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休職中の従業員の復職可否について

2019/11/12

(執筆者:弁護士 植村友貴)
【Q.】
当社には、メンタルヘルスの不調で休職中の従業員がいますが、まもなく休職期間が満了する予定です。当社の就業規則には、休職期間満了時に治癒(休職事由の消滅)している場合には復職させ、治癒していない場合には自動退職となる旨の規定がありますが、従業員を復職させるか否かは、どのように判断すればよいでしょうか。
【A.】

1.私傷病休職制度について
私傷病休職制度とは、業務に起因しない傷害や疾病によって業務の遂行が困難になった場合に、労働契約関係を維持しつつ、労働者の就労を一時的に免除または禁止する制度です。私傷病休職制度は、法律上その採用を義務付けられているものではなく、休職期間や賃金支給の有無等の条件は各会社によって様々ですが、ご質問にあるような「休職期間満了時に治癒している場合には復職させ、治癒していない場合には自動退職となる」旨の規定は、多くの会社の就業規則において定められています。
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2.「治癒」の意義について
どの程度、病状が回復していれば「治癒」したと判断されるかについては、東京地判平成16年3月26日労判876号56頁によれば、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したことを要するというべきであるが、そうでないとしても、当該従業員の職種に限定がなく、他の軽易な業務であれば従事することができ、当該軽易な職務へ配置転換することが現実的に可能であったり、当初は軽易な職務に就かせれば、程なく従前の職務を通常に行うことができると予測できるといった場合には、復職を認めるのが相当であると解されています。
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3.「治癒」の判断について
休職中の労働者が治癒したか否かについては、単に休職者本人の申し出のみによって治癒したものとして取り扱うことはできません。治癒したことを認定する資料として、医師の診断書が必要となり、実際には、労働者から主治医の診断書が提出されることが一般的です。
ただ、主治医の診断書の内容が労働者の意向を強く反映している場合や、復職後に予定されている具体的な職務内容が十分に考慮されていない場合等があり、このような場合に、当該診断書をどのように取り扱うべきかが問題となります。
この点については、主治医の診断書は、多くの場合、患者との信頼関係が強く、患者の希望に沿うものとなることが一般的に知られているため、必ずしも提出された診断書の内容に拘束されるものではないと考えられています。会社としては、主治医の診断書だけでなく、労働者との面談結果や労働者から提供を受けた診療記録等の内容のほか、産業医、会社指定医等の意見も踏まえたうえで判断する必要があります。主治医、産業医、会社指定医の意見が食い違っている場合も珍しくありませんが、過去の裁判例(東京地判平成23年2月25日労判1028号56頁等)では、診察期間(診察期間が長いほど、正確な病状把握が可能になる)、診察の経緯(労働者または会社の意向を受けたものか)、診断の前提となった資料や事実関係(労働者の病状や復職後に予定されている具体的な職務内容を十分に考慮されたものか)を踏まえて、医師の意見の信用性が判断されています。
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4.最後に
前述の通り、労働者の復職可否の判断にあたっては、当該労働者の具体的な病状はもとより、主治医、産業医、会社指定医等の意見を踏まえて慎重に行う必要があります。この判断の正確性を担保するためには、病状の正確な把握や、各医師に対する当該労働者の具体的な職務内容、勤務実態等に関する十分な情報提供が重要となります。
また、労働者に対し、診療記録等の提供や会社指定医の受診を命じることができる就業規則となっているかどうかを確認し、不備がある場合には整備しておくことも必要でしょう。

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