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コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の実務対応― 確定版の解説/パブリックコメントの考え方/取締役会実効性評価質問事項 ―(コーポレートガバナンス・ニュース No.1)

2026/07/22

コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の実務対応― 確定版の解説/パブリックコメントの考え方/取締役会実効性評価質問事項 ―コーポレートガバナンス・ニュース No.1)【PDFファイル】

平素より大変お世話になっております。

令和8年7月21日、金融庁及び東京証券取引所は、「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」を公表し、同コードが確定しました[1]。2015年の適用開始以降、2018年及び2021年の改訂を経た5年ぶり3度目の改訂であり、従来の「補充原則」を一のカテゴリーとして廃止し、規範を【基本原則】【原則】及び【解釈指針】の三層構造に再整理する、実務上の影響の大きい改訂です。

本改訂は、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(令和7年度。座長・翁百合株式会社日本総合研究所シニアフェロー)において令和7年10月より議論が行われ、改訂案について令和8年4月10日から同年5月15日まで意見募集が実施された上で、147の個人及び団体から寄せられた意見を踏まえて確定されたものです。

同公表では、確定版のコード本体(別紙1)のほか、改訂前からの変更点(別紙2)、改訂の趣旨等を記載した「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(別紙3)、改訂の概要(別紙4)、パブリックコメントの結果概要(別紙5)並びに改訂案に対する意見の概要及びそれに対する考え方(別紙6)が公表されています。あわせて、上場会社の経営者、上場会社の担当者及びスチュワードシップ・コード署名機関それぞれに宛てたメッセージ(参考1-1〜1-3)並びに「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」(参考2)が公表されており、実務対応上は、別紙3、別紙6及び参考2が特に有用です。

本改訂は、コードの内容を細かく増やすのではなく、プリンシプルベース・アプローチ及びコンプライ・オア・エクスプレインの原点に立ち返り、コード自体の「実質化」を図るものです。もっとも、これは対応コスト・開示負担の軽減のみを意図するものではなく、解釈指針に移管され又は削除された記載の重要性が失われるものではないとされています。

本ニュースレターでは、確定版の内容を、改訂案に寄せられたパブリックコメント(147の個人及び団体からの意見)に対する当局の考え方とあわせて解説いたします。冒頭に「実務家が今すぐ動くべき3点」を示した上で、13のテーマごとに、条項の趣旨、パブリックコメントにおける当局の考え方、実務上の着眼点、実務対応及び取締役会実効性評価における設問例を整理いたします。末尾には理解度チェック(12問)を付しておりますので、社内研修等にもご活用いただけますと幸いです。

令和8年7月22日

弁護士法人三宅法律事務所

*本ニュースレターに関するご相談がありましたら、下記にご連絡ください。 弁護士法人三宅法律事務所 弁護士 渡邉雅之(執筆者) TEL 03-5288-1021 FAX 03-5288-1025 Email: m-watanabe@miyake.gr.jp

コーポレートガバナンス・ニュース No.1

コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の実務対応

確定版の解説/パブリックコメントの考え方/取締役会実効性評価質問事項 ―

【目次】
1 実務家が今すぐ動くべき3点
2 改訂の基本思想 ― プリンシプル化・スリム化の趣旨
3 パブリックコメントの全体傾向と当局の基本姿勢
4 章構成の再編 ― 株主との対話を冒頭に
5 取締役会実効性評価設問の回答区分(共通)
6 テーマ別解説(13テーマ)
7 削除された規定の取扱い
8 総括と提言 ― 2027年7月末に向けた逆算工程
【理解度チェック 12問】

1 実務家が今すぐ動くべき3点

本改訂は、形式の上では「整理」「移管」「格上げ」が中心であり、一見すると穏当な見直しに映る。しかし、実務対応の緊急度・難易度は一様ではない。数あるテーマのうち、①逆算に最も時間を要するもの、②「地雷」が最も大きいもの、③取締役会の中身そのものが変わるもの、という観点から、次の3点を最優先に位置づけるべきである。他のテーマは、これら3点を軸に据えた上で対応すれば足りる場合が多い。

◆ 実務上の着眼点 本改訂対応の要諦は、「開示文言の手直し」ではなく「取締役会の議題と年間工程の再設計」にある。CG報告書の締切(2027年7月末)だけを見ると時間があるように見えるが、下記①の日程・監査の再設計と③の議題転換は、実装まで1〜2事業年度を要する。逆算の起点は「今期」である。

① 逆算に最も時間を要する──有価証券報告書の総会前提出(原則1-2/⑶)

有価証券報告書の総会前提出は、単体の開示前倒しにとどまらず、株主総会開催日・議決権行使基準日・監査(会社法監査/金融商品取引法監査)スケジュールの再設計を伴うため、着手から実装まで最も時間を要する。当局は3週間以上前の提出を「最も望ましい」水準としつつ現行法制下での困難も認めており、制度改正(有報と事業報告等の一本化・監査の一元化・記載事項の整理)と並行して進むが、制度改正待ちにするのではなく、自社で前倒し可能な範囲と日程見直しの余地を今期の取締役会・経営会議で検討し、その記録を残すことが肝要である。

② 「地雷」が最も大きい──政策保有株式の「売らせない圧力」(原則1-4/⑸)

政策保有株式の売却妨害の禁止が原則本体に格上げされたことに加え、当局は有価証券報告書レビュー等において「売らせない圧力」を名指しで問題視している。改訂前補充原則1-4①のコンプライ率が99.8%に達する一方で発行会社が縮減を妨げる事例が報告されており、CG報告書上はコンプライと公表しつつ担当者・経営層レベルで圧力をかける実態があれば、原則違反であるのみならずガバナンス上の重大な問題と評価され得る。売却意向が示された場合の社内対応方針(取引縮減の示唆の禁止を含む)の即時整備が求められる。

③ 取締役会の「中身」が変わる──成長投資・資源配分の「成長の道筋」説明(原則4-1・4-2/⑴)

当局は、一律のキャピタルアロケーション/キャッシュアロケーションの開示は求めないと明言した。問われるのは開示の「形式」ではなく、ヒト・モノ・カネの配分を自社の「成長の道筋」に沿って”論理”として説明できるかである。これは中期経営計画の報告では足りず、成長投資・事業ポートフォリオの見直し・株主還元と内部留保のバランスにまで踏み込んだ、取締役会の議題設計そのものの転換を要求する。

これらに次ぐ重要論点として、内部統制・全社的リスク管理の独立原則化(原則4-4。実質はサイバーセキュリティ・経済安全保障のリスク管理議題への明示)、独立社外取締役の質・数・機能発揮の体系化(原則4-8〜4-12)、及びコーポレート・ガバナンスに関する報告書全体の「丁寧なエクスプレイン」への改稿がある。以下、各テーマに、当局の考え方を示す「◆パブコメでの主な指摘と当局の考え方」欄とあわせ、実務対応上の要点を一文で示す「▶実務上の着眼点」欄を付す。

2 改訂の基本思想 ― プリンシプル化・スリム化の趣旨

本改訂の最大の特徴は、コードの内容を細かく増やすのではなく、「プリンシプルベース・アプローチ」と「コンプライ・オア・エクスプレイン」の原点に立ち返り、コード自体の「実質化」を図る点にある。2015年の適用開始から約10年、我が国のコーポレートガバナンス改革には一定の進捗が見られたものの、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を真の意味で実現するためには、形式的な対応にとどまらない、企業と投資家双方の取組みによる改革の実質化が不可欠であるとの問題意識が、本改訂の出発点となっている。

具体的には、本改訂は、従前の「補充原則」を一のカテゴリーとして廃止した上で、ガバナンスの中核となる箇所を原則に格上げする一方、コード内の他の箇所又は法令等との重複がある箇所等を削除する手法を採っている(改訂版コード前文11項)。この結果、コードの規範は、従来の「基本原則・原則・補充原則」から、【基本原則】【原則】及び【解釈指針】により構成される三層構造へと再整理された。コンプライ・オア・エクスプレインの対象は基本原則・原則に絞られ、各原則の背景となる考え方・目的やベストプラクティス(グッドプラクティス)は「解釈指針」に集約された。

もっとも、これは上場会社の対応コスト・開示負担の軽減のみを意図するものではない。本改訂によりコンプライ・オア・エクスプレインの対象から外れ「解釈指針」に移管された記載や、本コードから削除された記載について、その重要性が失われたと考えることは適切ではないとされている(同12項)。上場会社には、かかるプリンシプル化・スリム化の趣旨を十分に理解した上で、各原則への対応の実質化に取り組むこと、及び「ひな型」的な表現による表層的な説明に終始しない「丁寧なエクスプレイン」を行うことが、従来にも増して求められる。

また、本改訂には、その趣旨等を記載した参照文書「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」が明示されており(同13項)、今回の見直しの主眼が、取締役会による成長の道筋の構築と経営資源の配分の適正化にあることがうかがえる。「守りのガバナンス」にとどまらない「攻めのガバナンス」の実現という当初からの理念が、成長投資の促進という具体的な文脈で改めて打ち出された点に、本改訂の思想が集約されている。

本改訂案は、令和8年4月10日から同年5月15日までパブリックコメントに付され、147の個人及び団体から意見が寄せられた。確定版は原案からの主要な構成・番号変更を伴わないものの、各原則の趣旨・運用に関する当局の考え方が具体的に示された点で、実務上の意義は大きい。上場会社は、遅くとも2027年7月末日までに、改訂後のコードに関する事項を記載したコーポレート・ガバナンスに関する報告書を提出することが求められる。

3 パブリックコメントの全体傾向と当局の基本姿勢

本改訂の理解には、改訂案に寄せられた意見と、これに対する当取引所及び金融庁の考え方(以下「パブコメ回答」という。)を踏まえることが有益である。本項では全体傾向を示すにとどめ、個別論点に関するパブコメ回答は、6のテーマ別解説において、各テーマ内の「◆パブコメでの主な指摘と当局の考え方」欄に分けて記載する(削除された開示事項の取扱いは7に記載する。)。

⑴ 全体評価と当局の基本姿勢

パブコメでは、補充原則を廃止して原則を抽象化・概念化するとともにコード全体をスリム化し、その趣旨・背景を示す「解釈指針」を新設した本改訂の方向性について、国内外の機関投資家、議決権行使助言会社、経済団体、実務家から幅広い支持が示された。これに対し当局は、「コードの趣旨・精神を踏まえた実質的な対応が適切に行われるよう、今後も引き続きコードの内容や好事例の周知を図るとともに、適切なフォローアップを行う」との姿勢を繰り返し表明している。上場会社としては、本改訂が形式的コンプライではなく実質的対応を促すものであること、及び当局が適用後の定着状況を継続的に注視する方針であることを前提に、対応を設計すべきである。

⑵ スリム化=「実質化」であり負担軽減が主眼ではない

スリム化については、「開示項目の削減により企業間の比較可能性が低下する」「解釈指針への移管が『ガバナンスの後退』と受け止められかねない」といった懸念も示された。これに対し当局は、スリム化は対応コスト・開示負担の軽減のみを意図するものではなく、解釈指針に移管され又は削除された記載の重要性が失われるものではない旨を明確にした(前文12項と同旨)。むしろ本改訂は、コードの詳細な定めではなく、企業が各原則の趣旨・精神を踏まえて自律的にガバナンス上の課題を検討・実践し、その取組みを丁寧に説明することを後押しするものと位置づけられている。中堅以下の企業を含めた理解の浸透に向け、好事例・改善事例の共有等による継続的なフォローアップの重要性も指摘されている。

このほか、個別論点に関するパブコメ回答は、6の各テーマ内「◆パブコメでの主な指摘と当局の考え方」欄を参照されたい。

4 章構成の再編 ― 株主との対話を冒頭に

改訂版では、改訂前の第1章(株主の権利・平等性の確保)と第5章(株主との対話)を統合し、新第1章「株主の権利・平等性の確保、株主との対話」として再編している。これは、第1章を株主との関係に関する規定、第2章を株主以外のステークホルダーとの関係に関する規定と整理した上で、株主との対話の重要性に鑑み、これを冒頭の章に統合する観点によるものである。

これに伴い、改訂前基本原則5は新基本原則1の末尾に統合され、改訂前原則5-1は新原則1-1(株主との建設的な対話)として再構成された。株主との建設的な対話をコーポレートガバナンスの規律における「起点」として位置付ける本改訂の思想が、章構成の面からも明確に示されている。もっとも、当局は、株主の権利・平等性の確保が株主との建設的な対話の前提であることから、第1章の表題及び基本原則1では株主の権利・平等性の確保を先に記載した旨を説明しており、両者は対立するものではなく、相互に補完する関係にあると理解される。

5 取締役会実効性評価設問の回答区分(共通)

以下の各テーマで掲げる取締役会の実効性評価設問例は、原則として次の5段階で回答するものとする。

5:十分適切である / 4:一応適切である / 3:普通である / 2:不十分である / 1:全く不十分である

ただし、各取締役の自己評価(取締役会への貢献等)に関する設問については、次の5段階で回答するものとする。

5:十分できている / 4:一応できている / 3:普通である / 2:あまりできていない / 1:全くできていない

経営指標、業績連動報酬、株主との対話の具体的状況等に関する設問は、自由記載とする。

6 テーマ別解説(13テーマ)

⑴ 成長投資・資源配分への集中(原則4-1・4-2)

ア 改訂版の条項

新原則4-1(取締役会の役割・責務Ⅰ:企業戦略等の大きな方向付け)後段は、取締役会は経営戦略・経営計画の策定・公表に当たり、自社の資本コストを踏まえて収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分等に関し、具体的に何を実行するのかについて説明を行うべきであるとする。

新原則4-1の解釈指針は、投資先を検討するに当たり、(ⅰ)投資対象を自社の内部に求めるのか(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)、外部に求めるのか(M&A・業務提携・スタートアップ出資等)、(ⅱ)短期か中長期か、(ⅲ)国内投資か国外投資かといった、多様な投資機会の認識を求める。加えて、知的財産等の無形資産への投資については、競争力や企業価値向上の源泉であることを踏まえ、その創出・取得・強化・保護・収益化に戦略的に取り組むべきものとされている。

また、新原則4-2(2)は、取締役会は、自社の経営資源の配分が、成長の実現を目指して策定・公表した経営戦略や経営計画に照らし適切なものとなっているかについて、不断に検証を行うべきであるとする。これは、改訂前3-1③前段の一部・改訂前4-2②後段・改訂前5-2・改訂前5-2①を、新4-1、4-2及びその解釈指針に統合・整理したものである。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 当局は、改訂版コードが一律にキャピタルアロケーション又はキャッシュアロケーションの開示を求めるものではなく、「経営資源」に含まれるヒト・モノ・カネの配分について、自社が構築した「成長の道筋」を踏まえ、株主に分かりやすい言葉・論理で具体的に説明することが重要である旨を確認した。曖昧な表現を避け「成長の道筋」を採用した点、「果断な意思決定」「事業ポートフォリオの見直し」を継続して明記した点も評価されている。
◆ 実務上の着眼点 目玉は「開示項目」ではなく取締役会の議題転換にある。一律開示は不要という当局回答を「負担軽減」と読むと本質を外す。問われるのは、資源配分の「論理」を自らの言葉で語れる取締役会か否かである。

イ 実務対応

① 取締役会の議題を、中期経営計画の報告にとどめず、設備投資、研究開発投資、人的資本投資、DX投資、事業ポートフォリオの見直し、株主還元と内部留保のバランスにまで踏み込んだ議論の場に転換する。

② 現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているかという観点からの検証(新原則4-2の解釈指針)を、定例の議題として組み込む。

③ 知的財産等の無形資産への投資について、その創出・取得・強化・保護・収益化に戦略的に取り組む方針を整理する。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、会社の目指すべき姿や成長の道筋について、十分かつ継続的な議論を行っているか。

(イ) 取締役会は、設備投資、研究開発投資、人的資本投資、DX投資、事業ポートフォリオの見直し等を含む成長投資・資源配分について、資本コストや収益力・資本効率を踏まえて十分に議論しているか。

(ウ) 取締役会は、自社の経営資源の配分が経営戦略・経営計画に照らし適切なものとなっているかについて、不断に検証を行っているか。

(エ) 取締役会は、株主還元、内部留保、成長投資のバランスについて、会社の成長段階や経営戦略に照らして適切に議論しているか。

(オ) 取締役会は、無形資産(知的財産、人的資本等)への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を踏まえて議論しているか。

⑵ 内部統制・全社的リスク管理体制の独立原則化(原則4-4)【新設】

ア 改訂版の条項

改訂前は取締役会の監督機能(改訂前原則4-3)に包含されていた内部統制・全社的リスク管理体制の整備が、本改訂により独立の原則として切り出された。新原則4-4(取締役会の役割・責務Ⅲ:経営陣・取締役に対する実効的な監督②)は、取締役会は内部統制や全社的リスク管理体制を適切に整備すべきであるとする。パブコメでも、内部統制・リスク管理の監督を独立の原則として明確化した点が評価されている。

新原則4-4の解釈指針は、内部統制や先を見越した全社的リスク管理が、適切なコンプライアンスの確保による信頼の維持・リスクの最小化のみならず、経営陣が果断にリスクテイクを行うための「裏付け」となり得るものであることを踏まえ、取締役会はグループ全体を含めたこれらの体制を適切に構築するとともに、内部監査部門を活用しつつ、その運用状況を監督すべきであるとする。加えて、サイバーセキュリティリスク、国際的な経済安全保障を巡る環境変化等の地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク、及び技術等の情報流出リスクへの対応等も、収益機会にもつながり得るものとして、リスク管理体制を整備する際の考慮事項に含まれ得るとともに、そうしたリスクへの対応等が適切に行われるべきであるとされた。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 「全社的リスク管理体制」の意味やCOSO ERM・ISO31000等の例示を求める意見に対し、当局は、最適なガバナンス体制は各社区々であるとして具体例は明記しないものの、原則4-4の趣旨・精神に照らした適切な体制構築を期待するとした。海外子会社を含むグループガバナンスについても、原則4-4及びその解釈指針が「グループ全体を含めた」内部統制・リスク管理体制の整備・運用を求めており、子会社管理もその枠組みに位置づけられる旨が示された。
◆ 実務上の着眼点 本丸は「独立原則化」という形式ではなく、サイバーセキュリティ・経済安全保障・サプライチェーン途絶・情報流出を「リスク管理議題として明示」した点にある。守りの体制論から、地政学リスクを取締役会の常設議題に載せる実務への転換と捉えるべきである。

イ 実務対応

① 内部統制・全社的リスク管理を「守り」の観点にとどめず、果断なリスクテイクの裏付けとして位置付け直す。

② サイバーセキュリティ、経済安全保障、サプライチェーン途絶、技術等の情報流出といったリスクを、取締役会のリスク管理議題として明示的に取り上げる。

③ 内部監査部門を活用し、取締役会・監査役への直接報告(デュアルレポーティング)を含む連携体制を確保する。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、内部統制及び全社的リスク管理体制を、グループ全体を含めて適切に構築し、その運用状況を監督しているか。

(イ) 取締役会は、サイバーセキュリティ、経済安全保障・サプライチェーン途絶、技術等の情報流出といったリスクへの対応を、リスク管理体制整備の考慮事項として適切に議論しているか。

(ウ) 内部監査部門を活用し、取締役会・監査役への直接報告の仕組みを含む連携が確保されているか。

⑶ 株主総会前の情報提供──有価証券報告書の総会前提出(原則1-2)

ア 改訂版の条項

新原則1-2(株主総会における権利行使)は、上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを踏まえ、株主の視点に立って、「有価証券報告書を株主総会開催日前に提出するなど株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報を必要に応じ適確に提供する」こと、株主総会関連の日程を適切に設定すること、プライム市場上場会社は少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすること等、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきであるとする(改訂前1-2①・1-2③・1-2④後段の格上げ)。

新原則1-2の解釈指針(ⅰ)は、有価証券報告書には役員報酬や政策保有株式等のガバナンス情報等、投資家がその意思を決定するに当たって有用かつ信頼性の高い情報が豊富に含まれていることから、本来、株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいとし、そのため株主総会開催日や議決権行使に係る基準日を、従前の慣行に基づく時期から後ろ倒しすることも含めて検討するものとされている。

改訂版コード前文14項は、金融庁が、企業負担も考慮し、現行法制下で一般化している実務運用からすると総会日3週間以上前の開示は必ずしも容易ではないとの認識の下、法務省とも連携し、法制審議会において議論されている有価証券報告書と事業報告等の一本化、会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の一元化、有価証券報告書の記載事項の整理といった制度的検討も並行して進めることを明記している。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 当局は、3週間以上前の提出はあくまで「最も望ましい」水準であり、現行法制下では必ずしも容易でないとの認識を示すとともに、株主総会開催日・議決権行使基準日の後ろ倒しの検討、及び制度改正(有報と事業報告等の一本化・監査の一元化・記載事項の整理)との並行的推進を明らかにした。投資家属性(パッシブ投資家等)により早期開示ニーズが一律でないとの指摘に対しても、慎重・段階的な運用は否定されていない。現時点では即時の一律実行義務ではなく、取締役会として検討した事実と記録が問われる。
◆ 実務上の着眼点 最大の論点でありながら、確定版はあえて「努力目標」にとどめた。実務家の勝負どころは3週間前提出の即時達成ではなく、総会日程・基準日・監査の再設計を「今から」検討した記録を残せるかにある。制度改正待ちは禁物である。

イ 実務対応

直ちに3週間以上前の提出を実現することが困難であるとしても、少なくとも次の各点を取締役会・経営会議等で検討した記録を残すことが重要である。

① 現行スケジュールで前倒し可能な開示は何か。

② 招集通知・参考書類・任意開示で代替的に前倒しできる情報は何か。

③ 総会日程や基準日を見直す余地はあるか(基準日変更には定款変更の要否を含めた検討が必要となる場合がある)。

④ 監査スケジュール(会社法監査・金商法監査)への影響はどうか。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、株主総会における適切な判断に資する情報提供の在り方(有価証券報告書の株主総会前提出、招集通知記載事項の早期電子公表等)について、必要な検討を行っているか。

(イ) 取締役会は、株主総会関連の日程(株主総会開催日、議決権行使基準日、招集通知発送日等)の設定について、株主の権利行使の観点から適切に検討しているか。

(ウ) 取締役会は、議決権電子行使プラットフォーム、招集通知の英訳等、株主の権利行使環境整備の状況を適切に把握・監督しているか。

※ 有価証券報告書の株主総会前提出又はこれに準じた総会前の情報提供の充実について、どのような検討又は対応を行っているかは、自由記載とする。

⑷ 相当数の反対票があった会社提案議案への対応(原則1-3)

ア 改訂版の条項

新原則1-3(株主総会で相当数の反対があった会社提案議案)は、改訂前補充原則1-1①を原則に格上げしたものであり、取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主の権利の実質的な確保に資するよう適切に対応すべきであるとする。新原則1-3の解釈指針は、例として、株主に対し、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析結果や、当該分析を踏まえた上場会社の対応状況等の説明を行うことを挙げている。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 「相当数」に定量的な閾値(英国コードに倣った反対率20%等)を設けるべきとの意見に対し、当局は、どのような場合に「相当数」と判断するかは株主構成・支配株主の有無等各社の状況によって異なり得るため、原則1-3の趣旨・精神に照らし取締役会が合理的に判断すべきであるとしつつ、各社が「相当数」と判断するための客観的な基準を決定することも有益であるとした。
◆ 実務上の着眼点 「相当数」に数値基準を置かなかったのは緩さではなく、支配株主の有無等で意味が変わるとの割り切りである。むしろ、各社が自前の客観的基準を定め、開示・対話で説明できるかが分水嶺となる。

イ 実務対応

総会結果を「可決された」で終わらせず、次の社内フローを整備する。

① 原因分析(株主構成・議決権行使助言会社の推奨理由・個別対話で得られた懸念等の整理)。

② 投資家・株主との追加対話。

③ CG報告書・統合報告書等での開示の見直し。

④ 翌年の議案設計への反映。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、株主総会において相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合に、その原因分析及び対応の要否について適切に検討しているか。

(イ) 反対の理由や反対票が多くなった原因の分析結果、当該分析を踏まえた対応状況等を、株主に対して説明することが検討されているか。

※ 相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合の反対理由・原因分析、その後の株主との対話・開示の見直し等の対応については、自由記載とする。

⑸ 政策保有株式の原則格上げ(原則1-4)【新設】

ア 改訂版の条項

新原則1-4(政策保有株式)は、改訂前の原則4-1(政策保有株式)及び補充原則1-4①②等の内容を原則本体に格上げ・整理したものであり、次の4項目を規定する。

(1) 政策保有株式として上場株式を保有する場合には、縮減に関する方針・考え方など政策保有に関する方針を開示すること。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、その検証の内容を開示すること。

(2) 政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うこと。

(3) 自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)から売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げないこと。

(4) 政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行わないこと。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 単なる「格上げ」では効果が弱く、コンプライ率が高い中でも「売らせない圧力」の実態があるとの指摘に対し、当局は、原則1-4(3)が、発行会社が取引の縮減を示唆することにより売却等を妨げる対応をとるべきでないことを明確化するものであるとした。報告書上はコンプライと公表しつつ担当者・経営層レベルで圧力をかける実態がある場合には、本原則の趣旨を損ない、ガバナンス上重大な問題となり得るとされる。議決権行使結果の開示も、原則の趣旨・精神に沿った実質的な取組みと位置づけられた。
◆ 実務上の着眼点 「格上げ」以上に、当局が「売らせない圧力」を摘発対象と明言した点が本丸である。コンプライ表明と現場実態の乖離が最大の地雷であり、方針の開示よりも、社内運用(縮減示唆の禁止)の是正が急務となる。

イ 実務対応

① 個別銘柄の保有目的・便益・リスクと資本コストとの見合いの検証プロセスを、取締役会の定例議題とし、検証内容を開示する。

② 政策保有株主からの売却等の意向に対する社内対応方針(取引縮減の示唆の禁止を含む)を整備する。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、個別の政策保有株式について、保有目的の適切性・便益及びリスクの資本コストとの見合いを毎年具体的に精査し、保有の適否を検証・開示しているか。

(イ) 政策保有株主からの売却等の意向に対し、取引の縮減を示唆することなどにより売却を妨げていないか。また、経済合理性を十分に検証しないままの取引継続を行っていないか。

⑹ 株主との建設的対話の体制整備(原則1-1)

ア 改訂版の条項

新原則1-1(株主との建設的な対話)は、(1)株主からの対話の申込みへの合理的範囲での前向きな対応、及び取締役会による株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針の検討・承認・開示(改訂前5-1の移管)、(2)対話への対応者は、株主の希望と面談の主な議題を踏まえ、合理的な範囲で経営陣、社外取締役を含む取締役又は監査役が臨むことを基本とすべきこと(改訂前5-1①の原則格上げ)、(3)対話の内容を踏まえた社内での情報共有や検討等の適切な対応(追加)、を規定する。

新原則1-1の解釈指針は、対話促進の方針には少なくとも、(ⅰ)対話全般の統括を行う経営陣又は取締役の指定、(ⅱ)IR担当・経営企画・総務・人事・財務・経理・法務部門等の有機的連携のための方策、(ⅲ)個別面談以外の対話手段(投資家説明会・IR活動等)の充実、(ⅳ)株主の意見・懸念の経営陣・取締役会への適切かつ効果的なフィードバック方策、(ⅴ)インサイダー情報やフェア・ディスクロージャー・ルールが適用される重要情報の管理に関する方策を記載すべきとする。さらに、面談の主な議題によっては社外取締役が対話の対応者となるべき場面があることを認識した上で、対話ごとに適切な対応者を選定すべきであるとされている。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 旧第5章を第1章へ統合し、対話への社外取締役の関与を求めた点に支持が示された。当局は、原則1-1が、株主の希望と面談の主な議題を踏まえ、社外取締役を含む取締役又は監査役が対話に臨むことを基本とし、その解釈指針で、議題によっては社外取締役が対応者となるべき場面を認識した上で対話ごとに適切な対応者を選定すべき旨を規定していること、及び原則4-8解釈指針で独立社外取締役が自ら株主対話を行い少数株主等の意見を取締役会に反映するよう努める旨を規定していることを確認した。
◆ 実務上の着眼点 旧第5章の冒頭移設は「体裁」に見えるが、実質は社外取締役を対話の前面に出す圧力である。IR部門経由の「ろ過された対話」から、議題に応じて社外取締役自身が出る運用へ移行できるかが問われる。

イ 実務対応

① 対話統括責任者を明確化し、社内連携部門との情報フローを整理する。

② 社外取締役が対話に出るべき議題(指名・報酬、後継者計画、サステナビリティ、関連当事者取引、買収提案への対応等)を予め整理する。

③ 対話結果を取締役会に報告する定型書式を整備し、議題設定や意思決定への反映ルートを可視化する。

④ インサイダー情報・重要情報の管理方針を、対話実務のレベルまで具体化する。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針を検討・承認し、開示しているか。

(イ) 株主との対話には、株主の希望と面談の主な議題を踏まえ、合理的な範囲で、経営陣、社外取締役を含む取締役又は監査役が臨むことが基本となっているか。

(ウ) 取締役会は、株主との建設的な対話において把握された意見・懸念を、議題設定や意思決定に適切に反映しているか。

(エ) 対話に際してのインサイダー情報・重要情報の管理方策は、実務レベルで具体化されているか。

⑺ サステナビリティを巡る取組み(原則4-5)

ア 改訂版の条項

改訂版は、サステナビリティに関する規定(改訂前2-3・2-3①・3-1③前段の一部・4-2②前段)を、新原則4-5(取締役会の役割・責務Ⅳ:サステナビリティを巡る取組み)及びその解釈指針に統合・整理している。新原則4-5は、取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、サステナビリティを巡る課題に積極的・能動的に取り組むべきであり、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定するほか、適切な対応を行うべきであるとする。

新原則4-5の解釈指針は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による国際的な開示基準の策定や、一定のプライム市場上場会社に対するサステナビリティ基準委員会(SSBJ)基準に基づく有価証券報告書の作成義務付け等、サステナビリティ情報の重要性が世界的に高まっていることを踏まえ、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、自然災害等への危機管理、多様性などのサステナビリティ課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識すべきとする。

※ なお、改訂前2-2のステークホルダーとの協働に関する解釈指針(基本原則2)には、人的資本への投資等や適切な分配、取引先との公正・適正な取引(サプライチェーンにおける適正な価格転嫁を含む)が、明示的に追加されている。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 人権デュー・ディリジェンス等の具体策を追加すべきとの意見に対し、当局は、原則4-5の「適切な対応」として指摘の観点から取り組むことも考えられるとしつつ、プリンシプルベース・アプローチの下、各社が自らの状況に応じて原則4-5及びその解釈指針の趣旨・精神に照らし自律的に対応することが期待されるとした。
◆ 実務上の着眼点 スリム化で条文は薄くなったが、ISSB/SSBJ基準の有価証券報告書における義務化により、実質的な開示負荷はむしろ増す。コード上の記述量と実務負担は逆相関にあり、「軽くなった」と読むと足をすくわれる。

イ 実務対応

サステナビリティ課題を別建ての委員会だけで扱うのではなく、経営戦略・リスク管理・資源配分・人材戦略との整合で議論する体制を整える。特に、人的資本、多様性、人権、取引先との適正取引(価格転嫁)、気候変動は、経営上のリスクであると同時に収益機会でもあるという認識を社内で共有する必要がある。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定しているか。

(イ) 取締役会は、サステナビリティに関する課題を、リスク低減の観点にとどまらず、収益機会及び中長期的な企業価値向上の観点からも捉えて議論しているか。

(ウ) 取締役会は、人的資本、多様性、人権、取引先との公正・適正な取引(価格転嫁を含む)、気候変動対応等の主要なサステナビリティ課題について、経営戦略・資源配分と整合的に議論しているか。

(エ) 取締役会は、サステナビリティに関する方針・目標・計画の進捗状況について、定期的な報告を受け、必要な監督を行っているか。

⑻ 多様性の確保(原則2-2)

ア 改訂版の条項

改訂前原則2-4は新原則2-2に整理され、改訂前2-4①前段・後段の内容が原則本体に格上げされた。すなわち、新原則2-2は、上場会社は、ジェンダーや国際性、経歴(中途採用を含む)、年齢、文化的背景やこれらに限られない観点から、中核人材への登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を決定するとともに、その状況を開示すべきであり、また、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針を、その実施状況と併せて開示すべきであるとする。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 当局は、従前の「国籍」を「国際性」に改めたこと、原則2-2で例示される各観点は個別の観点ごとの開示・目標設定を一律に求めるものではなく例示にすぎないこと、及び「中核人材への登用」は多様性の確保を中核人材のみに限定する趣旨ではないことを確認した。
◆ 実務上の着眼点 「国籍→国際性」は表現修正にとどまらず、形式的な属性充足から実質的な多様性へ軸を移す含意を持つ。例示を「チェックリスト」化せず、自社の人材戦略に紐づけて語れるかが要点である。

イ 実務対応

多様性の例示が「女性・外国人・中途採用者」から「ジェンダー・国際性・経歴・年齢・文化的背景」に整理されたことを踏まえ、中核人材登用の目標設定及び開示文言を見直す必要がある。また、人材育成方針・社内環境整備方針が、実施状況と併せて開示されているかを再確認する。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、中核人材の登用等における多様性の確保(ジェンダー、国際性、経歴、年齢、文化的背景等)について、考え方と自主的かつ測定可能な目標を決定し、その状況を開示しているか。

(イ) 取締役会は、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針について、その実施状況と併せて開示しているか。

⑼ 独立社外取締役の役割・質・数・機能発揮(原則4-8〜4-12)

ア 改訂版の条項

改訂版では、独立社外取締役に関する規律が、役割・責務(新4-8)、質の確保(新4-9)、数の確保(新4-10)、独立性の確保(新4-11)、機能発揮(新4-12)として体系化されている。

ア 役割・責務(新原則4-8)……改訂前原則4-7の柱書を維持しつつ、独立社外取締役の役割を、(1)経営の監督、(2)会社と経営陣・支配株主等との利益相反の監督、(3)少数株主をはじめとするステークホルダーの意見の反映、(4)経営の方針や経営改善についての助言、として整理し、監督の重要性を強調する観点から、改訂前(ⅰ)の助言機能を末尾((4))に移している。

イ 質の確保(新原則4-9)……新たに独立した原則として追加。取締役会は、率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できるなど、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすことができる資質を十分に備えた人物を、独立社外取締役の候補者として選定すべきであるとする。

ウ 数の確保(新原則4-10)……プライム市場上場会社における3分の1以上、その他市場上場会社における2名以上の選任要件を維持しつつ、支配株主を有するプライム市場上場会社における独立社外取締役過半数(支配株主を有するその他市場では3分の1以上)の選任要件を原則に格上げしている(改訂前4-8③前段の格上げ。過半数選任に代えて特別委員会を設置する選択肢も示されている)。

エ 独立性の確保(新原則4-11)……金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準の策定・開示を求める(改訂前4-9の整理)。

オ 機能発揮(新原則4-12)……新設。改訂前4-8①(独立社外者のみを構成員とする会合)及び改訂前4-8②(筆頭独立社外取締役)が原則に格上げされた。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 助言機能を末尾に移し監督機能を第1項に繰り上げた点(原則4-8)は、独立社外取締役を「戦略的な監督者」として明確化するものとして強く支持された。数(原則4-10)についてより高い水準(過半数)を求めるべきとの意見に対し、当局は、有識者会議で高い水準を求める意見もあった一方、人数のみならず「質」の確保も重要との指摘を踏まえ、改訂前の水準(プライム3分の1以上・その他2名以上)は引き上げず、役割・責務(4-8)、質(4-9)、数(4-10)、独立性(4-11)、機能発揮(4-12)の重要性を改めて強調することとした旨を説明した。支配株主を有しないものの実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社への言及の追加も歓迎されている。
◆ 実務上の着眼点 数の上積みを見送り「質」に舵を切ったのが核心である。過半数化を求めなかったのは後退ではなく、役割・質・独立性・機能発揮を分節化して「数合わせ」を戒める設計であり、筆頭独立社外取締役の実質稼働が試金石となる。

イ 実務対応

スキル・マトリックスを作成済みであることに満足せず、成長戦略・事業ポートフォリオの変化・後継者計画との整合から見直しを継続する必要がある。また、独立社外取締役が(1)〜(4)の役割を実質的に果たし得る構成・運営となっているかを点検する。独立社外者のみの会合の定期開催と、筆頭独立社外取締役の指名・機能発揮は、運用としても重要性を増す。支配株主を有する上場会社では、少数株主保護の観点から独立社外取締役の役割が特に重要となる点に留意する。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会は、独立社外取締役に期待される役割・責務(経営の監督、利益相反の監督、少数株主を含むステークホルダーの意見の反映、経営の方針や経営改善についての助言)を十分に果たし得る構成となっているか。

(イ) 取締役会は、率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できるなど、必要な資質を備えた人物を独立社外取締役の候補者として選定しているか。

(ウ) 独立社外取締役は、他の独立社外取締役との間で、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図っているか(独立社外者のみの会合の定期開催等)。

(エ) 筆頭独立社外取締役等を通じて、経営陣との連絡・調整や監査役・監査役会との連携に係る体制が整備されているか。

(オ) 独立社外取締役は、株主との対話の議題・内容に応じて、合理的な範囲で対話に関与すべき場面に適切に関与できているか。

⑽ 指名・報酬委員会の独立性・客観性(原則4-7)

ア 改訂版の条項

新原則4-7(任意の仕組みの活用)は、改訂前原則4-10を整理し、監査役会設置会社又は監査等委員会設置会社であって独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合における、独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会の設置を原則に格上げしている。さらに、プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきことを原則に格上げしている。

新原則4-7の解釈指針は、指名委員会・報酬委員会の設置は、経営陣・取締役の指名(後継者計画を含む)・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化する観点から重要であり、両委員会は、ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め、適切な関与・助言を行うことを責務とするものとされている。なお、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社においては、「指名・報酬諮問委員会」等として両委員会を一体的に運営している上場会社も多い。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 委員会の機能が明記されていない(英国コード比)との意見に対し、当局は、プリンシプルベース・アプローチの下、最適なガバナンス体制は各社の機関設計・規模・事業特性等により異なり得るとして、特定の委員会の設置・機能を具体的に明示しないものの、原則4-7・4-8等の趣旨・精神に照らし、法定・任意を問わず委員会の活用等による実効的なガバナンス体制の構築が期待されるとした。なお、確定版では、原則4-7の解釈指針の「統治機構」を「統治機能」に修正している。
◆ 実務上の着眼点 プライム市場の委員会過半数・独立性開示を原則化したものの、英国型の詳細規定は採らなかった。形式要件の充足よりも、後継者計画・報酬設計への委員会の「実質関与」が問われる。

イ 実務対応

社外取締役が過半数か否かという形式だけでなく、両委員会が経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)、多様性・スキル、報酬制度の設計に実質的に関与しているかを確認する。委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等の開示文言を、原則格上げを踏まえて見直す必要がある。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

ア 指名(諮問)委員会に関する設問

(ア) 指名委員会の構成は適切か。

(イ) 指名委員会の運営は適切になされているか(議事録の作成・見直しを含む)。

(ウ) 指名委員会は、経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)に関し、独立性・客観性・説明責任を高める観点から、適切に機能しているか。

(エ) 指名委員会は、取締役会の構成について、ジェンダー等の多様性及びスキルの観点を含め、適切な関与・助言を行っているか。

イ 報酬(諮問)委員会に関する設問

(ア) 報酬委員会の構成は適切か。

(イ) 報酬委員会の運営は適切になされているか(議事録の作成・見直しを含む)。

(ウ) 報酬委員会は、中長期的な企業価値向上に資する報酬制度の在り方について、適切な関与・助言を行っているか。

ウ 両委員会共通の設問

(ア) 指名委員会・報酬委員会の独立性に関する考え方・権限・役割は明確であり、社内外に説明可能な状態となっているか。

⑾ CEOの選解任・後継者計画(原則4-3)

ア 改訂版の条項

新原則4-3(取締役会の役割・責務Ⅲ:経営陣・取締役に対する実効的な監督①)は、(1)改訂前4-3①(経営陣幹部の選解任の業績評価への反映)、改訂前4-3②(CEO選解任手続の客観性・適時性・透明性)、改訂前4-1③(CEO後継者計画への主体的関与)、改訂前4-3③(CEO解任手続の確立)を原則に格上げして一括整理し、(2)適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うこと(内部統制・リスク管理体制の整備は新原則4-4として独立)、(3)経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反の適切な管理(改訂前原則1-7の統合)、を規定する。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 原則4-3の(1)〜(3)は質的に異なるため分離すべき(特に関連当事者取引・利益相反管理を独立原則とすべき)との意見に対し、当局は、いずれも「ご意見として承ります」として原案を維持しつつ、CEOの選解任が会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、取締役会の監督機能の重要性を改めて明確化したものであると説明した。
◆ 実務上の着眼点 (1)〜(3)を1原則に混在させた設計にはパブコメでも批判があったが、当局は原案を維持した。裏を返せば、CEOの選解任・後継者計画・関連当事者取引を一体で監督することこそ本改訂の狙いと読むべきである。

イ 実務対応

CEO後継者計画について、候補者の教育・選定基準・選定手続を文書化し、取締役会・指名委員会の関与を議事録上明確化する。CEO解任手続についても、客観性・適時性・透明性を担保する手続を確立する。関連当事者取引の枠組み開示と取引監視は、改訂前1-7の新4-3への統合を踏まえて整理し直す。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会においては、代表取締役の後継者の計画(後継者候補の教育・選定基準・選定手続)に関して適切に議論・監督がなされているか。

(イ) 取締役会は、経営陣幹部の選解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、適切に議論しているか。

(ウ) 取締役会は、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合の解任手続(客観性・適時性・透明性)を確立しているか。

(エ) 取締役会は、関連当事者間の取引について、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めて枠組みを開示し、その手続を踏まえた監視を行っているか。

⑿ 取締役会実効性評価の原則格上げ(原則4-13)

ア 改訂版の条項

新原則4-13(取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件)は、改訂前補充原則4-11①(スキル等の特定・スキル・マトリックス、及び独立社外取締役に他社での経営経験を有する者を含めるべきこと)、及び改訂前補充原則4-11③(取締役会全体の実効性分析・評価とその結果概要の開示)を原則に格上げしている。あわせて、監査役には適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が、特に財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきこと等も規定する。

新原則4-13の解釈指針は、取締役会の実効性評価を実施するに際しては、自らの役割・責務を果たすために、取締役会としてどのような機能を発揮すべきかを踏まえた評価を行うことが効果的であり、評価の手法についても様々な方法が考えられるが、例えば、まずは各取締役が自ら及び取締役会全体についての評価を行うことが考えられるとしている。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 スキル・マトリックスの開示や多様性に関する規律の充実が歓迎された。当局は、原則4-13(1)が、取締役会は各構成員の知識・経験・能力を全体としてバランスよく備え、ジェンダー・国際性・経歴・年齢・文化的背景を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべき旨を示すものであることを確認した。
◆ 実務上の着眼点 原則格上げの実務的含意は、実効性評価票そのものの改訂圧力にある。従来の「資料・時間・雰囲気」設問では足りず、本改訂の各テーマに対応する設問へ更新し、自己評価と全体評価の二層化を図れるかが差になる。

イ 実務対応

実効性評価が原則に格上げされたことを踏まえ、評価票そのものを改訂する必要がある。従来の「資料」「時間」「自由闊達」中心の設問では足りず、本ニュースレターの各テーマに対応する設問を追加することが望まれる。また、各取締役の自己評価を組み込んだ二層評価(自己評価+取締役会全体評価)の導入を検討する余地がある。

ウ 取締役会実効性評価設問例

ア 取締役会の構成・スキル・運営に関する設問(5段階評価)

(ア) 取締役会の人数は適切か。

(イ) 取締役会の構成員(監査役を含む。)は多様性(知識・経験・能力、ジェンダー、国際性、職歴、年齢、その他のバックグラウンド)が適切に確保されているか。

(ウ) 取締役会において経営戦略に照らして自らが備えるべきスキルを特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役・各監査役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスを策定しているか。

(エ) 取締役会は、スキル・マトリックスについて、成長戦略、事業ポートフォリオ及び経営環境の変化を踏まえ、定期的に見直しを行っているか。

(オ) 取締役会の年間スケジュール、予想される審議事項について事前に決定されているか。

(カ) 取締役会の開催頻度は適切か。

(キ) 取締役会に提出される資料は内容・分量の観点で適切か(分かり易いか、網羅的か、十分に整理されているか)。

(ク) 取締役や監査役には、取締役会に提出される資料を事前に検討する時間が十分に与えられているか。

(ケ) 取締役会における審議時間は十分か(活発な、充実した議論が行われているか)。

(コ) 取締役会議長の司会進行は適切か。

(サ) 取締役会の審議中、社外取締役・平取締役・監査役が自由に発言できる雰囲気となっているか。

(シ) 取締役会の議事録は正確に作成されているか。各取締役・監査役に見直しの機会があるか。

イ 各取締役の自己評価に関する設問(5段階評価/自己評価用)

(ア) 自己の取締役会での発言状況は適切か。

(イ) 取締役会における自己の貢献度は適切か。

(ウ) 自己は、成長投資・資源配分、株主との建設的対話、サステナビリティ、後継者計画等の重要テーマに関し、取締役会に十分な貢献ができているか。

(エ) 自己は、必要な情報収集・研鑽を通じて、取締役又は監査役として期待される役割・責務を果たすよう努めているか。

ウ 経営指標等に関する設問(自由記載)

(ア) 当社の経営においてはどのような経営指標(ROE、ROIC等)を重視しているか。その理由も記載してください。

(イ) 業績連動報酬を導入又は見直すことについて、どのように考えているか記載してください。

(ウ) 成長投資、事業ポートフォリオ見直し、人的資本投資等に関する取締役会の議論内容を、株主・投資家にどのように説明しているか記載してください。

⒀ 取締役会審議の活性化・事務局の機能強化(原則4-14)

ア 改訂版の条項

新原則4-14(取締役会における審議の活性化等)は、(1)社外取締役による問題提起を含め自由闊達で建設的な議論・意見交換を尊ぶ気風の醸成、(2)取締役・監査役による能動的な情報入手と、取締役会・監査役会による情報提供の確保の確認、(3)取締役会を支える部署等の人員面を含む取締役・監査役の支援体制の整備、を規定する(改訂前原則4-12・4-13の統合・整理)。

新原則4-14の解釈指針は、取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)について、上記の会議運営を行う単なる事務方としての役割のみならず、取締役会やその傘下の各委員会の会議体が実効性ある議論の場となるよう、当該会議体の果たすべき役割・責務に照らし適切な審議事項を定めるなど、それらの運営を能動的に行うことが望ましいとする。また、独立社外取締役が議長を務める場合や、取締役会における社外取締役が占める割合が高い場合には、取締役会事務局が果たす機能が特に大きくなるとされている。

◆ パブコメでの主な指摘と当局の考え方 社外役員の兼任過多を懸念する意見等に対し、当局は、取締役・監査役が役割・責務を実効的に果たすには情報提供を含む支援が重要であり、独立社外取締役は必要な時間・労力を業務に振り向けるべきで、他の上場会社の役員を兼任する場合はその数を合理的な範囲にとどめるべき旨を原則4-13解釈指針に記載していることを示した。また、原則4-14(3)の主語を「上場会社」とした趣旨につき、支援体制の整備は取締役会のみならず会社全体で組織的に取り組むべきものであるためと説明している。
◆ 実務上の着眼点 地味だが効く論点である。社外取締役が議長を務める会社や社外比率の高い会社ほど、事務局(コーポレートセクレタリー)の巧拙が実効性を左右する。兼任過多への当局の釘刺しと併せ、「支援体制」を会社全体の組織課題として設計すべきである。

イ 実務対応

取締役会事務局の人員・権限・業務範囲を見直し、議題設定・資料品質管理・社外取締役への情報提供・株主対話結果のフィードバック等を能動的に担う体制を整備する。

ウ 取締役会実効性評価設問例(5段階評価)

(ア) 取締役会を支える事務局体制(資料作成、事前説明、議事録作成、社外取締役・監査役への情報提供、株主対話結果のフィードバック等)は、取締役会の実効性を確保する上で十分か。

(イ) 社外取締役がその役割・責務を十分に果たすために必要な事前説明、社内関係部署との連絡・調整、監査役又は監査役会との連携体制は十分に整備されているか。

(ウ) 取締役・監査役は、必要と考える場合に、会社に対して追加の情報提供を求める機会、また会社の費用において外部の専門家の助言を得る機会が適切に確保されているか。

(エ) 内部監査部門と取締役(特に社外取締役)・監査役との連携は確保できているか。

(オ) 個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援が適切になされているか(新原則4-15)。

7 削除された規定の取扱い

改訂版では、コード内の他の箇所又は法令・上場規程との重複がある規定を中心に、いくつかの規定が削除又は解釈指針へ移管された。もっとも、改訂版コード前文12項が明示するとおり、これらの規定の重要性が失われたわけではない。削除・移管された規定の趣旨は、①解釈指針への移管、②他の法令・上場規程・有価証券報告書等による規律、又は③既に浸透した実務として、引き続き上場会社に求められる。上場会社は、「コンプライ・オア・エクスプレインの対象から外れた=対応不要」と短絡することなく、各原則の趣旨・精神に照らした実質的な対応を継続する必要がある。

開示を求める原則は、改訂前の14項目から大幅に削減された。パブコメにおいて当局は、以下の各開示事項を外した理由を個別に示しつつ、いずれについても本改訂により重要性が失われたと考えることは適切でない旨を確認している。

① サステナビリティに関する開示(改訂前補充原則3-1③)……有価証券報告書の記載事項と重複するため。

② 経営陣に対する委任の範囲に関する開示(改訂前補充原則4-1①)……実務上理解が進み、ある程度浸透したと考えられるため。

③ 独立社外取締役の独立性基準に関する開示(改訂前原則4-9)……有価証券報告書の記載事項と重複するため。

④ 取締役・監査役の兼任状況に関する開示(改訂前補充原則4-11②)……事業報告・株主総会参考書類・有価証券報告書の記載事項と重複するため。

なお当局は、有価証券報告書と事業報告等の一体開示や記載事項の整理に関する制度的検討(金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ等)を引き続き進めるとしており、削除された事項も、有価証券報告書等の他の開示媒体で引き続き開示されること、又は既に浸透した実務として維持されることが前提とされている点に留意を要する。

8 総括と提言 ― 2027年7月末に向けた逆算工程

本改訂は、項目数だけを見れば「整理」「移管」「格上げ」が中心であり、一見すると地味に映る。しかし、その実務インパクトは、文言修正ではなく、取締役会の議題・年間工程・開示の三位一体の再設計を促す点にある。改訂後コードに基づくコーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出期限(2027年7月末日)は「締切」ではなく「逆算の起点」と捉えるべきである。以下、逆算工程と、対応上陥りやすい失敗類型を提言として示す。

⑴ 2027年7月末に向けた逆算工程

【今期(2026年度)】① 改訂内容の棚卸しと自社ギャップ分析。② 削除・移管された規定を「対応不要」と誤読しないための論点整理(解釈指針の趣旨の社内共有)。③ 有価証券報告書の総会前提出・総会日程・議決権行使基準日・監査スケジュールの見直し着手(前倒し可能性の検討記録の作成)。④ 政策保有株式の売却意向対応方針(縮減示唆の禁止を含む)の整備。⑤ 成長投資・資源配分に関する取締役会議題の再設計。

【2027年前半】⑥ 実効性評価票の改訂と実施(本改訂の各テーマに対応する設問へ更新、自己評価と全体評価の二層化)。⑦ 指名・報酬委員会の実質関与(後継者計画・報酬設計)の点検。⑧ コーポレート・ガバナンスに関する報告書ドラフトの「丁寧なエクスプレイン」化。

【2027年7月末】⑨ 改訂後コードに基づくコーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出。

このうち、③(総会・監査日程の再設計)と⑤(議題の転換)は、着手から実装まで1〜2事業年度を要するため、今期からの着手が実務上の分水嶺となる。

⑵ 「丁寧なエクスプレイン」が形骸化する典型パターン

当局はパブコメ回答において「適切なフォローアップ」を繰り返し表明しており、本改訂への対応は報告書の提出をもって完結するものではない。フォローアップで最も問われやすい失敗類型として、次の4つに留意すべきである。

① ひな型流用型……他社の文例をそのまま貼り付け、自社の個別事情に触れない。プリンシプルベース・アプローチの趣旨に真っ向から反する。

② 「コンプライ」の空宣言型……体制・議題の実体を伴わないままコンプライと表明する。特に政策保有株式(売らせない圧力)、取締役会実効性評価、CEO後継者計画において顕在化しやすく、表明と実態の乖離はガバナンス上の重大な問題と評価され得る。

③ 理由の後付け型……エクスプレインの理由が「当面は困難」等の一般論にとどまり、いつ・何を・どのように改善するのかの工程を示さない。有価証券報告書の総会前提出で生じやすい。

④ 解釈指針の軽視型……コンプライ・オア・エクスプレインの対象外であることを理由に解釈指針を無視し、結果として原則の趣旨・精神から外れる。

これらの回避策は、各原則について「自社の現状/課題/対応の工程」を一体で語ることに尽きる。削除・移管された規定であっても、その重要性が失われたわけではないことを踏まえ、実質的な対応を継続することが求められる。

⑶ 結び

本改訂が求めるのは、企業価値向上のために本当に必要なテーマを取締役会で議論し(議題)、それを株主に丁寧に説明し(開示)、その結果を取締役会の実効性評価に反映させる(評価)という一連のサイクルの構築である。補充原則の廃止と解釈指針への集約は、形式的なチェックリスト対応から、各社が自らの状況に応じて実質を語る対応への転換を促すものにほかならない。2027年7月末に向けた準備は、その第一歩である。

本改訂への対応上、実務判断に直結する論点について、理解度を確認するための問題を12問収録する。各問の解答・解説は後掲のとおりである。社内研修・取締役会向けレクチャー等に適宜ご活用いただきたい。

理解度チェック(12問)

【問題】次の各問に答えてください。

Q1 本改訂によりコードの規範構造はどのように変わったか。また、コンプライ・オア・エクスプレインの対象はどこまでか。 Q2 解釈指針に移管され、又はコードから削除された記載については、対応不要と考えてよいか。 Q3 改訂後コードに基づくコーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出期限はいつか。また、逆算して今期に着手すべき事項は何か。 Q4 有価証券報告書の株主総会前提出について、解釈指針が「最も望ましい」とする時期はいつか。それは一律の実行義務か。 Q5 上記の実現手段として解釈指針が検討を促す選択肢は何か。また、当局が並行して進めるとする制度的検討は何か。 Q6 経営資源の配分について、一律にキャピタルアロケーション又はキャッシュアロケーションの開示が求められるか。実務上何が問われるか。 Q7 政策保有株主から自社株式の売却等の意向が示された場合、上場会社はどのように対応すべきか。コーポレート・ガバナンスに関する報告書でコンプライと表明しつつ現場で売却を妨げている場合、どう評価されるか。 Q8 株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合、取締役会は何を行うべきか。「相当数」に数値基準はあるか。 Q9 内部統制及び全社的リスク管理体制は、改訂版でどのように位置づけられたか。解釈指針が考慮事項として例示するリスクは何か。 Q10 支配株主を有するプライム市場上場会社に求められる独立社外取締役の水準は何か。これに代わる手段はあるか。 Q11 取締役会の実効性評価は改訂版でどのように位置づけられたか。実務上、何を行うべきか。 Q12 中核人材の登用等における多様性について、原則2-2が例示する各観点(ジェンダー、国際性、経歴、年齢、文化的背景)ごとの開示・目標設定が一律に求められるか。

【解答・解説】

Q1 従来の「補充原則」を一のカテゴリーとして廃止し、【基本原則】【原則】及び【解釈指針】の三層構造に再整理された(前文11項)。コンプライ・オア・エクスプレインの対象は基本原則及び原則であり、解釈指針は対象外である(同9項)。

Q2 適切でない。当該記載の重要性が失われたと考えることは適切ではないとされており(前文12項)、削除された開示事項も、有価証券報告書等の他の開示媒体による規律又は既に浸透した実務として引き続き求められる。「対象外=対応不要」との短絡は、当局のフォローアップで最も問われやすい失敗類型である。

Q3 2027年7月末日である(有価証券上場規程の一部改正は2026年7月21日施行)。もっとも、総会・監査日程の再設計及び取締役会の議題転換は実装まで1〜2事業年度を要するため、今期からの着手が分水嶺となる。

Q4 株主総会開催日の3週間以上前である。もっとも、これは「最も望ましい」水準であり、一律の即時実行義務ではない。当局も、企業負担を考慮すると現行法制下で一般化している実務運用からは必ずしも容易でないとの認識を示している。

Q5 株主総会開催日や議決権行使に係る基準日を、従前の慣行に基づく時期から後ろ倒しすることである。制度的検討としては、①有価証券報告書と事業報告等の一本化、②会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の一元化、③有価証券報告書の記載事項の整理が挙げられている(前文14項)。

Q6 求められない。「経営資源」にはヒト・モノ・カネが含まれ、説明の方法も様々であり得る。問われるのは開示の形式ではなく、自社が構築した「成長の道筋」を踏まえ、成長投資や事業ポートフォリオの見直しを含む資源配分について、株主に分かりやすい言葉・論理で具体的に説明できるかである。

Q7 取引の縮減を示唆することなどにより売却等を妨げてはならない(原則1-4(3))。コンプライと公表しつつ担当者・経営層レベルで圧力をかける実態がある場合には、原則違反であるにとどまらず、ガバナンス上の重大な問題と評価され得る。売却意向が示された場合の社内対応方針の整備が急務である。

Q8 反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主の権利の実質的な確保に資するよう適切に対応すべきである(原則1-3)。数値基準は設けられていないが、当局は、各社が「相当数」と判断するための客観的な基準を決定することも有益であるとしている。

Q9 独立の原則4-4として切り出された。解釈指針は、これらがコンプライアンス確保のみならず経営陣が果断にリスクテイクを行うための「裏付け」となることを踏まえ、グループ全体を含めた体制構築と内部監査部門を活用した監督を求める。考慮事項として、サイバーセキュリティリスク、地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク、技術等の情報流出リスクが例示されている。

Q10 取締役会において支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも過半数選任することである(支配株主を有するその他の市場の上場会社では3分の1以上)。これに代えて、支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引・行為について審議・検討を行う特別委員会を設置することも考えられるとされている。なお、支配株主に該当しないものの実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社においても、本原則の趣旨に沿った対応が望ましい。

Q11 原則4-13に格上げされ、取締役会全体の実効性についての分析・評価とその結果の概要の開示が求められる。実務上は、従来の「資料・時間・雰囲気」中心の設問にとどまらず、本改訂の各テーマに対応する設問へ評価票を改訂し、各取締役の自己評価と取締役会全体の評価との二層構造とすることが有用である。

Q12 求められない。これらはあくまで例示であり、個別の観点ごとの開示や目標設定を一律に求める趣旨ではない。また、「中核人材への登用」との文言は、多様性の確保を中核人材のみに限定する趣旨ではないとされている。なお、従前の「国籍」は「国際性」に改められた。

以 上


[1] 金融庁・株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」(令和8年7月21日)https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721.html なお、東京証券取引所ウェブサイトにおいても関連資料が公表されている。

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