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業務中の発明は誰のもの? 職務発明制度の概要

2014/11/15

(執筆者:弁護士 竹村知己)

【Q.】
先日、日本人科学者がノーベル賞を受賞したというニュースの中で、従業員の「職務発明」に対して企業が高額の対価を支払うことがあると聞きました。従業員の発明であっても、設備等を提供し、開発のリスクを負っているのは企業であるとも思えるのですが、職務発明に関する現行制度の概要を教えてください。

【A.】
1.職務発明制度の現状
職務発明とは、従業員等がその性質上使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業員の現在または過去の職務に属する発明をいいます(特許法〔以下省略〕35条1項)。
現行の制度では、職務発明は原則として発明を行った従業員に帰属し、使用者は通常実施権(独占性・排他性のない実施権)を有するにとどまります(35条1項)が、あらかじめ職務発明を使用者に承継させる旨の契約・就業規則等を設けている場合には、使用者はその承継を受けることができます(35条2項反対解釈)。その場合、使用者は、特許を受ける権利または特許権を承継することの対価として、従業員に対して「相当の対価」を支払わなければなりません(35条3項。「相当の対価」を支払わない旨の契約・就業規則等は無効〔最判平成15.4.22判時1822号39頁〕)。
このように、法は、職務発明を従業員に帰属させ、承継の際に使用者に対価を支払わせることにより、従業員に発明へのインセンティブを与え、これにより経済産業の発展を図っています。
「相当の対価」は、契約・就業規則等で従業者が支払いを受けることができる対価について定めている場合には、原則としてその定めたところに基づき決定されます。しかし、かかる定めがなかったり、定めがあってもそれに従って対価を支払うことが不合理である場合には、「相当の対価」を巡る紛争に発展することがあり得ます。
例えば、規定を策定する場合には、職務発明に対する対価の基準の整備に際して従業員と十分な協議を行って(基準案を公表して従業員から意見聴取を行い、その意見を検討・反映させるという方法も考えられます)、相当性のある基準を策定するとともに、策定された基準を開示して従業員に周知徹底しなければならないとされており(35条4項参照)、これを怠ると、規定が不合理であると判断されるおそれがあります。その場合、一般論としては、その発明により使用者が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者が行う負担、貢献及び従業員の処遇その他の事情を考慮した上で、「相当の対価」が決定されることになります(35条5項)。

2.改正の議論状況
対価の決定を当事者間の自主的な取り決めに委ねるという現行の制度は、平成16年の特許法改正で規定され、平成17年4月に施行されました。しかし、特許庁が平成25年度に実施した調査では、かかる取り決めのある中小企業は296社中224社(約76%)にとどまっており、その内容の不備も相まって、「相当の対価」に関する紛争は未だに企業にとって経営上のリスクとなっているのが現状です。
そこで、特許庁は現在、従業員が発明した職務発明の帰属を使用者に変更するとともに、従業員に対する報酬の支払いに関する規定の整備を使用者に義務付ける方向での法改正を検討しており、開会中の臨時国会、もしくは来年の通常国会に改正法案を提出するとの報道もなされています。
ただし、法改正に対しては反対意見もあり、先行きが不透明ですので、今後の動向を注視しましょう。

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