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著作物の引用利用における留意点

2014/12/19

(執筆者:弁護士 竹田千穂)

【Q.】
社外向けの資料を作成する際に学者の学術論文の一部を引用して利用することは、著作権法上、問題ありませんか。引用利用における留意点を教えてください。

【A.】
1.著作物の引用利用
まずは引用して利用されるものが、著作権法により保護の対象となる「著作物」かどうかを考える必要があります。
ご相談の「学術論文」は、学者が自己の評価に従って自らの研究成果を執筆したものですので、「思想または感情を創作的に表現したもの」であり、「著作物」に当たります(著作権法[以下「法」]2条1項1号、法10条1項1号の「論文」)。また、当該学者の方が亡くなられてから50年経過していない場合には、当該学術論文は著作権法上保護期間内にある著作物に当たります(法51条2項)。したがって、社外向けの資料を作成する際に、学術論文の一部を引用するには原則として著作権者の承諾を得なければなりません。
もっとも、法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と定めており、「公表された著作物」を同条項に従い引用して利用する場合には、例外的に著作権者の承諾を得る必要はありません。なお、「禁転載」などの記載のある学術論文であっても、一般の引用者はその論文の著作権者と契約関係にはありませんので、法32条1項に該当する適法な引用であれば問題はありません。

2.適法引用の要件
適法な引用として認められる要件として、最高裁判所は、「引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない」と判示して、�@明瞭区別性、�A主従関係を要求しています(ただし、旧法下)。
�@明瞭区別性については、学術論文を引用する場合には括弧でくくるなどして、引用部分を明瞭にする必要があります。慣行は各業界あるいは著作物によって異なりますが、学術論文については引用方法が確立されていますので、それに従う方がよいでしょう。
�A主従関係については、単に引用著作物の量が被引用著作物の量より多ければ足りるというものではありません。引用の目的、両著作物の性質、分量等を総合考慮のうえで、引用著作物が主体性を保持し、被引用著作物が引用著作物の内容を補足説明し、または参考資料を提供するなど、付従的な性質を有しているかを引用著作物の読者の一般観念に照らして個別具体的に判断します。
裁判例では、有名スポーツ選手の半生を描いた書籍に、同選手が学生時代に創作した詩の全文が写真製版された形で掲載された事案において、当該掲載ページは本件詩に関する二文のコメント以外は余白であること、本件書籍の本文中に本件詩に言及した記述がないこと等から、読者はこの詩を独立して鑑賞でき、引用者は創作活動をするうえでこの詩を引用して利用する必要はなかったとして、主従関係を否定したものなどがあります。

3.出所の明示義務
そのほかに、公表された著作物を引用利用する場合には出所の明示が義務づけられており(法48条1項1号)、著作者名、著書・論文名等を明らかにする必要があります。

4.おわりに
具体的な事案において、公表された著作物の引用利用が法32条1項に該当し、著作権者の承諾を得る必要がないかどうかの判断は難しいものがあります。判断に迷われた場合には、専門家にご相談ください。

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