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民法における時効制度の改正

2018/06/14

(執筆者:弁護士 深津雅央)

【Q.】
2020年4月に施行される改正民法では、時効についても改正されると聞きました。どのように変わって、会社にはどのような影響があるのでしょうか。

【A.】
1.民法の改正
 昨年5月に法案が成立した改正民法は、2020年4月1日に施行が予定されており、各企業でも改正にあたってどのような対応が必要なのか、情報収集や検討を進めていることと思います。ところで、今回の改正で、定型約款に関する規定が新設されることや保証に関する規定が変更されることは、新聞・雑誌等を通じてご存じの方も多いと思いますが、実は企業の実務に影響するものとして、時効制度の改正も含まれています。
 今回は、「債権法改正」と呼ばれる中で見落としがちな「時効制度の改正」のうち、特に重要な点について簡単に解説します。

2.消滅時効の起算点
 消滅時効とは、権利を行使しない状態が一定期間続いた場合にその権利が消滅する、という制度です。
 現行の民法では、この期間の起算点と、消滅するまでの期間の長さについての原則として、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行」し(166条1項)、「十年間行使しないときは、消滅する」(167条1項)と定められています。
 改正後の定めは、次のようになっており、期間の起算点と、消滅するまでの期間の長さについて、2種類のルールが設けられることになりました。

     (債権等の消滅時効)
     第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
      一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
      二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

 「権利を行使することができることを知った時」と「権利行使することができる時」の違いがわかりにくい、という方も多いかもしれません。しかし、企業の一般的な取引における債権、例えば売買契約に基づく代金の支払請求権などは、契約書に記載された弁済期が到来した時に「権利を行使することができることを知った」といえることがほとんどです。そのため、企業の一般的な取引における債権の消滅時効は、権利を行使(例:代金の支払を請求)できることが契約で定められている時点から5年間が原則である、という点をまず押さえておいてください。
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3.そのほかの時効に関する改正点
 消滅時効についての原則的ルールは上記のとおりですが、このほかの改正点のうち、重要なものは以下のとおりです。
(1)職業別の短期消滅時効・商事消滅時効の廃止
 現行法では、医師・助産師等に関する債権や工事の設計・施工・監理に関する債権は3年、運送費・旅館・飲食店等に関する債権は1年、などと職業別に債権の消滅時効期間が定められていました。しかし、これらは複雑でわかりにくく、現代の取引における常識に合致しないとの意見もあったため、廃止されました。
 また、商法522条は、商事債権について5年の消滅時効を設け、一般の民事債権(10年)と区別していましたが、これも商事・民事の区別が困難な場合が多く、適切でないとして廃止されました。
 改正後は、これらの債権も含めて「2.消滅時効の起算点」の統一的なルールが適用されます。これにより、企業の一般的な取引における債権の消滅時効はほとんどが5年になりそうですので、これまで企業が、 “商行為によって生じた債権なので消滅時効は5年が原則”としてきた実務の流れに、法が近づいたともいえそうです。
(2)協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(151条)
 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた時は、(a)その合意があった時から1年を経過した時、(b)その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めた時は、その期間を経過した時、(c)当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされた時は、その通知の時から6カ月を経過した時、のいずれか早い時までの間、時効は完成しない、という制度が新設されました。ここでいう「書面」には電子ファイル、電子メールによるものも含みます。
 これは、協議を行う旨の合意による時効の完成猶予、と呼ばれていますが、何をもって「協議を行う旨の合意」が成立したといえるかは、改正後の運用状況等を注視する必要があります。改正民法の施行後は、時効が完成しそうな権利についての話し合いの申し入れがあった場合(特に、請求を受ける側の場合)は、応答するにあたって慎重な検討が必要になると思われますし、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。

4.現行法・改正法の適用関係
 前述のとおり、改正民法の施行は2020年4月1日ですが、消滅時効の期間に関する改正については、改正法の附則において、「施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による」と定められています(附則10条4項)。
 そのため、すでに発生している債権の消滅時効の期間が2020年4月1日を境に変わるわけではなく、施行日前に発生した債権の消滅時効の期間は、あくまでも現行法のルールが適用され続けることに注意してください。

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