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秘密保持契約における留意点

2022/06/24

(執筆者:弁護士 村田大樹)
【Q.】
 実務上、取引相手と秘密保持契約を締結することがよくありますが、秘密保持契約書を作成・レビューするにあたって留意するべき点を教えてください。

【A.】
1.はじめに
 秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)とは、取引等を通じて開示した自社のノウハウ等の秘密情報が第三者に開示・漏洩されたり目的外に利用されたりすることを防ぐために、秘密情報の受領者に秘密保持義務を課すことなどを内容とする契約のことです。例えば、複数の企業が合弁事業を行おうとする場合、交渉段階で様々な情報を提供し合うことになりますが、これらの情報は秘密性が要である以上、提供した秘密情報に法的保護を与えておく必要があります(※)。
 重要な取引は秘密保持契約から始まると言っても過言ではなく、実務でも広く取り交わされているので、本稿では、秘密保持契約における留意点について、ポイントを絞って解説いたします。

※ノウハウを保護する法律として「不正競争防止法」があるものの、同法では、�@秘密管理性、�A有用性及び�B非公知性を満たす「営業秘密」(同法2条6項)しか保護されません。
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2.秘密情報の定義
 いかなる情報を秘密情報として定義するかは、秘密保持契約において最も重要な点になります。自社が主に情報を開示する立場の場合、開示する一切の情報が契約上保護の対象となる「秘密情報」に該当するよう、「秘密情報」の定義を包括的に規定することが有益です。
 他方、自社が主に情報を受領する立場の場合には、受領した情報全てが「秘密情報」に該当するとなると、本来保護される必要のない情報まで厳重に管理する必要が生まれ、過大な管理コストを要するなどの不都合が生じます。そのため、「秘密情報」は一定の範囲の情報に限定することが望ましいでしょう。また、限定することで、どの情報が「秘密情報」に該当するか明確になり、当事者間で認識の相違が生まれることを防止できるとともに、開示の都度、情報受領者に対する注意喚起の効果も期待できますので、情報開示者の立場としても一応のメリットはあります。
 そこで、定義規定の一例としては、以下のようなものが考えられます。ただし、この定義を採用する場合、秘密である旨の明示をした情報以外は秘密保持義務の対象とはならないことに留意しなければなりません。そのため、情報開示者は、秘密情報とそうではない情報を区別し、秘密情報である旨を抜かりなく明示する体制を整えておく必要があります。

<定義規定の一例>
 「秘密情報」とは、情報開示者から情報受領者に対し、書面、電磁的記録媒体その他有体物に化体されて開示された情報のうち秘密情報であることが明示された情報、口頭で開示された情報であって、開示の際にそれが秘密であることを明示され、かつ開示後○日以内に書面で秘密である旨を明示された情報(ただし、口頭で開示された情報は、開示後○日間は秘密情報として取り扱われるものとする)。
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3.秘密保持義務及び目的外利用の禁止
 秘密保持契約では、複製物も含めた秘密情報を第三者に開示・漏洩してはならない旨のほか、当該契約における本来の利用目的以外には使用してはならない旨を定める必要があります。また、利用目的以外の使用禁止規定の前提として、秘密保持契約書の冒頭で、契約を締結する目的を定めておくことが望ましいといえます。
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4.違反の効果
 情報受領者が秘密保持義務等に違反し、情報開示者に損害が生じた場合、情報受領者は民法上の損害賠償責任を負うことになります(民法415条)。もっとも、秘密保持契約違反の場合、損害額の算定・立証が困難であることも想定されるため、あらかじめ契約違反における損害額を約定しておくことが考えられます。また、秘密情報が競業企業等に漏洩した際には、金銭賠償のみでは必ずしも十分とはいえない場合もあるため、契約違反行為の差止めや秘密情報の破棄等の特定履行を求めることができる旨の救済条項を明確に規定しておくことも考えられます。
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5.契約期間
 情報を十分に保護するために、契約期間終了後も一定期間は秘密保持義務を課すことが考えられます。もっとも、存続期間中、秘密情報が陳腐化したり、公知となったりする場合もあるため、情報受領者としては、不当に長い期間、秘密情報の管理コストや契約違反のリスクを負うことがないよう、当該情報の有用性等を考慮のうえ、合理的期間(一般的には1〜5年程度)に限定することが適切です。
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6.最後に
 広く取り扱われる秘密保持契約には、前述の内容以外にも留意すべき点が存在します。契約交渉の入り口でつまずくことのないよう、必要に応じて専門家に相談することをご検討ください。

以 上

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