ニュースレター:改正公益通報者保護法の指針・指針解説を踏まえた実務対応―総務・労務担当者が施行日までに見直すべき規程・マニュアル・書式―
改正公益通報者保護法の指針・指針解説を踏まえた実務対応
―総務・労務担当者が施行日までに見直すべき規程・マニュアル・書式―
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1 はじめに
令和7年6月11日、「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(令和7年法律第62号)が公布されました。その後、「公益通報者保護法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(令和7年政令第408号)が令和7年12月10日に公布され、同改正法の施行期日は令和8年(2026年)12月1日と定められました。
これを受けて、令和8年3月31日、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(以下「指針」といいます。)[1]および「公益通報者保護法に基づく指針の解説」(以下「指針解説」といいます。)[2]が改正されました。指針解説は、令和7年6月11日に公布された改正法に伴う指針改正を受けて、内容を一部加筆・修正したものです。
本ニュースレターでは、改正法そのものの逐条解説ではなく、企業の総務・労務・法務・コンプライアンス担当者が、施行日までに何を整備すべきかを中心に解説します。特に、内部通報規程、通報対応マニュアル、従事者指定書、管理職研修、業務委託契約書、退職時誓約書、秘密保持契約書をどのように見直すべきかを、実務対応の観点から整理します。
今回の対応で重要なのは、内部通報制度を「規程上は存在する制度」から、実際に通報者が安心して利用でき、不正の早期発見・是正につながる制度に変えることです。指針解説も、実効性のある公益通報対応体制の整備・運用が、法令遵守の推進、組織の自浄作用の向上、ステークホルダーからの信頼獲得に資すると位置付けています。
2 対象となる企業――300人超は義務、300人以下もリスクに応じた対応が必要
公益通報者保護法11条1項・2項に基づく体制整備義務は、常時使用する労働者数が300人を超える事業者に義務として課されています。300人以下の事業者については努力義務です。消費者庁の周知資料でも、従業員301人以上の事業者には内部通報窓口の設置および従事者の指定義務がある一方、従業員数にかかわらず、通報者探しや通報妨害などは禁止されるものと説明されています。
もっとも、300人以下の企業であっても、「努力義務だから何もしなくてよい」と考えるのは適切ではありません。内部通報制度は、労務トラブル、ハラスメント、情報漏えい、品質不正、不正会計、取引先との不正、下請法・フリーランス法関連の問題を早期に把握するための重要な仕組みです。
特に、次の企業では、300人以下であっても早めの対応が望まれます。
今回の改正では、体制整備義務違反に関する行政権限や、公益通報を理由とする一定の不利益取扱いに対する罰則も強化されています。したがって、総務・労務担当者としては、まず自社が義務対象か努力義務対象かを確認したうえで、義務対象企業であれば施行日までに制度を整備し、努力義務対象企業であっても、企業規模・業種・リスクに応じた制度整備を検討すべきです。
3 改正法と指針・指針解説の関係
今回の実務対応では、改正法と指針・指針解説を分けて理解することが重要です。
改正法は、公益通報者保護制度の大枠を定めるものです。たとえば、通報妨害・通報者探索の禁止、フリーランス等の保護対象への追加、通報後1年以内の解雇・懲戒に関する推定規定、公益通報を理由とする解雇・懲戒への罰則などが定められています。
これに対し、指針・指針解説は、企業が実際にどのような体制を整え、どのように通報を受け付け、調査し、是正し、通報者を保護すべきかを示すものです。企業実務に直接影響するのは、指針・指針解説に沿って、規程・マニュアル・研修・書式を見直すことです。
| 改正法の柱 | 主な条文 | 指針上の対応項目 | 実務対応 |
| 体制整備義務の実効性向上 | 法11条1項・2項、15条、15条の2、16条、21条、22条、23条 | 指針第3、第4・2、第4・3 | 従事者指定書、守秘義務・罰則説明、周知資料、記録管理の整備 |
| 保護対象者の拡大 | 法2条、3条、4条、5条、6条 | 指針第2、第4・2(3) | フリーランス・元フリーランスを含めた通報対象者の見直し、業務委託先への周知 |
| 通報妨害・通報者探索の禁止 | 法11条の2、11条の3 | 指針第2、第4・2(2)、第4・2(3)ヘ | 退職時誓約書、秘密保持契約、業務委託契約、管理職研修の見直し |
| 不利益取扱いの抑止・救済強化 | 法3条、4条、5条、6条、7条、21条、23条 | 指針第4・2(1)、第4・2(3)ホ | 通報後の人事・契約上の措置のモニタリング、救済・回復措置の整備 |
| 行政対応リスクの上昇 | 法15条、15条の2、16条、21条、23条 | 指針第3、第4・3 | 通報受付、調査、是正、従事者指定、研修の証跡管理 |
このように、改正法は「禁止されること」「保護される人」「制裁」を定めるものですが、指針・指針解説は、それを企業内の制度・運用に落とし込むための実務指針です。本稿では、以下、総務・労務担当者が実際に見直すべき項目に沿って説明します。
4 実務対応① 通報できる者の範囲を見直す
最初に確認すべきなのは、内部通報制度を利用できる者の範囲です。
従来の内部通報規程では、「当社の役職員」「当社従業員」「社員等」といった表現にとどまる例が少なくありません。しかし、令和7年改正法では、フリーランス等、すなわち特定受託業務従事者および特定受託業務従事者であった者が重要な対象となります。
現在の企業活動では、外部エンジニア、業務委託先、コンサルタント、フリーランス、下請・協力会社の担当者など、雇用契約に基づかない者が企業活動の中核に関与することがあります。これらの者が、品質不正、情報漏えい、過重労働、ハラスメント、不正会計、下請法・フリーランス法関連の問題を把握することもあります。
そのため、内部通報規程では、少なくとも次の者を対象に含める方向で見直す必要があります。
ここで注意すべきなのは、「法的に保護される公益通報者」と「会社の制度として通報を受け付ける対象者」を分けて整理することです。法定保護対象者に限らず、会社の判断で、取引先、代理店、協力会社、業務委託先の法人担当者などにも通報窓口の利用を認めることは可能です。
規程例は、次のとおりです。
本規程に基づき通報または相談を行うことができる者は、当社の労働者、派遣労働者、役員、退職者、特定受託業務従事者および特定受託業務従事者であった者その他当社が別途定める者とする。
なお、対象者を広げる場合には、単に規程を直すだけでは足りません。通報を受け付ける窓口担当者が、退職者や業務委託先からの通報を受けたときに、「当社の制度対象外です」と誤って対応しないよう、受付マニュアルも合わせて改訂する必要があります。
5 実務対応② フリーランス・業務委託先への周知方法を整備する
対象者を規程上広げても、その人たちに窓口情報が届かなければ制度は機能しません。特に、フリーランス・業務委託先は、社内イントラネット、社内掲示板、社内メール、従業員研修にアクセスできないことが多いため、別途の周知方法が必要です。
指針解説によれば、改正指針では、労働者等、役員、退職者、特定受託業務従事者および特定受託業務従事者であった者に対し、内部公益通報受付窓口の設置・連絡先・連絡方法、独立性確保措置、公益通報対応業務の実施措置、利益相反排除、不利益取扱い防止、範囲外共有・通報妨害・通報者探索防止、是正措置等の通知、記録保管・見直し・運用実績開示、調査協力に関する事項を周知・啓発することが列挙されています。
実務上は、次の方法が考えられます。
業務委託契約書に盛り込む条項例は、次のとおりです。
| 受託者は、委託業務に関連して法令違反等を認識した場合、委託者が定める公益通報窓口に通報または相談することができる。委託者は、受託者が公益通報を行ったことを理由として、契約解除、委託数量の削減、報酬減額その他不利益な取扱いを行わない。 |
周知については、「周知した事実」を証拠化することも重要です。たとえば、契約書への記載、メール送信記録、説明資料の配布履歴、Web掲載履歴などを残しておくと、後日、制度整備の実効性を説明しやすくなります。
6 実務対応③ 従事者指定書を見直す
次に重要なのが、公益通報対応業務従事者の指定です。
指針は、事業者が従事者を定める際には、書面により指定するなど、従事者の地位に就くことが本人に明らかとなる方法によることを求めています。さらに、改正後は、従事者となる者に対し、法12条の守秘義務が課されること、および法22条の罰則の適用対象となり得ることも明らかにする必要があります。
これは、従事者指定が単なる社内担当者の割当てではないことを意味します。公益通報対応業務従事者は、公益通報者を特定させる事項を取り扱う可能性があるため、法的な守秘義務を負います。そのことを本人が認識していなければ、通報者保護の観点から不十分です。
従事者指定書には、次の事項を記載することが望まれます。
従事者指定書のひな型は、次のように考えられます。
| 公益通報対応業務従事者指定書 当社は、貴殿を公益通報者保護法11条1項に基づく公益通報対応業務従事者として指定します。貴殿は、内部公益通報の受付、調査、是正措置その他公益通報対応業務に関し、公益通報者を特定させる事項を取り扱う場合があります。 貴殿には、公益通報者保護法12条に基づく守秘義務が課されます。また、同義務に違反した場合、同法22条に基づく罰則の適用対象となり得ます。貴殿は、公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有してはならず、通報妨害または通報者探索に該当する行為を行ってはなりません。 |
また、従事者指定は「一度指定して終わり」ではありません。異動、退職、担当変更があった場合には従事者リストを更新し、誰がいつからいつまで従事者であったか、どの研修を受けたかを記録しておく必要があります。
7 実務対応④ 通報妨害・通報者探索を規程と研修に明記する
改正法では、通報妨害および通報者探索が法律上禁止されました。「通報妨害」とは、公益通報をしない旨の合意を求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすると告げることなどです。「通報者探索」とは、公益通報者である旨を明らかにすることを要求すること、その他通報者を特定する目的の行為をいいます。
総務・労務担当者が特に注意すべきなのは、退職時誓約書、秘密保持契約書、和解契約書、業務委託契約書です。これらの書面に「会社に関する一切の事項を外部に開示しない」といった広い文言がある場合、公益通報を萎縮させるリスクがあります。
退職時誓約書の修正文例は、次のとおりです。
| 私は、在職中に知り得た会社の秘密情報を、正当な理由なく第三者に開示しないことを誓約します。ただし、本誓約は、公益通報者保護法その他法令に基づき適法に行われる通報、申告、相談または行政機関等への情報提供を妨げるものではありません。 |
管理職研修では、次の行為が問題となることを具体的に説明する必要があります。
通報者探索は、通報者本人だけでなく、他の従業員にも「通報すれば犯人探しをされる」という萎縮効果を与えます。したがって、管理職に対しては、「通報者を探さないこと」自体を明確なルールとして教育する必要があります。
8 実務対応⑤ 不利益取扱いを「禁止」するだけでなく「把握・救済」する
今回の指針・指針解説改正で重要なのは、不利益取扱いについて、単に禁止するだけでは足りないという点です。改正指針は、不利益な取扱いを防止する措置に加え、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復措置をとることを求めています。
改正法では、公益通報後1年以内の解雇または懲戒について、公益通報を理由としてされたものと推定される規定が設けられています。また、公益通報を理由とする解雇・懲戒には刑事罰も導入されています。したがって、通報後1年以内に解雇・懲戒を検討する場合には、通常の労務管理上の判断だけでなく、公益通報者保護法上の観点から慎重な確認が必要です。
実務上は、次のような「通報後モニタリング項目」を設けることが考えられます。
| 対象者 | 確認項目 |
| 従業員 | 人事評価、配置転換、懲戒、職務変更、上司との関係、嫌がらせの有無 |
| 役員 | 報酬、担当職務、再任・解任、取締役会・委員会での扱い |
| フリーランス・業務委託先 | 契約更新、委託量、報酬、契約解除、取引停止、担当者変更 |
| 派遣労働者 | 派遣契約の更新、派遣先での扱い、派遣交代要求 |
| 退職者・元委託先 | 退職後・契約終了後の不当な圧力、再就職妨害、取引妨害 |
不利益取扱いが疑われる場合には、評価の修正、配置の見直し、減額分の補填、契約条件の回復、委託量の復元、加害者への指導・処分、就業環境の改善などの救済・回復措置を検討する必要があります。
特に、人事評価や配置転換は、形式的には通常の人事権行使に見えるため、通報との関係が問題になりやすい領域です。通報後の不利益に見える措置については、通報前から予定されていたのか、同種事案との均衡があるか、業務上の必要性があるかを記録しておくことが重要です。
9 実務対応⑥ 窓口外ルートの情報も公益通報対応に乗せる
指針では、内部公益通報受付窓口に寄せられた通報だけでなく、それ以外の公益通報に係る通報対象事実についても、調査および是正等が必要な場合には、同様の措置をとることが求められています。
これは実務上重要です。会社の公式窓口に届いた通報だけが公益通報対応の対象ではありません。上司への報告、人事部門への相談、監査役・社外取締役への相談、行政機関からの照会、取引先からの指摘、外部通報をきっかけに把握した不正情報も、公益通報に係る通報対象事実である可能性があります。
したがって、通報対応マニュアルには、次の情報連携ルールを設ける必要があります。
これらの情報を把握した部門は、法務・コンプライアンス部門または公益通報対応責任者に速やかに連携するルールを定めるべきです。
規程例は、次のとおりです。
| 当社は、内部公益通報受付窓口を経由しない場合であっても、公益通報に係る通報対象事実について調査または是正等の対応が必要であると認めるときは、本規程に定める独立性の確保、利益相反の排除、調査、是正措置および公益通報者保護に関する規定を適用する。 |
10 実務対応⑦ 経営幹部案件の独立ルートを整備する
指針は、組織の長その他幹部に関係する事案について、これらの者からの独立性を確保する措置を求めています。
社長、代表取締役、業務執行取締役、本部長、執行役員などが関係する案件を、通常の社内ラインだけで処理すると、独立性・客観性に疑義が生じます。特に、コンプライアンス部門が経営トップの指揮命令下にある場合、経営トップ案件を適切に調査することは困難です。
実務上は、次のルートを整備することが考えられます。
内部通報規程の規定例は、次のとおりです。
| 組織の長、役員その他幹部が関係する事案については、当該者からの独立性を確保するため、監査役、監査等委員会、監査委員会、社外取締役または外部専門家に報告し、必要に応じてこれらの者の関与または監督の下で調査および是正措置を実施する。 |
総務・労務担当者にとっても、経営幹部案件の独立性確保は重要です。ハラスメント、労務違反、報復人事などは、経営幹部や上級管理職が関係することがあります。その場合、通常の人事ラインで処理すると、調査の公正性に疑義が生じやすいため、あらかじめ例外ルートを定めておく必要があります。
11 実務対応⑧ 利益相反チェックを調査マニュアルに入れる
指針は、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置を求めています。
これは、調査の公正性を確保するために不可欠です。被通報者、その上司、当該事案に利害関係を有する部門、事案に関与した可能性のある者が、受付、調査、是正判断に関与すれば、通報者は制度を信頼できません。また、証拠隠滅、口裏合わせ、通報者探索のリスクも高まります。
調査マニュアルには、次の利益相反チェックを入れるべきです。
利益相反チェックシートの例は、次のとおりです。
| 〇利益相反チェックシート 通報案件番号通報受付日通報対象部署・被通報者受付担当者と事案との利害関係の有無調査担当者と事案との利害関係の有無是正判断者と事案との利害関係の有無経営幹部案件該当性外部専門家関与の要否利益相反がある場合の交代措置確認者・確認日 |
12 実務対応⑨ 周知・研修を対象者別に設計する
指針は、周知、質問・相談対応、従事者教育を重視しています。ここで重要なのは、全員に同じ研修をするだけでは不十分という点です。一般従業員、管理職、役員、従事者、フリーランス・業務委託先では、必要な情報が異なります。
対象者別の研修項目は、次のように整理できます。
| 対象者 | 研修・周知内容 |
| 一般従業員 | 通報窓口、通報できる内容、匿名通報の可否、通報後の流れ、不利益取扱い禁止、通報者探索禁止、調査協力 |
| 管理職 | 部下から相談を受けた場合の対応、通報者探索禁止、不利益取扱い禁止、人事評価・異動時の注意、証拠隠滅・口裏合わせ禁止 |
| 従事者 | 従事者の法的地位、守秘義務、罰則、情報管理、利益相反排除、調査方法、記録管理 |
| 役員 | 経営トップの責務、経営幹部案件の独立性、監査役・社外取締役との連携、報復・探索行為のリスク |
| フリーランス・業務委託先 | 通報窓口の利用可否、通報対象となる事項、契約解除・委託量削減等の不利益取扱い禁止、通報窓口の連絡先 |
管理職研修では、特に「善意のつもりでやってしまいがちな違反」に注意が必要です。たとえば、「誰が言ったのか分からないと調査できない」と考えて通報者を探すことや、「まずは部署内で解決しよう」として通報者に外部窓口の利用を控えさせることは、通報者探索・通報妨害の問題を生じ得ます。
従事者研修では、通報者情報の管理を重点的に扱うべきです。メール転送、チャット共有、会議資料への記載、ファイル名、アクセス権限の設定など、日常的な情報管理のミスが範囲外共有につながる可能性があります。
13 実務対応⑩ 記録管理と運用実績開示を行う
指針は、記録の保管、見直し・改善、運用実績の開示を求めています。内部通報制度は、作って終わりではありません。受付、調査、是正、通知、フォローアップ、不利益取扱いの確認、従事者指定、教育、運用実績開示について記録を残し、定期的に見直す必要があります。
実務上、次の記録を整備すべきです。
運用実績については、通報者や関係者が特定されない範囲で、通報・相談件数、類型別件数、調査実施件数、是正措置実施件数、制度改善内容等を開示することが考えられます。ただし、通報件数が少ない会社では、部署名や事案類型を細かく開示すると通報者が推測されるおそれがあります。会社規模と件数に応じて、開示粒度を調整することが必要です。
運用実績開示に関する規定例は、次のとおりです。
| 当社は、内部通報制度の運用状況について、通報者および関係者の秘密、信用、名誉、プライバシー等に配慮したうえで、年1回、通報・相談件数、主な類型、調査・是正の実施状況、制度改善の概要を社内に周知する。 |
14 内部通報規程の改訂ポイント
内部通報規程は、今回の改正対応の中心です。次の項目を重点的に見直す必要があります。
(1)目的規定
公益通報者の保護、法令違反等の早期発見・是正、通報妨害・通報者探索の防止、不利益取扱いの防止・救済を明記します。
| 規定例: 本規程は、公益通報者保護法および同法に基づく指針を踏まえ、公益通報者の保護を図るとともに、当社における法令違反等の早期発見および是正を実現し、通報妨害、通報者探索ならびに公益通報を理由とする不利益な取扱いを防止することにより、当社のコンプライアンス体制の実効性を確保することを目的とする。 |
(2)利用対象者
労働者、派遣労働者、役員、退職者、特定受託業務従事者、特定受託業務従事者であった者を含めます。
| 規定例: 本規程に基づき通報または相談を行うことができる者は、当社の労働者、派遣労働者、役員、退職者、特定受託業務従事者および特定受託業務従事者であった者その他当社が別途定める者とする。 |
(3) 通報対象事実
公益通報者保護法上の通報対象事実だけでなく、社内規程違反、企業倫理違反、ハラスメント、情報漏えいなども対象に含めるか検討します。
| 規定例: 通報または相談の対象は、公益通報者保護法に定める通報対象事実のほか、法令、定款、社内規程、企業倫理その他当社のコンプライアンス上問題となり得る行為またはそのおそれとする。 |
(4) 従事者指定
書面等で指定し、守秘義務・罰則を明示します。
| 規定例: 当社は、公益通報対応業務に従事し、公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、書面その他本人に明らかな方法により公益通報対応業務従事者として指定する。この場合、当社は、当該従事者に対し、公益通報者保護法12条に基づく守秘義務および同法22条に基づく罰則の適用対象となり得ることを明示する。 |
(5) 利益相反排除
事案関係者を受付・調査・是正判断に関与させないことを定めます。
| 規定例: 当社は、公益通報対応業務の実施に当たり、通報対象事実に関係する者その他利益相反のおそれがある者を、受付、調査、是正措置の検討その他公益通報対応業務に関与させないものとする。 |
(6) 経営幹部案件
監査役等、社外取締役、外部弁護士を活用した独立ルートを定めます。
| 規定例: 組織の長、役員その他幹部が関係する事案については、当該者からの独立性を確保するため、監査役、監査等委員会、監査委員会、社外取締役または外部専門家に報告し、必要に応じてこれらの者の関与または監督の下で調査および是正措置を実施する。 |
(7) 通報妨害・通報者探索
通報しない旨の合意要求、通報者を特定する目的の行為を禁止します。
| 規定例: (通報しない旨の合意要求の禁止) 当社の役職員その他公益通報対応に関与する者は、公益通報をしない旨の合意を求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他公益通報を妨げる行為をしてはならない。 (通報者探索の禁止) 当社の役職員その他公益通報対応に関与する者は、正当な理由なく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求し、または公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならない。 |
(8) 不利益取扱いの禁止・把握・救済
禁止だけでなく、通報後のモニタリングと救済・回復措置を定めます。
| 規定例: 当社は、公益通報をしたことを理由として、公益通報者に対し、解雇、退職強要、降格、不利益な配置転換、減給、不利益な評価、契約更新拒否、業務委託契約の解除、委託数量の削減、報酬減額、嫌がらせその他不利益な取扱いを行ってはならない。 当社は、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握するため、必要に応じて公益通報者への確認、人事・契約上の措置の確認その他適切な措置を講じる。不利益な取扱いを把握した場合には、処遇の回復、契約条件の回復、就業環境の改善その他適切な救済・回復措置を講じる。 |
(10) 窓口外ルート事案
上司報告、行政通報、外部通報等を端緒とする事案にも対応できるようにします。
| 規定例: 当社は、内部公益通報受付窓口を経由しない場合であっても、公益通報に係る通報対象事実について調査または是正等の対応が必要であると認めるときは、本規程に定める独立性の確保、利益相反の排除、調査、是正措置および公益通報者保護に関する規定を適用する。 |
15 マニュアル改訂のポイント
規程は基本ルールを定めるものですが、実務ではマニュアルが重要です。少なくとも次のマニュアルを見直すべきです。
| マニュアル | 改訂ポイント |
| 受付マニュアル | 通報者属性確認、匿名通報の取扱い、退職者・フリーランスからの通報対応、初回返信文例、通報者情報の管理 |
| 調査マニュアル | 調査開始基準、利益相反チェック、経営幹部案件の特別手続、証拠保全、ヒアリング時の禁止質問 |
| 是正措置マニュアル | 是正措置の決定者、再発防止策、監査役等への報告、フォローアップ時期 |
| 通報者保護マニュアル | 通報後モニタリング、人事・契約変更の確認、救済措置、通報者探索が疑われる場合の対応 |
| 従事者マニュアル | 守秘義務、罰則、情報共有範囲、記録管理、異動・退職時の引継ぎ |
受付時の初回返信例は、次のとおりです。
| ご連絡ありがとうございます。いただいた内容について、当社の公益通報対応手続に従い、必要な確認を行います。通報者を特定させる情報については、法令および当社規程に従い、必要最小限の範囲で厳格に管理します。今後、調査に必要な範囲で追加確認をお願いする場合があります。 |
ヒアリング時には、次のような質問は避ける必要があります。
・誰が通報したと思うか
・誰が外部に言ったのか
・この話を知っているのは誰か
・通報者はあなたの部署の誰か
必要なのは事実関係の確認であって、通報者の特定ではありません。調査担当者には、この点を具体例で教育する必要があります。
16 施行日までの対応スケジュール
改正法・指針改正の施行日は令和8年12月1日ですが、規程・マニュアル・契約書・研修・運用体制を一体として見直す必要があるため、早期に対応を開始すべきです。
| 段階 | 対応内容 |
| 第1段階: 現状調査 | 内部通報規程、通報対応マニュアル、調査マニュアル、従事者指定書、研修資料、業務委託契約書、退職時誓約書、秘密保持契約書を確認 |
| 第2段階: 方針決定 | 対象者範囲、窓口設計、経営幹部案件ルート、不利益取扱いモニタリング方法、フリーランス等への周知方法を決定 |
| 第3段階: 文書改訂 | 内部通報規程、受付マニュアル、調査マニュアル、通報者保護マニュアル、従事者指定書、契約書ひな型を改訂 |
| 第4段階: 教育・周知 | 役員、管理職、従業員、従事者、フリーランス・業務委託先向けに研修・周知を実施 |
| 第5段階: 運用・改善 | 通報受付状況、不利益取扱いの有無、調査・是正の状況、運用実績をモニタリングし、制度を定期的に見直し |
17 おわりに
今回の指針・指針解説の改正は、内部通報制度を「設置している制度」から、実際に通報者が利用でき、不正の早期発見・是正につながり、通報者が守られる制度へと高めることを求めるものです。
企業の総務・労務担当者にとって重要なのは、指針の内容を読むだけではありません。自社の内部通報規程、通報対応マニュアル、従事者指定書、研修資料、業務委託契約書、退職時誓約書、秘密保持契約書を実際に見直し、施行日までに運用できる状態にすることです。
特に、次の8点は優先的に対応すべきです。
① フリーランス・業務委託先を制度の射程に含めること
② 従事者指定時に守秘義務・罰則を明示すること
③ 通報妨害・通報者探索を規程と研修で禁止すること
④ 通報後の不利益取扱いをモニタリングし、救済措置を整備すること
⑤ 窓口外ルートの情報も公益通報対応に乗せること
⑥ 経営幹部案件について独立性を確保すること
⑦ 管理職・従事者・役員・委託先ごとに研修内容を分けること
⑧ 記録管理と運用実績開示を行うこと
改正法は公益通報者保護制度の大枠を定めるものですが、企業実務で問われるのは、指針・指針解説を踏まえて、制度を実際に機能させることです。施行日までに、形式的な規程改訂にとどまらず、現場で使える内部通報制度へと見直すことが求められます。
[1] 改正後の指針全文(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/consumer_partnerships_cms205_260331_01.pdf)
新旧対照表(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/consumer_partnerships_cms205_260331_04.pdf)
[2] 改正後の指針解説全文(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/consumer_partnerships_cms205_260331_03.pdf)
新旧対照表(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_211013_0001.pdf)
[3] 「特定受託業務従事者」とは、企業から業務委託を受けて働くフリーランス・個人事業主等をいう。改正公益通報者保護法では、従来の労働者・役員・退職者等に加えて、これらの者も公益通報の主体に追加された。これは、フリーランス等も、委託業務を通じて企業の不正や法令違反を知り得る一方、契約解除、発注量の削減、報酬減額等の不利益を受けるおそれがあるためです。特定受託業務従事者の定義は、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)2条2項に基づくものとされている。