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2026年にカスハラ対策が義務化!労働施策総合推進法の改正と企業対応

2025/11/06

(執筆者:弁護士 森村 奨)
【Q.】
先日、労働施策総合推進法が改正され、事業主のカスハラ対策が義務化されると聞きました。改正の概要と求められる企業の対応について教えてください。

【A.】
1.はじめに
令和7年6月4日、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)の対策を事業主の義務とすることを主な内容とする労働施策総合推進法の改正法(以下「改正法」)が成立し、同月11日に公布されました。改正法は、公布日から1年6月以内で、政令で定める日に施行されるとされています。本稿では、改正法の概要と現時点で考えられる企業の対応についてご説明します。

2.改正法の概要
(1)カスハラの定義(改正法33条1項)
改正法では、以下の①~③を満たす言動がカスハラであると定義されています。
①職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であること
②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであること
③労働者の就業環境が害されること
上記①~③の詳細やカスハラに該当する行為の具体例等については、今後公表される指針で明らかにされる予定です。
なお、カスハラの定義については、既に厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(令和4年2月策定。以下「厚労省マニュアル」)や東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(以下「東京都カスハラ防止条例」)においても示されていますが、これらが規制対象とする行為と改正法が規制対象とする行為は大きく異なるものではないと考えられます。

(2)雇用管理上の措置義務(改正法33条1項)
事業主は、カスハラによって労働者の就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、カスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされています。改正法33条4項によると、当該措置の具体的な内容についても、今後公表される指針で明らかにされる予定ですが、以下の内容が含まれることになっています。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
②相談体制の整備・周知
③発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置
④これらの措置と併せて講ずべき措置
これら①~③で記載されている概要は、他のハラスメントに関する指針(例えば、パワハラについては「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚労省告示第5号)」)で義務化されているものと同じ内容です。

(3)不利益な取り扱いの禁止(改正法33条2項)
事業主は、労働者がカスハラの相談を行ったこと、または事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないとされています。

(4)他の事業者への協力の努力義務(改正法33条3項)
事業主は、他の事業主から当該他の事業主が講ずる上記(2)の防止措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならないとされています。

(5)研修等の努力義務(改正法34条2項・3項)
事業主は、カスハラ問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならないとされています。また、事業主(その者が法人である場合は、その役員)は、自らも、カスハラ問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならないとされています。

3.改正を踏まえた対応
企業としては、今後公表される指針等の内容に応じて速やかに対応に着手ができるよう、まずは改正法の概要を理解しておくことが重要です。また、当該指針の内容は、他のハラスメントに関する指針と概ね同内容になると予想されることに加えて、改正法下で求められる対応は、厚労省マニュアルや東京カスハラ防止条例(同条例に基づく「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」を含む)と大きく異なるものではないと考えられますので、これらの内容に沿った体制整備等の対応を先に進めておくことで、改正法にも余裕を持って対応できるのではないかと思われます。なお、東京都内で事業を行う企業等は、既に東京カスハラ防止条例の適用主体になっていますので、改正法の施行を待たずに当該条例に基づいた対応をする必要があることにはご留意ください。
前述のとおり、企業では、今回の改正に応じて様々な対応が求められますので、必要に応じて専門家にもご相談いただきながら対応を進めていくようにしましょう。

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