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その懲戒処分、本当に有効? 懲戒処分における留意点

2021/05/20

(執筆者:弁護士 村田大樹)
【Q.】
 従業員が社内で不祥事を起こしたため、懲戒処分をしたいと思っています。懲戒処分が可能かどうかは、どのように判断すればよいでしょうか。また、懲戒処分をする際の留意点があれば教えてください。
【A.】

1.はじめに
 社内で不祥事を起こした従業員への対応に、頭を悩ませる企業も多いと思います。その場合、懲戒処分を検討することもあると思いますが、その処分自体が不利益な措置であることに加えて、人事考課や配置、昇進等にも影響を及ぼす可能性のある重大な事柄であるため、懲戒処分を行うにあたっては留意する点が多く存在します。
 そこで本稿では、懲戒処分に関する基本的な知識も交え、懲戒処分を行ううえで留意すべき点についてご説明します。
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2.懲戒処分の意義・種類
 懲戒処分とは、労働者の服務規律や秩序違反を理由に制裁として行われる不利益措置のことをいいます。懲戒には、普段よく聞く「懲戒解雇」だけでなく、「戒告」「けん責」「減給」「出勤停止」「降格」「諭旨解雇」等があります。なお、一般に「けん責」とは、始末書を提出させて将来を戒めることをいい、始末書を提出させるか否かという点で「戒告」と区別されている事例が多くみられます。
 具体的な懲戒事由としては、経歴詐称、職務懈怠、業務命令違反、職場規律違反、職場外での非違行為等、様々なものがあります。
 懲戒処分は、就業規則等において懲戒の種類および懲戒事由が明記されていないと行うことができないと考えられているため、現在、懲戒処分を検討している従業員がいなくても、来るべき時に備えて就業規則等の規定を整えておく必要があります。
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3.就業規則における留意点
 前述のとおり、就業規則に規定されていない懲戒処分を行うことはできず、懲戒の種類や懲戒事由は限定列挙と考えられています。そのため、特に懲戒事由については、ある程度、詳細に記載しておく必要があります。もっとも、具体的な懲戒事由に完全に一致する場面はそう多くはないため、様々な場面に対応できるよう、「その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があった場合」といった包括的規定を、最後に必ず定めておかなければなりません(かかる包括的な記載方法が懲戒事由として十分と言えるかについて疑義を生じさせないためにも、「前各号に準ずる」との文言は必ず入れましょう)。
 なお、実務上、このようにある程度、包括的な記載も許されていますが、実際の裁判例では、労働者保護の観点から、包括的規定や抽象的規定を限定的に解釈する傾向があることには注意が必要です。
 もう一点、懲戒事由を就業規則に定める際の注意点としては、具体的な懲戒事由と選択する懲戒処分の種類とのバランスです。すなわち、懲戒解雇等の重い懲戒処分には重大な非違行為が列挙され、戒告等の軽い懲戒処分には軽微な非違行為が列挙されている必要があります。そのため、同じ程度の非違行為を異なる種類の懲戒処分において列挙していたり、逆転していたりしないかを確認することが必要でしょう。
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4.懲戒処分の検討における留意点
 就業規則に記載された懲戒事由に該当する行為があったと認められる状況でも、場合によっては処分が無効になることがあります。懲戒処分は、会社の裁量により完全に自由にできるものではなく、客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性を欠く懲戒処分は無効になるとされています(労働契約法15条)。実務で特に問題となるのは、懲戒処分の相当性を欠く場合、すなわち、懲戒処分が「重すぎる」場合です。たとえば、数回の遅刻により、いきなり懲戒解雇をする場合等がその典型でしょう。懲戒処分を検討する場面では、得てして重めの処分を考えてしまいがちですが、前例との均衡、同時に懲戒処分を受けた者との平等性のほか、対象行為の動機・目的、態様、当該従業員の勤務態度、当該懲戒処分が当該従業員に与える影響等も考慮しながら、慎重に判断する必要があります。
 また、就業規則等に懲戒処分に関する手続きが定められている場合には、かかる規定に基づいた手続きが履践できていなければ、懲戒処分が無効になる可能性があるので注意が必要です。就業規則等に手続きが定められていなかったとしても、特段の支障のない限り、本人に弁明の機会を付与すべきでしょう。
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5.最後に
 これまで見てきたように、懲戒処分は従業員にとって重大な不利益を及ぼす措置であるため、その可否等について慎重に判断する必要があります。現在、懲戒処分を検討している従業員がいない場合でも、今のうちに、就業規則に見直す点がないか等、必要に応じて専門家に相談することをご検討ください。
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