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生成AIの利用が訴訟のリスクにも? AIと著作権に関する考え方

2025/04/17

(執筆者:弁護士 渡辺海成)

【Q.】
生成AIを利用することで、既存の著作物の著作権を侵害する危険性があると聞きました。著作権侵害が生じるケースや著作権を侵害しないための注意点について教えてください。

【A.】
1.はじめに
近年、利用者の指示に基づき、文章やイラストなどの様々なコンテンツを生成するAI、いわゆる「生成AI」の技術が発達し、ChatGPTやCanvaをはじめとする生成AIのソフトを利用する企業も増えてきました。これにより業務の効率化を図ることができる一方、生成AIを利用する行為(生成AIに指示して生成物を生成する行為や、生成した生成物を利用する行為)には、既存の著作物の著作権侵害の危険性が含まれていると指摘されており、その利用には注意が必要です。
文化庁は、生成AIと著作権に関する考え方を整理し、周知するため、文化審議会著作権分科会法制度小委員会が一定の考え方を取りまとめた「AIと著作権に関する考え方について 令和6年3月15日」(※1)(以下「本考え方」)を公表しています。内容は多岐にわたりますが、本稿では、特に問題となり得る「依拠性」についての本考え方の整理とこれを踏まえた注意点につき、説明いたします。

2.著作権侵害に関する一般論と生成AIによる生成物との関係
従来の判例に基づく考え方を簡単に説明すると、既存の著作物との類似性及び依拠性が認められる場合には著作権侵害になるとされています。
「依拠」とは、既存の著作物に接し、それを知りながら自己の作品の中に用いることと考えられています。生成AIを利用する場合には、生成AIの利用者が既存の著作物を認識していない場合でも、利用した生成AIが当該著作物を学習しており、それと類似したものが生成されるといった事態が生じ得ます。
このような場合について、本考え方では次のような整理を示しています。
[依拠性に関する本考え方の整理]
○AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していた場合、生成 AIを利用した場合であっても、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立する。
(例)Image to Image(画像を生成 AIに指示として入力し、生成物として画像を得る行為)のように、既存の著作物そのものを入力する場合や、既存の著作物の題号などの特定の固有名詞を入力する場合
○AI利用者が既存の著作物を認識していない場合でも、当該生成AIが開発・学習段階で当該既存の著作物を学習していた場合には、当該生成AIが客観的に当該既存の著作物へアクセスしていたことが認められるため、依拠性があったと推認され、AI利用者による著作権侵害が認められ得る。

3.依拠性を疑われないための対策
依拠性を疑われないためには、既存の著作物を意識した入力指示を避けることはもちろん、利用者が意図せずに生成AIが既存の著作物と類似した生成物を生成することにより著作権侵害が争われた場合に対応する必要があります。そこで、生成AIを利用する際には次のような措置を実施しておくのが望ましいでしょう。
○当該生成AIの学習済みモデルに関する情報を確認しておく。
○既存の著作物を意識した入力指示(特に、タイトルや特徴的な表現の入力)は行わないといった、著作権侵害を生じさせない取り組み、(従業員への)教育を行う。
○生成AIが生成した生成物については、その利用に先立ち、まずは既存の著作物と類似していないか、インターネット(文章検索や画像検索)等を利用し、確認しておく。
○争いになった場合に備えて、依拠性がないことを説明できるよう、生成に用いた指示等の生成過程を確認可能な状態に保存しておく。

4.おわりに
今回は、主に生成AIと依拠性についてご説明しましたが、生成AIを業務に活用される場合には、本考え方や文化庁著作権課「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス 令和6年7月31日」(※2)を一度ご確認いただくことをお勧めします。
また、生成AIを利用し、著作権に関する疑義が生じた場合には、必要に応じて専門家にもご相談いただきながら対応を進めていくといいでしょう。

※1 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
※2 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/94097701_01.pdf

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