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長時間労働の削減に向けた取り組み

2015/08/12

(執筆者:弁護士 福田泰親)

【Q.】
長時間労働をさせた場合に企業はどのような責任を負うのでしょうか。また、具体的にどのような対策をすべきでしょうか。

【A.】
1.はじめに
厚生労働省によると、うつ病などの心の病にかかって労災を請求する人が年々増加しており、平成26年度の統計では、統計が残る昭和58年度以降で最多の1456人となりました。このうち時間外労働が月80時間以上の人が約4割を占めており、1割強が月160時間以上もの時間外労働になっていることが明らかとなりました。これにより、労災に長時間労働が影響していることが浮き彫りとなったのです。
このような状況の下、平成26年11月に「過労死等防止対策推進法」が施行され、国の責務として過労死等*の防止のための対策を推進することが決められました。これを受けて、平成27年7月24日、政府は「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(以下「大綱」)を閣議決定し、過労死等の原因の一つである長時間労働の削減に向けた対策を積極的に進める方針を明らかにしました。
*�@業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡、�A業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡、�B死亡には至らないものの、これらの脳血管疾患もしくは心臓疾患もしくは精神障害

2.使用者の法的責任
長時間労働は睡眠・休養時間の不足を引き起こし、業務上のストレスなどと相まって健康状態に強い影響を与えることは周知のとおりです。また使用者には、労働者が労務提供のために設置する場所、設備もしくは器具等を使用しまたは使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)があることは、確立した判例です(最三小判昭59.4.10民集38巻6号557頁)。そのため、たとえば長時間労働によって労働者の健康状態が悪化していることを認識しながら、業務量を調整するなどの措置をとらずに漫然と労働させて労働者に損害を負わせた場合、安全配慮義務に違反したと評価され、債務不履行責任(民法415条)または不法行為責任(民法709条・715条)を負う可能性があります。
また、労働基準法(以下「労基法」)に定める労働時間を超えて違法に労働させた場合には、実際に時間外労働をさせた者(行為者)に6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が、事業主(個人事業主や法人)にも罰金刑が科されるほか、法人代表者が積極的に違反防止措置を講ぜず、是正措置をとらず、または違反を教唆した場合、行為者として同様の罰則が科される可能性もあります(労基法第32条、第119条第1号、第121条)。

3.長時間労働の削減に向けた対策
厚労省のHPでは、長時間労働の削減に向けた取り組みなどを紹介するポータルサイトが開設されています(http://work-holiday.mhlw.go.jp/index.html)。具体的な取り組み事例としては、たとえば「ノー残業デー」などの定時退社日を設定して帰宅を促す方法や、残業を行う場合には事前に申請させる方法により、時間外労働そのものを減らす対策のほか、年次有給休暇の取得計画を作成して取得実績を報告させる方法により、長期休暇の取得を促進する対策などが紹介されています。

4.おわりに
大綱では、長時間労働への対策の強化が喫緊の課題であるとし、平成32年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下、年次有給休暇取得率70%以上を目指すとされています。そのため、今後は長時間労働の抑制に向けた規制が講じられる可能性がありますので、あらかじめ対策をご検討ください。

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