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組織の不正を防ぐ効果も。公益通報者保護法の改正と中小企業への影響

2023/03/06

(執筆者:弁護士 水関莉子)

【Q.】
 近年、内部通報を契機に事業者の不正が発覚したというケースをたびたび耳にします。中小企業である当社も、何か対応をとるべきでしょうか。また、公益通報者保護法が改正されたとの話ですが、何が変わったのか、中小企業にどのような影響があるのかについても教えてください。

【A.】
1.はじめに
 公益通報者保護法は、公益通報を通じて事業者の不祥事を早期に発見し、または未然に防ぐために、通報者の保護の内容等を定めた法律です。近年も事業者の不祥事が後を絶たず社会問題となる中、令和4年6月1日に同法の改正法が施行され、あらためて公益通報者保護法の果たす役割が注目されています。
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2.改正公益通報者保護法の概要
 公益通報者保護法によって保護される「公益通報」とは、労働者等が、不正の目的でなく、法定の通報受付先に対して行った通報であって、その内容が法定の通報対象事実(法令違反等)に該当するものをいいます(法2条)。
 今回の改正によって、通報者の範囲が拡大され(「労働者」以外に、新たに「1年以内の退職者」と「役員」が追加されました。)、保護の内容も強化されました。また、これまでハードルが高いとされていた行政機関への公益通報(行政通報)の保護要件が大幅に緩和されました。これらの改正によって、従業員等が以前よりも公益通報、とくに行政通報がしやすくなったといえます。
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3.中小企業への影響──行政通報のリスクの拡大
 そもそも中小企業にとって、行政通報されることは大きなリスクになり得ます。通報体制の整備が進んでいない中小企業の場合は、行政機関が通報の受け皿となり、社内で法令違反等の事実を認識していないうちに、突然、行政通報がなされるという事態があり得ます。そして、行政機関が実際に調査等に動き出すと、その事実が金融機関や取引先に知れ渡ったり、メディアで報道されたりすることで信用棄損やイメージダウン等が発生し、さらには刑事事件に発展するおそれもあるなど、自社が受けるダメージは甚大なものとなります。
 そのため、社内に通報受付窓口を設置するなどして、まずは内部への通報を促し、いきなり行政通報されてしまうのを回避する必要があります。
 改正法により導入された通報体制を整備する義務(法11条2項)は、従業員の数が300人以下の事業者については「努力義務」にとどまりますが、前述の通り、行政通報のリスクは中小企業も決して無関係ではないため、通報受付窓口を設置するなどの対応を考えなければなりません。
 なお、通報受付窓口の設置のほか、内部通報に対応するために必要な体制の整備については、法改正に伴い消費者庁が発表した「公益通報者保護法に基づく指針」(※1)及び「指針の解説」(※2)の中で詳しい説明がなされています。どのような体制を整備すればよいかは、各事業者の規模や業種・業態等の実情によっても異なりますが、参考になさってください。
※1 https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000223501
※2 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_211013_0001.pdf
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4.おわりに
 通報体制を整備することは、先に述べたようなリスクの回避という消極的な意義をもつにとどまりません。通報体制を整備し、効果的に運用することで、社内の自浄作用を発揮させ、法令違反等を可能な限り未然に防止すること、また、万が一、法令違反等が発生した場合でも迅速に事態を把握し対処することで、影響を最小限に抑えることが期待でき、事業者にとって大きなメリットになります。
 今般の改正を機会に、通報受付窓口を設置するなどの対応を検討してみてはいかがでしょうか。その際、社内において機能する通報体制を構築できるよう、内部統制に詳しい専門家に相談することもご検討ください。

以 上

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