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情報漏洩のリスク:重要な情報を扱っていた従業員が退職するとき

2019/02/26

(執筆者:弁護士 平山 照)
【Q.】
重要な技術情報を取り扱う業務に従事していた従業員が、当社を退職することになりました。情報の流出を防ぐため、この従業員から誓約書を取得することを考えていますが、どのような条項を規定すればよいでしょうか。
【A.】

1.はじめに
 社内の重要な秘密情報に触れていた従業員が退職し、競合他社に就職した場合、自社の秘密情報を流用する恐れがあり、会社にとっては大きな脅威となりえます。このような事態を防ぐため、退職に際して従業員に誓約書の提出を求めることが考えられます。以下では、退職時の誓約書に規定すべき条項についてご説明します。
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2.秘密保持条項
 「秘密保持条項」とは、会社の業務に関連して知りえた営業上、または技術上の情報の使用や開示を禁止する条項です。
 退職者による営業秘密の不正使用や第三者への開示については、不正競争防止法上の「不正競争行為」として損害賠償請求や差止請求の対象となりますし(同法第2条第1項第7号、第3条、第4条等)、一定の場合には刑事罰の対象にもなりえます(同法第21条第1項第6号)。もっとも、不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるためには秘密管理性等の要件が必要ですので、誓約書に「秘密保持義務」を規定することで、必ずしも営業秘密の要件を満たさない情報についても秘密保持の対象とすることができます。また、従業員に誓約書を提出させていること自体が営業秘密の秘密管理性を肯定する一事情にもなります。
 秘密保持条項を規定する上では、退職者が在職中に取り扱った重要な秘密情報の類型を列挙して記載することが望ましいです。そうすることで、これらの情報が秘密情報であることを当該退職者に自覚させることができ、また、のちのち不正使用等が問題となった場合に、当該退職者がその秘密情報を取り扱っていたことの証拠にもなりえます。
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3.競業避止義務
 「競業避止義務」は、会社の事業と競合する事業を営むこと、または、競合他社への就職を禁止する条項です。
 競業避止義務は、従業員の職業選択の自由を制限するもののため、過度な制約は無効と判断されることがあります。そこで、規定するにあたっては、当該従業員の在職中の地位や取り扱った秘密情報の重要性等に応じて、�@禁止する競業行為の範囲(当該従業員が担当していた業務に関連する業種に限るなど)、�A禁止期間(裁判例の傾向として、概ね2年を超える期間については無効と判断される例が多い)、�B代償措置(退職金の上乗せ支給など)等を検討する必要があります。
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4.損害賠償条項・退職金減額条項
 秘密保持義務や競業避止義務の実効性を高めるため、これらに違反した場合には会社に対して損害賠償責任を負う旨の条項や、退職金を減額・不支給とし、すでに支給した退職金を返還させる旨の条項を加えることも考えられます。ただし、退職金について、実際に減額や不支給が認められるためには、単に義務違反があったことでは足りず、在職中の功労に対する評価を減殺させるような背信性が必要になる可能性があります。
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5.最後に
 今回は退職時の誓約書についてご説明しましたが、会社の秘密情報を適切に保護するためには、退職時のみならず、入社時やプロジェクト参画時などにも誓約書を取得し、就業規則中にも秘密保持や競業避止義務の規定を設けるなどの対応も必要です。この機会に、会社の業務全体にわたる制度構築をご検討ください。

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