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ニュースレター:2027年4月施行 犯収法施行規則改正案の実務解説― 対面・非対面におけるIC・マイナベース本人確認への転換と金融機関の対応

2026/01/06

【news letter】2027年4月施行 犯収法施行規則改正案の実務解説― 対面・非対面におけるIC・マイナベース本人確認への転換と金融機関の対応 ―

*本ニュースレターに関するご相談がありましたら、下記にご連絡ください。
弁護士法人三宅法律事務所
弁護士渡邉雅之(執筆者)
TEL 03-5288-1021
Email: m-watanabe@miyake.gr.jp

本ニュースレターが対象とするのは、金融庁・警察庁等が公表した「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令(案)」[1] [2]であり、犯収法4条1項・2項(同条5項による読み替えを含む)、同条4項および6条1項を根拠に、施行規則6条・12条・14条等を改めようとするものである。したがって、本ニュースレターが前提とするのは、現時点ではあくまで「省令案」であり、パブリックコメントや今後の当局の検討を経て、文言・解釈・経過措置等が調整され得る段階である。

今回の改正案は、すでに公布済みで2027年4月1日施行予定の非対面取引に係る改正[3](以下「先行改正規則」という。)(旧6条1項1号ホ〔顔写真付き本人確認書類画像+自撮り〕の廃止と、改正後6条1項1号ハ〔ICチップ付き本人確認書類のIC情報+容貌画像情報送信〕および同条1号ト〔カード代替電磁的記録=スマホ版マイナ〕への一本化)が先行していることを前提に、対面取引・郵送併用取引・代表者等取引・厳格な取引時確認(高リスク取引)という「残りの部分」をIC・マイナ前提の体系に揃える第二段階の改正として位置付けられる。

本ニュースレターにおいては、対面取引における本人確認方法の変更についてできる限り詳細かつ分かりやすく解説する。なお、一般社団法人全国銀行協会が2025年12月26日に提出したパブリックコメント意見『「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令案」に対する意見について』(以下「全銀協パブコメ意見」という。)も実務上の懸念点について参考になるものとして紹介する。

第1 改正の背景

SNS型特殊詐欺やロマンス詐欺等において、架空・他人名義の預貯金口座が振込先として悪用され続けている

こうした口座は、①運転免許証などの本人確認書類の偽変造や、②本人確認書類や口座の不正な譲渡・売買を通じて開設されたものが多いとされ、従来の「券面目視」「画像・写し送信」を前提とした本人確認だけでは、巧妙化したなりすましを十分に防ぎきれないとの問題意識がある。

令和7年4月22日に、政府の犯罪対策閣僚会議が策定・公表した「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」[4]においては、この点を踏まえ、「偽変造された本人確認書類により開設された架空・他人名義の預貯金口座等が詐欺等に利用されていることから、こうしたなりすまし等を防止するため、犯罪収益移転防止法に基づく口座開設時等の非対面の本人確認方法を、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、対面でもマイナンバーカード等のICチップ情報の読み取りを義務付ける取組を早期に推進する。」と明記し、非対面・対面とも「マイナ/ICベース」の本人確認へ切り替えることを方針として示している。

これを受けて、まず非対面取引の改正(旧ホ方式の廃止、IC+自撮り・スマホ版マイナへの一本化)が先行し、今回の改正案では、同じ方針に沿って、対面取引・郵送併用取引・代表者等・厳格な取引時確認といった残りの部分をIC・マイナ前提に揃える「第二段階」が進められている、という位置付けになる。

第2 改正の内容

1.ICチップ付き顔写真付き本人確認書類を用いる対面本人確認方式(改正後規則6条1項1号イ)

(1)自然人対面取引における基本方式の転換

改正後規則6条1項1号イ(以下「イ方式」という。)は、自然人(個人顧客)の対面取引における本人確認の基本方式を、「券面目視中心」から「ICチップ読取前提」に根本的に切り替える条文である。改正前は、運転免許証やマイナンバーカードなどの顔写真付き本人確認書類を提示させ、その券面を目視で確認すればよいという、汎用的な対面確認ルートであったのに対し、改正後は、対象書類をICチップ付きの顔写真付き本人確認書類に絞り、そのICチップから氏名・住所・生年月日・顔写真等を機械で読み取り、画面に表示させて確認することを「本人確認方法イ」の必須要素とする。すなわち、IC付き本人確認書類を用いる限りは、対面であってもICを読まなければ法定の本人確認を行ったとは認めない、という原則を明示した規定である。

(2)改正前イ方式(現行法)の整理

改正前の6条1項1号イは、自然人対面取引における顔写真付き本人確認書類の基本的な方法として、「写真付き本人確認書類を提示してもらえば足りる」規定であった。ここでいう写真付き本人確認書類とは、規則7条1号又は4号に掲げる本人確認書類のうち、顔写真が付いているもの(運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住者証明書、旅券等)を意味していたが、ICチップの有無は全く問われておらず、条文にもICに関する言及はなかった。このため、窓口では、個人顧客が免許証やマイナカードを提示した場合、券面の顔写真と本人の顔、氏名・住所・生年月日を目で確認するだけで「イ方式による本人確認を行った」と扱う運用が認められていたのである。ICリーダーでマイナカード等を読み取る実務を採用している金融機関も存在していたが、それは任意の強化策にとどまり、IC読取は「やれば望ましいが、やらなくても違反ではない」扱いであった

(3)改正後イ方式の内容と実務的影響

これに対し、改正後も自然人対面取引の基本方式は6条1項1号イに定められるものの、その中身は大きく変わる。まず対象書類が「特定半導体集積回路付き本人確認書類」と定義される。これは、7条1号又は4号の本人確認書類のうち、顔写真付きであって、ICチップに氏名・住居・生年月日及び写真(旅券の場合は氏名・生年月日及び写真)が記録されているものに限られる。すなわち、改正後のイは「ICチップ付きの顔写真付き本人確認書類だけを対象とする」条文となる。

そのうえで条文は、顧客等又は代表者等から当該特定IC付き本人確認書類の提示を受けるとともに、そのICチップに記録された氏名・住居・生年月日・写真の情報を、これを読み取るための装置(ICリーダー等)を用いて読み取り、映像面(モニター等)に表示させる方法であることを明示している。したがって、改正後にIC付き本人確認書類を用いてイ方式による本人確認を行うためには、①カードの提示、②ICチップからの情報読取、③画面への表示と職員による目視確認、という三段階を必ず踏まなければならない。

実務的には、改正前であれば、IC付き免許証を提示されてもICリーダーがなければ券面目視だけで「イ方式完了」と扱い口座開設等を進めることができたが、改正後は、同じ状況でICが読めなければ、その免許証を用いてイ方式による本人確認を行ったとは言えないことになる。暗証番号(PIN)の失念・誤入力によるロックや、ICリーダーの故障等によりIC読取・画面表示ができない場合、そのカードでは条文上のイの要件を満たさず、イ方式による本人確認は成立しない。以前なら「とりあえず券面目視でOK」という逃げ道があったが、改正後は、住民票の写し等の別の本人確認書類に切り替えてロ⑴側に回すか、取引自体を見送るしかないという、かなり厳格な運用を求める構造に変わる。

また、イの改正と連動して、ロ⑴の条文が「写真付き本人確認書類(特定半導体集積回路付き本人確認書類を除く。)」と書き換えられる点にも注意が必要である。これは裏返せば、「特定IC付き写真ID(=イの対象となるカード)は、ロ⑴(写真+郵送)の世界からは排除される」ことを意味し、IC付きカードはイ・チ・ハ・トといったIC読取を前提とする方法でしか使えなくなる。改正前は、IC付き免許証を「ただの写真付きID」としてロ方式(写真+郵送)に乗せる運用も実務上は見られたが、改正後は条文上そのルートも塞がれることになる。

要するに、自然人対面取引における顔写真付き本人確認書類の基本方式について、改正前は「写真付き本人確認書類を提示してもらえば、IC付きかどうかに関係なく、券面目視だけでイ方式の本人確認をしたことにできた」が、改正後は「IC付きの写真付き本人確認書類を出されたら、ICチップを読み取り、その情報を画面で確認しない限り、もはやイ方式とは扱えない」という構造に転換されるのである。

(4)非対面取引側の先行改正との関係(改正後ハ方式・ト方式)

今回の対面改正に先立ち、非対面取引についてはすでに別の改正が公布[5]されており、同じく2027年4月1日施行予定である。その中で、非対面の基本方式は、従来の「画像+自撮り」型(旧6条1項1号ホ)から、ICチップ読取+容貌画像送信を伴う方式(改正後6条1項1号ハ)とスマホ版マイナを用いる方式(6条1項1号ト)に再編されている。

すなわち、非対面については、改正前は、

  • 改正前規則6条1項1号ホ
    = 顔写真付き本人確認書類の画像+顧客の顔画像(自撮り)を送信させる方式

がeKYCの柱であったが、これが廃止され、改正後は、

  • 改正後規則6条1項1号ハ[6]改正後ハ方式)(改正前規則6条1項1号へ(改正前へ方式))
    = ICチップ付き本人確認書類のIC情報(氏名・住所・生年月日・顔写真)を読み取って送信させ、併せて顧客の容貌の画像情報(自撮り)を送信させる方式
  • 改正後規則6条1項1号ト[7]改正後ト方式)(改正前規則6条1項1号ル(改正前ル方式))
    = カード代替電磁的記録(スマホ版マイナ)の特定電磁的記録を認定プログラム経由で送信させ、その記録が本人のものであることを確認する方式

が、非対面の原則的な本人確認手段と位置付けられることになる。

したがって、対面側ではイ方式が「IC付き顔写真付き1枚+IC読取」、非対面側では改正後ハ方式(旧ホ)・ト方式が「IC+顔画像」「スマホ版マイナ」による本人確認の標準ルートとなり、対面・非対面ともに「IC読取を中核とする体系」に揃えられることになる。

(5)全銀協パブコメ意見の概要

改正規則6条1項1号イに対するパブコメでは、全銀協パブコメ意見はまず、ICチップ付き顔写真付き本人確認書類の読取を前提とする方向性自体については、偽変造・なりすまし防止の観点から趣旨は理解し賛同する(意見No.1)としたうえで、実務上の論点をいくつか提起している。主なものは次のとおりである。

  • ICが読めない場合どうするか
     停電・端末故障・システム障害・暗証番号(PIN)ロック等によりIC読取ができない場合に、法5条の「取引時確認に応じない場合」として一律に取引を拒絶せざるを得ないのか、それともロ⑴やチ方式への切替えなど、何らかの代替ルートを認めるのかについて、明確な方針を求めている(No.1〜3、10、24、29、40)。
  • IC仕様上の制約の中でどこまで読めば足りるのか
     運転免許証は暗証番号が2種類あり、住所変更がICに反映されないケースもある。在留カードや旅券も、IC内に住所情報を持たない場合がある。こうしたIC仕様の下、どこまでICから情報を取得すれば「イ方式の要件を満たした」と評価できるのか、氏名・生年月日・顔写真のみで足りるのか、住所は6条2項の補完書類でよいのか等について、具体的な解釈・運用指針を求めている(No.4〜9、12、13、20、23)。
  • ロ⑴との関係・IC付きカードの扱い
     ロ⑴が「写真付き本人確認書類(特定半導体集積回路付き本人確認書類を除く。)」と書き換えられることから、IC付き写真IDをロ⑴の「ICなし写真ID」として扱うことが許されるのか、ICチップが壊れていたりICリーダーが未設置だったりする場合にも、当該カードはロ⑴では使えず、本人確認書類として利用不可と解すべきなのか、という点が照会されている(No.21、22、30、31)。
  • 代表者等への適用と記録保存の範囲
     12条1項により法人の代表者等にもイ方式が読み替え適用される前提で、自然人顧客と同じレベルのIC読取義務を代表者等に課すことの合理性(No.34、35)、IC読取の記録・ログをどの程度残すべきか(ICを読んだ事実だけで足りるのか、読み出した氏名・住所等まで記録すべきか)についても、確認記録義務(19条・20条)との関係で具体的なガイダンスを求めている(No.26〜28、36〜38)。

総じて、全銀協パブコメ意見は、イ方式が自然人対面取引における本人確認の基本を「目視中心」から「IC読取前提」に転換させることを前提に、その転換を現場で無理なく運用できるよう、例外・代替ルート・証跡要件・代表者等への適用範囲を明確化してほしいという趣旨に集約される。イ方式単体のみならず、ロ⑴・チ・ハ・トや規則14条の厳格な取引時確認とも密接に連動する改正であることから、この点をどう制度設計・監督指針に織り込むかが、今後の実務上の最大のポイントとなる。

2.本人確認書類と転送不要郵便を用いる郵送併用本人確認方式(改正後規則6条1項1号ロ)

(1)改正前ロ方式の位置付け(現行法)

改正前の規則6条1項1号ロは、自然人(個人顧客)について、「何らかの本人確認書類を見せてもらい、その書類に記載された住所宛に転送不要郵便で取引関係文書(通帳等)を送る」という、極めて汎用的な方式であった。本人確認書類として用いるものについて、7条1号イを除外する等の技術的な制限はあったものの、ICチップの有無や写真付きか否かといった強度の差は条文上ほとんど意識されておらず、免許証、健康保険証、住民票の写しなどを柔軟に用い、その住所宛てに転送不要書留で取引関係文書を送付すればよい、という運用が広く行われていた。

そのためロ方式は、実務上しばしば「とりあえず何か身分証を見せてもらい、その住所に転送不要で通帳を送ればロで足りる」という感覚で用いられており、書類の「強さ」(写真付きか、IC付きか)に応じて本人確認手段の強度を変えるという発想は、ロの条文には必ずしも反映されていなかったといえる。

(2)改正後ロ方式の構造:ロ⑴/ロ⑵への二分

これに対し、改正後はロ方式がロ⑴とロ⑵の二つの方法に分かれる。いずれも「本人確認書類の提示+転送不要郵便」という骨格は共通であるが、使える本人確認書類の種類が異なる。

ア 改正後ロ⑴方式:ICなし写真付き本人確認書類又は住民票等+転送不要郵便

改正後ロ⑴は、要旨として「写真付き本人確認書類(特定半導体集積回路付き本人確認書類を除く。)又は次条第一号ニに掲げる書類の提示を受ける」と規定する。すなわち、ロ⑴で使えるのは次のいずれか一通である。

  • ICなしの写真付き本人確認書類
     (マイナカードやIC免許証等の「特定IC付き写真ID」は条文上除外される)
  • 住民票の写し等の公的住所証明書(7条1号ニ書類)

これらのいずれか一通を提示させ、その住所宛てに通帳等の取引関係文書を書留郵便等+転送不要郵便物等として送付することで本人特定事項を確認する、という構成である。ここで重要なのは、「写真付き+ニ書類」の二点セットを求めているのではなく、条文どおり①又は②のどちらか一通+転送不要郵便で足りる点である。

さらに、「特定半導体集積回路付き本人確認書類を除く」と明示されたことにより、マイナンバーカードやIC運転免許証といったIC付き写真IDはロ⑴の「写真付き本人確認書類」としては使えないことが明確になった。改正前は、IC付き免許証を単に写真付きIDとしてロに乗せる実務も存在したが、改正後は条文上そのルートが閉じられ、IC付き写真IDはイ(対面IC読取)、チ(本人限定受取+IC読取)、ハ(IC+自撮り)、ト(スマホ版マイナ)といったIC読取系の方法でしか用いられない整理となる。

イ 改正後ロ⑵方式:非写真IC書類+IC読取+転送不要郵便

改正後ロ⑵は、「本人確認書類のうち次条第一号ハ又はホに掲げるもの(氏名、住居及び生年月日の情報が記録されている半導体集積回路が組み込まれたものに限る。)の提示を受ける」と規定し、非写真であるがICチップに氏名・住所・生年月日が記録された本人確認書類を対象とする。具体的には、7条1号ハ・ホに掲げる写真なし書類のうちIC付きのものが該当し、その代表例として、1歳未満の乳児に交付される顔写真なしマイナンバーカード(IC内に氏名・住所・生年月日が記録される)が典型例として挙げられる

ロ改正後ロ⑵方式では、改正後ロ⑴方式と異なり、改正後イ方式と同様に、

  • カードの提示を受けること
  • ICチップ内の氏名・住所・生年月日を読み取り、映像面に表示させること

が要件とされ、そのうえで、その住所宛てに取引関係文書を転送不要郵便物等として送付する。これにより、顔写真のない本人確認書類を使う場合であっても、単に紙の記載だけを見るのではなく、ICチップ情報の読取を前提にした方式に作り替えられている。旧来の「保険証+補完書類+郵送」といった紙多点方式は廃され、非写真であってもIC付きならICを読む/ICなしなら改正後ロ⑵方式ではそもそも使えない、という構造に移行することになる。

(3)改正前・改正後のロ方式の本質的な違い

以上を踏まえると、規則6条1項1号ロの改正前後の違いは、簡潔に次のように表現できる。改正前は、ロ方式は「写真付きか非写真か、IC付きか否かにかかわらず、とにかく何らかの本人確認書類を見せてもらい、その住所宛てに転送不要郵便を送ればよい」という一本の方法であり、本人確認書類の証明力の差は条文上ほとんど意識されていなかった。

これに対し改正後は、ロがロ⑴/ロ⑵に分かれ、ロ⑴はICなし写真付きIDまたは住民票等公的住所証明+転送不要郵便、ロ⑵は非写真IC書類+IC読取+転送不要郵便という形で、

  • 写真付きか非写真か
  • IC付きか否か

という違いを前提に、本人確認方法の強度差を条文上も明確に反映した構造へと再設計されている。特にロ⑴に「特定半導体集積回路付き本人確認書類を除く」と書き込まれたことにより、イ方式とロ方式の間で「IC付き写真IDはIC読取系の方法でしか使えない」という役割分担が法律上もはっきり示された点が、実務上もっとも重い変更点である。

(4)全銀協パブコメ意見におけるロ方式への懸念(概要)

全銀協パブコメ意見では、改正後イ方式と同様に、改正後ロ方式(特にロ⑴)についても実務上の懸念が示されている。主たる論点は、

  • ロ⑴の「写真付き本人確認書類(特定半導体集積回路付き本人確認書類を除く。)」という書きぶりから、IC付き写真IDをロ⑴の写真付き本人確認書類として扱う余地が文理上ほとんどなさそうに見える一方で、ICリーダー未設置の店舗やICチップ破損カードのケースでは、他に適切な本人確認書類を持たない顧客も想定されることから、
    • 「IC付きであってもIC読取が事実上不可能な場合に限り、ロ⑴で“ICなし扱い”として取り扱うことを認めるのか」
    • 「それとも特定IC付き本人確認書類である限りはロ⑴でも使えず、本人確認書類として一切利用できないと解すべきか」
      について、明確な解釈・運用指針を求めている点である(意見No.21、22、30、31)。

これらから分かるように、改正後ロ方式は、従来の「本人確認書類+転送不要郵便」という枠組みを維持しながら、IC付き書類の扱いと非写真書類のIC化を通じて、本人確認の強度をIC前提の体系に揃えるための規定として再設計されたと言える。その一方で、現場でこの新しいルールを無理なく運用するためには、

  • IC読取ができない場合の代替手段をどこまで認めるのか
  • ロ⑴と特定IC付き本人確認書類との境界をどこに引くのか

について、監督当局からの具体的なガイダンス・Q&Aが不可欠である、という点がパブコメからも浮き彫りになっている。

3.改正前ハ・ニ方式(写真なし本人確認書類の多点確認)の廃止の位置付け

(1)改正前ハ・ニはどのような方式だったか

改正前(現行法)の規則6条1項1号ハ・ニは、ひと言でいえば「写真なし本人確認書類を2つ組み合わせて本人確認をするアナログ方式」である。

  • 改正前ハ方式は、
    • 顧客等又は代表者等から、7条1号ハに掲げる写真なし本人確認書類(健康保険証、各種年金手帳、各種福祉手帳等)を2通提示させる、
      または
    • 写真なし本人確認書類1通と、住民票の写し・戸籍の附票などの公的書類(7条1号ロ・ニ・ホ書類)や、公共料金領収書等の補完書類1通を同時に提示させる、

という「2点同時提示」の方式であった。

  • 改正前ニ方式は、
    • まず来店時に写真なし本人確認書類(7条1号ハ書類)1通を提示させ、
    • その後、別の本人確認書類や補完書類の原本または写しを郵送等で送付させる

という「1点提示+1点送付」で合計2通の書類を確保する方式であった。

いずれも、運転免許証やマイナンバーカードのような強い顔写真付き・IC付き書類がない個人顧客について、写真なしの中位ランクの書類(旧7条1号ハ書類)を最低2種類組み合わせることで本人確認を行う補完的な手段として機能していた、というのが旧ハ・ニの基本的な姿である。

(2)なぜ改正前ハ方式・ニ方式は廃止されるのか

改正前ハ方式・ニ方式が廃止される理由は、おおまかに次の三点に整理できる。

  1. 紙ベース多点方式のリスクの高さ
    健康保険証や年金手帳、住民票の写し等は、紛失・盗難・コピー流通が多く、何通でも発行できる性格を持つ。こうした比較的弱い書類を2枚並べるだけでは、ICチップ読取やeKYCに比べて、偽造・なりすましへの耐性が明らかに劣ると評価された。
  2. 健康保険証の廃止とマイナカードへの一本化
    公的医療保険の資格確認はマイナンバーカード(いわゆるマイナ保険証)に移行し、健康保険証は順次廃止される方向である。これに伴い、旧7条1号ハに掲げられていたB群書類(健康保険証等)も規則から削除される見込みであり、そもそも前提となる書類自体が制度上なくなっていく方式を維持する実益は小さいと判断された。
  3. FATF勧告を踏まえた技術ベースの手法へのシフト
    FATF第4次相互審査以降、日本は、対面・非対面を問わず、本人確認手法をICチップ読取、公的個人認証、カード代替電磁的記録(スマホ版マイナ)等の「強い方法」中心に再構成することを求められている。「コピー送付」「紙多点組合せ」だけに依拠する改正前ハ・ニ方式は、この流れの中で整理対象とされたものである。

(3)ハ・ニ廃止後は何で代替するのか

改正前ハ方式・ニ方式が削除された後は、その役割は他の条文に分散して引き継がれることになる。概略は次のとおりである。

  • 対面で強い書類がある場合
    →改正後イ方式(IC付き顔写真付き本人確認書類+IC読取)で対応する。
  • 対面+郵送の組合せ
    →改正後ロ⑴方式(ICなし写真IDまたは住民票の写し等+転送不要郵便)
    →改正後ロ⑵方式(非写真IC+IC読取+転送不要郵便)
  • 非対面eKYC
    →改正後ハ方式(改正前へ方式:IC+自撮り)
  • スマホ版マイナ
    →改正後ト方式(カード代替電磁的記録方式)
  • 住基非適用者・国外転出者等の例外ルート
    → 改正後ヲ方式(対面での写真付き本人確認書類提示特例)
    → 改正後ワ/カ方式(写し+転送不要郵便の狭い例外)

このように、改正前ハ方式・ニ方式という一つの“紙2点方式”が消える代わりに、IC+対面、IC+郵送、IC+自撮り、スマホ版マイナ、限られた写し特例といった複数の手段の組合せで、旧ハ方式・ニ方式が担っていた領域をカバーする構成となる。

(4)全銀協パブコメ意見の概要

全銀協のパブリックコメントにおいて、旧ハ方式・ニ方式の廃止自体に強い反対は少なく、「健康保険証に依拠する多点方式は、マイナ保険証への移行や偽造リスクを踏まえれば整理の方向でやむを得ない」という理解が実務側でもおおむね共有されている。他方で、関連する意見としては、

  • IC付き本人確認書類のIC読取ができない場合(機器故障、停電、PINロック等)に、旧ハ方式・ニ方式的な紙ベース複数書類方式を“最後の受け皿”としてどこまで残すべきか(改正後ロ⑴方式や改正後ヲ・ワ/カ方式等の例外条項の範囲を含め)
  • 高齢者やIC未整備拠点など、IC方式への移行に時間がかかる層・拠点に対して、完全な取引拒否とならないよう移行期間・経過措置をどう設計するか

といった点が懸念として示されている。

総じて言えば、旧ハ方式・ニ方式については、「通常ルートからは外すが、ICベースの方式や例外条項により、実務上必要な範囲は他の方法で救う」という方向性については一定のコンセンサスがある一方で、その具体的な例外・経過措置・運用指針をどこまで柔軟に設計してもらえるかが、今後の監督指針・Q&Aを通じた最大の論点となっている、というのがパブコメ全体を通じた印象である。

4.改正後ヲ方式とワ/カ方式:住基非適用者向けの対面・非対面特例

(1)改正後規則1項1号ヲ(改正後ヲ方式):対面取引

改正後規則6条1項1号ヲは、住民基本台帳法の適用を受けない自然人(顧客等)とその代表者等を対象とする、対面取引の特例である。条文上は、住基非適用者又はその代表者等から、その者の写真付き本人確認書類の提示を受けるだけで足りる方法とされている(7条1号ロ書類のうち一を限り発行されないものについては代表者等からの提示を除外する限定付き)。すなわち、通常の日本居住者については、ICチップ付き顔写真付き本人確認書類を用いてIC読取を行うイ方式が基本であるのに対し、ヲ方式は「住基非適用者に限って、従来型の顔写真付き本人確認書類の提示だけで本人確認を認める」という、極めて限定された対面特例であると整理できる。

(2)改正後規則1項1号ワ/カ(改正後ワ/カ方式):非対面取引

この改正後ヲ方式に先行して、非対面取引の改正では、同じく住基非適用者・国外転出者等を対象とする改正後ワ方式・カ方式(改正後規則6条1項1号ワ/カ[8])が整備されている。ワ/カ方式は、住基非適用者・国外転出者から、顔写真付き本人確認書類や公的書類の写しの送付を受け、併せてその住所あてに転送不要郵便物等として取引関係文書を送付することにより本人確認を行う非対面の特例ルートである。したがって、対象となる顧客層はヲ方式とほぼ共通であり、

  • 対面取引:ヲ方式(住基非適用者からの写真付き本人確認書類の提示のみ)
  • 非対面取引:ワ/カ方式(住基非適用者等からの写し+転送不要郵便)

という形で、マイナンバーカードや住民票を前提とする標準ルートからこぼれる顧客に対する、対面・非対面双方の特例窓口を構成しているといえる。

具体的な利用場面としては、例えば、住民票を除票した在外日本人が国内金融機関で口座開設・投資を行う場合、短期滞在の外国人(観光客)が一時的な口座を必要とする場合、在日米軍人・軍属や外交官等のように住基法の適用を受けない身分の者が取引主体となる場合が典型である。このような顧客は、日本の住基・マイナ前提のイ方式(IC読取)やロ方式(本人確認書類+転送不要)には乗せにくいため、対面ではヲ、非対面ではワ/カによって、最低限の本人確認ルートを確保する構図となっている。

(3)全銀協パブコメ意見の概要

全銀協パブコメ意見では、ヲ・ワ/カの対象となる「住基法の適用を受けない者」の範囲を明確化すべきとの意見が示されている。特に、「外国人だからといって全員ヲ/ワ/カの対象とするのではなく、在留カードを持つ中長期在留者は住基適用者としてイ方式(IC読取)の対象である」ことを明示すべきとの指摘がなされている(No.32、34、35 など)。また、在外日本人について、旅券と在外公館の在留証明書等を組み合わせてヲ方式・ワ/カ方式で対応可能とすることで、海外居住日本人の国内取引ニーズに応えられるよう、柔軟な運用を求める声もある。一方で、ヲ・ワ/カは本人確認の強度においてIC方式より弱いことから、これを「誰でも使える簡便ルート」として乱用しないよう、対象者を住基非適用者等にきちんと限定し、標準ルート(イ・ロ・ホ・ト)との境界を監督指針等で明確にすべき、というバランス感覚も示されている。

総じて、改正後ヲ方式と改正後ワ/カ方式は、住基非適用者等に対する対面/非対面それぞれの例外的本人確認ルートとして、ICチップや住民票を前提とする新しい本人確認体系を補完する役割を担うものであり、その運用については、「誰が対象か」「どこまで簡素化してよいか」を慎重に詰めることが、今後の実務上の大きな論点となる。

5.本人限定受取郵便を用いる本人確認方法(改正後規則6条1項1号チ)

(1)改正前の本人限定受取郵便を用いる本人確認方法(改正前ヲ方式)

改正前規則6条1項1号ヲ[9](改正前ヲ方式)も、本人限定受取郵便等を用い、郵便局が特定事業者に代わって住居確認と写真付き本人確認書類の提示確認(券面目視)または特定電磁的記録送信等措置を行い、その結果を特定事業者に伝達する方法であったが、IC読取までは要求されていなかった。

(2)改正後の本人限定受取郵便を用いる本人確認方法(改正後チ方式)

これに対して、改正後規則6条1項1号チ(改正後チ方式)は、本人限定受取郵便を利用した本人確認方式を「IC前提」の強い手段として位置づけ直した規定である。

すなわち、本人限定受取郵便(またはこれに準ずるもの)のうち、次のいずれかの措置がとられているものに限定して本人確認方法とする。

第1に、特定半導体集積回路付き本人確認書類提示等措置であり、郵便局等が住居を確認した上で、顧客のマイナンバーカードやIC免許証等のIC付き顔写真付き本人確認書類の提示を受け、そのICチップ内の氏名・住所・生年月日・写真をICリーダーで読み取り、映像面に表示して照合し、その確認記録(19条・20条所定事項)を特定事業者に伝達するものである。言い換えれば、窓口のイ方式(IC付きID+IC読取)と同等の確認を郵便局側で代行する郵便版イ方式である。

第2に、特定電磁的記録送信等措置であり、郵便局等が住居確認を行ったうえで、カード代替電磁的記録(スマホ版マイナ)の特定電磁的記録を認定プログラム経由で受信し、それが送信者本人のものであることを確認し、その結果(氏名・住所等)を特定事業者に伝達するものである。こちらは、スマホ版マイナ方式(ト)を本人限定受取郵便の枠組みの中で行うイメージである。

このように、改正後チ方式は、「本人限定受取郵便なら何でも良い」のではなく、IC付き本人確認書類のIC読取またはスマホ版マイナを必須で組み合わせた本人限定受取郵便だけを本人確認方法として認めるという設計になっている。実務的には、日本郵便側にICリーダーやマイナ連携の実装が必要となるため、配達員が各戸の玄関先でIC読取を行うのは負担が大きく、窓口受取(郵便局窓口・ゆうゆう窓口)への集約が現実的ではないかとの見方が強い。この場合、金融機関側も「本人限定受取郵便を利用する取引では、顧客に郵便局窓口でIC付き身分証(又はスマホ版マイナ)を提示してもらう」という案内に切り替える必要が出てくる。

(3)全銀協パブコメ意見の概要

全銀協パブコメ意見では、こうした方向性自体には賛同しつつも、(i)郵便側の体制・システムが改正水準のIC読取・マイナ連携にどこまで対応できるのか、(ii)窓口受取前提とした場合の顧客負担の増加を踏まえ、どの取引類型でチ方式を必須とするかを柔軟に設計すべきであること、(iii)本人限定受取郵便+特定電磁的記録送信等措置の導入には郵便局・金融機関双方のシステム投資が必要であり、経過措置や導入スケジュールに一定の猶予・弾力性を持たせるべきであることなどが指摘されている。要するに、改正後チ方式は「郵便+IC/マイナスマホ」による強力な本人確認手段として再定義された一方、その運用範囲・導入時期・他方式との使い分けについて、今後の監督指針・Q&Aでの具体的なガイドが強く求められている、というのが実務側からの基本的なメッセージである。

6.代表者等に対する本人確認の改正(改正後規則12条)

(1)規則12条の役割と改正のポイント

規則12条は、顧客が法人等である場合に、その取引に実際に現れる代表者等(代表取締役、支店長、代理人など)本人の確認方法を定める条文である。規則6条が「顧客本人」(自然人・法人)向けの本人確認方法を列挙しているのに対し、規則12条はそれらを代表者等に読み替えて適用することで、「法人顧客本体」と「窓口に来て手続きをする自然人」の両方を確認する枠組みを与えている。今回の改正では、規則6条側で行われたICチップ読取前提の再構成(イ・ロ⑴⑵・ホ・ト・ヲ等)を、そのまま代表者等の確認にも適用する形に条文が整え直された、というのが基本的なポイントである。

(2)改正前(現行)の12条:代表者等は「免許証目視」で足りた世界

改正前の規則12条1項は、「代表者等については規則6条1項1号イ〜ト等に掲げる方法を準用する」としていたが、規則6条1項1号イ自体が「写真付き本人確認書類の提示(券面目視)」で足りていたため、実務上は代表者等についても「免許証やマイナカードの券面を目で見る」だけでイ方式の本人確認をしたことにできる運用が一般的であった。IC読取を代表者等に求めていた金融機関もあったが、それは任意の強化策にとどまり、「代表者等についてICを読まなければならない」という法的義務としては認識されていなかったのである。

(3)改正後の規則12条:代表者等にもIC前提の体系をそのまま適用

改正後は、規則12条1項の「6条の方法を代表者等に読み替える」という骨格自体は変わらないが、その中身が新しい規則6条体系(IC読取前提)に完全に連動することになる。具体的には、代表者等についても、

  • IC付き顔写真付き本人確認書類を提示した場合は、規則6条1項1号イの読み替えとして、ICチップを読み取り、画面に表示して照合することが必須となる(券面目視のみではイ方式にならない)。
  • 郵送併用方式では、規則6条1項1号ロ⑴(ICなし写真付きIDまたは住民票等+転送不要郵便)、ロ⑵(非写真IC+IC読取+転送不要郵便)の読み替え版を用いる。
  • 非対面で代表者等本人を確認する場合には、規則6条1項1号ホ(IC+容貌画像情報送信)やト(スマホ版マイナ:カード代替電磁的記録)の読み替え版を使うことが想定される。
  • 住基非適用の代表者等については、規則6条1項1号ヲの読み替えにより、従来どおり写真付き本人確認書類の提示だけで認める特例ルートも維持される。

この結果、改正後は「代表者等も、IC付き身分証を出されたら原則としてICを読むべき対象」という位置付けが、個人顧客と同様に明確になる。

(4)全銀協パブコメ意見の概要:代表者等にも個人顧客並みのIC義務を課すべきか

全銀協パブコメ意見では、6条1項1号イのIC読取義務化には賛同しつつも、12条の読み替えを通じて代表者等にも個人顧客と同レベルのIC読取義務を一律に課すことの妥当性に疑問が呈されている(意見No.34、35)。具体的には、

  • 法人については登記事項証明書等により別途厳格な確認を行っているにもかかわらず、代表者等に対しても毎回IC読取まで求めることは、実務負荷・顧客負担の面から過大ではないか。
  • 厳格な取引時確認(法4条2項該当)のような高リスク取引に限って代表者等へのIC読取を求めるのか、それともすべての法人取引に一律に適用するのか、適用範囲を監督指針等で明確にすべきではないか。

また、代表者等についてIC読取を行った場合の確認記録(ログ)の保存範囲についても、規則6条イと同様、IC読取の事実と時刻だけで足りるのか、ICから読み取った氏名・住所等の情報まで記録すべきかといった点を、規則19条・20条との関係でガイドしてほしいとの要望が示されている(No.26〜28、36〜38)。

要するに、規則12条改正は、代表者等も含めて本人確認全体をIC前提の体系に揃えるものである一方、その運用にあたっては、どの取引・どの代表者等にどこまでIC読取を徹底するのか、どの程度の証跡を残すのかについて、監督当局の追加的な解釈・指針が不可欠である、というのがパブコメの基本的なメッセージである。

7.厳格な取引時確認における本人確認方式の見直し(改正後規則14条)

(1)規則14条改正の概要(「ベース+もう1枚」のルール)

規則14条は、犯収法4条2項・4項が定める**「マネロン・テロ資金供与のリスクが特に高い取引」(厳格な取引時確認)について、特定事業者がどの本人確認方法を土台(ベース)とし、さらにどのような追加書類を必ず1通以上積み増しするか**を定める条文である。改正前後を通じて、次の2つの原則は変わらない。

  • 厳格な取引時確認に使える本人確認方法は、原則として規則6条及び12条に定める方法であること
  • 特に犯収法4条2項1号の取引では、既に関連取引時確認で使った本人確認書類・補完書類とは別の書類を、少なくとも1通追加で用いなければならないこと

改正は主として、参照先である6条の方法(イ〜ホ・チ・ト・ヲ等)がIC読取前提に組み替えられたことを規則14条側にも反映したものであり、骨格となる「ベース+別書類1通以上」という考え方自体は維持されている。

(2)ベースとして用いる本人確認方法の範囲(規則14条1項1号)

規則14条1項1号は、「厳格な取引時確認のベースとして選べる方法」を示している。改正前は「6条(1項1号チを除く)」であったのが、改正後は「6条(1項1号ヘを除く)」となる。旧6条1項1号チは改正後ヘ(写し+転送不要郵便方式)に移行しただけなので、実質は、「厳格な取引時確認の土台として、“本人確認書類の写し+転送不要郵便だけ”に依拠することは認めない」という方針を維持しつつ、番号を新体系に合わせただけである。

ベースとして用いてよいのは、例えば以下の方法である。

  • 対面におけるIC読取方式(改正後イ方式)
  • 本人確認書類+転送不要郵便方式(改正後ロ⑴・ロ⑵方式)
  • 非対面のIC読み取り+容貌自撮り方式(改正後ハ方式)
  • 非対面のIC読み取り+金融機関等への照会方式(改正後ニ方式)
  • 非対面の本人確認書類の原本送付 or IC読み取り+転送不要郵便(改正後ホ方式)
  • 本人限定受取郵便+IC読取/マイナスマホ方式(改正後チ方式)
  • スマホ版マイナ(カード代替電磁的記録)方式(改正後ト方式)
  • 住基非適用者向け特例(改正後ヲ方式)
  • 規則12条に基づく代表者等確認の各方式

このうち、「給与振込口座開設/証券口座開設の特例」であるヘ方式だけはベースから外れる点が、改正前後で一貫している。

(3)イグループへの追加確認(14条1項2号イ:対面・住所確認重視)

規則14条1項2号イは、「ベースに選んだ方法が対面・住所確認重視の方法群(イグループ)である場合、何を追加で求めるか」を定める部分である。改正後のイグループには、

  • 改正後イ〜ホ方式(対面IC読取、対面+郵送など)
  • 改正後チ方式(本人限定受取郵便+IC読取)
  • 改正後ヲ〜カ方式(住基非適用者向け特例など)
  • 6条1項2号、3号イ・ニ(法人住所・本店所在地確認を伴う方法)

といった、対面又は郵便で顧客と接触し、住所確認もしっかり行う方法群が含まれる。

これらをベースに厳格な取引時確認を行う場合、規則14条1項2号イは、

  • ベースで既に使ったものとは異なる
    • 住所または本店所在地が記載された本人確認書類、又は
    • 補完書類(住民票の写し、公共料金領収書等)

新たに少なくとも1通追加で提示又は送付させることを求める。要するに、「対面系・住所重視の方法で一度本人確認をしたうえで、別の書類で住所(本店所在地)をもう一度確認する」という二段構えが、厳格な取引時確認の標準である、という整理である。

(4)ログループへの追加確認(14条1項2号ロ:リモート・デジタル系)

規則14条1項2号ロは、スマホ版マイナや本人限定受取郵便+マイナスマホ方式、外国法人向け書面照会など、リモート・デジタル色の強い方法群(ログループ)をベースにした場合の追加確認ルールである。改正後のログループには概ね、

  • 改正後ト方式:カード代替電磁的記録(スマホ版マイナ)方式
  • 改正後チ方式:本人限定受取郵便における特定電磁的記録送信等措置(郵便局+スマホ版マイナ)
  • 同リ〜ル方式:その他リモート寄りの本人確認方式
  • 規則6条1項3号ロ・ハ・ホ:外国法人等に対する書面照会方式

が含まれる。

これらをベースとして厳格な取引時確認を行う場合、改正後規則14条1項2号ロは、

  1. ベースとは別の本人確認書類(ID)を追加で提示又は送付させること
  2. そのIDに現住所や本店所在地の記載がない場合には、さらに補完書類(公共料金領収書等)の提示又は送付を求めること

を義務付けている。したがってログループでは、「リモート・デジタルな本人確認+別のID(+必要に応じて補完書類)」という二重(場合によっては三重)の上乗せが、法定の厳格確認として要求されることになる。

(5)全銀協パブコメ意見の概要

規則14条を名指しした全銀協パブコメ意見は多くないが、規則6条1項1号イ以下のIC前提改正とセットで、厳格な取引時確認の負荷と運用可能性についての懸念が示されている。全国銀行協会の意見では、

  • IC付き本人確認書類についてイ方式でIC読取を行ったうえで、規則14条に従いさらに別の本人確認書類や補完書類を1通以上求める運用が、全店・全チャネルで現実的かどうか(No.1〜3、10、24、40)
  • スマホ版マイナ(ト方式)や本人限定受取郵便+マイナスマホ(チ方式)をベースとしつつ、さらに別のID+補完書類を要求すると、オンライン口座開設や高頻度取引で顧客負担・離脱が過度に増えないか(No.16〜18、26〜28、36〜38)
  • 住基非適用者・在外日本人・外国法人等に対し、イグループ・ログループの追加確認をどこまで一律に求めるか、一定の例外や簡素化の余地を設けるべきではないか(No.32、34、35)

などが指摘されている。

要するに、改正後規則14条は、「ベース+別書類1通以上」という枠組みを維持しながら、新しいIC・マイナ前提の改正後規則6条体系に応じてその内容をアップデートするものであり、実務側からは、この“二段階本人確認”をどうすれば現場で無理なく回せるか(どの取引にどこまで課すか、例外をどう設計するか)という点について、監督指針・Q&Aでの具体的なガイドが強く求められている、というのがパブコメの基本的トーンである。

8.今回の改正が金融機関実務にもたらす影響の整理

今回の改正は、個別条文としては6条・12条・14条の修正であるが、金融機関にとっては本質的に「本人確認全体をIC・マイナベースの体系に揃え直す」ことを要求するものである。そのため影響は、(1)インフラ・システム、(2)KYCプロセスとチャネル設計、(3)移行・例外対応、という3つのレイヤーで連動して現れる。

(1)インフラ・システム面:IC読取・eKYC・郵便連携の再構築

第一に、インフラ・システム面では、IC読取とマイナ連携を前提としたKYC基盤の再構築が避けられない。対面取引では、改正後イ方式により「IC付き顔写真付き本人確認書類+ICチップ読取」が自然人の標準的な対面本人確認方式となるため、全店にマイナンバーカード・IC運転免許証・在留カード等に対応するICリーダーを配備し、勘定系やCRMと連携させる必要がある。

非対面取引では、改正前ホ方式(顔写真付きID画像+自撮り)の廃止と、改正後ハ方式(ICチップ情報+容貌画像情報の送信)およびト方式(スマホ版マイナ:カード代替電磁的記録)の採用により、IC+顔画像/スマホ版マイナを前提とするeKYCモジュールとのAPI連携が必須となる。

また、本人限定受取郵便を用いる改正後チ方式についても、IC読取(特定半導体集積回路付き本人確認書類提示等措置)又はスマホ版マイナ(特定電磁的記録送信等措置)を前提に強化されるため、郵便局側とのインターフェース、窓口受取前提の運用、ログ連携等を見直さなければならない。単にリーダーを置くだけではなく、「どのチャネルで、どのタイミングで、どの情報を読み取り、どのシステムにどの粒度で記録するか」というデータモデルとログ設計のレベルから、KYCインフラを組み立て直す必要がある。

(2)KYCプロセスとチャネル設計:IC前提のフロー+リスクベースの優先ルート

第二に、業務フローとチャネル設計の両面で、KYCプロセスそのものをIC前提に組み替え、取引・チャネルごとの「優先ルート」を内部方針として整理することが求められる。対面では、「写真付き本人確認書類を目視すれば足りる」という従前の運用から、改正後イ方式に基づく「IC付きカードが出たらICを読むことが原則」という運用に切り替える必要がある。その際、暗証番号(PIN)失念・PINロック・ICリーダー故障等によりICが読めない場合に、どこまで別の本人確認書類や方式(ロ⑴、ヲ・ワ/カ等)で代替し、どこから先は取引開始を見送るべきか、といった例外処理フローを明確化することが不可欠である。代表者等についても、規則12条により規則6条の方法が読み替え適用されるため、原則として自然人顧客と同様にIC読取を前提とした確認が求められることになり、「法人は登記簿で見ているから代表者は免許証の目視で十分」という従来の感覚を改め、代表者等も一個の自然人としてKYCプロセスの中に位置付ける必要がある。

そのうえで、どの取引に対してどの本人確認方法を用いるかについては、法令が特定の組合せを義務付けているわけではなく、規則6条・12条が列挙する各方法の要件を踏まえて、金融機関ごとに内部規程としての「優先順位づけ(ポリシー)」を設計することになる。例えば、高リスク・高額の非対面新規取引についてはIC読取(対面:改正後イ方式、非対面:改正後ハ方式)・スマホ版マイナ方式(改正後ト方式)を第一選択とし、郵送中心のチャネルでは改正後ロ⑴・ロ⑵方式やチ方式を積極的に活用し、住基非適用者・在外日本人など標準ルートに乗せにくい顧客についてのみヲ・ワ/カの特例を慎重に適用する、といった考え方があり得る。ただしこれは「この取引にはこの方式しか許されない」という法的な排他指定ではなく、法定の各方式の中から、自行としてどれを標準ルートとし、どれを例外ルートとするかをリスクベースで決める内部方針である。

また、規則14条に基づく厳格な取引時確認については、「ベースとなる方法+別の本人確認書類・補完書類を少なくとも1通追加する」という枠組みを、イグループ(対面・住所重視)とログループ(リモート・デジタル)ごとに、取引類型別マトリクス(どの取引にどのベース方法とどの追加書類を求めるか)として具体化し、営業店・コールセンター・バックオフィスがそれに従って運用できるよう、マニュアル整備と研修を行う必要がある。

(3)移行・例外対応:経過措置と「最後の受け皿」の設計

第三に、移行期と例外対応の観点から、改正直後の混乱を抑えつつ、IC方式に乗れない顧客や拠点をどう扱うかが課題となる。旧ハ・ニ方式(写真なし本人確認書類+補完書類の多点方式)は廃止される一方、ヲ方式(対面での住基非適用者向け特例)やワ/カ方式(非対面での写し+転送不要特例)は、ごく狭い例外ルートとして残る。とはいえ、実務上は、高齢者、海外居住者、ICリーダー未配備の小規模拠点など、IC付き本人確認書類やIC読取を前提とした標準ルートに乗せにくい顧客・チャネルが一定数存在する。そうしたケースについて、どこまでヲ・ワ/カ等の例外ルートを「最後の受け皿」として活用し、どこから先は取引をお断りするのかという線引きを、内部であらかじめ決めておく必要がある。

全国銀行協会のパブコメでも、ICが読めない場合に直ちに取引拒絶とするのではなく、紙ベース・例外ルートで代替できる範囲や、ICリーダーやマイナ連携導入の経過措置の長さ、代表者等・住基非適用者・在外日本人・外国法人等に対する簡素化の余地について、監督当局の明確な指針を求める意見が示されている(意見No.21、22、30、31、32、34、35など)。

結局のところ、今回の改正は、金融機関に対し、単に条文を読み替えるだけでなく、「誰に」「どのチャネルで」「どの本人確認方法を」「どの組合せで」適用するかという全社的なKYC設計の見直しと、それを支えるIC・マイナ基盤への本格的な投資と移行計画づくりを迫るものであり、この観点からの準備が実務対応の成否を左右することになる。


[1] https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=120250026&Mode=0

[2] 案公示日が2025年12月5日、パブリックコメント受付期間が2025年12月5日0時〜2026年1月3日23時59分

[3] 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」(令和7年6月24日内閣府、総務省、法務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省令第3号)

[4] https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/assets/img/new-topics/detail/250609/01/01.pdf

[5] 脚注2参照

[6] 先行改正規則では6条1項1号ホとされていた。

[7] 先行改正規則では6条1項1号リとされていた。

[8] 先行改正規則6条1項1号カ/ヨ

[9] 先行改正規則6条1項1号ヌ

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