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『濫用的会社分割と詐害行為取消権について』

2013/08/19

(執筆者:弁護士 松原浩晃)

【Q.】
当社は、ここ数年、慢性的な赤字体質により膨らんだ借入金の返済に苦しんでいます。そこで、知人に相談したところ、「新設分割の方法による会社分割を行い、設立会社に優良事業を承継させ、不採算事業や金融機関に対する債務を分割会社に残して、分割会社を法的整理により清算すればいい」と言われました。この方法によれば、金融機関の承諾なく債務を圧縮できるそうです。本当にそのようなことができるのでしょうか。_

【A.】
1.会社分割を用いた私的整理(第二会社方式)
ご質問のスキームは、私的整理において、「第二会社方式」と呼ばれる手法です。
典型例としては、債務者の事業や資産のうち、今後の事業継続に必要な優良事業や資産のみを新会社(設立会社)に承継させる新設分割を行い、債務者自身(分割会社)は破産や特別清算等の法的整理によって清算するケースが考えられます。その際、分割対価として発行された設立会社の株式は、分割会社からスポンサー等の第三者に譲渡され、その譲渡代金及び分割会社に残された遊休資産等が分割会社の残存債権者に対する弁済原資となります。
この新設分割の場合に、分割会社が設立会社に承継される債務の全てについて併存的債務引き受けをすれば、会社分割について異議を述べることができる債権者が存在しないこととなる結果(会社法810条参照)、官報公告や債権者に対する個別通知を省略して会社分割を行うことも可能です。
第二会社方式は、簡易迅速な手続きで債務の圧縮や不採算事業廃止に伴う経営資源の有効利用を実現できるだけでなく、税務上のメリット、簿外債務リスクの遮断によりスポンサーが付きやすいといった長所があることから、実務においても多く利用されています。

2.濫用的会社分割と詐害行為取消権
ところが、近年、残存債権者に異議を述べる機会を与えることなく会社分割を完遂できるというこのスキームを悪用し、特定の債権者を不当に害する会社分割が行われるケースが増えています。
このような濫用的な事例に対しては、民法の詐害行為取消権や法人格否認の法理、会社法22条1項の商号続用責任、倒産法の否認権といった主張により、対抗することが考えられます。
このうち詐害行為取消権について、平成24年10月12日、最高裁判所として初めての判断が下されました。
本事件では、�@分割会社Aが設立会社Yに不動産(担保余力約3300万円)を含む債権債務を承継させるとともに、�AYの承継債務につきAが併存的債務引き受けを行い、�BYがAに対し発行株式の全部を割り当てる、という新設分割を行いました。
この新設分割において、Aが債権者Xに対して負う保証債務(約4億5000万円)はYに承継されませんでした。さらに、この新設分割の直後、Aは株式会社Bを新たに設立する新設分割を行い、AにはYとBの株式以外には全く資産のない状態となりました。
そこで、XがYに対し、詐害行為取消権に基づき、会社分割の取消、及び、上記不動産について行われた会社分割を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続きを請求したものです。
この事案につき、最高裁判所は、分割会社の残存債権者は、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると判示しました。 

3.まとめ
確かに、ご質問のスキームを用いれば、金融機関等の債権者にも秘匿したまま無断で会社分割を行い、債務の圧縮を図ることが可能です。しかし、詐害行為取消等により会社分割の効力が否定されるリスクが残ってしまいます。
やはり、私的整理においては、債権者に対し、再生スキームについて十分に説明し、可能な限り、その理解・協力を得てから実行することが肝要と言えるでしょう。_

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