
(執筆者:弁護士 植村一晴)
【Q.】
最近、就活ハラスメントに関して、男女雇用機会均等法の改正要綱案が取りまとめられたと聞きました。改正要綱案の概要と今後、求められる企業の対応について教えてください。
【A.】
1.はじめに
「就活ハラスメント」について、厚生労働省は、「採用する企業やその採用担当者等が優越的な立場を利用して就職活動中の学生に行うハラスメント」と定義しています。また、厚生労働省の指針(※1、2)では、就活ハラスメントに関して、①雇用管理上の措置として、職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、就職活動中の学生等に対するハラスメントについても同様の方針を示すことが望ましい、②就職活動中の学生等から職場におけるハラスメントに類すると考えられる相談があった場合に、その内容を踏まえて、必要に応じて適切な対応を行うよう努めることが望ましいと明記され、各企業における取り組みが求められています。
しかし、「令和5年度厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によれば、就活生等からの相談への適切な対応等についての取り組みが「特にない」としている企業は、従業員規模1000人以上の企業において42.1%、300~999人規模企業において48.0%、100~299人規模企業において55.7%、99人以下規模企業においては65.6%で、十分な対応がされているとは言い難いのが実情です。
また、同報告書によると、就活等セクハラを受けたことがあると回答した者の割合は約3人に1人で、令和2年度の同実態調査では約4人に1人であったことからすると、被害を受けたと回答する者の数は増加傾向にあると言えます。
こういった状況を踏まえ、厚生労働省は、労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)を開催し、令和6年9月から審議を始め、令和7年1月24日には、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)」の一部を改正する法律要綱案を策定しました。
本コラムでは、改正要綱案の概要や、就活ハラスメントにより企業が負う責任・リスク、考えられる企業の対応等についてご説明いたします。
※1 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)
※2 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)
2.改正要綱案の概要
改正要綱案の概要は、次のとおりです。
(1)求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して事業主が講ずべき措置等
①事業主は、雇用する労働者による性的な言動により当該求職者等の求職活動等が阻害されることのないよう、当該求職者等からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
②事業主は、労働者が当該事業主による求職者等からの①の相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。
③厚生労働大臣は、①及び②の事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする。
(2)求職活動等における性的な言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務
①国は、求職活動等における性的言動問題に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。
②事業主は、求職活動等における性的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が求職者等に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる①の措置に協力するように努めなければならない。
③事業主は、自らも、求職活動等における性的言動問題に対する関心と理解を深め、求職者等に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
④労働者は、求職活動等における性的言動問題に対する関心と理解を深め、求職者等に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる(1)①の措置に協力するように努めなければならない。
3.企業が負う責任・リスク
就活ハラスメントが発生した場合、企業は、被害者から使用者責任に基づく損害賠償請求をされるおそれがあるだけでなく、社会的信用の低下や採用活動へ悪影響等のリスクを負うおそれもあります。そのため企業にとって、就活ハラスメントを未然に防ぎ、発生したとしても適切な対応が取れる体制を整えておくことは重要です。
4.考えられる企業の対応
改正要綱案では、事業主が講ずべき措置の具体的内容を指針に委ねることとしており、現時点でその内容は明らかではありません。しかし、この点については、前述の指針をはじめ、厚生労働省の「会社を揺るがす大きなリスク 今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」や「就活ハラスメント防止対策 企業事例集」などが参考となります。また、企業としては、次のような対応が考えられます。
(1)就活ハラスメント防止の方針の明確化
就業規則等において、就活ハラスメントを含む、すべてのハラスメントを禁止する方針を明確にし、周知しておく。
(2)就活ハラスメントを未然に防止するための体制整備
採用担当者を含む全従業員にハラスメント防止に関する研修を継続的に実施することや、学生と接する際には採用担当者は可能な限り2名以上とし、オンラインも含めて面談やオリエンテーションは複数名で対応するなど、採用活動におけるルールを策定しておく。
(3)学生向けの就活ハラスメント相談窓口の設置・周知
法改正に向けて、学生向けに就活ハラスメント相談窓口を設置し、周知しておく。また、相談への対応に協力した従業員が、事実を述べたことを理由として不利益な取り扱いを受けないようルール化し、それが徹底されるようにする。
5.おわりに
以上のとおり、企業においては、今回の改正要綱案などを踏まえて、あらかじめ対応を準備しておくことが重要です。今後の法改正や指針の策定等の動きを窺いつつ、必要に応じて専門家にもご相談いただきながら対応を進めていくことをご検討ください。