストレスチェックの実施が義務化されました(令和7年5月14日公布。施行日は公布の日から政令で定める3年以内の日)。厚生労働省は、小規模事業場でのストレスチェックを円滑かつ適切に実施できるよう、プライバシー保護と実効性に配慮した実施体制・方法を示す「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(以下「本マニュアル」)を作成しており、小規模事業場でストレスチェックを行う際はこのマニュアルを参照することが望まれます。
本稿では、本マニュアルの概要についてご説明いたします。
(ご参考)厚生労働省HP「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_69680.html
2.実施義務と努力義務
ストレスチェックの対象者となる「常時使用する労働者」とは、次のいずれの要件をも満たす者をいいます。
①期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者、並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、及び1年以上引き続き使用されている者を含む)であること
②その者の1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること
ストレスチェック後の医師の面接指導については、対象者から申し出があった場合は実施する義務があります。また、集団分析・職場環境改善は努力義務とされています。
3.ストレスチェックの実施手順
小規模事業場であっても、基本的な実施手順は従来と変わりません。
(1)ストレスチェック制度の実施に向けた準備
事業者は、労働者に対する方針を表明し、関係労働者の意見の聴取を行います。その結果を踏まえて、ストレスチェック制度の社内ルールを作成し、事業場内イントラネットへの掲載や規程の配付等により周知します。
(2)ストレスチェック制度の実施体制・実施方法の決定
事業者は、原則として、労働者のプライバシー保護の観点から、ストレスチェックの実施を外部機関に委託することが推奨されます。そのため、事業者は、事業場において実務担当者を指名するとともに、外部機関に依頼して実施者等を選定します。委託先の選定に当たっては、外部機関に「サービス内容事前説明書」を作成・提出してもらい、実施内容や料金体系、面接指導の有無についても事前に確認しておきます。あわせて、ストレスチェックの実施時期(1年ごとに1回)、対象者、ストレスチェックの調査票(項目、調査形態)の内容、及び高ストレス者の選定方法についても決定しておく必要があります。
(3)ストレスチェックの実施
ストレスチェックの調査票は、委託先の外部機関が配布し、回収します。事業者は、個人のストレスチェック結果について、実施者(委託先)から、他者に内容がわからない形で労働者本人に通知されるようにしなければなりません。
また、面接指導対象者(①ストレスチェックを実施した際に高ストレスと判定され、かつ、②面接指導を受ける必要があると実施者が認めた従業員)に対しては、実施者(委託先)から、面接指導の申し出の勧奨を行います。
(4)医師の面接指導及び事後措置
事業者は、面接指導対象者から申し出があった場合は、遅滞なく面接指導を行わなければならず、申し出を理由に不利益取扱いをしてはなりません。面接指導の実施後、概ね1カ月以内に、面接指導を実施した医師等から、就業上の措置の必要性の有無や講ずべき措置の内容について意見を聴取しなければなりません。その結果、必要があると認められるときは、就業場所の変更や労働時間の短縮等、適切な措置を講じなければなりません。面接指導結果の記録は、5年間保存義務があります。
(5)集団分析・職場環境改善
事業者は、委託先の外部機関(実施者)に、個人のストレスチェック結果を集団ごとに集計・分析させるよう努め、当該分析結果を活用し、職場環境のストレス要因の軽減に取り組むよう努めなければなりません。
4.留意事項
ストレスチェックや高ストレス者の面接指導の実施の事務に従事した者には、罰則付きで守秘義務が課せられています。そのため、特に外部委託せず、自社でストレスチェックを行う場合は、事業者には慎重な運用が求められます。また、ストレスチェックを実施しなかったこと自体に対する罰則規定はありませんが、実施を怠った結果、労働者がメンタルヘルス不調に至った場合には、安全配慮義務違反として責任を問われるリスクがあります。
5.最後に
ストレスチェック制度の詳細や実施規程のモデル例等は、本マニュアルに記載がありますので、そちらをご参照ください。ストレスチェックを怠り、労働者がメンタルヘルス不調に至った場合には、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を負うリスクもありますので、状況に応じて専門家への相談もご検討ください。