[【動画解説】トクリュウ対策としての「遠隔解析」~警察庁有識者検討会「提言骨子」の読み解きと民間企業・金融機関への影響(外部YouTube)]
※YouTube公開後にURLを設定
[【動画資料】トクリュウ対策としての「遠隔解析」~警察庁有識者検討会「提言骨子」の読み解きと民間企業・金融機関への影響(PDFファイル)]
※PDF掲載後にURLを設定
【お問い合わせ】
本件に関するご相談は、弁護士法人三宅法律事務所 弁護士 渡邉雅之(TEL 03-5288-1021/m-watanabe@miyake.gr.jp)までお願いいたします。
※本動画及び資料は、警察庁「匿名・流動型犯罪グループによる犯罪被害対策のための技術的措置に関する有識者検討会」の提言骨子及び同検討会資料、その他の公表資料に基づき、いわゆる「遠隔解析」の制度趣旨、法的論点及び民間企業・金融機関への実務的影響を整理したものです。遠隔解析の導入の是非について特定の立場に与するものではなく、通信の秘密・プライバシーの保護と犯罪被害防止との調整を含め、公開情報から中立的に検討しています。
【主な参照資料】
・警察庁「匿名・流動型犯罪グループによる犯罪被害対策のための技術的措置に関する有識者検討会」
https://www.npa.go.jp/bureau/soumu/kentoukai/shiryou.html
・警察庁「匿名・流動型犯罪グループによる犯罪被害対策のための技術的措置に係る有識者検討会 提言骨子」
https://www.npa.go.jp/bureau/soumu/kentoukai/teigenkosshi_honbun.pdf
・金融庁「『犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令』の公布等及びパブリックコメントの結果等について」(2026年6月26日)
https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260626/20260626.html
・株式会社マネー・ローンダリング対策共同機構「不正利用口座情報共有に関するシステムの開発について」
https://www.caml.co.jp/article/general/a160
【説明】
今回は、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)対策としての『遠隔解析』~警察庁有識者検討会『提言骨子』の読み解きと民間企業・金融機関への影響」をご案内いたします。
近年、匿名・流動型犯罪グループ、いわゆる「トクリュウ」が関与するとみられる特殊詐欺や強盗等の被害が深刻化しています。警察庁資料によれば、特殊詐欺の被害額は令和7年中に約3,257億円と過去最多となり、令和8年上半期だけでも約1,816億円、1日当たり約10億円の被害が発生する計算となっています。また、闇バイトを実行犯とする連続強盗事件や、高校生等が実行役となった強盗殺人事件も発生しています。
トクリュウの特徴は、SNS等を通じて実行犯を随時募集し、秘匿性の高い通信アプリを用いて非対面・匿名で犯行を指示する点にあります。一部の実行犯を検挙しても、上位の指示役や次の標的を速やかに特定することが難しく、新たな実行犯が補充されて犯行が継続するという構造があります。また、犯行に用いられるスマートフォン等には、被害者候補の氏名・住所・家族構成・所得・保有銀行口座等を記載した、いわゆる「闇名簿」が保存されていた事例も確認されています。
さらに、Signal、Telegram等に代表される秘匿性の高い通信アプリでは、エンド・ツー・エンド(E2E)暗号化が利用されることがあります。この場合、送信者の端末で暗号化された通信が受信者の端末で復号されるため、通信事業者のサーバや通信経路上では内容を解読できない場合があります。このため、従来の通信事業者を通じた情報取得や通信傍受だけでは、犯行グループの通信内容を迅速に把握することが困難となっています。
こうした状況を踏まえ、警察庁の有識者検討会は、犯罪者グループの端末から犯罪に悪用される通信アプリの通信内容等を迅速に把握し、被害防止に活用する「遠隔解析」の制度化を提言しています。
遠隔解析の大きな特徴は、単に犯罪者を検挙するための新しい捜査手法としてではなく、次に犯罪の標的となる「被害切迫者」を早期に特定し、犯罪が完成する前に被害を阻止するための行政上の権限として構成しようとしている点にあります。提言骨子では、遠隔解析を、犯罪の予防・阻止を目的とする行政手続上の措置として警察官職務執行法に位置付けることが考えられています。
他方で、本人に事前通知することなくスマートフォン等に保存された通信内容や電磁的記録にアクセスすることは、通信の秘密やプライバシーに対する重大な制約となります。このため、提言骨子は、重大犯罪による被害発生の具体的なおそれ、緊急性、他の方法では速やかに必要情報を得られないという補充性、犯人が使用すると合理的に認められる端末への限定等の厳格な要件を設けるとともに、裁判官による事前の司法審査(許可状)を要求する方向を示しています。
また、遠隔解析を行う警察官を専門的な知識・能力を有する者に限定すること、許可された範囲外の情報を取得した場合には全て消去すること、一定の場合に対象端末の使用者へ事後通知すること、公安委員会が全件について事後監督を行うことなど、適正性を確保するための複数の歯止めも提言されています。
本動画解説・動画資料では、こうした遠隔解析制度の全体像を整理するとともに、特に、「被害防止を目的とする行政調査」でありながら、その実質はスマートフォン等の物理的差押えと同程度の強制性を有すると評価されている点を取り上げ、憲法31条・35条、通信の秘密、プライバシー、比例原則との関係を検討しています。
さらに、遠隔解析は犯罪被害防止目的で行使される一方、適法に取得された情報について、必要な刑事手続を経た上で刑事事件の証拠として利用することも許容され得ると整理されています。このため、「被害防止」という入口の目的と、その後の刑事手続における利用との境界をどのように管理するかも重要な論点となります。
あわせて、英国、ドイツ、米国、フランス、オーストラリア等における類似制度を比較し、日本案が、犯罪被害防止という行政目的を採りながら、裁判官による事前審査や事後通知、公安委員会による事後監督等の強い手続保障を組み合わせた制度となっている点についても解説しています。
後半では、遠隔解析制度が民間企業に与える実務的な影響も取り上げています。
遠隔解析そのものを実施する主体は警察であり、民間企業に犯罪者の端末解析を求める制度ではありません。しかし、トクリュウの端末から実際に顧客の氏名、住所、資産状況、家族構成、銀行口座等を含む「闇名簿」が発見されていることを踏まえれば、企業が保有する顧客情報が、特殊詐欺や強盗の標的選定に利用されるリスクを改めて認識する必要があります。
そのため、富裕層・高額取引顧客等の情報へのアクセス権限管理、大量閲覧・異常閲覧の検知、退職予定者や委託先を含む内部不正対策、監査証跡の確保など、従来の個人情報保護・情報セキュリティ対策を「犯罪被害防止」という観点から見直すことが重要となります。
また、遠隔解析により被害切迫者が特定され、警察から企業に「貴社の顧客が犯罪の標的となっている」といった緊急連絡や照会がなされる可能性も考えられます。その場合、誰が情報を受領し、誰が個人情報提供の可否を判断し、どのように本人への連絡や警察への協力を行うのかという緊急対応フローを、平時から整備しておく必要があります。
金融機関については、さらに、特殊詐欺の最終局面で実際に資金が移動することから、被害を止める「最後の水際」としての役割が重要となります。
警察から被害切迫情報を受領した後、顧客・口座の特定、取引履歴の確認、高額振込・出金の確認、営業店への連絡、顧客への注意喚起、モニタリング強化、必要に応じた取引制限・口座凍結等を、短時間で実施できる業務フローを構築しておくことが求められます。
また、遠隔解析とは別に、2027年4月1日から、金融機関間で不正利用口座情報を共有する新たな枠組みも施行・稼働する予定です。
この制度では、外部から受領した情報を起点として自行の顧客情報・取引履歴等を照合し、必要な追加確認やモニタリング、取引制限等につなげることになります。そのため、金融機関にとって重要なのは、単に制度内容を理解することではなく、「Who does what when(誰が、何を、いつ行うのか)」を具体的な業務フローとして整備することです。
特に、外部から犯罪利用の疑いに関する情報を受けた場合、直ちに口座凍結できるとは限りません。同姓同名、法人名寄せ、住所の不一致等の誤検知リスクもあるため、追加確認の範囲、モニタリング強化・取引制限・口座凍結の判断基準、凍結しなかった場合の記録、誤認等が判明した場合の解除基準、顧客への説明まで一体として設計する必要があります。
遠隔解析制度は、単なる「警察による新しい捜査・調査技術」の導入にとどまりません。
犯罪発生後に犯人を追うだけではなく、犯罪計画と次の標的を早期に把握し、被害が完成する前に動く。
この方向性は、警察活動だけでなく、企業の情報管理、危機管理、金融犯罪対策にも共通する大きな変化といえます。
本動画解説・動画資料では、こうした制度の法的構造とともに、民間企業・金融機関として、制度の施行を待つだけではなく、今の段階からどのような実務対応を検討しておくべきかについても具体的に整理しています。