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営業活動への影響も? 過量契約規制

2017/11/21

(執筆者:弁護士 竹村知己)

【Q.】
平成28年の改正消費者契約法が今年施行されたと聞きましたが、同改正により新設された過量契約の取消しについて、制度の概要を教えてください。

【A.】
◆はじめに
 消費者契約法は、消費者と事業者の間に情報や交渉力の格差があることに鑑み、消費者の利益の保護を目的として、消費者と事業者の間で締結される契約(消費者契約)について民法の特則となるルールを定める法律です。
 今般、平成28年に公布された改正法が平成29年6月3日から施行されましたが、とりわけ重要な改正点として、過量な内容の消費者契約の取消しを認める規定(改正法4条4項)の新設が挙げられます。
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◆過量契約規制の概要
 近年、高齢者の判断能力の低下等につけ込んで、不必要に大量の契約(過量契約)を締結させるという消費者被害が発生しています。その救済は、従来、公序良俗違反(民法90条)や不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)等の民法上の規定に委ねられていましたが、要件が抽象的である等、消費者にとって必ずしも明確でなかったため、改正法で新たに過量契約の取消権の規定が置かれることになりました。
 改正法4条は、前段と後段に分けられます。このうち、前段は、一つの契約の締結により過量となる場合(例えば、認知症のため財産管理能力が低下している高齢者に対し、老後の生活資金をほとんど使ってしまうほど高額な商品を購入させた場合)を対象とするものであり、取消権行使の要件は、�@消費者契約の目的となるものの分量等(分量、回数または期間)が、当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えること(過量性)、�A事業者が、消費者契約の締結を勧誘するに際し、�@を知っていたこと(勧誘時の事業者の認識)、�B事業者の勧誘により、消費者が当該消費者契約締結の意思表示をしたこと(勧誘と意思表示の因果関係)、の3点です(改正法4条4項前段[※])。
 これらの要件を充足する場合、消費者は、当該消費者契約に係る意思表示を取り消して、契約をなかったことにすることができます。
※改正法4条4項後段は、消費者契約の目的となるものの分量等と、すでに締結していた同種契約の目的となるものの分量等を合算した分量等が、当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超える場合(いわゆる「次々販売」)を対象とするものです。
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◆各要件の解釈
1.過量性(要件�@)
 「当該消費者にとっての通常の分量等」は、消費者契約の目的となるものの内容、取引条件(価格等)、勧誘時の消費者の生活状況、及びそれに対する消費者の認識といった事情を総合的に考慮した上で、一般的・平均的な消費者を基準に、社会通念をもとに規範的に判断されることになります。もっとも、個別の事案において、「当該消費者にとっての通常の分量等」を「著しく超える」か否かの判断は容易でなく、現時点では具体的な事例の集積が待たれるところです。
2.事業者の認識(要件�A)
 要件�A(及び要件�B)は、事業者が、消費者に合理的な判断をすることができない事情があることを殊更に利用したことを、具体的に要件化したものです。
 過量性の認識について過失の有無は問われておらず、事業者が消費者の生活状況等を調査する義務はないとされていますが、基礎となる事実を認識していながら、評価を誤って過量でないと思い込んだ場合には、過量性を知らなかったとはならず、取消しが認められると考えられます。
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◆おわりに
 各要件の充足は相応に高いハードルであるという指摘もあるものの、適用範囲の如何によっては実務に与える影響も大きいと考えられます。そのため、消費者契約の締結にあたっては、過量契約規制に抵触しないよう配慮するとともに、自社の営業担当者や販売店員に対しての教育・周知も必要になるでしょう。また、同規制の今後の運用にも注視が必要です。
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