【動画解説】特殊詐欺の被害、銀行が補償する時代は来るのか~2026事務年度金融行政方針「実効的な救済」を読む(外部YouTube)
【動画資料】特殊詐欺の被害、銀行が補償する時代は来るのか~2026事務年度金融行政方針「実効的な救済」を読む(PDFファイル)
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本件に関するご相談は、弁護士法人三宅法律事務所 弁護士 渡邉雅之(TEL 03-5288-1021/m-watanabe@miyake.gr.jp)までお願いいたします。
※本動画及び資料は、以下の公表資料等に基づき、特殊詐欺の被害者救済と金融機関に求められる対応を整理したものです。
・金融庁「2026事務年度金融行政方針」(2026年9月15日)
・衆議院法務委員会の会議録(2026年4月15日)
・犯罪対策閣僚会議「詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策」(2026年7月28日)
・金融庁の取引モニタリングに関する調査報告書(2026年5月28日公表)
・英国Payment Systems Regulatorの公表資料
国会答弁の内容は、会議録に基づく要旨です。緊急対策に掲げられた施策は検討段階のものを含み、今後の法令・監督指針等により内容が変わり得ます。本人操作型詐欺の補償制度の見通し、日本版の論点、有効性検証のKPI案及び体制整備の項目は、当職の私見です。
【説明】
2026年9月15日に公表された2026事務年度金融行政方針は、特殊詐欺について、金融機関間の情報共有、口座不正利用の早期検知と迅速な凍結などと並んで、「被害者の実効的な救済に向けた制度の在り方について検討する」と明記しました。同じ箇所には、インターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引について、「顧客への連絡及び被害発生後の対応等」に係る金融機関の態勢を確認する旨の記載もあります。
ただし、この2つの文言は別の文脈で書かれています。「被害発生後の対応」は、第三者による無権限の取引(不正アクセス)の文脈です。「救済制度の在り方」は、本人が騙されて自ら送金する類型を含む特殊詐欺の文脈です。両者を区別して読むことが、正確な理解の前提になります。
背景には、被害の急増があります。
・警察庁の暫定値によれば、2026年7月末までの特殊詐欺の被害額は約2,108億円で、前年同期比で約43%増えています(件数の伸びは約17%)。
・上半期の交付形態では、振込型が5割を超えています。
・一方、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)は、凍結口座の残高を分配する仕組みです(3条1項、4条1項、7条)。2026年4月15日の衆議院法務委員会で示された金融庁の試算では、2024年度の回収率は約9%にとどまります。
同じ4月15日の委員会では、警察官・検察官を名乗る者にだまされて80代の方が12億円を失った事案が取り上げられました。
・金融庁は、顧客の意向等によっては送金依頼を拒むことが困難な場合もあると答弁しました。
・法務省は、振込依頼は準委任であり、銀行は善管注意義務(民法644条・656条)を負うが、その内容・程度は個別の事情によると答弁しました。
・金融庁は、英国のAPP詐欺補償制度も参考にしながら、関連する諸制度とのバランスも考慮しつつ継続的に検討すると答弁しています。
本動画では、次の点を整理します。
・国会で取り上げられた12億円事案と、銀行が置かれた「挟み撃ち」
・行政方針の2つの文言の読み分け
・「実効的な救済」は補償制度の新設を意味するのか ― 確実に動いているものと、まだ決まっていないもの
・緊急対策 ― 振り込め詐欺救済法の見直し(混在口座からの還付)、金融犯罪対策センター(仮称)、情報提供の免責規定の検討
・2026年6月1日に運用が始まった、警察庁と9行による被害金の追跡・凍結・回復の官民協働型枠組み
・金融庁の調査で明らかになった「詐欺被害者の行動」の検知の弱さ
・日本の現行の補償の枠組みと「空白」 ― 偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律(預金者保護法)4条・5条、全国銀行協会の申し合わせ、証券口座乗っ取りへの対応
・遠隔操作型のサポート詐欺は補償の対象になり得るか
・英国のAPP詐欺補償制度の実績(返金率88%、対象となる詐欺被害の約21%減少)と、EUの決済サービス規則の暫定合意
・被害者から金融機関への請求の法的構成 ― 送金側は民法644条・656条、受取側は民法709条、犯罪による収益の移転防止に関する法律4条・11条、振り込め詐欺救済法3条1項
・有効性検証の新しいKPIと、今から整えておきたい7つの項目(約款の免責条項と消費者契約法8条1項・10条を含む)
本動画で最もお伝えしたいのは、金融犯罪対策の「主語」が変わりつつあるという点です。これまでの対策は、犯罪利用口座を見つけ、凍結するという「犯人」側の発想が中心でした。これからは、お客さまがいま騙されて送金しようとしていないかを検知し、連絡・確認し、必要なら送金を保留し、送金後は被害金を追跡・凍結・回復するという「被害者」側の対応が求められます。
本人操作型詐欺の補償制度は、現時点では何も決まっていません。しかし、行政方針は「制度の在り方」と幅を持たせた表現をとっており、補償は選択肢として排除されていません。補償制度ができる前から、被害申出への対応、送金保留の記録、補償判断の社内基準といった「記録」と「基準」は、被害者からの請求への対応で効いてきます。
【主な参照資料】
・金融庁「2026事務年度金融行政方針」(2026年9月15日)
https://www.fsa.go.jp/news/r8/202609/strategic_priorities_2026_main.pdf
・衆議院法務委員会第4号 会議録(2026年4月15日)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000422120260415004.htm
・犯罪対策閣僚会議「詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策」(2026年7月28日)
https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/hanzai/kettei/260728/kinkyutaisaku_honbun.pdf
・金融庁・警察庁「特殊詐欺に係る被害金の追跡、凍結、回復に指向した官民協働型枠組み」(2026年5月28日公表)
・金融庁「取引モニタリングの検知能力強化に向けた横断的レビューにかかる調査業務」報告書(2026年5月28日公表)
https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20260528/20260528.pdf
・警察庁「令和8年7月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等(暫定値)」「令和8年上半期における特殊詐欺の認知・検挙状況等(暫定値)」
・英国Payment Systems Regulator「APP scams reimbursement dashboard」、独立評価報告(2026年7月1日公表)
・EU決済サービス規則(PSR)・第3次決済サービス指令(PSD3)の暫定合意(2025年11月27日)関連公表資料
・犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(平成19年法律第133号)
・偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律(平成17年法律第94号)
・民法(明治29年法律第89号)
・犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)
・消費者契約法(平成12年法律第61号)
※個別案件については、取引の経緯、顧客とのやり取り、検知・声かけ・保留の記録、預金規定・インターネットバンキング規定の内容等を踏まえた検討が必要です。