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その業務委託、偽装請負と疑われませんか?

2022/01/21

(執筆者:弁護士 森村 奨)

【Q.】
 このたび、当社では、外注先企業との間で業務委託契約を締結し、当社のシステム開発を行うことになりました。この契約によると、当該外注先企業の作業員が当社の事務所内にて作業を行うことになりますが、いわゆる偽装請負であると疑われないか心配です。どういった点に留意すればよいでしょうか。
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【A.】
1.はじめに
 昨今、企業では、業務の一部を他社に委託することは日常的に行われており、ご質問のような業務委託契約が締結されることも珍しくありません。もっとも、このような業務委託には、一歩間違えるといわゆる偽装請負に該当するリスクもあります。
 そこで、本稿では、偽装請負やその判断基準について検討したうえで、業務委託を行う際に偽装請負であると疑われないための留意点について説明いたします。
 
2.偽装請負とは
 偽装請負とは、形式的には「業務委託契約」などの請負や委任(準委任)となっているものの、委託者が他人である受託者の労働者に対して直接指揮命令を行っており、実態として労働者派遣に該当するような場合をいいます。
 本来、請負や委任(準委任)では、受託者は、自らの労働者に対し自ら指揮命令して、契約で定められた仕事の完成や受託業務の処理を行うことになっており、委託者が受託者の労働者に指揮命令をすることは予定されていません。この点が雇用主でない派遣先の指揮命令の下、派遣先のために労務を提供する労働者派遣との大きな違いとなります。
 偽装請負であると判断された場合、本来的には労働者派遣法に基づいて行うべき労働者派遣を同法に基づかずに行ったことになりますので、罰則や種々の行政監督の対象となることがあります(同法59条2号、48条1項等)。また、場合によっては、委託者は、労働者派遣法の脱法目的で偽装請負により受託者の労働者を受け入れたとして、当該労働者に対して直接労働契約の申し込みをしたものとみなされる可能性もあります(同法40条の6第1項5号)。

3.偽装請負に関する判断基準
 偽装請負に関する判断基準については、労働省(当時)から「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号。以下「37号告示」)が発出されており、この基準によると、偽装請負と判断されないためには、�@、�Aのいずれにも該当することが必要です。また、それぞれに該当するためには(a)〜(c)が求められます。

_請負事業者が自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用すること
(a)業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うこと
(b)労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うこと
(c)企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うこと

_請負事業者が請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理すること
(a)業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること
(b)業務の処理について、民法等に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと
(c)自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備もしくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く)、または材料もしくは資材により業務を処理することや、自ら行う企画または自己の有する専門的な技術もしくは経験に基づいて業務を処理することにより、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと

 さらに、37号告示に関しては、「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集」(以下「疑義応答集」)が公表されており、これらも告示の解釈にあたって参考となるでしょう。
 2で述べたように、請負等と労働者派遣の大きな違いが、「他人の労働者に対して直接指揮命令を行うかどうか」にあることからすると、偽装請負であると疑われないためには、37号告示や疑義応答集を参考に、例えば、「作業内容や労働時間に関する指示等は受託者の責任者に対して行う」など、作業員に対して直接的な指揮命令をしないように留意する必要があるでしょう。
  
4.最後に
 前述のとおり、偽装請負の該当性については37号告示や疑義応答集が参考となりますが、業務委託の具体的な形態等によっては、微妙な判断を伴う場合もあります。該当性の判断にお悩みの際には、弁護士等の専門家に相談することもご検討ください。

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